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第1章 5 告白
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「え・・・?マイケルさんと一緒に・・・ですか?」
「そう。お嬢さんは・・・今行くところが無いんだろう?まあ、今夜の宿は大丈夫みたいだけど・・・学院の寮に戻る事も出来ないし、第一懸賞を掛けられてるくらいだしね。でも幸い普段はこの町は学院と切り離されているから学院関係者の人達は週末以外はこの町にやってくる事も無いし・・・。何か良い対策が考え付くまでは・・俺の家で暮すといいよ。」
確かに、とてもありがたい話ではあるが・・・。
「あ、あの・・・ご迷惑では・・無いですか?」
「迷惑なんて、そんな事無いよ。だって俺には家族もいないし、1人暮らしでお嬢さんが1人増えたって大丈夫な位の広さはあるから。」
「でも・・・。」
いいのかな?そんな風に甘えてしまっても・・・・。だけど・・・。
私は目の前に座っているマイケルさんを見た。この人はジョセフ先生の友人・・・。
信頼のおける人・・・。
「よ、よろしくお願いします・・・。」
「うん。こちらこそよろしく。」
そう言うとマイケルさんは手を差し出してきた。私も手を伸ばし、2人で握手を交わした―。
「それで・・・ジョセフの話なんだけどね・・・。」
マイケルさんはコーヒーのお代わりをすると再び話始めた。
「やっぱりお嬢さんの言った通り・・・あれは一月ほど前だったかな?突然学院長から呼び出されたらしいんだ。個人的にある女子学生と親しくしているだろうと言う理由でね。」
「学院長から・・・。」
「学院長の側には・・『聖女』と呼ばれる女性もいたらしいよ。」
「聖女・・・。」
ソフィーの事だ・・・!
「ジェシカ・リッジウェイと言う女子学生を知ってるかと質問されたらしいけど・・・。」
「ジョセフにはその名前に心当たりが無かったんだ・・・。」
言いにくそうにマイケルさんが言う。
「!」
やっぱり・・・!私が魔界へ行った時なので、私の記憶が消えてしまったんだ・・!
「だから覚えが無いってジョセフは言ったんだけど・・何度も何度も同じ質問をされたそうだった。結局ジョセフには身に覚えが無くて・・・隣にいた女性は相当悔しがっていたらしいよ。」
「私が魔界へ行った後だったので・・・ジョセフ先生の記憶から私の存在が消え失せてしまっていたんですね・・。」
「でも、結局ジョセフはお嬢さんと親しくしていた挙句に、嘘をついているという理由であの学院を解雇されてしまったんだ。そして・・今はあの家も引き払って・・・実家に戻ったよ。・・・家業を継ぐって言ってた・・。」
「そ、そんな・・・。」
ジョセフ先生は家業を嫌っていたのに?亡くなった奥さんとの思い出があるあの家を出て行ってしまっていたなんて・・・。知らず知らずのうちに涙が滲んでくる。
ごめんなさい・・・ジョセフ先生・・・。私の勝手な行動で・・・巻き込んでしまって・・。
「手紙・・・書いてやってよ・・・。」
マイケルさんが声を掛けて来た。
「え?」
「多分・・・この俺がお嬢さんの事を思い出したんだ・・・・。きっとジョセフもお嬢さんの事を思い出していると思うから・・・さ。」
「は、はい・・・!何枚でも・・・何回でも・・・書きますっ!」
「やっぱり・・・君はいい人なんだね。ジョセフが君に惹かれたのも・・・分かる気がするよ。」
マイケルさんは私が泣き止むまで、黙って待っていてくれた―。
「それじゃ、こんな空になったのも・・・あの時からなんですか?」
カフェの窓から空を見上げた私はマイケルさんに向き直った。
「うん、そうなんだ・・・。雨が降る訳でも無しで・・・もうずっと太陽が空から見えなくなって・・・それに月や星までね・・・。こんな事は初めてだよ。だから町中の人達は皆言ってるんだ。『きっと神様を怒らせたに違いない』ってね。」
「神様・・・。」
神様がこの世界に存在するかどうかは私には分からないが、少なくとも小説の中では神の存在には触れなかった。でも・・見当はつく。きっとこれはソフィーのせいだ。ソフィーが聖女の力を持ってもいないのに、自ら聖女を名乗り、あの学院に君臨したから・・・何かが起こったのだ。元の世界に戻すには・・・・ソフィーを聖女の座から引き下ろさなければ。でも・・・それだけでこの状況が治まるのだろうか?他にもこんな異常事態を引き起こした何かが起こっているのかもしれない・・・。兎に角、聖女だ。聖女を探さなければ、恐らく問題は解決しないと言う事だけは、はっきりと分かる。だってこの小説を書いたのは他でもない私なのだから—。
「学院に・・・戻って確かめたい事が色々あるのですが・・・。」
私はスカートをギュッと握りしめながら言った。
「私・・・聖剣士を殺した罪を被せられただけでなく・・『魔界の門』の封印を解いた人間として・・学院中に手配されているんです・・・。戻れば・・掴まってしまうかも・・。」
「う~ん・・・。」
マイケルさんは腕組みをしながら考え込んでいたが・・・やがてじっと私の顔を見つめた。
「うん・・・お嬢さんなら・・・上手に着こなせるかも知れないな・・・。後はその背丈を・・・。」
「マイケルさん?」
「あっ!いけない!」
突然マイケルさんは腕時計を見ると言った。
「悪いね、俺・・・次の仕事が始まる時間になっちゃったから、もう行かないといけないけど・・・。明日朝10時に俺の屋台に来れるかな?」
せかせかと上着を着ながらマイケルさんが言う。
「はい、大丈夫です。」
「じゃ、その時に俺の家を教えるよ。あと・・・家の鍵も渡しておくから。」
言いながらマイケルさんはポケットからキーホルダーがついた鍵をテーブルの上に置いた。
「この鍵、お嬢さんの好きに使っていいから。それはスペアキーだから気にしなくていいからね。それじゃ、また明日。」
マイケルさんは爽やかな笑顔を見せると2人分のコーヒー代だよと言ってお金を置いて帰って行った。
1人になった私はポツリと呟いた。
「私・・・色々不幸な事に巻き込まれているけど・・・人には恵まれている・・・よね?」
コーヒーショップを出た私はデヴィットが手配してくれた宿屋へと戻り・・・
「!」
思わず声を上げそうになった。そこにはソファに座り、不機嫌そうにしているデヴィットの姿があったからだ・・・。
「お帰り。・・・随分・・遅かったな。」
「す、すみません・・・。色々お話してたので・・・。ご心配おかけしました・・・。」
な、何だろう・・・。デヴィット・・すごく怒ってるみたいだ・・・。
「さっき、何で俺を見てそんなに驚いた顔を見せたんだ?」
ソファから立ち上がりながらデヴィットは私に近付いてくる。
「あ、あの・・・てっきり自分のとられたお部屋にいるとばかり思っていた・・ので・・。」
デヴィットの気迫に押され、じりじりと壁際に追い詰められる私。でも・・・何故?何故彼はこんなにも不機嫌そうにしているのだろうか・・・?
「あ・・・・!」
とうとうデヴィットに壁際に追い詰められてしまった。
「ハルカ・・・。」
デヴィットは逃がさないとばかりに壁に両手をついて私を囲い込んでしまった。
至近距離で私を見下ろすデヴィットの色素の抜けた灰色の瞳・・・。そこには怯えた顔の私が映りこんでいる。
「・・・俺が怖いか?」
唐突にデヴィットが口を開いた。
「こ、怖いと言うか・・・。」
分からない、何故・・彼はここまで怒っているのだろうか?私の何がいけなかったのだろうか?
言いかけると、一段と私に顔を寄せて来るデヴイット。
「随分・・・俺に怯えているように見えるが・・・何か俺に対してやましい事があるから・・・そんな態度を取るのか?それとも・・・。」
囁くように語りかけていたデヴィットが・・・悲しそうに顔を歪めた。
「え・・・?」
突然の出来事に私は戸惑ってしまった。い、一体急にどうしたと言うのだろう・・?
「お前も・・・俺の容姿が・・怖いと思っているのか?」
その瞳は・・・今にも泣きそうになっている。
「!」
・・・同じだ。デヴィットは・・・公爵と同じなんだ。公爵の場合は自分の黒髪にオッドアイの瞳の自分は周囲から恐れられていると感じていた。そして目の前のデヴィットは・・・色素の抜けたような瞳、そして白髪・・それを公爵と同じ思いで・・・生きて来たんだ。
黒と白・・・2人はなんて対照的な存在なのだろう・・・。
彼等は絶えず周囲から恐れられたり怖がられたりしてきたのかもしれないが・・・私は違う。
「私は、デヴィットさんの髪の色も・・瞳の色だって怖いと思った事は無いですよ。それだけは・・・信じて下さい。」
そう言って安心させるために微笑んだ―。
2
「本当に・・・この俺が・・お前は怖くない・・・のか・・?」
念を押す様に私に尋ねて来るデヴィット。
「はい、何度でも言います。私は貴方の姿を怖いと思いません。」
「そうか・・・悪かったな・・・。」
デヴィットは溜息をつくと、私から離れて行き、部屋から出て行こうとした。
「あの、デヴィットさん。」
その姿が余りにも痛々しく見えた私はつい彼に声を掛けてしまった。
「何だ・・?」
「・・・何かあったんですか?」
「いや、別に何も無い。」
「だけど・・・。」
「煩いぞ、お前は・・・。俺にしつこくするな。構わないでくれ。」
言いながら伸ばしかけた私の手を振り払うデヴィット。
チャリーン!
その時はずみでマイケルさんから預かった家の鍵が床の上に落ちてしまった。
慌ててそのカギを拾いあげる。
「鍵・・・。」
デヴィットが呆然とした表情で呟いた。
「・・・・。」
何だろう、彼の顔を見ていると・・何故か分からないが酷く自分が・・悪い事をしているような気分になってくる。
「おい、ハルカ。お前、それ・・・家の鍵・・・だよな?お前の家の・・・鍵なのか?」
「・・・・。」
どうしよう・・・。答えにくい・・。つい押し黙ってしまった。
「・・・っ!」
デヴィットはクシャリと顔を歪めると、そのまま自分の部屋へ入り、ドアを乱暴に閉めてしまった。
「デヴィットさん?!」
ドアをノックしても返事が無い。
「・・・。」
駄目だ。完全に彼を怒らせてしまったらしい・・・。
溜息をつくと私は彼が用意してくれた部屋へと戻る事にした。
ベッドに寝そべり、天井を見つめる。デヴィットの事も気がかりだが、今はまず他に考えなければならないことが沢山ある。
学院に戻って色々情報を収集したいけど・・・こんな簡単な変装では勘が鋭い人間には一発で見抜かれてしまいそうだ。幸いデヴィットには気付かれてはいないようだけども・・・。それに、誰が信頼できる?誰になら・・・全てを打ち明ける事が出来るのだろう・・・。ソフィーの事を知り尽くし、絶対に暗示にもかからない様な誰か・・・。そこで私はある人物が頭の中に浮かび、ベッドから起き上がった。
「アメリア・・・・。」
そう、アメリアだ。彼女はソフィーとどういう言関係があるのだろうか?あの二人の間には・・少なくとも私の目から見ると、主従関係が出来上がっていた。アメリアはソフィーと言う人物の事を知り尽くしている。それに第一・・・当初は私にメモを渡してアドバイスをくれたり、夢の中にまで出て来てくれた事だってあるのだ。
「アメリアを訪ねてみよう・・・。」
その時・・・グウウ~ッ・・・私のお腹が派手に鳴る。あ・・お腹減ったな・・・。
そう言えば、今手持ちのお金いくらあるんだっけ・・・。
私が今持っているお金は自分の髪の毛を売ったお金位しか無い。果たして幾らだったのだろうか・・・。
若干震える手で、布で包まれて渡されたお金の袋を恐る恐る手に取った―。
「デヴィットさん・・・いらっしゃいますか?」
ドアをノックしながら私はデヴィットの返事を待つが・・一向に彼からは何の音沙汰も無い。
「私・・・今から下の食堂で食事を取りに行くのですが・・・よろしければ御一緒しませんか?」
「・・・。」
それでも返事が無い。
「分かりました。私は下で食事を取ってきますので、もし気が変わったらいらして下さいね。」
もうこれで来なければ仕方が無いか・・・。溜息をつくと私は階下に降りて行った。
「う・・嘘・・信じられない位に美味しい・・・。」
ずっと魔界で味気ない食事ばかりとっていた為だろうか・・・この宿屋の食事がとても美味しく感じる!いや・・・実際に美味しいのだろうけども・・・。
私は熱々のトマトソースがかかったチキンを切り分け口に運んでゆっくり料理を堪能していると・・・不意に目の前が暗くなった。
「?」
何だろう・・・?顔を上に上げて私は背筋が寒くなった。
そこには私を囲むように酒に酔った、ガラの悪そうな男3人がいつの間にか集まっていた。そして私は彼等に取り囲まれていたのである。
「よお、ベッピンさん・・・。こんなさびれた宿屋で1人寂しくお食事かい?」
「随分美味しそうに食べていたよなあ・・・・。良かったら俺達と一緒に食べようぜ。」
「へえ・・・この女・・・上玉じゃ無いか・・・。」
最期の1人は舌なめずりしながら私を見ている。
・・・しまった・・。この辺りって・・・あまり治安が良く無かったんだ・・・。
誰か助けてくれそうな人はいないだろうか・・・?辺りをキョロキョロ見渡しても誰もがサッと視線を逸らして助けてくれそうにない。
そ、そんな・・・。
「どれ、邪魔するぜ。」
男達は私が何も返事をする前から勝手に椅子を引いてテーブルに着いてしまった。
「おい!店主!このテーブルに早くボトルで酒を持って来い!」
だみ声で1人の男が大声を上げて店主を呼びつける。
「は、はい!」
すっかり怯え切った店主は私を助けるどころか、ボトルを何本も持って来ると、テーブルの上に置き、逃げるように去って行ってしまった。
ひ、酷い・・・助けてくれないなんて・・・・。
思わず涙目になる。
「おお~いいねえ。その視線、色っぽいじゃ無いかよ・・・。」
言いながら1人の男が私の肩に腕を回そうとして・・・
「ギャアアアアッ!」
突然悲鳴を上げた。え?悲鳴?驚いて見上げると、そこには冷たい視線で男を見下ろしメラメラと燃える炎をを男の腕に押し付けているデヴィットの姿がそこにあった。
「グアアアアッ!」
たまらず椅子から転げ落ちる男を黙って見ているデヴィットに2人の男が飛び掛かっていく。
「てめえっ!」
「よくも仲間をっ!」
しかし、デヴィットはそれを軽々と避けると、突然ナイフでも持っていたのだろうか。彼等の腕にナイフを突き刺していく。
途端に悲鳴を上げて2人の男は床の上にうずくまってしまった。
「・・・・。」
デヴィットは彼等をまるで汚い虫けらのような目で見ると、店主に向かって言った。
「オイ!この辺りの治安警察を呼んでおけ!・・・ついでに医者もな。」
そして私の方を見ると、突然腕を掴んで立たせると無言で歩き始めた。
「デ・デヴィットさん・・・。」
腕を掴まれたまま私は引きずられるように2階へ連れて行かれる。
「・・・。」
デヴィットは一言も口を聞かずに自分が宿泊している部屋のドアを開けると、乱暴に私を部屋の中へと引っ張り込む。
「キャッ!」
デヴィットはどさりとソファに座り込むと目をつむり、額を押さえて天井を見上げて呟いた。
「どうして・・・。」
「え?」
「どうして・・・お前はそう隙だらけなんだ?そんなだから色んな男につけこまれるんじゃないのか?」
何故か詰るように私に言う。
「隙だらけ・・・。」
そんな風に見えるのだろうか?私は・・・私にはそんなつもりは全く無いのに・・。きっとこれは・・私が持つ『魅了』の魔力のせいだ。ソフィーが喉から手が出る程に欲している私の魔力・・・。
「ごめんなさい・・・。」
何故か口から謝罪の言葉が出て来てしまった。
あ・・駄目だ・・・何だか目頭が熱くなってきてしまう。
「・・・何で謝るんだ?それとも・・自覚があって・・誘惑でもしていたか?」
デヴィットは青ざめた顔で私を見つめながら言った。
「そ、そんなつもりは・・・!」
「あの男の家に住むのも・・・住む場所が無くて困って、どうせ・・誘惑でもしたんだろう?これだから女って奴は・・・。」
何だろう?まるでデヴィットの言い方は・・・女性を軽視した言い方だ。ひょっとして私を誰かと重ねて見ている・・・?
だけど・・・!
「・・・分かりました。」
感情を押し殺して私は言った。
「え・・・?」
デヴィットは私の顔を見た。
「私はマイケルさんを誘惑などしていませんし、先程の男達だって誘惑していません。ただ一人で食事を楽しんでいただけです。デヴィットさんに何度も声をかけたのに・・・出て来てくれなかったじゃ無いですか・・・。でも・・あそこで私・・わざとゆっくり食事しながら・・・貴方を待っていたんですよ?そうしたら、勝手にあの男達がやってきて・・・。」
「・・・・。」
デヴィットは黙って話を聞いている。
「そ、それに・・・住むところだって・・マイケルさんは本当に行き場を無くして困っていた私を・・・見るに見かねて、住まわせてくれるって申し出てくれたんですよ?でも・・それでも・・デヴィットさんは私が男を誘惑してるって疑うなら・・・鍵だって返します。お世話になるのもやめます。それで・・・私を信頼してくれるなら・・・。」
私は俯いて両手をギュッと握りしめた。
「い、いや・・・別に俺はそこまでの事は・・・。」
流石にバツが悪くなったのか、デヴィットの声のトーンが変わった。
「だ、大体・・・あれは嘘だったんだろう?『セント・レイズ学院』に入学希望をしていたから見学に来ていたって・・・。な、何でそんな嘘を俺についたんだよ。」
「それは・・・私が・・ジェシカ・リッジウェイだからですっ!」
「な・・何だって?!」
途端に驚愕の顔に包まれるデヴィット。
ああ・・・ついに私は白状してしまった。もう・・・これで私も終わりだ—。
「え・・・?マイケルさんと一緒に・・・ですか?」
「そう。お嬢さんは・・・今行くところが無いんだろう?まあ、今夜の宿は大丈夫みたいだけど・・・学院の寮に戻る事も出来ないし、第一懸賞を掛けられてるくらいだしね。でも幸い普段はこの町は学院と切り離されているから学院関係者の人達は週末以外はこの町にやってくる事も無いし・・・。何か良い対策が考え付くまでは・・俺の家で暮すといいよ。」
確かに、とてもありがたい話ではあるが・・・。
「あ、あの・・・ご迷惑では・・無いですか?」
「迷惑なんて、そんな事無いよ。だって俺には家族もいないし、1人暮らしでお嬢さんが1人増えたって大丈夫な位の広さはあるから。」
「でも・・・。」
いいのかな?そんな風に甘えてしまっても・・・・。だけど・・・。
私は目の前に座っているマイケルさんを見た。この人はジョセフ先生の友人・・・。
信頼のおける人・・・。
「よ、よろしくお願いします・・・。」
「うん。こちらこそよろしく。」
そう言うとマイケルさんは手を差し出してきた。私も手を伸ばし、2人で握手を交わした―。
「それで・・・ジョセフの話なんだけどね・・・。」
マイケルさんはコーヒーのお代わりをすると再び話始めた。
「やっぱりお嬢さんの言った通り・・・あれは一月ほど前だったかな?突然学院長から呼び出されたらしいんだ。個人的にある女子学生と親しくしているだろうと言う理由でね。」
「学院長から・・・。」
「学院長の側には・・『聖女』と呼ばれる女性もいたらしいよ。」
「聖女・・・。」
ソフィーの事だ・・・!
「ジェシカ・リッジウェイと言う女子学生を知ってるかと質問されたらしいけど・・・。」
「ジョセフにはその名前に心当たりが無かったんだ・・・。」
言いにくそうにマイケルさんが言う。
「!」
やっぱり・・・!私が魔界へ行った時なので、私の記憶が消えてしまったんだ・・!
「だから覚えが無いってジョセフは言ったんだけど・・何度も何度も同じ質問をされたそうだった。結局ジョセフには身に覚えが無くて・・・隣にいた女性は相当悔しがっていたらしいよ。」
「私が魔界へ行った後だったので・・・ジョセフ先生の記憶から私の存在が消え失せてしまっていたんですね・・。」
「でも、結局ジョセフはお嬢さんと親しくしていた挙句に、嘘をついているという理由であの学院を解雇されてしまったんだ。そして・・今はあの家も引き払って・・・実家に戻ったよ。・・・家業を継ぐって言ってた・・。」
「そ、そんな・・・。」
ジョセフ先生は家業を嫌っていたのに?亡くなった奥さんとの思い出があるあの家を出て行ってしまっていたなんて・・・。知らず知らずのうちに涙が滲んでくる。
ごめんなさい・・・ジョセフ先生・・・。私の勝手な行動で・・・巻き込んでしまって・・。
「手紙・・・書いてやってよ・・・。」
マイケルさんが声を掛けて来た。
「え?」
「多分・・・この俺がお嬢さんの事を思い出したんだ・・・・。きっとジョセフもお嬢さんの事を思い出していると思うから・・・さ。」
「は、はい・・・!何枚でも・・・何回でも・・・書きますっ!」
「やっぱり・・・君はいい人なんだね。ジョセフが君に惹かれたのも・・・分かる気がするよ。」
マイケルさんは私が泣き止むまで、黙って待っていてくれた―。
「それじゃ、こんな空になったのも・・・あの時からなんですか?」
カフェの窓から空を見上げた私はマイケルさんに向き直った。
「うん、そうなんだ・・・。雨が降る訳でも無しで・・・もうずっと太陽が空から見えなくなって・・・それに月や星までね・・・。こんな事は初めてだよ。だから町中の人達は皆言ってるんだ。『きっと神様を怒らせたに違いない』ってね。」
「神様・・・。」
神様がこの世界に存在するかどうかは私には分からないが、少なくとも小説の中では神の存在には触れなかった。でも・・見当はつく。きっとこれはソフィーのせいだ。ソフィーが聖女の力を持ってもいないのに、自ら聖女を名乗り、あの学院に君臨したから・・・何かが起こったのだ。元の世界に戻すには・・・・ソフィーを聖女の座から引き下ろさなければ。でも・・・それだけでこの状況が治まるのだろうか?他にもこんな異常事態を引き起こした何かが起こっているのかもしれない・・・。兎に角、聖女だ。聖女を探さなければ、恐らく問題は解決しないと言う事だけは、はっきりと分かる。だってこの小説を書いたのは他でもない私なのだから—。
「学院に・・・戻って確かめたい事が色々あるのですが・・・。」
私はスカートをギュッと握りしめながら言った。
「私・・・聖剣士を殺した罪を被せられただけでなく・・『魔界の門』の封印を解いた人間として・・学院中に手配されているんです・・・。戻れば・・掴まってしまうかも・・。」
「う~ん・・・。」
マイケルさんは腕組みをしながら考え込んでいたが・・・やがてじっと私の顔を見つめた。
「うん・・・お嬢さんなら・・・上手に着こなせるかも知れないな・・・。後はその背丈を・・・。」
「マイケルさん?」
「あっ!いけない!」
突然マイケルさんは腕時計を見ると言った。
「悪いね、俺・・・次の仕事が始まる時間になっちゃったから、もう行かないといけないけど・・・。明日朝10時に俺の屋台に来れるかな?」
せかせかと上着を着ながらマイケルさんが言う。
「はい、大丈夫です。」
「じゃ、その時に俺の家を教えるよ。あと・・・家の鍵も渡しておくから。」
言いながらマイケルさんはポケットからキーホルダーがついた鍵をテーブルの上に置いた。
「この鍵、お嬢さんの好きに使っていいから。それはスペアキーだから気にしなくていいからね。それじゃ、また明日。」
マイケルさんは爽やかな笑顔を見せると2人分のコーヒー代だよと言ってお金を置いて帰って行った。
1人になった私はポツリと呟いた。
「私・・・色々不幸な事に巻き込まれているけど・・・人には恵まれている・・・よね?」
コーヒーショップを出た私はデヴィットが手配してくれた宿屋へと戻り・・・
「!」
思わず声を上げそうになった。そこにはソファに座り、不機嫌そうにしているデヴィットの姿があったからだ・・・。
「お帰り。・・・随分・・遅かったな。」
「す、すみません・・・。色々お話してたので・・・。ご心配おかけしました・・・。」
な、何だろう・・・。デヴィット・・すごく怒ってるみたいだ・・・。
「さっき、何で俺を見てそんなに驚いた顔を見せたんだ?」
ソファから立ち上がりながらデヴィットは私に近付いてくる。
「あ、あの・・・てっきり自分のとられたお部屋にいるとばかり思っていた・・ので・・。」
デヴィットの気迫に押され、じりじりと壁際に追い詰められる私。でも・・・何故?何故彼はこんなにも不機嫌そうにしているのだろうか・・・?
「あ・・・・!」
とうとうデヴィットに壁際に追い詰められてしまった。
「ハルカ・・・。」
デヴィットは逃がさないとばかりに壁に両手をついて私を囲い込んでしまった。
至近距離で私を見下ろすデヴィットの色素の抜けた灰色の瞳・・・。そこには怯えた顔の私が映りこんでいる。
「・・・俺が怖いか?」
唐突にデヴィットが口を開いた。
「こ、怖いと言うか・・・。」
分からない、何故・・彼はここまで怒っているのだろうか?私の何がいけなかったのだろうか?
言いかけると、一段と私に顔を寄せて来るデヴイット。
「随分・・・俺に怯えているように見えるが・・・何か俺に対してやましい事があるから・・・そんな態度を取るのか?それとも・・・。」
囁くように語りかけていたデヴィットが・・・悲しそうに顔を歪めた。
「え・・・?」
突然の出来事に私は戸惑ってしまった。い、一体急にどうしたと言うのだろう・・?
「お前も・・・俺の容姿が・・怖いと思っているのか?」
その瞳は・・・今にも泣きそうになっている。
「!」
・・・同じだ。デヴィットは・・・公爵と同じなんだ。公爵の場合は自分の黒髪にオッドアイの瞳の自分は周囲から恐れられていると感じていた。そして目の前のデヴィットは・・・色素の抜けたような瞳、そして白髪・・それを公爵と同じ思いで・・・生きて来たんだ。
黒と白・・・2人はなんて対照的な存在なのだろう・・・。
彼等は絶えず周囲から恐れられたり怖がられたりしてきたのかもしれないが・・・私は違う。
「私は、デヴィットさんの髪の色も・・瞳の色だって怖いと思った事は無いですよ。それだけは・・・信じて下さい。」
そう言って安心させるために微笑んだ―。
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「本当に・・・この俺が・・お前は怖くない・・・のか・・?」
念を押す様に私に尋ねて来るデヴィット。
「はい、何度でも言います。私は貴方の姿を怖いと思いません。」
「そうか・・・悪かったな・・・。」
デヴィットは溜息をつくと、私から離れて行き、部屋から出て行こうとした。
「あの、デヴィットさん。」
その姿が余りにも痛々しく見えた私はつい彼に声を掛けてしまった。
「何だ・・?」
「・・・何かあったんですか?」
「いや、別に何も無い。」
「だけど・・・。」
「煩いぞ、お前は・・・。俺にしつこくするな。構わないでくれ。」
言いながら伸ばしかけた私の手を振り払うデヴィット。
チャリーン!
その時はずみでマイケルさんから預かった家の鍵が床の上に落ちてしまった。
慌ててそのカギを拾いあげる。
「鍵・・・。」
デヴィットが呆然とした表情で呟いた。
「・・・・。」
何だろう、彼の顔を見ていると・・何故か分からないが酷く自分が・・悪い事をしているような気分になってくる。
「おい、ハルカ。お前、それ・・・家の鍵・・・だよな?お前の家の・・・鍵なのか?」
「・・・・。」
どうしよう・・・。答えにくい・・。つい押し黙ってしまった。
「・・・っ!」
デヴィットはクシャリと顔を歪めると、そのまま自分の部屋へ入り、ドアを乱暴に閉めてしまった。
「デヴィットさん?!」
ドアをノックしても返事が無い。
「・・・。」
駄目だ。完全に彼を怒らせてしまったらしい・・・。
溜息をつくと私は彼が用意してくれた部屋へと戻る事にした。
ベッドに寝そべり、天井を見つめる。デヴィットの事も気がかりだが、今はまず他に考えなければならないことが沢山ある。
学院に戻って色々情報を収集したいけど・・・こんな簡単な変装では勘が鋭い人間には一発で見抜かれてしまいそうだ。幸いデヴィットには気付かれてはいないようだけども・・・。それに、誰が信頼できる?誰になら・・・全てを打ち明ける事が出来るのだろう・・・。ソフィーの事を知り尽くし、絶対に暗示にもかからない様な誰か・・・。そこで私はある人物が頭の中に浮かび、ベッドから起き上がった。
「アメリア・・・・。」
そう、アメリアだ。彼女はソフィーとどういう言関係があるのだろうか?あの二人の間には・・少なくとも私の目から見ると、主従関係が出来上がっていた。アメリアはソフィーと言う人物の事を知り尽くしている。それに第一・・・当初は私にメモを渡してアドバイスをくれたり、夢の中にまで出て来てくれた事だってあるのだ。
「アメリアを訪ねてみよう・・・。」
その時・・・グウウ~ッ・・・私のお腹が派手に鳴る。あ・・お腹減ったな・・・。
そう言えば、今手持ちのお金いくらあるんだっけ・・・。
私が今持っているお金は自分の髪の毛を売ったお金位しか無い。果たして幾らだったのだろうか・・・。
若干震える手で、布で包まれて渡されたお金の袋を恐る恐る手に取った―。
「デヴィットさん・・・いらっしゃいますか?」
ドアをノックしながら私はデヴィットの返事を待つが・・一向に彼からは何の音沙汰も無い。
「私・・・今から下の食堂で食事を取りに行くのですが・・・よろしければ御一緒しませんか?」
「・・・。」
それでも返事が無い。
「分かりました。私は下で食事を取ってきますので、もし気が変わったらいらして下さいね。」
もうこれで来なければ仕方が無いか・・・。溜息をつくと私は階下に降りて行った。
「う・・嘘・・信じられない位に美味しい・・・。」
ずっと魔界で味気ない食事ばかりとっていた為だろうか・・・この宿屋の食事がとても美味しく感じる!いや・・・実際に美味しいのだろうけども・・・。
私は熱々のトマトソースがかかったチキンを切り分け口に運んでゆっくり料理を堪能していると・・・不意に目の前が暗くなった。
「?」
何だろう・・・?顔を上に上げて私は背筋が寒くなった。
そこには私を囲むように酒に酔った、ガラの悪そうな男3人がいつの間にか集まっていた。そして私は彼等に取り囲まれていたのである。
「よお、ベッピンさん・・・。こんなさびれた宿屋で1人寂しくお食事かい?」
「随分美味しそうに食べていたよなあ・・・・。良かったら俺達と一緒に食べようぜ。」
「へえ・・・この女・・・上玉じゃ無いか・・・。」
最期の1人は舌なめずりしながら私を見ている。
・・・しまった・・。この辺りって・・・あまり治安が良く無かったんだ・・・。
誰か助けてくれそうな人はいないだろうか・・・?辺りをキョロキョロ見渡しても誰もがサッと視線を逸らして助けてくれそうにない。
そ、そんな・・・。
「どれ、邪魔するぜ。」
男達は私が何も返事をする前から勝手に椅子を引いてテーブルに着いてしまった。
「おい!店主!このテーブルに早くボトルで酒を持って来い!」
だみ声で1人の男が大声を上げて店主を呼びつける。
「は、はい!」
すっかり怯え切った店主は私を助けるどころか、ボトルを何本も持って来ると、テーブルの上に置き、逃げるように去って行ってしまった。
ひ、酷い・・・助けてくれないなんて・・・・。
思わず涙目になる。
「おお~いいねえ。その視線、色っぽいじゃ無いかよ・・・。」
言いながら1人の男が私の肩に腕を回そうとして・・・
「ギャアアアアッ!」
突然悲鳴を上げた。え?悲鳴?驚いて見上げると、そこには冷たい視線で男を見下ろしメラメラと燃える炎をを男の腕に押し付けているデヴィットの姿がそこにあった。
「グアアアアッ!」
たまらず椅子から転げ落ちる男を黙って見ているデヴィットに2人の男が飛び掛かっていく。
「てめえっ!」
「よくも仲間をっ!」
しかし、デヴィットはそれを軽々と避けると、突然ナイフでも持っていたのだろうか。彼等の腕にナイフを突き刺していく。
途端に悲鳴を上げて2人の男は床の上にうずくまってしまった。
「・・・・。」
デヴィットは彼等をまるで汚い虫けらのような目で見ると、店主に向かって言った。
「オイ!この辺りの治安警察を呼んでおけ!・・・ついでに医者もな。」
そして私の方を見ると、突然腕を掴んで立たせると無言で歩き始めた。
「デ・デヴィットさん・・・。」
腕を掴まれたまま私は引きずられるように2階へ連れて行かれる。
「・・・。」
デヴィットは一言も口を聞かずに自分が宿泊している部屋のドアを開けると、乱暴に私を部屋の中へと引っ張り込む。
「キャッ!」
デヴィットはどさりとソファに座り込むと目をつむり、額を押さえて天井を見上げて呟いた。
「どうして・・・。」
「え?」
「どうして・・・お前はそう隙だらけなんだ?そんなだから色んな男につけこまれるんじゃないのか?」
何故か詰るように私に言う。
「隙だらけ・・・。」
そんな風に見えるのだろうか?私は・・・私にはそんなつもりは全く無いのに・・。きっとこれは・・私が持つ『魅了』の魔力のせいだ。ソフィーが喉から手が出る程に欲している私の魔力・・・。
「ごめんなさい・・・。」
何故か口から謝罪の言葉が出て来てしまった。
あ・・駄目だ・・・何だか目頭が熱くなってきてしまう。
「・・・何で謝るんだ?それとも・・自覚があって・・誘惑でもしていたか?」
デヴィットは青ざめた顔で私を見つめながら言った。
「そ、そんなつもりは・・・!」
「あの男の家に住むのも・・・住む場所が無くて困って、どうせ・・誘惑でもしたんだろう?これだから女って奴は・・・。」
何だろう?まるでデヴィットの言い方は・・・女性を軽視した言い方だ。ひょっとして私を誰かと重ねて見ている・・・?
だけど・・・!
「・・・分かりました。」
感情を押し殺して私は言った。
「え・・・?」
デヴィットは私の顔を見た。
「私はマイケルさんを誘惑などしていませんし、先程の男達だって誘惑していません。ただ一人で食事を楽しんでいただけです。デヴィットさんに何度も声をかけたのに・・・出て来てくれなかったじゃ無いですか・・・。でも・・あそこで私・・わざとゆっくり食事しながら・・・貴方を待っていたんですよ?そうしたら、勝手にあの男達がやってきて・・・。」
「・・・・。」
デヴィットは黙って話を聞いている。
「そ、それに・・・住むところだって・・マイケルさんは本当に行き場を無くして困っていた私を・・・見るに見かねて、住まわせてくれるって申し出てくれたんですよ?でも・・それでも・・デヴィットさんは私が男を誘惑してるって疑うなら・・・鍵だって返します。お世話になるのもやめます。それで・・・私を信頼してくれるなら・・・。」
私は俯いて両手をギュッと握りしめた。
「い、いや・・・別に俺はそこまでの事は・・・。」
流石にバツが悪くなったのか、デヴィットの声のトーンが変わった。
「だ、大体・・・あれは嘘だったんだろう?『セント・レイズ学院』に入学希望をしていたから見学に来ていたって・・・。な、何でそんな嘘を俺についたんだよ。」
「それは・・・私が・・ジェシカ・リッジウェイだからですっ!」
「な・・何だって?!」
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