挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
75 / 204

第73話 扉の外で揉める声

しおりを挟む
 チャールズさんが部屋から去って行った後、1人きりになった私は紅茶を飲みながら先程の話を思い出していた。

フィリップは私の顔を見たいが為に、体調が悪い所を無理に退院して帰ってきた…。

「こんなに素敵な部屋も用意してくれて、食事だって私の好きなメニューを出してくれているのに…私はフィリップの為に何もしてあげられていないわ…」

自分の不甲斐なさにため息をついた時、廊下で騒ぎが聞こえてきた。

『お待ち下さい、奥様っ!今エルザ様は…』

『いいからそこをどきなさいっ!アンバー家に嫁いでおいて一度も挨拶に来ないなら、こちらから顔を出すしか無いでしょう?!』

廊下から聞こえてくる声はフットマンのデイブとお義母様の声だ。いつまでたっても挨拶に行かない私に痺れを切らし、ここまで尋ねて来たのだろう。

フィリップが今迄私をお義父様やお義母様から守ってくれていた。
自分の体調が悪いにも関わらず…。

だったら私は…。

椅子から立ち上がると扉へ向かった。

「奥様!こちらのお部屋は…!」

「離しなさいっ!使用人のくせにっ!」

扉のすぐ向こうでは、揉めているデイブとお義母様の声が間近に聞こえて来る。

意を決してノブに手を掛けると、扉を開いた。


カチャッ

すると眼前にお義母様とデイブが立っている姿が飛び込んできた。お義母様の顔は険しく…デイブの顔は困りきっていた。

「あ、あら。エルザ、やっと姿を見せたわね?」

お義母様は突然扉が開かれたことで一瞬驚いた顔を見せた。

「エルザ様…」

デイブは青ざめた顔でこちらを見ている。

「こんにちは、お義母様。結婚以来、一度もお伺いせずに大変申し訳ございませんでした」

お義母様に丁寧に頭を下げた。

そう、私が出来ること…それはフィリップの負担を少しでも軽くしてあげることだ。

「本当にそうね。結婚してから半月近く経過しているのに一体今迄貴女は何をしていたのかしら?まぁいいわ。わざわざここまで尋ねてきたのだから、部屋に入れてもらいましょうか?」

「奥様…それは…」

デイブが背後から声を掛けると、義母は声を荒らげた。

「お黙りなさい!そんなことよりもお茶の準備でもしてきたらどうなの?」

「ええ、お願いできる?」

私はデイブに声を掛けた。

「は、はい。…申し訳ございません。すぐに御用意させて頂きます…」

デイブは頭を下げると足早に廊下の奥に消えていった。その後姿を見届けながらお義母様が忌々しげに言った。

「全く、ここで働く使用人たちは皆気が利かないわね…。フィリップは反対するかもしれないけれど、やはり使用人の入れ替えを考えたほうがいいかもしれないわ」

お義母様はとんでもないことを口に出してきた。けれど、この離れで働いてくれている使用人は皆良い人達ばかりだった。
何故ならフィリップが私の為に吟味し、選んでくれた人達なのだから。

それなのに、お義母様の一存で使用人を入れ替えるなんて…。

取り敢えず、今はその話からそらさなくては。

「とりあえず、立ち話もなんですから中に入ってお話をしませんか?」

「ええ、そうね。そうさせてもらうわ」

扉を大きく開けると、お義母様は素早く部屋の中に入って来た。

そして部屋の中をキョロキョロと見渡し、私の方を振り向いた。

その目は険しく…まるで私を睨みつけているような眼差しだった―。




しおりを挟む
感想 171

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。 最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。 ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。 もう限界です。 探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。

無価値な私はいらないでしょう?

火野村志紀
恋愛
いっそのこと、手放してくださった方が楽でした。 だから、私から離れようと思うのです。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

あなたの愛が正しいわ

来須みかん
恋愛
旧題:あなたの愛が正しいわ~夫が私の悪口を言っていたので理想の妻になってあげたのに、どうしてそんな顔をするの?~  夫と一緒に訪れた夜会で、夫が男友達に私の悪口を言っているのを聞いてしまった。そのことをきっかけに、私は夫の理想の妻になることを決める。それまで夫を心の底から愛して尽くしていたけど、それがうっとうしかったそうだ。夫に付きまとうのをやめた私は、生まれ変わったように清々しい気分になっていた。  一方、夫は妻の変化に戸惑い、誤解があったことに気がつき、自分の今までの酷い態度を謝ったが、妻は美しい笑みを浮かべてこういった。 「いいえ、間違っていたのは私のほう。あなたの愛が正しいわ」

処理中です...