婚約者はこの世界のヒロインで、どうやら僕は悪役で追放される運命らしい〜another story

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

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2 湊の場合 2

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 3月も終わり、4月に入っていた。
 引っ越しの作業もほとんど終わり、俺は友達と電話で話をすることにした。

 ピッ!

 スマホを片手に、電話番号を呼び出して耳に押し当てた。呼び出し音が5回鳴ってもまだ相手は電話に出ない。

「何だよ?あいつ、忙しいのかな……あ!もしもし!俺だよ!」

 10コール目でようやく親友の晋也と電話が繋がり、俺は久しぶりの友人との会話を楽しんだ。

 それなのに……。


**

「へ~そうだったのか?それで?春休みの予定はどうなんだ?え?映画に行く?いつだよ?何?今からだって?え?!お、おい!ちょっとまっ……!」

 プツッ!

 電話を掛けて10分も経たないうちに晋也に電話を切られてしまった。

「な、何だよ薄情な奴だな!あの漫画が映画化されるのが決まったときから一緒に観に行こうって約束していたのに……!別の友達と行くなんて……!」

 イライラしながらスマホをベッドの上に投げつけた。

「ああ、そうかい!お前が今日、映画を観に行くって言うなら……俺だって行ってやる!確か最寄りの駅前にシネコンがあったよな?!よし!調べるか!」

 投げつけたスマホを手に取ると、早速映画館の情報を調べ始めた。


「え……っと、今からなら……うん?午後2時半上映に間に合いそうだな。空席情報は……よし!大丈夫だ!」

 スマホを操作して座席をゲットすると、部屋に掛けてある上着を引っ掛けて財布をポケットに突っ込んで自室を出た。



「あら?湊。出掛けるの?」


 リビングに行くと花を飾っていた母さんが声を掛けてきた。

「うん、ちょっと映画を観に行ってくる」

「あら?1人で大丈夫なの?」

「あのな、俺はもう中2なんだぜ?映画位1人で行ってこれるよ」

「そうなの……?つい最近まではお母さんと一緒に映画観に行ってたじゃないの?」

「いつの話してるんだよ……それより、また花を買ったのか?」

「ええ、新しいお家に引っ越したらお花を沢山部屋に飾るのが好きだったからね~」

 そしてニコニコしながら霧吹きで水をやっている。

「あ~そうですか。良かったな。念願の引っ越しが出来て。遅刻するとマズイからもう行くよ」

 フン!引っ越したくなかった俺の気も知らないで。

「はい、行ってらっしゃい」

「行ってきます」

 
 そして俺は家を後にした――。



****


 映画館に到着すると、中は大分混雑していた。お客の大半はざっと見た限り10代のようだった。

「やっぱり春休みだからかな~混雑してるなぁ」

 だけど、来てる客は皆友人同士かもしくはカップルばかりだ。何だかそれを見ていたら虚しい気持ちになってきた。

「本来だったら、俺だって……」
 

 上映時間までまだ時間があったから、空いている席を見つけて座っていると俺の様に1人で来ている女子が少し離れた椅子に座っていることに気づいた。

 肩まで伸びた真っ直ぐな黒髪に、大きな瞳の女子はかなり可愛かった。
 
 へ~可愛い子だな……。まぁ、目の保養にはなるだろう。

 そう思った俺はチラチラとその女子を盗み見していた。すると目を付けられたのか、突然その女子が二人の男に絡まれ始めた。

「マジかよ……」

 その女子は朗らかに困った様子で何事か訴えているし、周囲では誰も気づいちゃいない。
 
 相手は二人で、どう見ても俺よりは年上に見えるけど……妙にその女子が放っておけなくて椅子から立ち上がった。

「知り合いのフリして助けるか……」

 自分を奮い立たせると、俺は三人の元へ向かった。



「ごめん!待ったか!」

 俺は二人の男の背後からわざと大きな声を上げた。すると驚いたように男たちは振り返ってこちらを見た。

「何だ?お前」
「何か用か?」

「ああ、だって俺、その子と待ち合わせしてたんだよ。な?」

 素早く俺はその女子と目を合わせた。

「本当か~?」
「どうも嘘っぽいな~」

 二人の男は高校生くらいに見えた。背も俺より高いし、思わず圧倒されそうになるも頷いてやった。

「ああ、そうさ」

「じゃあ、俺達も混ぜてくれよ」

「そうだな。どうせ同じ映画観に来たんだろ?それで帰りどこか遊びに行こうぜ」


「何だって?!」

 しまった!予想もしていない展開になってきた。ど、どうしよう……?焦りながら彼女の様子を見ても、何故か平然としている。

な、何で……?!

その時――。

「お兄ちゃん!」

 突然彼女が大きな声を上げた。え?お兄ちゃん?

 二人の男と同時に俺は振り返り……見上げた。

 俺たちの背丈よりもずっと背の高い男がポップコーンと飲み物を手に立っていたからだ。

 そして男はニコリと笑って俺たちに尋ねてきた。

「妹に何か用かな?」

と――。



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