挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
118 / 204

第116話 初めての対面、そして…

しおりを挟む
 セシルはそっと運んでくれているのだろうけれども、出産直後の身体にベッドが動く振動は正直堪えた。

「う…」

思わず痛みに呻くと、セシルが申し訳無さそうに謝ってきた。

「ごめん、エルザ。なるべく静かに運んでいるつもりではあるんだが…兄さんの元へ急がないと…本当に…もう危険なんだ…」

セシルが今にも泣きそうな顔で私を見た。

「セシル…。大丈夫、きっとフィリップは…私と子供が来るのを…まっていてくれるはずよ…」

「…そうだな…」

そしてセシルは前を見つめた。

「きっと…間に合ってくれる…」

「ええ…」


そして私は痛みを耐える為に目を閉じた―。



「兄さんっ!」

セシルが扉を開けると、私を寝かせたベッドをフィリップのいる室内へ運びいれた。

「エルザッ!」
「生まれたのかっ?!」

お義父様とお義母様がこちらを振り向き…母の抱いている赤子を見た。

「う、生まれたのね…」
「良かった…間に合ったか…」

お2人とも相当心労がたたったのか、やつれた顔をしている。

「お義父様…お義母様…フィリップは…?」

何とか声を振り絞って尋ねた。

「大丈夫だ…意識は今は無いが…まだ…生きている…」

ベッドに寝かされているフィリップの様子は、同じくベッドに寝ている私には様子が伺えない。

「セシル…。お、お願い…。フィリップのところへ…」

「ああ、分かってる」

セシルは頷くと、私が寝かされているベッドをフィリップのベッドに近づけていく。


「フィリップ…」

フィリップの眠っているベッドの隣に横付けされると、私は必死になって身体を起こした。

「エルザッ!無理しては駄目よっ!」

母が悲痛な声を上げる。

「私なら…だ、大丈夫…それより…赤ちゃんを…フィリップに見せて…あげて…」

「わ、分かったわ!」

子供を抱いた母はフィリップの側に近付いた。

「まぁ…この子が…」
「フィリップの子供か…」

お義父様とお義母様が母の腕の中で眠る赤子を愛おし気に見つめる。

「フィ、フィリップ…」

必死で身体を起こそうとしていると、背後から身体を支えられた。

「エルザ、俺が起こしてやる」

「セシル…」

セシルが私の身体を起こしてくれたお陰で、フィリップの顔を見ることが出来た。
フィリップの顔は土気色で…本当にこれでまだ生きているのだろうかと疑いたくなるものだった。

「フィリップ…」

震えながらそっとフィリプの頬に触れた。

「……」

しかしフィリップは無反応だ。

「フィリップ…お願い…。目を開けて…私よ。エルザよ…。貴方との赤ちゃんが生まれたのよ…?」

すると母が眠っている赤子をフィリップの枕元にそっと置いてくれた。

「フィリップ…お願い、私を見て…。私達の赤ちゃんを…見てよ…」

涙を流しながら、フィリップの頬に触れる。
静まり返る部屋には私の泣き声と、皆の嗚咽だけだった。

その時…。

ポタリ

私の涙がフィップの頬に落ちた。するとフィリップのまぶたが震え…ゆっくり目をあけた。

「エ…ルザ…」

「フィリップッ?!」

するとフィリップは今にも消え入りそうな声で語りかけてきた。

「よ…良かった…最後に…どう…しても…一目だけでも…君に…会いたかったんだ…」

「フィリップ…ッ!」

私の目から大量の涙が溢れ出した。

「フィリップ…と、隣を見て…私達の赤ちゃん…可愛い男の子…よ…」

するとフィリップは自分で首を少しだけ動かし…生まれたばかりの赤子を見た。

「かわいい…な…。君に…そっくりだ…」

弱々しい笑みを浮かべる。

「フィリップ…」

私の涙は止まることを知らない。

「エルザ…。ありがとう…僕と…結婚…してくれて…子供も…」

「当然でしょう…?だって私は貴方を…愛しているのだもの…」

「ありがとう…僕も…だよ…。エルザ…子供を…たの……」


そしてフィリップは…目を閉じた――。
しおりを挟む
感想 171

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。 最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。 ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。 もう限界です。 探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。

無価値な私はいらないでしょう?

火野村志紀
恋愛
いっそのこと、手放してくださった方が楽でした。 だから、私から離れようと思うのです。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

あなたの愛が正しいわ

来須みかん
恋愛
旧題:あなたの愛が正しいわ~夫が私の悪口を言っていたので理想の妻になってあげたのに、どうしてそんな顔をするの?~  夫と一緒に訪れた夜会で、夫が男友達に私の悪口を言っているのを聞いてしまった。そのことをきっかけに、私は夫の理想の妻になることを決める。それまで夫を心の底から愛して尽くしていたけど、それがうっとうしかったそうだ。夫に付きまとうのをやめた私は、生まれ変わったように清々しい気分になっていた。  一方、夫は妻の変化に戸惑い、誤解があったことに気がつき、自分の今までの酷い態度を謝ったが、妻は美しい笑みを浮かべてこういった。 「いいえ、間違っていたのは私のほう。あなたの愛が正しいわ」

処理中です...