目覚めれば、自作小説の悪女になっておりました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

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第4章 2 『狭間の世界で痴話喧嘩』

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1

ゆっくり門を開けて、中に入ると目の前はうっそうと茂った森の前だった。
私は2人の方を振り向くと言った。
「この森の側では・・・十分注意して下さい。この森は・・・生きています。そしてこの『狭間の世界』の門番なんです。」

「え?門番・・・?」

「この森が?一体どういう事なのよ。ちゃんと分かるように説明しなさい。」

確かにフレアの言う事は最もだ。

「はい、今から説明します。この森はただの森では無いんです。この世界の住人に聞いたのですが・・・意思を持っているそうです。悲しい、辛い記憶を持って、この世界にやって来た者達は・・記憶を消されてしまうし、時には邪悪な心を持った侵入者が来れば捕まえて、自分たちの森の1つとして取り込んでしまうそうです。この世界では誰かの悲しい感情によって雨が降るそうですが、『森』はこの世界の雨を凄く嫌っているそうなんです。」

「こ、この森が・・・。」

ノア先輩は驚愕の表情を浮かべ、じっと森を見つめている。
そしてフレアは私を意味深な目で見つめていたが、ふいに尋ねて来た。

「ねえ・・・ひょっとするとジェシカ・・・。貴女、ここで記憶を消された?」

「は、はい・・・。その通りです・・。」

「え?何?ジェシカ。君・・・記憶をこの森の力で消された事があるの?一体何故?何か余程辛い事でもあったの?」

ノア先輩が真剣な目で私を見つめて来た。あ・・・ま、まずい・・・。
その時だ。

「う~ん・・・。」

ヴォルフが小さく呻いた。

「もしかして気が付いたのかな?」

ノア先輩がヴォルフを降ろして、木の下に寄りかからせるように座らせると、ヴォルフの瞼が動いてゆっくり目を開けた。

「あ・・・こ、ここは・・・。」

私はヴォルフの目の前に来て座ると言った。

「ここはね、『狭間の世界』だよ。ノア先輩がヴォルフの事を背負って、皆でここまでやっと来れたの。」

「そ、そうか・・・・。あ!お、追手は?!追手の魔族達はどうなったんだ?!」

ヴォルフが辺りを警戒するようにキョロキョロ見渡すとフレアが言った。

「あいつ等なら、大丈夫よ。ヴォルフ・・・貴方が全員倒してくれたから・・・。」

「ありがとう、君は・・・僕達の命の恩人だね。」

ノア先輩が素直にお礼を言っている・・・。

「そうか・・・ジェシカ・・・。やっと魔界から逃げ出す事が・・出来たんだな?これで・・・俺達人間界へ・・行けるんだな?」

ヴォルフの言葉にフレアが反応した。

「何?ヴォルフ。貴方・・・もしかして人間界に行くつもりなの?」

「ああ、そうだ。フレアはどうするんだ?」

「そんな事聞くまでも無いわ。私の隣にはいつもノアがいるんだから。」

「俺だってそうだ、俺の隣には常にジェシカがいないと駄目なんだ。」

言いながらヴォルフはグイッと私の腕を引いて、自分の腕に囲いこんでしまった。
「え?ちょ、ちょっと待ってよ、ヴォルフッ!」
慌てて私が言うと、ヴォルフは悲しそうな顔をして私を見つめた。

「え・・・?お前の側にいたら駄目なのか?だってお前が言ったんだろう?一緒に人間界へ行かないかって・・・。」

「ヴォルフ・・・やはり君までジェシカの魅力に当てられちゃったんだね・・・。」

ノア先輩が神妙な面持ちで言うと、フレアがノア先輩に詰め寄って来た。

「な・・・何よ!ノア!私という者がありながら・・・貴方はまだジェシカに対して思う所があるって言うの?!」

「い、いや・・・僕は別にそんなつもりじゃ・・・。」

慌てて弁明するノア先輩。
・・・何、この状況は・・・。こんな所で痴話喧嘩なんかしてる場合じゃ無いのに・・。

「あ、あの!そろそろお城へ向かいませんか?」

私はまだ揉めているフレアとノア先輩の間に入って口論を止めた。

「ああ・・・。そうだな。所でジェシカ。城の場所は知ってるんだろうな?」

「え?場所・・・・?場所は・・・?」
ど、どうしよう・・・。そう言えばあの時はフェアリーの魔法で一瞬で城へ着いたんだっけ・・・。

「まさか・・・知らないのか?」

ヴォルフが私を覗き込みながら尋ねて来た。

「ちょ・・・ちょっと・・信じられないわ!」

フレアが呆れた声を出す。

「これは・・ちょっと困ったことになりそうだね。」

ノア先輩は神妙な面持ちで言う。
ああ・・・・やはり、私は何処へ行っても役立たずな人間なんだなあ・・。
しかし、その時上空から声が響き渡って来た。

『やあ、ジェシカ。またここに戻って来てくれたんだね。ずっと君の事を待っていたよ。今からその場所と城を繋ぐ門をだしてあげるね。』

そして言葉が終わると、目の前に突然大理石で作られた門が現れた。

「これは・・・相当な魔力がこの門に込められているのを感じるわ・・・。」

フレアがじっと門を見つめながら言った。
え?そんな事が分かるの?!すごい!

「うん、そうだね。並大抵の魔力をもつ人物しかこんな門は作れないよ。」

え?ノア先輩までそんな事が分かるの?
一方のヴォルフは・・・。

「おい、ジェシカ。さっきの声の人物は・・・一体誰なんだ?」

「はい?」

私の両肩を掴んで瞳を覗き込んでくる。
ええ?そ、そこなの?ヴォルフが気になる所は・・・?

「あ、ほ、ほら・ヴォルフ。門が開いたから中へ入ろう?」
気が付いてみると、ノア先輩とフレアはさっさと門をくぐって先を歩いている。

「分かったよ・・・。でも後で絶対さっきの声は誰だったのか教えてくれよ?」

念押ししてくるヴォルフ。・・・・どうせ、すぐに会えるのに。
だけど・・・今の声がこの国の王様のアンジュだと知ったら、ヴォルフはどんな反応をするのだろう・・・?

「ジェシカッ!また再びボクの元へ戻って来てくれたんだね?本当に嬉しいよっ!」

門を抜けると、いきなりそこはお城の大広間で、眼前には眩しいほどの美貌の持ち主のアンジュが両手を広げて待っていた。

「ア・・・アンジュ・・・。随分大袈裟なお出迎え・・・だね・・?」

見ると大広間の左右には何処から集めてきたのだろうか・・・この世界の住人達がズラリと勢揃いしている。その時、私の目にふとある生物が目に飛び込んできた。
炎に包まれたオオトカゲ・・・。あれ・・あそこにいるのは以前クロエが召喚したことのあるサラマンダーじゃ無いの?!
 あ!あれはペガサスに・・・隣にはユニコーンまでいるよ・・・。
他の3人もあまりの光景に驚いて唖然とした表情をしている。
でもまさか・・・魔族であるフレアやヴォルフまでがあんな、呆気に取られた顔を見せるなんて。・・・・。

「どうしちゃたの?ジェシカ。そんなにキョロキョロしちゃってさ。」

気付けばアンジュが私の肩を抱いて、至近距離で見つめていた。

「あ、あの。余りにも大勢集まっているから、びっくりしちゃって・・・。」

その時、私の頭上で威圧的な声が聞こえた。

「おい、誰だ?お前・・・。ジェシカから離れろ。」
見上げるとヴォルフが金色の目を光らせて、今にも牙をむきそうな勢いでアンジュを睨み付けている。
ヒエエエッ!この国の王様に・・・何て目を向けるの・・・!

「ふ~ん・・・。君は・・・魔族の男か・・・。別にボクは君をここへ招くつもりじゃなかったんだけどな・・・・。でもジェシカの仲間なら追い出すなんて出来ないしね。」

言いながらアンジュはわざとこれ見よがしに私の前髪をかきあげ、キスをしてきた。

「な!」

途端に殺気を放つヴォルフ。ノア先輩とフレアはあきれ顔でこちらを見ている。

「うん?何か文句でもあるの?」

一方のアンジュは腕組みをして、何やらニコニコとしている。

「ま、待ってよ!落ち着いてってば!彼・・・アンジュは・・仮にも、この世界の王様なんだからっ!」

私は今にもアンジュに攻撃を与えそうなヴォルフに必死で訴えた。

「「「「え・・・?王様・・・?」」」

次の瞬間、ヴォルフ、フレア、ノア先輩の声が一斉にハモるのだった―。



2

アンジュは笑みを浮かべたまま、唖然としているヴォルフ、ノア先輩、フレアを順番に見渡すと、最期に視線を私に移した。

「ジェシカ・・・。」

アンジュが妙に色気のある顔と声で私の名前を呼ぶ。だけど・・・アンジュからはいつも『ハルカ』と呼ばれていたから、違和感この上ない。

「な、何?アンジュ・・・。」
ああ・・嫌な予感がする、果てしなく嫌な予感が・・・。

「嬉しいよ、ジェシカ。やっぱりボクと結婚する為にこの『狭間の世界』へ戻って来てくれたんだね。」

言いながら私を強く抱きしめて来た。あああっ!やっぱり!こうなるような予感がしていた。恐らくアンジュはヴォルフをからかいたくてこんな真似をしたに決まっている。だって、その証拠に背後から何やら恐ろし殺気がするもの。これは絶対にヴォルフに間違いない。
「や、やだ!離してよ、アンジュッ!からかうのはやめて!」
必死で振りほどこうともがくも、アンジュの力が強すぎて振りほどけない。
うう・・・あれ程可憐な美少女?だったアンジュが今ではすっかり男の人になっている・・・。

「お・・・おい!いい加減にジェシカを放せっ!嫌がっているだろう?!」

ヴォルフが・・・アンジュの肩に手を置いたのだろう。しかし次の瞬間・・・

「うわぁあっ!」
いきなりヴォルフは目に見えない力で吹き飛ばされ、壁に激しく叩きつけられる。
激しく崩れ落ち壁にヴォルフの身体は瓦礫にうまる。

「ヴォ、ヴォルフッ!」

フレアが悲鳴交じりで名前を呼ぶ。

「い・・・痛えなあ・・・・。貴様・・・この俺に何しやがるんだ・・?」

ヴォルフは瓦礫の中から音を立てて立ち上がると、アンジュ目掛けて突進し・・・・
そこで周囲にいた精霊達に取り押さえられた。

「魔族め!勝手にこの国で暴れる事は許さんぞ!」

あら・・・あのお髭を生やした小さなお爺さんは・・・ノームかしら・・?等と言ってる場合では無い!

「ヴォ、ヴォルフ・・・。お願い、ここは『狭間の世界』、魔界では無いの。だから・・・今は大人しくしてもらえる・・・?多分、アンジュが魔界からこの世界に立ち寄るように私に言ったのは、何か重要な話があるからだと思うの。だから・・・。」

わたしは取り押さえられているヴォルフに言うと、彼は悔しそうな表情を一瞬浮かべ・・・フイと私から視線を逸らせると言った。

「・・・ジェシカがそいう言うなら・・・分かったよ。それに・・・そいつの力・・・恐ろしく強い。俺なんかが叶う相手じゃないしな。」

「そうだよ、君は良く分かってるじゃ無いか。聞き分けが良いのはいい事だよ?」

アンジュは未だに私を腕に囲いこんだまま、離さない。
一方のノア先輩とフレアは口を出せずに、私達の様子を黙って見つめていた。

「・・・ねえ。アンジュ。もういい加減・・・放してくれない?」
アンジュを見上げ、愛想笑いをしながら私は言った。さっきからヴォルフの刺すような視線が痛くて堪らない。

「う~ん・・・。まああの男の視線もおっかないしね・・・。いいよ、離してあげる。」

アンジュが私からパッと手を離すと、途端にヴォルフが自分を取り押さえている精霊達の腕を振り切り、駆け寄って来た。

「ジェシカッ!」

そして私をグイッと引き寄せるとアンジュに言った。

「ジェシカに勝手に触るな。」

「へえ~。君にはそんな事言う権利あるの?」

アンジュは面白そうに言う。

「・・・・。」

ヴォルフは悔しそうに唇を噛んで俯いてしまった。
もう、このままでは埒が明かない。
私はヴォルフの方に顔を向けると言った。

「ねえ、聞いて。ヴォルフ。彼・・・アンジュはね、この国の女性と結婚する事が決まってるのよ?名前はカトレアと言って、とても素敵な女性なんだから。」

「え・・・そうなのか?」

ヴォルフの険しい顔が少しだけ緩んだ。

「そうなの、だから・・・アンジュの言ってた事は真に受けちゃ駄目なんだからね?ただ、からかわれたのよ。この国の王様・・・アンジュにね。」

「あ~あ・・・。もう本当の事話してしまうのか・・・。残念だったな、もう少し彼をからかって見たかったのに・・・。」

アンジュがつまらなそうに言う。

「アンジュもヴォルフをからかうような真似はしないで。」
私はアンジュを少しだけ睨み付けながら言った。

「まさか、ヴォルフがあそこまでジェシカに熱を上げていたとはね・・・。」

「うん、僕も驚きだよ。」

何やらフレアとノア先輩が・・・ヒソヒソ話し声が聞こえて来るが・・・うん、何も聞こえなかった事にしよう!


 私達は今、城の大広間から応接室へと場所を変えていた。
アンジュの隣には何故か私が座らされ、向かい側にはイライラした様子のヴォルフ、そして左右両隣にはそれぞれフレアとノア先輩が座っている。

「実はね・・・ジェシカに魔法をかけていたんだ。」

アンジュが何故か私の手を握りながら話してくる。

「魔法・・・?」

「そう、ジェシカの身に本当に危険が迫った時は僕がかけた魔法が発動するようにね。」

「え・・・?」

私はその言葉を聞いて、思い当たる節があった。そう言えば・・・あの青く光る洞窟で、魔物に襲われそうになった時・・・あれは・・アンジュの力によるものだったの・・?

「その顔・・・何か心当たりありそうだね?」

アンジュが私の顔を覗き込むように言った。

「う、うん・・・。ある・・・。あるけど・・・で、でもアンジュ。私、それ以前にも危険な目に遭いそうになったけど?」

「でも・・その時も結局は無事だったんだよね?」

「う、うん。あの時は・・・ヴォルフが助けに来てくれたから・・・。」

「そう、ジェシカの背後には彼がついていた。君を守るためにね。」

アンジュはヴォルフを見て言った。

「ああ、あの時は・・・フレアに頼まれていたからな。」

ヴォルフは頭を掻きながらフレアを見たが、フレアはフンとそっぽを向いてしまった。

「ふ~ん・・・。そうなんだ、でも今日僕達はこの『狭間の世界』へ来る前に何度も危険な目に遭って来たけど・・・ジェシカにかけたという魔法は発動した形跡は無かったけど?」

ノア先輩が白けた目でアンジュを見る。
先輩・・・・お願いですから、この国の王様にそんな態度を取らないで下さい・・・。

「そうだね、でもそれも多分、ジェシカの命は守られるだろうと判断したから魔法は発動しなかったんだよ。ジェシカにかけた魔法はね・・彼女が本当の命の危機にさらされた時に、僕に直接危険を知らせる魔法が発動するんだ。そしてボクが彼女の命を狙う者を魔法で倒すんだ。」

「そう・・・だったんだ・・・。」
てっきりマシューのかけてくれた魔法のお陰だと思っていたのだけど・・・違ったんだ・・・。私は少し落胆した気持ちになってしまった。

「どうしたの?ジェシカ。急に暗い顔になっちゃったみたいだけど・・?」

アンジュは私の肩を抱くと言った。

「おい!ジェシカに触るなっ!」

すかさずヴォルフが立ち上って抗議をするが、アンジュは聞く耳を持たない。

「ねえ・・・ジェシカ。君は魔界で一体何をしてきたんだい?」

突然アンジュが意味深な事を言って来た。

「え・・?」
私は顔を上げてアンジュを見ると、その顔は今までにない位真剣な表情になっている。

「ずっと・・・ジェシカの身体から警報が鳴り響いているんだよ・・・。この世界に君が来てからずっとね・・・・。ここには高い戦闘能力を持つ精霊達が沢山住んでるのに・・何もジェシカが危険にさらされるようなことは無いはずなのに・・・どうしてずっと君に・・危険が迫っているの・・・?」

言いながら、アンジュは私を抱きしめて来た—。
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