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第2話 愚かな父親
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「それにしても知らなかった……童話の中では『マッチ売りの少女』というだけで、名前すら無かったのに……どうりで名前を呼ばれてもピンとこなかったはずだわ。でも、考えてみれば名前があるのは当然かも知れないし……」
「何ブツブツ呟いているんだよ! とっととマッチを売ってこいって言ってんだよ!」
相変わらずガラの悪い父親は私を怒鳴りつけてくる。だけど、このまま言う通りにマッチを売りになど行けるはずがない。
もし、このまま外に出てマッチを売りにいけば……間違いなく私に待ち受けているのは『死』あるのみだ。
私はジロリと父親? を睨んだ。
「別に売りに行ってもいいけれど……このままじゃイヤよ。行かない」
「何だとっ! ガキのくせに生意気な口叩きやがって!」
父親が手を振り上げた。そうはさせるものか!
ガッ!!
振り上げてきた手を、私は右腕でガードした。
「な、何!?」
父親の顔に驚愕の色が浮かぶ。今だ! すかさず、私はそのまま父親の腕を掴むとぐるりと腕をひねる。
「うひゃあああああ!?」
情けない声を上げた父親は空中でくるりと綺麗に一回転して、床に激しく身体を叩きつけられた。
「どう? まいった?」
しかし、父親は余程痛かったのか、呻くだけで返事をしない。
何を隠そう、私は合気道の段位を持っているのだ。
「へぇ~……やっぱり、別人になっても身体が覚えているものなのね」
自分の手を見ながら、ウンウン頷く。
「イタタタタタ……ア、アンナ! お、お前……一体何しやがるん……だ……」
床に倒れたまま、痛みで顔を歪める父。
「何言ってるのよ。か弱い女性に先に手を上げてきたのはそっちでしょう?」
「な、何だと……!」
「あら? また投げ飛ばされたいの? 今度は手加減しないわよ?」
すると途端に顔が青ざめる父親。怯えながら立ち上がると尋ねてきた。
「お、お前……一体誰なんだ……? 本当にアンナなのか?」
「それはこっちが聞きたいわよ。だけど……」
ヒュ~……
オンボロ小屋に冷たい北風が吹き込んでくる。
「「さっむ!!」」
私と目の前の男は同時に腕を抱え込む。うん、このタイミングの良さ……やっぱりこの男とは親子なのかもしれない。
「私が誰かなんてそんな話は後回しよ。とにかく、このままじゃ年を越せないんでしょう? 仕方ないわ。マッチを売ってきてあげるわよ。その前に色々準備しないとね」
「準備? 準備って何だ?」
ぽかんとする父親。多分、私に投げ飛ばされたことで少しは冷静になれたのだろう。
「これからマッチを売りに行くのに、こんな寒い格好で行けるはずないでしょう?」
私は自分の着ている服を指さした――
****
「どうだ? これで少しは寒さがしのげるか?」
父親は私の姿を見て尋ねてきた。
「そうね。これくらい着込めばましかもしれないわね」
私は今、この家にあるだけの服を着込んでいた。靴下は勿論、父親が着ていたジャケットに、毛糸の帽子。そして毛布をハサミでカットして、紐をつけて簡易マントを作ったのだ。
実は洋裁も得意だったりする私。
「そ、それにしても……俺の服まで着るなんて……な、なんて酷い娘だ……」
ガタガタ震えながら恨めしそうに私を睨む父親。
「何言ってるのよ。こっちは今から雪の積もる中、マッチを売りに行ってあげるのよ? しかもこんな夕方からね!」
ビシッと窓を指差すと、既に空は茜色に染まりかけている。
「そ、それはお前が出かける準備に時間を掛けたからだろう!?」
「あら? また投げ飛ばされたいの?」
「う……」
その言葉に口を閉ざす父。よほど痛かったのだろう。
「後は、このマッチを売ればいいのね」
テーブルの上には大量のマッチが置かれている。全くどうやってこのマッチを手に入れたのだろう?
「ねぇ、そもそも何でこんなに沢山のマッチがあるわけよ?」
「そ、それは……最近、火をつけるのに便利なマッチが発明されて……きっと儲かるに違いないと、知人に教えられて……全財産をはたいて、それで仕入れたんだよ……だけど、マッチはまだまだ高級品だから……中々買ってくれる人が現れなくて……」
「なる程……」
つまり、この愚かな父親は儲け話につられて、身の丈の合わない商売に手を出してしまったということだ。
「だからといって、何故娘に売らせに行こうとしているわけよ?」
「そ、それは……俺なんかよりも、どう見たって娘のお前のほうが世間から同情されて買ってくれる人が現れるかもしれないだろう!?」
「はぁ!? 何言ってるのよ! 世の中そんなに甘くないわ!!」
そうだ、そんなことで買い手がいれば、マッチ売りの少女は物語の中で哀れな死に方をすることは無かったのだ。
「だ、だったら、どうやって売るつもりなんだよ……? アンナ、お前はどうやってマッチを売るんだ?」
父親は後ろめたいのか、伏し目がちに尋ねてきた。
「売る? いいえ、違うわ。マッチに付加価値を付けて買わせるのよ!」
「か、買わせる……?」
そう、元バリキャリで営業成績トップクラスを誇っていた私には……ある秘策があったのだ――
「何ブツブツ呟いているんだよ! とっととマッチを売ってこいって言ってんだよ!」
相変わらずガラの悪い父親は私を怒鳴りつけてくる。だけど、このまま言う通りにマッチを売りになど行けるはずがない。
もし、このまま外に出てマッチを売りにいけば……間違いなく私に待ち受けているのは『死』あるのみだ。
私はジロリと父親? を睨んだ。
「別に売りに行ってもいいけれど……このままじゃイヤよ。行かない」
「何だとっ! ガキのくせに生意気な口叩きやがって!」
父親が手を振り上げた。そうはさせるものか!
ガッ!!
振り上げてきた手を、私は右腕でガードした。
「な、何!?」
父親の顔に驚愕の色が浮かぶ。今だ! すかさず、私はそのまま父親の腕を掴むとぐるりと腕をひねる。
「うひゃあああああ!?」
情けない声を上げた父親は空中でくるりと綺麗に一回転して、床に激しく身体を叩きつけられた。
「どう? まいった?」
しかし、父親は余程痛かったのか、呻くだけで返事をしない。
何を隠そう、私は合気道の段位を持っているのだ。
「へぇ~……やっぱり、別人になっても身体が覚えているものなのね」
自分の手を見ながら、ウンウン頷く。
「イタタタタタ……ア、アンナ! お、お前……一体何しやがるん……だ……」
床に倒れたまま、痛みで顔を歪める父。
「何言ってるのよ。か弱い女性に先に手を上げてきたのはそっちでしょう?」
「な、何だと……!」
「あら? また投げ飛ばされたいの? 今度は手加減しないわよ?」
すると途端に顔が青ざめる父親。怯えながら立ち上がると尋ねてきた。
「お、お前……一体誰なんだ……? 本当にアンナなのか?」
「それはこっちが聞きたいわよ。だけど……」
ヒュ~……
オンボロ小屋に冷たい北風が吹き込んでくる。
「「さっむ!!」」
私と目の前の男は同時に腕を抱え込む。うん、このタイミングの良さ……やっぱりこの男とは親子なのかもしれない。
「私が誰かなんてそんな話は後回しよ。とにかく、このままじゃ年を越せないんでしょう? 仕方ないわ。マッチを売ってきてあげるわよ。その前に色々準備しないとね」
「準備? 準備って何だ?」
ぽかんとする父親。多分、私に投げ飛ばされたことで少しは冷静になれたのだろう。
「これからマッチを売りに行くのに、こんな寒い格好で行けるはずないでしょう?」
私は自分の着ている服を指さした――
****
「どうだ? これで少しは寒さがしのげるか?」
父親は私の姿を見て尋ねてきた。
「そうね。これくらい着込めばましかもしれないわね」
私は今、この家にあるだけの服を着込んでいた。靴下は勿論、父親が着ていたジャケットに、毛糸の帽子。そして毛布をハサミでカットして、紐をつけて簡易マントを作ったのだ。
実は洋裁も得意だったりする私。
「そ、それにしても……俺の服まで着るなんて……な、なんて酷い娘だ……」
ガタガタ震えながら恨めしそうに私を睨む父親。
「何言ってるのよ。こっちは今から雪の積もる中、マッチを売りに行ってあげるのよ? しかもこんな夕方からね!」
ビシッと窓を指差すと、既に空は茜色に染まりかけている。
「そ、それはお前が出かける準備に時間を掛けたからだろう!?」
「あら? また投げ飛ばされたいの?」
「う……」
その言葉に口を閉ざす父。よほど痛かったのだろう。
「後は、このマッチを売ればいいのね」
テーブルの上には大量のマッチが置かれている。全くどうやってこのマッチを手に入れたのだろう?
「ねぇ、そもそも何でこんなに沢山のマッチがあるわけよ?」
「そ、それは……最近、火をつけるのに便利なマッチが発明されて……きっと儲かるに違いないと、知人に教えられて……全財産をはたいて、それで仕入れたんだよ……だけど、マッチはまだまだ高級品だから……中々買ってくれる人が現れなくて……」
「なる程……」
つまり、この愚かな父親は儲け話につられて、身の丈の合わない商売に手を出してしまったということだ。
「だからといって、何故娘に売らせに行こうとしているわけよ?」
「そ、それは……俺なんかよりも、どう見たって娘のお前のほうが世間から同情されて買ってくれる人が現れるかもしれないだろう!?」
「はぁ!? 何言ってるのよ! 世の中そんなに甘くないわ!!」
そうだ、そんなことで買い手がいれば、マッチ売りの少女は物語の中で哀れな死に方をすることは無かったのだ。
「だ、だったら、どうやって売るつもりなんだよ……? アンナ、お前はどうやってマッチを売るんだ?」
父親は後ろめたいのか、伏し目がちに尋ねてきた。
「売る? いいえ、違うわ。マッチに付加価値を付けて買わせるのよ!」
「か、買わせる……?」
そう、元バリキャリで営業成績トップクラスを誇っていた私には……ある秘策があったのだ――
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