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2 湊の場合 3
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お兄ちゃんと呼ばれた男は身長180近くはあるように見えた。何しろ、俺もナンパをしていた男たちも皆見上げているのだから。
「お兄ちゃん、この人達さっきからしつこいんだよ?私はお兄ちゃんと映画を観に来ているっていうのに、信じてくれないんだから」
彼女はふくれっ面でお兄ちゃんと呼んだ男の陰にサッと隠れた。
「そうだったのか……」
男はチラリと彼女を振り返ると、次に二人の男たちにニコリと笑いかけた。
「見ての通り、今日は兄妹水入らずで遊びに来ているんだ。悪いけど遠慮してくれないかな?」
ニコニコ笑っていはいるけれど、妙に男には迫力がある。その証拠にナンパ男たちはゴクリと息を呑むと、まるで逃げるようにコソコソと去って行った。
「……」
何とも中途半端でこの場を去るタイミングを失った俺達の間で気まずい雰囲気が流れる。
「えっと……君は……?」
男は困った様子で俺を見た。
「あ、あの俺は……」
すると、彼女が助け舟を出してくれた。
「お兄ちゃん!その人は違うよ。私が絡まれているところを助けに来てくれたんだよ」
「え?そうだったのかい?」
「え、ええ……まぁ……」
結局役には立たなかったけどな……。しかし、兄と呼ばれた男はニッコリ笑うと俺を見た。
「そうか。君は妹を助けてくれようとしたんだね。ありがとう」
「ありがとうございます」
彼女も笑ってお礼を述べてきた。
「い、いえ。そ、それじゃ俺もう行きます!」
何とも場違いな気持ちになって、逃げるようにその場を去って行った。そして去り際に再度二人を振り返った。
するとそこには仲良さそうに椅子に座って話をしている二人の姿があった。
「仲良い兄妹なんだな……俺んちとは大違いだ」
別に羨ましい気持ちにはならなかったが……何だか複雑な気分だった。
結局この日観た映画はあの兄妹のことが妙に気になって、ろくに頭に入ってこなかった。
****
映画が終わった後、すぐに家に帰る気にならなかった俺は近くのゲーセンに行き、千円分遊んで帰ってきた。
「ただいま~」
玄関を開けてリビングの中に入ると、だらしなくソファに寝そべってスマホをいじっている姉ちゃんの姿があった。母さんの姿は無い。
それにしても……。
俺は姉ちゃんをじろりと見た。ただいまって言って帰ってきたんだから声は聞こえているはず。
なのに、今だってこうしてリビングにいるのに「お帰り」の言葉を掛けてくることもない。
「た・だ・い・ま!」
俺はわざと大きな声で主張するように声を上げた。すると姉ちゃんはこっちを見ることもなく返事をする。
「うるさいな~聞こえてるよ。一体何の用さ」
「あのさ、兄妹で映画観に行くってどう思う?」
「はぁ?何それ?キモッ!」
姉ちゃんはそれだけ言うと、再びスマホをいじり始めた。
「アハハハ……」
キモいか。
結局俺と姉ちゃんはあの二人のような関係にはなれそうに無いな……。
そして、ふと思った。
もう一度あの子に会えないかな……と――。
「お兄ちゃん、この人達さっきからしつこいんだよ?私はお兄ちゃんと映画を観に来ているっていうのに、信じてくれないんだから」
彼女はふくれっ面でお兄ちゃんと呼んだ男の陰にサッと隠れた。
「そうだったのか……」
男はチラリと彼女を振り返ると、次に二人の男たちにニコリと笑いかけた。
「見ての通り、今日は兄妹水入らずで遊びに来ているんだ。悪いけど遠慮してくれないかな?」
ニコニコ笑っていはいるけれど、妙に男には迫力がある。その証拠にナンパ男たちはゴクリと息を呑むと、まるで逃げるようにコソコソと去って行った。
「……」
何とも中途半端でこの場を去るタイミングを失った俺達の間で気まずい雰囲気が流れる。
「えっと……君は……?」
男は困った様子で俺を見た。
「あ、あの俺は……」
すると、彼女が助け舟を出してくれた。
「お兄ちゃん!その人は違うよ。私が絡まれているところを助けに来てくれたんだよ」
「え?そうだったのかい?」
「え、ええ……まぁ……」
結局役には立たなかったけどな……。しかし、兄と呼ばれた男はニッコリ笑うと俺を見た。
「そうか。君は妹を助けてくれようとしたんだね。ありがとう」
「ありがとうございます」
彼女も笑ってお礼を述べてきた。
「い、いえ。そ、それじゃ俺もう行きます!」
何とも場違いな気持ちになって、逃げるようにその場を去って行った。そして去り際に再度二人を振り返った。
するとそこには仲良さそうに椅子に座って話をしている二人の姿があった。
「仲良い兄妹なんだな……俺んちとは大違いだ」
別に羨ましい気持ちにはならなかったが……何だか複雑な気分だった。
結局この日観た映画はあの兄妹のことが妙に気になって、ろくに頭に入ってこなかった。
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映画が終わった後、すぐに家に帰る気にならなかった俺は近くのゲーセンに行き、千円分遊んで帰ってきた。
「ただいま~」
玄関を開けてリビングの中に入ると、だらしなくソファに寝そべってスマホをいじっている姉ちゃんの姿があった。母さんの姿は無い。
それにしても……。
俺は姉ちゃんをじろりと見た。ただいまって言って帰ってきたんだから声は聞こえているはず。
なのに、今だってこうしてリビングにいるのに「お帰り」の言葉を掛けてくることもない。
「た・だ・い・ま!」
俺はわざと大きな声で主張するように声を上げた。すると姉ちゃんはこっちを見ることもなく返事をする。
「うるさいな~聞こえてるよ。一体何の用さ」
「あのさ、兄妹で映画観に行くってどう思う?」
「はぁ?何それ?キモッ!」
姉ちゃんはそれだけ言うと、再びスマホをいじり始めた。
「アハハハ……」
キモいか。
結局俺と姉ちゃんはあの二人のような関係にはなれそうに無いな……。
そして、ふと思った。
もう一度あの子に会えないかな……と――。
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