タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
16 / 152

第1章 10 アイリスの過去 3

しおりを挟む
「アイリス・・・目が覚めたのか?具合はもういのか?」

言いながらレイフは私の右手をとり、もう片方の手で私の額に触れてきた。

「え、ええ。もう大丈夫よ。心配してくれてありがとう。」

レイフに感謝の言葉を述べたが、内心レイフの今私に取っている態度は正直迷惑でしか無かった。
ここは学院であり、そして白衣の女性が私達の様子を見守っている。私がアイリス・イリヤであり、オスカー王子の婚約者であることは学院関係者なら誰もが知っている。
そんな状況の中、レイフのこの態度は周囲の人間を誤解させるだけだった。恐らく世間はこの様子を見ても、責められるのは私だけ、婚約者がいるくせに男を誘惑する悪女だと囁かれるだけに決まっている。幾ら私が公爵令嬢と高い身分であろうとも、この世界はまだまだ男尊女卑の厳しい時代なのだから—。

 そんな私の考えを知ってか知らずか、レイフの話は続く。


「それにしても今朝は驚きの連続だったよ。朝お前を迎えに屋敷に行ってみれば、もうオスカー王子の馬車に乗ってアカデミーへ向かったと聞いたんだからな。アイリス・・・お前、王子の事をあれ程避けていたじゃないか?それなのに何故王子がよこした馬車に乗ったりしたんだ?王子とあの狭い馬車の中でずっと一緒だったんだろう?だから気分が悪くなって、あんな所で倒れてしまったんじゃないか?それにしてもやはり噂通りの酷い男だったんだな。オスカー王子は・・・。倒れてしまったアイリスを放っておいて自分一人で入学式へ向かったんだからな。」

ぺらぺらと自分勝手に話し続けるレイフを私は半ばあきれ顔で見つめていた。しかも出て来る言葉はどれもオスカー王子を責め立てるような言葉ばかり・・・。この会話の内容がオスカー王子の耳に入ったら一体どうするつもりなのだろう。

そろそろこの辺でレイフの口を封じておかなければ・・・。

「ねえ、レイフ。心配してくれているのはありがたいけれども、これ以上オスカー様の事を憶測で悪く言うのはやめてくれる?」

私はレイフの顔を真っすぐ見つめながら言った。するとその瞬間、レイフの身体が固まった。

「お、おい・・・アイリス。お前・・今何て言ったんだ?」

レイフは声を震わせながら私を見た。

「もう一度言えばいいのかしら?これ以上オスカー様の事を憶測で悪く言うのはやめてくれる?って言ったのよ。」

「う・・嘘だろう?!本気で言ってるのか・・・?」

私の言葉にレイフは大袈裟な素振でグラリと身体を傾けた。

「ええ。本気よレイフ。」

答えながら私は70年前のあの日の事を思い出していた―。


 あの日、私はオスカー王子が迎えによこした馬車には乗らずに父が用意してくれた馬車に乗るつもりでいた。しかし馬車の用意をして貰っている最中にレイフが迎えにやって来たのだった。
当時の私は気持ちこそ伝えなかったが、幼馴染のレイフに密かな恋心を抱いていた。約束もしていないのにレイフが迎えに来てくれたことが嬉しくてたまらなかった私は後の事を考えず、この馬車に乗り込んでしまった。
2人で乗った馬車の中・・・今ではどんな話をしたのかも覚えていないが、その後に起こった出来事は鮮明に今も思い出す事が出来る。

 馬車がアカデミーの門に近付いてきた時、私は異様な光景を目にした。門の前にはオスカーが腕組みして立っていたのだ。そして彼の制服にはあちこちに血が飛散っていた―。

 オスカーは婚約者である私が自分のよこした馬車に乗らずに別の男の馬車に乗ってやって来た事に激怒し、激しく罵るだけ罵るとさっさと立ち去って行ってしまった。

でも・・・今にして思えばオスカーが私に辛くあたるようになったのはこの事がきっかけだったのかもしれない―。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です

流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。 父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。 無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。 純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。

【完】隣国に売られるように渡った王女

まるねこ
恋愛
幼いころから王妃の命令で勉強ばかりしていたリヴィア。乳母に支えられながら成長し、ある日、父である国王陛下から呼び出しがあった。 「リヴィア、お前は長年王女として過ごしているが未だ婚約者がいなかったな。良い嫁ぎ先を選んでおいた」と。 リヴィアの不遇はいつまで続くのか。 Copyright©︎2024-まるねこ

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

優しすぎる王太子に妃は現れない

七宮叶歌
恋愛
『優しすぎる王太子』リュシアンは国民から慕われる一方、貴族からは優柔不断と見られていた。 没落しかけた伯爵家の令嬢エレナは、家を救うため王太子妃選定会に挑み、彼の心を射止めようと決意する。 だが、選定会の裏には思わぬ陰謀が渦巻いていた。翻弄されながらも、エレナは自分の想いを貫けるのか。 国が繁栄する時、青い鳥が現れる――そんな伝承のあるフェラデル国で、優しすぎる王太子と没落令嬢の行く末を、青い鳥は見守っている。

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました

ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。 このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。 そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。 ーーーー 若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。 作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。 完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。 第一章 無計画な婚約破棄 第二章 無計画な白い結婚 第三章 無計画な告白 第四章 無計画なプロポーズ 第五章 無計画な真実の愛 エピローグ

婚約解消は諦めましたが、平穏な生活を諦めるつもりはありません!

風見ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢である、私、リノア・ブルーミングはラルフ・クラーク辺境伯から求婚され、現在、結婚前のお試し期間として彼の屋敷に滞在しています。 滞在当初に色々な問題が起こり、婚約解消したくなりましたが、ラルフ様が承諾して下さらない為、諦める事に決めて、自分なりに楽しい生活を送ろうと考えたのですが、仮の嫁姑バトルや別邸のメイドに嫌がらせをされたり、なんだかんだと心が落ち着きません。 妻になると自分が決めた以上、ラルフ様や周りの手を借りながらも自分自身で平穏を勝ち取ろうと思います! ※拙作の「婚約解消ですか? 頼む相手を間違えていますよ?」の続編となります。 細かい設定が気にならない方は未読でも読めるかと思われます。 ※作者独自の異世界の世界観であり、設定はゆるく、ご都合主義です。クズが多いです。ご注意ください

たいした苦悩じゃないのよね?

ぽんぽこ狸
恋愛
 シェリルは、朝の日課である魔力の奉納をおこなった。    潤沢に満ちていた魔力はあっという間に吸い出され、すっからかんになって体が酷く重たくなり、足元はふらつき気分も悪い。  それでもこれはとても重要な役目であり、体にどれだけ負担がかかろうとも唯一無二の人々を守ることができる仕事だった。  けれども婚約者であるアルバートは、体が自由に動かない苦痛もシェリルの気持ちも理解せずに、幼いころからやっているという事実を盾にして「たいしたことない癖に、大袈裟だ」と罵る。  彼の友人は、シェリルの仕事に理解を示してアルバートを窘めようとするが怒鳴り散らして聞く耳を持たない。その様子を見てやっとシェリルは彼の真意に気がついたのだった。

処理中です...