174 / 204
第172話 セシルの計らい
しおりを挟む
「懐かしいわ……」
フィリップが使っていた部屋は彼が生前使用していた時と、全く変わりが無かった。
きっと離れの使用人の人達が気を使って、残しておいてくれたのだろう。
「フィリップ……」
眠っているルークを抱いたまま、フィリップが使用していた書斎机の大きな肘掛け椅子に座ってみた。
「……」
まるで背後からフィリップに抱きしめて貰っているような安心感を感じる。
「フィリップの香りがまだ残っているのね……」
胸に熱いものが込み上げ、目尻に涙が浮かびそうになって慌てて目を擦った。
「駄目よ、いつまでも悲しんでいてばかりじゃ…。私にはまだ抱えている問題があるし、ルークの為にも強くならなくちゃいけないのだから」
そして何気なく正面を見ると、目の前には大きな本棚が並んでいる。
そう言えば、まだ彼の本心を知らないまま結婚した時……本をプレゼントしたことが頭をよぎった。
フィリップにプレゼントしたものの、私は一度も読んだことが無かった。
「そうね。この離れにいる間はフィリップの本を読んでみようかしら」
ルークを起こさないように立ち上がると、私は本棚へ向かった。
「…あった、これだわ」
その本はすぐに見つかった。何故なら一番目立つ中心に並べられていたからだ。
本棚を開けて、扉を開くと早速並べられた3冊の本を取り出した。
「フィリップ、借りていくわね」
そっと言葉にし、、本棚の扉を閉じた時――。
「あ、こちらにいらっしゃったのですか?エルザ様」
執事のチャールズさんが開け放たれた扉から姿を見せた。
「はい、フィリップの部屋を見に来ていました。でも驚きました……彼が使っていた時と全く変わっていないのですから」
「ええ、それはセシル様からの指示があったからです」
「え?セシルの?」
意外な言葉にドキリとした。
「はい、尤もそれは記憶を失う前のセシル様が命じたことですけれども。あの方が仰ったのです。エルザ様の為に、この部屋はこのまま残しておくようにと」
「え……?」
「セシル様仰っておりました。エルザ様がいつか、フィリップ様のことを懐かしく思い、このお屋敷にいらした時の為にこのままこの部屋を残しておくようにと」
「セシルが…そんなことを……?」
「ええ、左様でございます。今はまだ辛くて入る気にはなれないかもしれないけれど、時が経てばいつか懐かしく思う日が来るだろうからと」
「そ、そうだったのですか……」
それではセシルの言葉があったから、今もこの部屋は以前と全く変わらない状況のまま…?
「あ、そう言えばチャールズさん。私を探していたのですか?」
「はい、そうです。実は今夜の食事ですが……セシル様がエルザ様と御一緒の食事を望まれておりまして…」
チャールズさんが申し訳なさ気に私を見た。
「ええ、分かりました。行きます。セシルにそう伝えて下さい」
「分かりました。早速伝えて参りますね。それでは失礼致します」
ホッとした様子でチャールズさんは部屋を出て行った。
「そうよね。セシルは私の為を思ってフィリップの部屋をそのままにしておいてくれたのだから…。彼が私のことを妻と思っているうちは、変に避けないほうがいいかもしれないわよね…」
私はそう、自分に言い聞かせた――。
フィリップが使っていた部屋は彼が生前使用していた時と、全く変わりが無かった。
きっと離れの使用人の人達が気を使って、残しておいてくれたのだろう。
「フィリップ……」
眠っているルークを抱いたまま、フィリップが使用していた書斎机の大きな肘掛け椅子に座ってみた。
「……」
まるで背後からフィリップに抱きしめて貰っているような安心感を感じる。
「フィリップの香りがまだ残っているのね……」
胸に熱いものが込み上げ、目尻に涙が浮かびそうになって慌てて目を擦った。
「駄目よ、いつまでも悲しんでいてばかりじゃ…。私にはまだ抱えている問題があるし、ルークの為にも強くならなくちゃいけないのだから」
そして何気なく正面を見ると、目の前には大きな本棚が並んでいる。
そう言えば、まだ彼の本心を知らないまま結婚した時……本をプレゼントしたことが頭をよぎった。
フィリップにプレゼントしたものの、私は一度も読んだことが無かった。
「そうね。この離れにいる間はフィリップの本を読んでみようかしら」
ルークを起こさないように立ち上がると、私は本棚へ向かった。
「…あった、これだわ」
その本はすぐに見つかった。何故なら一番目立つ中心に並べられていたからだ。
本棚を開けて、扉を開くと早速並べられた3冊の本を取り出した。
「フィリップ、借りていくわね」
そっと言葉にし、、本棚の扉を閉じた時――。
「あ、こちらにいらっしゃったのですか?エルザ様」
執事のチャールズさんが開け放たれた扉から姿を見せた。
「はい、フィリップの部屋を見に来ていました。でも驚きました……彼が使っていた時と全く変わっていないのですから」
「ええ、それはセシル様からの指示があったからです」
「え?セシルの?」
意外な言葉にドキリとした。
「はい、尤もそれは記憶を失う前のセシル様が命じたことですけれども。あの方が仰ったのです。エルザ様の為に、この部屋はこのまま残しておくようにと」
「え……?」
「セシル様仰っておりました。エルザ様がいつか、フィリップ様のことを懐かしく思い、このお屋敷にいらした時の為にこのままこの部屋を残しておくようにと」
「セシルが…そんなことを……?」
「ええ、左様でございます。今はまだ辛くて入る気にはなれないかもしれないけれど、時が経てばいつか懐かしく思う日が来るだろうからと」
「そ、そうだったのですか……」
それではセシルの言葉があったから、今もこの部屋は以前と全く変わらない状況のまま…?
「あ、そう言えばチャールズさん。私を探していたのですか?」
「はい、そうです。実は今夜の食事ですが……セシル様がエルザ様と御一緒の食事を望まれておりまして…」
チャールズさんが申し訳なさ気に私を見た。
「ええ、分かりました。行きます。セシルにそう伝えて下さい」
「分かりました。早速伝えて参りますね。それでは失礼致します」
ホッとした様子でチャールズさんは部屋を出て行った。
「そうよね。セシルは私の為を思ってフィリップの部屋をそのままにしておいてくれたのだから…。彼が私のことを妻と思っているうちは、変に避けないほうがいいかもしれないわよね…」
私はそう、自分に言い聞かせた――。
157
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?
雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。
最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。
ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。
もう限界です。
探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる