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第9話 明日の約束
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――22時
持参してきたマッチを全て完売した私はホクホク顔でハンスと一緒に店を出た。
今現在、私の手持ちのお金は15万エン。これだけあれば、あのクズな父親の元に変える必要は無い……。けれど、まだあの家には相当数のマッチが残っている。
アレを全て売り切れば……うん! もうあんな貧しい家とは、おさらば出来る。
「ハンスさん。色々お世話になりました。私一人ではマッチ全て売ることが出来なかったと思います」
隣のハンスにお礼を述べた。
「え? 何を言ってるの? 僕はなにもしていないよ」
大げさな身振りで手を振るハンス。
「いいえ、そんなことありません。サクラになっていただきましたから。そのおかげで店中のお客が、集まったのですよ」
「サクラ……? またアンナは変わった言葉を使うね。サクラって何かな?」
そうか、この世界ではそんな言葉をつかっていないのかもしれない。
「えっとサクラというのはですね、お客のふりをして盛り上げる偽物客のことを言うのです。まぁ、簡単に言うと……ハンスさんは私の仲間でマッチを売るお手伝いをしてくれたってことです」
「え? 僕がアンナの仲間?」
何故か嬉しそうなハンス。
てっきり、私みたいな貧しい身分の者と仲間なんて言われたら不愉快だと思っていたのに。
「ええ、そうです。仲間ですよ。それでは、そろそろ私は家に帰りますね」
帰り道は何となく覚えている。うん、きっと辿り着けるだろう。
「送るよ。もう夜も遅いし、女の子をひとりで家に帰すわけにはいかないからね」
「え!? いいですよ! そんな迷惑かけられません」
あんなボロ小屋、ハンスが見たら驚くに決まっている。
「このままひとりで帰して、アンナに何かあったら僕の責任だよ。だから送らせてよ。お願いします」
私に手を合わせるハンス。う~ん……そこまでされては断れない。
「分かりました……では、送っていただけますか……?」
「うん、喜んで」
ハンスは笑顔で返事をした――
****
私達は会話しながら町を歩いていた。
「そうだったのですか。ハンスさんのお父様は市長さんだったのですね。すごいですね~」
どうりでお金持ちなわけだ。
「すごいのは父であって、僕じゃないよ。それにすごいのはむしろ、アンナの方だよ」
「私がですか?」
「うん、そうだよ。だって、あんな難しい問題を考えつくのだからね」
大真面目で頷くハンス。
「あははは~……そうでもないですよ」
それは私がかつては日本人であって、マッチを使ったあのクイズは、元々知っていたからだ。
「明日はどうするの? 確かまだマッチが沢山残っているって言ってたよね?」
「はい。明日は別のお店でマッチを売るつもりです」
「また、あのチリトリゲームをするの?」
「いえ、今度は違うマッチ棒ゲームを披露するつもりです」
すると私の言葉に驚くハンス。
「え? マッチ棒ゲームってあれだけじゃなかったの?」
「まさか! もっと色々なゲームがあるんですよ? 同じゲームばかり出していたら、口コミで知れ渡ってしまうじゃありませんか」
「口コミか……また訳の分からない言葉が出てきたけど……要は、また面白いゲームをお披露目するってことだよね?」
ハンスがじっと見つめてくる。
「そうですけど……」
「それじゃ、明日も付き合わせてよ! また僕にサクラをやらせてもらえないかな!?」
「う~ん……そうですね……ならお願いします」
やっぱりサクラがいたほうがマッチ棒クイズを披露しやすいだろう。
「やった! ありがとう!」
そこまで話したとき、町外れにある集落の入り口となる橋が見えてきた。
あの橋を渡れば貧しいアンナの家がある。
周囲を照らす明かりもなく、月明かりだけが頼りの場所だ。
アンナの家の周囲には、まるで掘っ立て小屋のような家々が建ち並んでいる。
恐らく、あの集落は貧民たちばかりが集まっているのだろう。
「ここまでで結構です。あの橋を渡れば私の家はすぐそこなので」
橋を指さしてハンスに教えた。
「あれ? ここは……もしかして、アンナはここに住んでいたの?」
少し驚いた様子でハンスが尋ねる。
「ええ、そうです。貧しくてお恥ずかしいです」
「……そうだったのか」
橋をじっと見つめながらポツリと呟くハンス。
「どうかしましたか?」
「ううん、何でも無いよ。それで明日は何時にマッチを売りにいくつもりかな?」
「そうですね~17時頃にしようかと思うのですけど」
当分の間は、飲み屋に来ている大人たちを対象にしようかと考えていた。
「分かった、17時だね。それじゃ、今いるこの場所で待ち合わせしようよ。ソレじゃ、また明日!」
「え? ちょ、ちょっと!」
ハンスは私の止める声も聞かずに、背を向けると走り去っていった。
「……ま、いいか。マッチは売ってきたし。……う~寒い! 早く家に帰ろう! あんな家に帰りたくないけど、行き場がないしね……」
身を縮こませると、あまり気乗りしない家に足を向けた――
持参してきたマッチを全て完売した私はホクホク顔でハンスと一緒に店を出た。
今現在、私の手持ちのお金は15万エン。これだけあれば、あのクズな父親の元に変える必要は無い……。けれど、まだあの家には相当数のマッチが残っている。
アレを全て売り切れば……うん! もうあんな貧しい家とは、おさらば出来る。
「ハンスさん。色々お世話になりました。私一人ではマッチ全て売ることが出来なかったと思います」
隣のハンスにお礼を述べた。
「え? 何を言ってるの? 僕はなにもしていないよ」
大げさな身振りで手を振るハンス。
「いいえ、そんなことありません。サクラになっていただきましたから。そのおかげで店中のお客が、集まったのですよ」
「サクラ……? またアンナは変わった言葉を使うね。サクラって何かな?」
そうか、この世界ではそんな言葉をつかっていないのかもしれない。
「えっとサクラというのはですね、お客のふりをして盛り上げる偽物客のことを言うのです。まぁ、簡単に言うと……ハンスさんは私の仲間でマッチを売るお手伝いをしてくれたってことです」
「え? 僕がアンナの仲間?」
何故か嬉しそうなハンス。
てっきり、私みたいな貧しい身分の者と仲間なんて言われたら不愉快だと思っていたのに。
「ええ、そうです。仲間ですよ。それでは、そろそろ私は家に帰りますね」
帰り道は何となく覚えている。うん、きっと辿り着けるだろう。
「送るよ。もう夜も遅いし、女の子をひとりで家に帰すわけにはいかないからね」
「え!? いいですよ! そんな迷惑かけられません」
あんなボロ小屋、ハンスが見たら驚くに決まっている。
「このままひとりで帰して、アンナに何かあったら僕の責任だよ。だから送らせてよ。お願いします」
私に手を合わせるハンス。う~ん……そこまでされては断れない。
「分かりました……では、送っていただけますか……?」
「うん、喜んで」
ハンスは笑顔で返事をした――
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私達は会話しながら町を歩いていた。
「そうだったのですか。ハンスさんのお父様は市長さんだったのですね。すごいですね~」
どうりでお金持ちなわけだ。
「すごいのは父であって、僕じゃないよ。それにすごいのはむしろ、アンナの方だよ」
「私がですか?」
「うん、そうだよ。だって、あんな難しい問題を考えつくのだからね」
大真面目で頷くハンス。
「あははは~……そうでもないですよ」
それは私がかつては日本人であって、マッチを使ったあのクイズは、元々知っていたからだ。
「明日はどうするの? 確かまだマッチが沢山残っているって言ってたよね?」
「はい。明日は別のお店でマッチを売るつもりです」
「また、あのチリトリゲームをするの?」
「いえ、今度は違うマッチ棒ゲームを披露するつもりです」
すると私の言葉に驚くハンス。
「え? マッチ棒ゲームってあれだけじゃなかったの?」
「まさか! もっと色々なゲームがあるんですよ? 同じゲームばかり出していたら、口コミで知れ渡ってしまうじゃありませんか」
「口コミか……また訳の分からない言葉が出てきたけど……要は、また面白いゲームをお披露目するってことだよね?」
ハンスがじっと見つめてくる。
「そうですけど……」
「それじゃ、明日も付き合わせてよ! また僕にサクラをやらせてもらえないかな!?」
「う~ん……そうですね……ならお願いします」
やっぱりサクラがいたほうがマッチ棒クイズを披露しやすいだろう。
「やった! ありがとう!」
そこまで話したとき、町外れにある集落の入り口となる橋が見えてきた。
あの橋を渡れば貧しいアンナの家がある。
周囲を照らす明かりもなく、月明かりだけが頼りの場所だ。
アンナの家の周囲には、まるで掘っ立て小屋のような家々が建ち並んでいる。
恐らく、あの集落は貧民たちばかりが集まっているのだろう。
「ここまでで結構です。あの橋を渡れば私の家はすぐそこなので」
橋を指さしてハンスに教えた。
「あれ? ここは……もしかして、アンナはここに住んでいたの?」
少し驚いた様子でハンスが尋ねる。
「ええ、そうです。貧しくてお恥ずかしいです」
「……そうだったのか」
橋をじっと見つめながらポツリと呟くハンス。
「どうかしましたか?」
「ううん、何でも無いよ。それで明日は何時にマッチを売りにいくつもりかな?」
「そうですね~17時頃にしようかと思うのですけど」
当分の間は、飲み屋に来ている大人たちを対象にしようかと考えていた。
「分かった、17時だね。それじゃ、今いるこの場所で待ち合わせしようよ。ソレじゃ、また明日!」
「え? ちょ、ちょっと!」
ハンスは私の止める声も聞かずに、背を向けると走り去っていった。
「……ま、いいか。マッチは売ってきたし。……う~寒い! 早く家に帰ろう! あんな家に帰りたくないけど、行き場がないしね……」
身を縮こませると、あまり気乗りしない家に足を向けた――
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