2 / 27
1−2 サチの場合 2
しおりを挟む
チーン
鐘を鳴らし、大学へ行く前にリビングに置かれた小さな仏壇に手を合わせていた。
するとそこへ背広姿のお兄ちゃんが慌ただしくやって来て声を掛けてきた。
「ごめん、サチ。今夜も仕事が遅くなりそうなんだ、それに朝ごはんせっかく用意してくれたのに……食べる時間無かったよ」
申し訳無さそうに謝ってくるお兄ちゃん。
「え?嘘!もう仕事に行くの?だってまだ6時だよ?!家から会社までは1時間半もあれば行けるのに?!」
「うん、それが今日は日帰りで……長野に出張なんだ」
「ええ?!長野まで?!この間は愛媛県まで行ってきたばかりじゃない!どうしてそんなに出張ばかりなのよ!」
「うん……それが新しく天然水を開発するから上司の付き添いで現場の人と打ち合わせについて行かないとならないんだよ」
「だ、だけど……知ってる?お兄ちゃん、今自分がどれだけ顔色が悪いか!」
私はお兄ちゃんの腕を掴んだ。
「え?そ、そうかな?」
「そうだよ!青白い顔で、疲れ切った顔して……ま、まるで今のお兄ちゃんを見ていると過労死したお母さんを思い出すじゃない……!」
気付けば自分の声が涙声になっている。
「サ、サチ……」
「お兄ちゃんまで……お母さんみたいに死んじゃったらどうするのよ!私まだ20歳なんだよ?!まだ……大学生だし……もし、万一お兄ちゃんに何かあったら1人でなんて生きていけないよ!」
気付けばお兄ちゃんにしがみついていた。すると……。
「馬鹿だなぁ。サチは」
お兄ちゃんの大きな手が私の頭に乗せられる。
「僕が死ぬはずないだろう?まだ25歳なんだから。それに母さんと違って体力だってあるし。大切な妹をたった1人残して先に死ぬわけないじゃないか?」
「お、お兄ちゃん……」
「それに、今日仕事に行けば明日からはGWに入るだろう?久しぶりにドライブでも行こうか?」
お兄ちゃんは笑いながら私に話しかけてくる。
いつもそうだ、お兄ちゃんは優しすぎる。だから時々心配になってしまう。その優しがいつか仇になってしまうのではないかと……。
「ドライブなんていいよ!私のことよりも彼女とでも一緒に過ごしたら?」
すると、寂しげにお兄ちゃんは笑った。
「彼女なら、この間別れたよ」
「え?」
驚いて顔を上げると、お兄ちゃんは私から離れていく。
「それじゃ、仕事に行ってくるよ。帰りは何時になるか分からないから、僕の食事は用意しなくていいからね」
そしてお兄ちゃんは慌ただしく家を出ていった。
「お兄ちゃん……また彼女と別れちゃったの……?」
やっぱり高校生の時に付き合っていた彼女のことが忘れられないのかな?
あんなに彼女のこと嬉しそうに話していたのに……ある日、突然音信不通になってしまった彼女のことが。
あのときのお兄ちゃんの落胆した姿は言葉に出来ないほどだった。
私は一度も会ったことはなかったけれど、大切なお兄ちゃんを傷つけた彼女のことが許せない。
きっとあのときのことを今も引きずっているから、お兄ちゃんは新しく彼女が出来てもあまり長続きしないのかもしれない。
まぁ、お兄ちゃん子の私にしてみればこれは嬉しいことでもあるのだけど。
「よし!今夜は食事用意しなくていいって言ってたけど……何か元気が出そうな料理を作ろうかな!」
そして、この日のメニューはスパイスの効いたドライカレーを作った。
けれど、結局お兄ちゃんは私が寝るまで家に帰宅することは無かった――。
鐘を鳴らし、大学へ行く前にリビングに置かれた小さな仏壇に手を合わせていた。
するとそこへ背広姿のお兄ちゃんが慌ただしくやって来て声を掛けてきた。
「ごめん、サチ。今夜も仕事が遅くなりそうなんだ、それに朝ごはんせっかく用意してくれたのに……食べる時間無かったよ」
申し訳無さそうに謝ってくるお兄ちゃん。
「え?嘘!もう仕事に行くの?だってまだ6時だよ?!家から会社までは1時間半もあれば行けるのに?!」
「うん、それが今日は日帰りで……長野に出張なんだ」
「ええ?!長野まで?!この間は愛媛県まで行ってきたばかりじゃない!どうしてそんなに出張ばかりなのよ!」
「うん……それが新しく天然水を開発するから上司の付き添いで現場の人と打ち合わせについて行かないとならないんだよ」
「だ、だけど……知ってる?お兄ちゃん、今自分がどれだけ顔色が悪いか!」
私はお兄ちゃんの腕を掴んだ。
「え?そ、そうかな?」
「そうだよ!青白い顔で、疲れ切った顔して……ま、まるで今のお兄ちゃんを見ていると過労死したお母さんを思い出すじゃない……!」
気付けば自分の声が涙声になっている。
「サ、サチ……」
「お兄ちゃんまで……お母さんみたいに死んじゃったらどうするのよ!私まだ20歳なんだよ?!まだ……大学生だし……もし、万一お兄ちゃんに何かあったら1人でなんて生きていけないよ!」
気付けばお兄ちゃんにしがみついていた。すると……。
「馬鹿だなぁ。サチは」
お兄ちゃんの大きな手が私の頭に乗せられる。
「僕が死ぬはずないだろう?まだ25歳なんだから。それに母さんと違って体力だってあるし。大切な妹をたった1人残して先に死ぬわけないじゃないか?」
「お、お兄ちゃん……」
「それに、今日仕事に行けば明日からはGWに入るだろう?久しぶりにドライブでも行こうか?」
お兄ちゃんは笑いながら私に話しかけてくる。
いつもそうだ、お兄ちゃんは優しすぎる。だから時々心配になってしまう。その優しがいつか仇になってしまうのではないかと……。
「ドライブなんていいよ!私のことよりも彼女とでも一緒に過ごしたら?」
すると、寂しげにお兄ちゃんは笑った。
「彼女なら、この間別れたよ」
「え?」
驚いて顔を上げると、お兄ちゃんは私から離れていく。
「それじゃ、仕事に行ってくるよ。帰りは何時になるか分からないから、僕の食事は用意しなくていいからね」
そしてお兄ちゃんは慌ただしく家を出ていった。
「お兄ちゃん……また彼女と別れちゃったの……?」
やっぱり高校生の時に付き合っていた彼女のことが忘れられないのかな?
あんなに彼女のこと嬉しそうに話していたのに……ある日、突然音信不通になってしまった彼女のことが。
あのときのお兄ちゃんの落胆した姿は言葉に出来ないほどだった。
私は一度も会ったことはなかったけれど、大切なお兄ちゃんを傷つけた彼女のことが許せない。
きっとあのときのことを今も引きずっているから、お兄ちゃんは新しく彼女が出来てもあまり長続きしないのかもしれない。
まぁ、お兄ちゃん子の私にしてみればこれは嬉しいことでもあるのだけど。
「よし!今夜は食事用意しなくていいって言ってたけど……何か元気が出そうな料理を作ろうかな!」
そして、この日のメニューはスパイスの効いたドライカレーを作った。
けれど、結局お兄ちゃんは私が寝るまで家に帰宅することは無かった――。
31
あなたにおすすめの小説
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。
ねーさん
恋愛
あ、私、悪役令嬢だ。
クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。
気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される
さくら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。
慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。
だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。
「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」
そう言って真剣な瞳で求婚してきて!?
王妃も兄王子たちも立ちはだかる。
「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる