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第10話 恋人たちの醜聞と末路 <終>
翌日は祝日で、仕事は休みだった。
母のお陰でジェレミーとミランダのスキャンダルが町中に号外としてバラまかれ、昼頃には私の耳にも号外が届いた。
「フフフ……もう、これでクラウン家も宰相も終ね」
テラスでお茶を飲んでいた母がテーブルの上に号外を置くと微笑んだ。
「ええ、そうですね。何しろ、ジェレミーは実力も伴わないくせに宰相の力で近衛隊長に昇進しようとしていたのですから。きっと周囲から反感を買うことでしょう」
私は紅茶を一口飲んだ。
「それだけじゃないわ、ほら。見てご覧なさい。ジェレミーの浮気グセに、宰相の娘の我儘ぶりが大きく取り上げられているじゃない。ついでに、宰相の横領事件まで暴露されているわ」
母は号外の一部分を指で指し示した。
「そうですね。これには驚きました。新聞社では既に宰相のスキャンダルを事前に知っていたのでしょうか?」
「ええ、そうみたいよ。他にも丁度ネタを探していたところだったみたい。だから、今回の話を記事にして欲しいと頼んだら、おお喜びされたわ」
「本当に、スキャンダルな記事ほど人々の感心を買うことはありませんからね?」
そして私と母は互いに笑いあった――
****
――その後。
ジェレミーは近衛隊をクビにされた。
だが、それは当然のことだった。
私が二人を置き去りにしたあの夜、ジェレミーとミランダはガゼボで発見された。
しかも発見したのが、夜勤をしていたジェレミーの同期の近衛隊員だったのだ。
王宮の庭園で見回りをしていたあの夜、宰相の庭園から恐ろしい泣き声と助けを呼ぶ女性の声が聞こえてきたらしい。
慌てて駆けつけてみると、足を痛めたミランダの側で泣き叫んでいるジェレミーを発見した。
彼の話によると、最初は泣き叫んでいる人物が誰か分からなかったらしい。
そこで側にうずくまっていた女性に尋ねたところ、男の名前がジェレミーだと聞かされて大層驚いたそうだ。
パニックの原因になった理由をミランダから聞かされた彼はジェレミーに自分の剣を手渡したところ、ようやく落ち着きを取り戻したのだが……全てはもう手遅れだった。
いくらパニックになっていたとはいえ、宰相の娘に足の骨折という大怪我を負わせたのだ。しかも剣を取り上げられただけで、恐怖で泣き叫ぶような人物は近衛兵としては致命的な欠点だった。
クラウン家はジェレミーの重要な事実を隠蔽した罰として、国王の命令により廃位されてしまった。
尤も、クラウン家はジェレミーの新事実を知らなかったのだから相当衝撃は大きかっただろう。
何しろ、彼の秘密を知っていたのは私だけだったのだから。
一方の宰相自身も横領罪により、我儘娘と共に国を追放されて幕切れとなった。
今回の醜聞は『恋人たちの汚点事件』と名付けられ、広く世間に知れ渡ることになるのだった……。
そして時は流れ――
****
「失礼、もしかするとヴァネッサ・ハニー令嬢ではありませんか?」
「ええ? そうですけど」
国王主催の夜会に参加していた時のこと、ワインを飲んでいるとメガネをかけた見知らぬ青年に声をかけられた。
「ああ、やはりそうでしたか。『恋人たちの汚点事件』でヴァネッサ様の顔写真を拝見したことがあり、まさかとは思ったのですが」
目の前の青年がじっと私を見つめてくる。
「あぁ……あの事件ですか? お恥ずかしいですわ。それにしてもよく私だと分かりましたわね。半年も前のことでしたのに」
「実は図書館で何度かお会いしたことがあるのですが、お分かりになりませんよね?」
青年は恥ずかしそうに頬を染めた。私は少しの間、彼を見つめたが……やはり見覚えはなかった。
「申し訳ございません。覚えがなくて」
「いえ! いいんです。そんなこと気にしないで下さい。大体、図書館には大勢の人が出入りしているじゃありませんか。それに、第一私は平凡な男ですし……」
けれど、私の目には平凡な青年には見えなかった。眼鏡の奥の瞳には知的な光が宿っているように思える。
それに、ジェレミーのように人馴れしていないところも新鮮さを感じる。
少しだけ私は彼に興味を抱いた。
「あの、ところでお名前は何とおっしゃるのですか?」
「あ! これは大変失礼致しました。私は、アレックス・マイヤーと申します。伯爵家の次男で、出版社で働いています。仕事柄図書館に足を運ぶことがありまして、以前からヴァネッサ様を気にかけていました。ただ……ヴァネッサ様には婚約者がいらっしゃいましたから……」
言葉を濁すアレックス氏。
「ええ、そうですね。でも今はおりません。当然御存知でしょうけど」
「勿論知っています。なので、今回思いきって声をかけさせていただいたのですから。……あの、もしよろしければ、向こうあちらの椅子にかけて話をしませんか?」
彼が指さした先にはソファ席があった。
「はい、喜んで」
「良かった、では参りましょう」
「ええ」
私は青年と共に席に向かった。
新しい出会いに、少しのトキメキを感じながら――
母のお陰でジェレミーとミランダのスキャンダルが町中に号外としてバラまかれ、昼頃には私の耳にも号外が届いた。
「フフフ……もう、これでクラウン家も宰相も終ね」
テラスでお茶を飲んでいた母がテーブルの上に号外を置くと微笑んだ。
「ええ、そうですね。何しろ、ジェレミーは実力も伴わないくせに宰相の力で近衛隊長に昇進しようとしていたのですから。きっと周囲から反感を買うことでしょう」
私は紅茶を一口飲んだ。
「それだけじゃないわ、ほら。見てご覧なさい。ジェレミーの浮気グセに、宰相の娘の我儘ぶりが大きく取り上げられているじゃない。ついでに、宰相の横領事件まで暴露されているわ」
母は号外の一部分を指で指し示した。
「そうですね。これには驚きました。新聞社では既に宰相のスキャンダルを事前に知っていたのでしょうか?」
「ええ、そうみたいよ。他にも丁度ネタを探していたところだったみたい。だから、今回の話を記事にして欲しいと頼んだら、おお喜びされたわ」
「本当に、スキャンダルな記事ほど人々の感心を買うことはありませんからね?」
そして私と母は互いに笑いあった――
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――その後。
ジェレミーは近衛隊をクビにされた。
だが、それは当然のことだった。
私が二人を置き去りにしたあの夜、ジェレミーとミランダはガゼボで発見された。
しかも発見したのが、夜勤をしていたジェレミーの同期の近衛隊員だったのだ。
王宮の庭園で見回りをしていたあの夜、宰相の庭園から恐ろしい泣き声と助けを呼ぶ女性の声が聞こえてきたらしい。
慌てて駆けつけてみると、足を痛めたミランダの側で泣き叫んでいるジェレミーを発見した。
彼の話によると、最初は泣き叫んでいる人物が誰か分からなかったらしい。
そこで側にうずくまっていた女性に尋ねたところ、男の名前がジェレミーだと聞かされて大層驚いたそうだ。
パニックの原因になった理由をミランダから聞かされた彼はジェレミーに自分の剣を手渡したところ、ようやく落ち着きを取り戻したのだが……全てはもう手遅れだった。
いくらパニックになっていたとはいえ、宰相の娘に足の骨折という大怪我を負わせたのだ。しかも剣を取り上げられただけで、恐怖で泣き叫ぶような人物は近衛兵としては致命的な欠点だった。
クラウン家はジェレミーの重要な事実を隠蔽した罰として、国王の命令により廃位されてしまった。
尤も、クラウン家はジェレミーの新事実を知らなかったのだから相当衝撃は大きかっただろう。
何しろ、彼の秘密を知っていたのは私だけだったのだから。
一方の宰相自身も横領罪により、我儘娘と共に国を追放されて幕切れとなった。
今回の醜聞は『恋人たちの汚点事件』と名付けられ、広く世間に知れ渡ることになるのだった……。
そして時は流れ――
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「失礼、もしかするとヴァネッサ・ハニー令嬢ではありませんか?」
「ええ? そうですけど」
国王主催の夜会に参加していた時のこと、ワインを飲んでいるとメガネをかけた見知らぬ青年に声をかけられた。
「ああ、やはりそうでしたか。『恋人たちの汚点事件』でヴァネッサ様の顔写真を拝見したことがあり、まさかとは思ったのですが」
目の前の青年がじっと私を見つめてくる。
「あぁ……あの事件ですか? お恥ずかしいですわ。それにしてもよく私だと分かりましたわね。半年も前のことでしたのに」
「実は図書館で何度かお会いしたことがあるのですが、お分かりになりませんよね?」
青年は恥ずかしそうに頬を染めた。私は少しの間、彼を見つめたが……やはり見覚えはなかった。
「申し訳ございません。覚えがなくて」
「いえ! いいんです。そんなこと気にしないで下さい。大体、図書館には大勢の人が出入りしているじゃありませんか。それに、第一私は平凡な男ですし……」
けれど、私の目には平凡な青年には見えなかった。眼鏡の奥の瞳には知的な光が宿っているように思える。
それに、ジェレミーのように人馴れしていないところも新鮮さを感じる。
少しだけ私は彼に興味を抱いた。
「あの、ところでお名前は何とおっしゃるのですか?」
「あ! これは大変失礼致しました。私は、アレックス・マイヤーと申します。伯爵家の次男で、出版社で働いています。仕事柄図書館に足を運ぶことがありまして、以前からヴァネッサ様を気にかけていました。ただ……ヴァネッサ様には婚約者がいらっしゃいましたから……」
言葉を濁すアレックス氏。
「ええ、そうですね。でも今はおりません。当然御存知でしょうけど」
「勿論知っています。なので、今回思いきって声をかけさせていただいたのですから。……あの、もしよろしければ、向こうあちらの椅子にかけて話をしませんか?」
彼が指さした先にはソファ席があった。
「はい、喜んで」
「良かった、では参りましょう」
「ええ」
私は青年と共に席に向かった。
新しい出会いに、少しのトキメキを感じながら――
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