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※第2章 1 聖女と聖剣士の誓いの儀式(イラスト有り)(大人向け内容有り)
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1
チュンチュン・・・・。
鳥の鳴き声が聞こえる・・・・。鳥の声か・・・何だか・・・久々に聞いた気がするな・・・。
え?鳥・・・?一気に頭が覚醒し、私はベッドから飛び起き・・自分が下着すら身に付けていないことに気が付く。え?え?一体どういう事?
どうも疲れが酷すぎたのか・・・あまり昨夜の記憶が無い。でも・・アラン王子に会ったような気がするのだが・・・。
「フフ・・まさかね・・・。だってアラン王子は私を捕えるために『ワールズ・エンド』で待ち伏せしていた相手なんだから・・・。ここで見つかっていたら確実に掴まっているはずだしね。」
取り合えずシーツを身体に巻き付けると、私は持ってきたリュックから着替えを探した。
「良かった・・・予備の服・・・持って来てて。」
コンコン。
丁度着替えが終わった頃、ノックの音が聞こえた。
「はい。」
ガチャッとドアを開けると、そこにはデヴィットが立っていた。
「お早う、ジェシカ。」
デヴィットが何故か若干頬を赤らめながら挨拶して来た。
「お早うございます、デヴィットさん。」
「あ・・あのさ。これから朝食を食べに行くんだが・・・一緒に行かないか?」
朝食かあ・・・。丁度お腹が空いていた頃だったんだよね。
「はい、是非。」
勿論、ここは即答だ。
「そうか、良かった。それじゃ行こう。」
私とデヴィットは向かい合って座り、トーストにハムエッグ、サラダ、コーヒーという定番のモーニングセットを食べていた。
デヴィットが私に語りかけている。
「昨夜の事もあるだろう?実は・・この辺りはあまり治安が良くない場所だったんだ。あまり深い考えを持たずに俺が勝手に宿を手配したばかりに・・昨夜は酷い目に遭わせて・・その、悪かったな。」
「いえ、いいんですよ。だって・・・結局助けてくれたじゃ無いですか。それにしても・・・デヴィットさんて・・強かったんですね。格好良かったですよ。」
笑みを浮かべながら言った。
「そ、そうか?」
頬を染めて明らかに動揺しながら返事をするデヴィット。ん・・・?そんなに大した台詞言ってないんだけどな・・・。
「所で・・・昨夜あんな格好で眠ってしまったようだが・・ちゃんとあの後・・・着替えたのか・・?」
頬を赤らめながら質問してくるデヴィット。
え・・?
「デヴィットさん・・・。何故、あんな格好って・・・私がどんな姿で眠ったか・・・知ってるんですか?」
「え”・・・?!」
何故かその一言で硬直するデヴィット。
「ジェ、ジェシカ・・。」
「はい、何でしょう?」
「お、お前・・・昨夜の事・・・ひょっとして何も覚えていない・・・のか?」
「え、ええ・・・。すみません。余程疲れていたんでしょうね・・・。さっぱりです。ただ・・何となくアラン王子の夢を・・見た気がするんですけど・・。きっとアラン王子に追われたのが余程ショックで、あんな夢を見てしまったんでしょうね。」
カラーン。
うん?何の音だろう?すると床の上にフォークが落ちている。どうやらデヴィットがフォークを取り落してしまったようだ。
「デヴィットさん、どうしたんですか?フォーク落ちましたよ?」
拾い上げてテーブルの上に起きながらデヴィットを見ると、彼は顔面蒼白になっている。はて・・?一体どうしたのだろう?
「ジェシカ・・・。う、嘘だろう・・・?いや、でも昨夜は大分疲れていたようだしな・・。だとしたらアラン王子はかなり哀れな男かも・・・。」
何やらデヴィットは始終ブツブツと呟いている。うん、きっと今後の事で色々考える事があるのかもしれない、ここはそっとしておこう。
そして私はトーストをかじるのだった・・・。
「ジェシカ。これからどうするんだ?」
コーヒーを飲みながらデヴィットが尋ねて来た。
「あ、あの・・・それなんですが・・・やっぱりマイケルさんの家でお世話になろうかと思っているのですが・・・駄目ですか?」
遠慮がちに尋ねてみた。
「何で・・・俺にそんな事聞くんだ?」
不思議そうな顔で私を見つめる。
「だ、だって・・・昨夜言ってたじゃ無いですか。私は男を誘惑しているって・・。」
「い、いや・・あの話はもう忘れてくれ。お前が意識して誘惑する事はしていないって事が・・・分かったからな。現に俺だって・・・・。」
うん?今何て言ったんだろう?最期の方は語尾が小さすぎて聞き取れなかった。
「だが・・・男の1人暮らしの家に・・ジェシカが一緒に住むなんて・・・何か間違いがあったらどうするんだ?」
真剣な顔で話しかけてくるデヴィット。
「まさか~。だってマイケルさんは親切心で言ってくれてるんですよ?彼はそんな人じゃありませんよ。何でも部屋が余ってるので私1人位どうって事無いって言ってましたから。」
「けど・・・それでも俺は心配だ。」
う~ん・・・。ひょっとして私の保護者にでもなった気でいるのかもしれない。確かにこの世界では彼は私よりも年上だけど、実年齢は私の方が上なのに。
「やっぱり・・1人暮らしの男性の家に居候になるの・・駄目でしょうか・・?」
本当ならデヴィットの許可なく勝手にすれば良いのだろうが、彼には色々お世話になったのでなるべくならデヴィットの考えを尊重したい。」
「駄目というよりは・・俺が・・嫌なんだ。」
そう言うと、フイと視線を逸らせるデヴィット。
「え?何故・・・・ですか?」
「お、お前・・・それを俺に聞くのか・・・と言うか・・聞かないでくれっ!」
言いながらコーヒーをグイッと一気飲みするデヴィット。
「・・・分かりました。それではマイケルさんの家にお世話になるのはやめにします。」
デヴィットがこれだけ嫌がっているなら仕方が無いか・・・。今後も彼には色々お世話になるだろうし、機嫌を損ねられて協力を断られる方が私にとっては痛手だ。
「え・・?やめに・・・してくれるのか・・?俺の・・・為に・・?」
信じられないと言わんばかりの目で私を見つめるデヴィット。
「はい、そうです。デヴィットさんの(機嫌を損ねない)為にやめます。」
頷いて答える。でもそうなると・・・困ったな。今後は何処に暮らせば良いのだろう?
あ~あ・・・別荘でも持っていれば良かったのに・・・。アラン王子のように・・・。
そう言えば・・・。
「ノア先輩・・・。」
私は口に出して呟いた。
「ノア先輩?あの魔界に連れさられていた・・・『ノア・シンプソン』か?」
「はい、そうです。ノア先輩はセント・レイズシティに小さな家を1軒借りているんです・・・。そこに住まわせて貰えないかな・・・。あ、でも生徒会には場所が知られてるから、そこも無理かも・・・。」
「へえ・・・。あの男、この町に家を借りていたのか・・・でも何故そんな事をジェシカは知ってるんだ?」
不思議そうな顔で尋ねて来るデヴィットについ、私はポロリと答えてしまった。
「はい、以前にノア先輩に連れて行かれた事があるので・・・。」
そこまで言いかけて、私は何やらデヴィットから黒いオーラのようなものを感じ・・顔を上げた。みると彼は険しい表情で私を見つめている。
「おい、ジェシカ・・・。連れて行かれたって・・・どういう事だ・・・?」
「あ・・あの、そ、それは・・・・。」
駄目だ、とても言えない。睡眠薬で気絶したところを無理やりその家に連れ去られたなんて・・・。
「そう言えば、聞いたことがあるぞ?あの男は気に入った女子学生を次々と自分の隠れ家に連れ込んでるって話・・・。ま、まさか・・・ジェシカ!お前迄・・・!」
「ち、違いますっ!な、何もされてません!(その時は)」
「そうか・・・それなら良かった・・・。」
デヴィットは安堵の溜息をついている。
だ、駄目だ・・・い、いくら夢の世界の出来事とは言え・・・ノア先輩に抱かれている事を絶対に知られては・・・!
もしバレれば、それこそ大変な目に遭いそうだ。きっとデヴイットの信頼を一気に失ってしまうことになりかねない。だって、今私が確実に頼れる相手は目の前にいる彼だけなのだから。
「そ、それならこれはどうだ?俺がお前の為にこの町で何処か住む場所を借りてやるのは・・。」
何やらとんでもない事を言いだしてきた。
「だ、駄目ですよ!そんな事・・させられるわけ無いじゃ無いですか!」
そう。これではまるで愛人に囲って貰う女みたいじゃないの。そんな事だけは絶対に避けたい。
でも・・・。
私は食堂に飾ってある時計に目をやった。
「あの・・・実は10時にマイケルさんと約束してるんです。どのみちあの人には会いに行かないとならないので・・・。改めてそこで・・話をさせて頂けますか?」
「何だ?またあの男に会うのか?」
何故かイライラした口調になるデヴィット。
「はい・・・。」
それにしても・・・・。
「あの・・・何故デヴィットさんは・・そこまでマイケルさんを毛嫌いしてるのですか?」
「!べ、別に毛嫌いなど・・・俺はただ・・お前があの男と・・・あ~ッ、もうどうでもいい!いいぞ、ジェシカ。お前・・・マイケルとか言う男と一緒に暮らせばいいさ。」
そう言うと、ガタンと席を立つデヴィット。
「あ、あの?デヴィットさん?」
「俺は・・・今日は学院に行くつもりは無い。ここで・・・ジェシカが戻って来るのを待ってるから・・行って来いよ。約束してるんだろう?」
何故か少し寂しげに言うデヴィット。
「は、はい。分かりました。」
そして私は食事を終えると、マイケルさんとの待ち合わせ場所へと向かった—。
2
「お早うございます、マイケルさん。」
私がその場所に着いた頃。既に彼は屋台を組み立て、開店準備をしていた。
「やあ、お早う。お嬢さん。約束通り来たんだね。」
そう言って爽やかな笑顔を向けてくる。
「どう?昨夜あの後・・・何も問題は無かったかい?」
何故か意味深な事を尋ねて来るけれども・・・うん、この人を心配させてはならない。
「いいえ、特に何もありませんでしたよ。」
「そうか、なら良かった。」
「それで・・・本当にお世話になっても宜しいんですか?」
「うん、勿論俺は構わないよ。」
テキパキと作業を進めるマイケルさんを見つめながら尋ねる。
「でも・・・ただで置いてもらう訳には・・・。」
「そうかな?俺は別に構わないけど・・・いや、それよりもむしろお嬢さんの様な貴族の女性が俺の家での生活・・・大丈夫かなってそっちの心配の方が強いんだけどね。」
苦笑しながら言う。
「それなら問題ありません。私はそこら辺の貴族令嬢とは違いますから。家事だって出来ますよ。」
そう、何せ私の中身は本当は庶民中の庶民なのだから。
「本当かい?それなら・・・食事を作って貰う・・・なんてお願いしても大丈夫なのかな?」
「はい、私の作った食事でよければ・・・ですけど。」
するとマイケルさんは今迄に無い位の笑顔で言った。
「本当かい?すごく嬉しいよ。」
「あ、でも・・・あまり期待しないで下さいね・・・。屋台をやってるマイケルさんのお口に合う食事を用意出来るか・・・正直あまり自信無いので・・・。」
参ったな・・・。あまり大喜びされるとプレッシャーを感じてしまう。
「そんな事無いさ。お嬢さんが作ってくれる食事なら俺はどんな物だって嬉しいよ。」
「マイケルさん・・・。」
おお~っ!なんてイケメンな台詞を言ってくれるのだろう・・・。ちょっと感動。
「それでどうする?今・・・一緒に俺の住んでる家に行ってみるかい?まだ時間に余裕はあるけど・・・。」
「あ、大丈夫です。あの・・・昨日会った彼が今宿屋で待ってるので。夕方4時にまたここへ伺いますから。」
これからお世話になる人だ。なるべく迷惑はかけたく無いしね。
「うん、分かったよ。それじゃまた後でね。」
「はい!」
手を振ってマイケルさんと一旦別れた私は宿屋へと戻った。
「デヴィットさん。戻りました。」
コンコンとドアをノックしながら声を掛けるも返事が無い。
「あれ・・・留守かな?」
試しにドアを回してみるとカチャリと開いた。鍵を掛けないで出かけたのかな?
「入りますよ・・・。」
遠慮がちに声をかけ、部屋の中へ入ってみるとベッドの上で眠っているデヴィットがいた。何だ・・・眠っていたのか。でも・・・・何だか様子がおかしい。
「う・・・。」
苦しそうに顔を歪めている。それによく見ると額には汗も浮かんでいる。
・・・うなされているのだろうか?
「よ、よせ・・・やめろ・・・。」
何事か寝言を言っている。ひょっとして・・・悪い夢でも見ている?
「やめろ―っ!!」
途端に大声で叫ぶデヴィット。そのあまりの声の大きさに思わず飛び跳ねそうになったが・・デヴィットの様子がおかしい。目を閉じたまま苦痛の表情を浮かべて、ガタガタと震えている。これは・・・。
見るに耐えきれなかった私はデヴィットを揺さぶり起こした。
「デヴィットさん、デヴィットさん!起きてくださいっ!」
「ハッ!」
突然目を見開き、荒い呼吸をしながらデヴィットは呆然としたまま天井を見つめている。そして両手で頭を押さえて叫んだ。
「よせ!ライアン!ケビン!やめてくれーっ!!」
え?ライアン?ケビン?一体何があったの?
「デヴィットさん!しっかりして!」
怯えるデヴィットの頬を両手でつかむと、私は無理やり自分の方に向けさせた。
「私の事が分かりますか?ジェシカですっ!」
すると・・・虚ろだった彼の目が私を捕えた。
「あ・・・ジェ、ジェシカ・・・・?」
「はい、私です。」
何かに怯えているデヴィットを安心させる為に私は微笑んで答えた。
「っ!」
するとデイヴィットは無言で私の右手を掴み、自分の方へ引き寄せると私をかき抱いて来た。
「ジェシカ・・・お前・・・ジェシカだよな・・・これは・・現実なんだよな・・・?」
震えながら私を抱きしめるデヴィットの背中にそっと手を回して私は言った。
「はい、私はジェシカです。そして・・ここは現実世界ですよ。」
「そ、そうか・・・あれは・・ゆ、夢だったのか・・・。」
言いながら、さらにデヴィットが私を抱き寄せて来た。
「デヴィットさん・・・?」
一体どうしたと言うのだろう?
「わ・・悪い・・・。暫く・・このままでいてくれないか・・・・。」
デヴィットの声が、身体が今迄に無い位震えていたので・・・私は黙って頷いた—。
「少しは落ち着きましたか?」
ようやく私から身体を離し、大人しくベットの上に座るデヴィットの為にコーヒーを渡しながら尋ねた。
「あ、ああ・・・。驚かせて悪かった・・・。みっともない所・・見せてしまったな。」
まだ青ざめた顔に無理やり笑みを浮かべながらデヴィットが言った。
「いいんですよ。気にしないで下さい。」
私はコーヒーを飲みながら言った。
部屋の中がしばしの沈黙に包まれる。
「ジェシカ・・・・。」
やがてデビットが口を開いた。
「はい、何ですか?」
「何も・・・聞かないんだな・・・。」
「・・・お話したい事があるなら・・伺いますよ?」
「ジェシカ・・・お前は・・ライアンとケビンと・・仲が良かった・・・だろう?」
頭を押さえながらデヴィットが言う。
「そうですね・・・。お2人には・・・・本当にお世話になりました・・。」
「お前にこんな話するのは・・・酷かもしれないが・・・。」
「構いません。どんな話でも・・私は聞きますよ。」
デヴィットの瞳を真っすぐに見つめると言った。
「・・・・。」
フイと私の視線からデヴィットは逸らすと、語り始めた・・・。
「お前が『ワールズ・エンド』へ向かった後の出来事だ・・。あの全校集会の後の翌日の事だったんだが・・・朝早くにいきなりライアンとケビンが・・前日と同じ兵士の格好をして俺の部屋へやってきたんだ。始めは何の冗談かと思ったよ。まだ夜明け前なのに鎧を身に纏った姿で人の部屋へ入ってくるんだから・・・。この学院にいるジェシカ・リッジウェイと言う女子学生が『魔界』へ渡ったと・・・。しかもその際に1人の聖剣士を殺害し、『門』の封印を解くと言う重罪を犯したので、やがてこの世界に戻ってきた時にはその女を捕える為に聖女直々の兵士になるようにと言って来たんだ・・・。」
「!」
私は悲鳴を上げそうになった。それじゃ・・・やっぱりもうライアンとケビンは間違いなくソフィーの配下に・・・!
「勿論・・・その頃の俺には、もうお前に関する記憶なんか綺麗さっぱり消えていたけどな・・・どうしても、あのソフィーという胡散臭い女は信用出来なかった。だからすぐに断り、あの2人にも馬鹿な真似はよせ、目を覚ませって言ったら・・・。」
デヴィットは口を閉ざした。
「・・・いきなり取り押さえられ・・・地下牢に放り込まれた時は流石に驚いたよ。まさか・・学院の地下にあんなものが作られていたなんて・・・。」
自嘲気味に言うデヴィット。
「デヴィットさん・・・。」
私は・・何と声を掛けてあげれば良いのか分からなかった。
「魔力を奪う拘束具を付けられて・・あの2人に何度も鞭で打たれたよ。・・・。その様子をソフィーが面白そうに見ていたっけな・・・。」
「!」
「3日間、監禁されたよ。食事も貰えなく水だけで・・・その間に何度も鞭で打たれたけど・・。俺が意識を失った時・・・初めてまずいと思ったんじゃ無いのか?ようやく解放されたのさ。そしてその際、ソフィーが言ったんだ。この2人を自分の兵士にしたのはジェシカに対する見せしめだと・・。」
「そ、そんな・・・・。」
私の目に徐々に涙が浮かんでくる。私が巻き込んだせいで・・・。
「だから・・俺は尚の事・・・ジェシカ、お前を憎んだ・・・。お前のせいで俺の親友が愚かな女の手に堕ちてしまったんだと・・・。」
デヴィットの目にも涙が浮かんでいる。
「い・・・今も・・・私が・・・に、憎い・・・ですか・・?」
涙を堪えながらデヴィットに尋ねた。
すると、一瞬デヴィットの顔が苦し気に歪み・・・。
「・・・っ!この・・・馬鹿っ!」
突然腕が伸びてきて気付けば私はデヴィットに組み伏せられていた。
「俺が・・・お前を憎んでるか・・・だって?そんな風に・・・見えるか?」
真剣な眼差しで私を見つめて来る。その瞳は・・・。
「見えません・・・。デヴィットさんは・・・私を憎んでいる様には見えません。」
その時・・・突然私の左腕が熱くなり、光り輝きだした。え・・・・これは・・・あの時と同じ・・・?一体何故・・・?
一方のデヴィットも何故か驚いた様に私を見つめていたが・・・やがてフッと笑みを浮かべると言った。
「ジェシカ・・・『聖剣士と聖女の誓い』の話は知ってるか?」
え・・・?今・・・何て・・・?
「あいつ等も馬鹿だよな・・・。俺が何故あそこまで兵士になるのを拒んだのか理由に気付かないなんて・・・。」
面白そうに言うデヴィット。ま、まさか・・・。
「俺は・・・今年、聖剣士になったんだ。勿論・・・ソフィーに忠誠を誓わなかった聖剣士だけどな。」
デヴィットの目には私の驚愕した顔が映し出されている。そして・・私の左腕は相変わらず光り輝いている。
「ジェシカ・・・お前がマシューの事を愛しているのは・・よく知っている。」
私から片時も目を離さずに熱のこもった口調でデヴィットは語る。
「聖剣士って言うのは・・・紋章が光り輝く相手と強い絆を結ぶ事によって・・・さらに強くなれるんだ・・。ジェシカ・・・お前・・ソフィーを何とか・・したいんだろう?」
私は黙って頷く。
「そうか・・・なら、これは・・儀式だ・・・。」
「儀式・・・・?」
「ああ。ジェシカだけは・・儀式だと思ってくれればいい。」
私だけ・・・。
徐々にデヴィットの顔が近付いてくる。
睫毛が触れそうなほど距離が近づいたところで私は尋ねた。
「そ、それじゃ・・・デヴィットさんは・・・?」
するとデヴィットは目を閉じて私に口付けすると言った。
「俺の場合は・・・愛だ。」
見ると、デヴィットは私を愛おしそうに見つめている。
え・・・?愛・・?
「これは・・儀式だから・・・今だけは、あの聖剣士の事を忘れてくれ・・。頼む・・・。俺の為にも・・・。お前を守れる程に・・強くなるから・・・。」
デヴィットは切なげに、私の耳元で囁くように言う。
今だけは・・・?
マシュー・・・・。
瞳を閉じると再びデヴィットは口付けして来た。
私は彼の背中に手を回し・・・・そのままデヴィットに身を委ねた。
そしてこの日、デヴィットは私の聖剣士となった―。
チュンチュン・・・・。
鳥の鳴き声が聞こえる・・・・。鳥の声か・・・何だか・・・久々に聞いた気がするな・・・。
え?鳥・・・?一気に頭が覚醒し、私はベッドから飛び起き・・自分が下着すら身に付けていないことに気が付く。え?え?一体どういう事?
どうも疲れが酷すぎたのか・・・あまり昨夜の記憶が無い。でも・・アラン王子に会ったような気がするのだが・・・。
「フフ・・まさかね・・・。だってアラン王子は私を捕えるために『ワールズ・エンド』で待ち伏せしていた相手なんだから・・・。ここで見つかっていたら確実に掴まっているはずだしね。」
取り合えずシーツを身体に巻き付けると、私は持ってきたリュックから着替えを探した。
「良かった・・・予備の服・・・持って来てて。」
コンコン。
丁度着替えが終わった頃、ノックの音が聞こえた。
「はい。」
ガチャッとドアを開けると、そこにはデヴィットが立っていた。
「お早う、ジェシカ。」
デヴィットが何故か若干頬を赤らめながら挨拶して来た。
「お早うございます、デヴィットさん。」
「あ・・あのさ。これから朝食を食べに行くんだが・・・一緒に行かないか?」
朝食かあ・・・。丁度お腹が空いていた頃だったんだよね。
「はい、是非。」
勿論、ここは即答だ。
「そうか、良かった。それじゃ行こう。」
私とデヴィットは向かい合って座り、トーストにハムエッグ、サラダ、コーヒーという定番のモーニングセットを食べていた。
デヴィットが私に語りかけている。
「昨夜の事もあるだろう?実は・・この辺りはあまり治安が良くない場所だったんだ。あまり深い考えを持たずに俺が勝手に宿を手配したばかりに・・昨夜は酷い目に遭わせて・・その、悪かったな。」
「いえ、いいんですよ。だって・・・結局助けてくれたじゃ無いですか。それにしても・・・デヴィットさんて・・強かったんですね。格好良かったですよ。」
笑みを浮かべながら言った。
「そ、そうか?」
頬を染めて明らかに動揺しながら返事をするデヴィット。ん・・・?そんなに大した台詞言ってないんだけどな・・・。
「所で・・・昨夜あんな格好で眠ってしまったようだが・・ちゃんとあの後・・・着替えたのか・・?」
頬を赤らめながら質問してくるデヴィット。
え・・?
「デヴィットさん・・・。何故、あんな格好って・・・私がどんな姿で眠ったか・・・知ってるんですか?」
「え”・・・?!」
何故かその一言で硬直するデヴィット。
「ジェ、ジェシカ・・。」
「はい、何でしょう?」
「お、お前・・・昨夜の事・・・ひょっとして何も覚えていない・・・のか?」
「え、ええ・・・。すみません。余程疲れていたんでしょうね・・・。さっぱりです。ただ・・何となくアラン王子の夢を・・見た気がするんですけど・・。きっとアラン王子に追われたのが余程ショックで、あんな夢を見てしまったんでしょうね。」
カラーン。
うん?何の音だろう?すると床の上にフォークが落ちている。どうやらデヴィットがフォークを取り落してしまったようだ。
「デヴィットさん、どうしたんですか?フォーク落ちましたよ?」
拾い上げてテーブルの上に起きながらデヴィットを見ると、彼は顔面蒼白になっている。はて・・?一体どうしたのだろう?
「ジェシカ・・・。う、嘘だろう・・・?いや、でも昨夜は大分疲れていたようだしな・・。だとしたらアラン王子はかなり哀れな男かも・・・。」
何やらデヴィットは始終ブツブツと呟いている。うん、きっと今後の事で色々考える事があるのかもしれない、ここはそっとしておこう。
そして私はトーストをかじるのだった・・・。
「ジェシカ。これからどうするんだ?」
コーヒーを飲みながらデヴィットが尋ねて来た。
「あ、あの・・・それなんですが・・・やっぱりマイケルさんの家でお世話になろうかと思っているのですが・・・駄目ですか?」
遠慮がちに尋ねてみた。
「何で・・・俺にそんな事聞くんだ?」
不思議そうな顔で私を見つめる。
「だ、だって・・・昨夜言ってたじゃ無いですか。私は男を誘惑しているって・・。」
「い、いや・・あの話はもう忘れてくれ。お前が意識して誘惑する事はしていないって事が・・・分かったからな。現に俺だって・・・・。」
うん?今何て言ったんだろう?最期の方は語尾が小さすぎて聞き取れなかった。
「だが・・・男の1人暮らしの家に・・ジェシカが一緒に住むなんて・・・何か間違いがあったらどうするんだ?」
真剣な顔で話しかけてくるデヴィット。
「まさか~。だってマイケルさんは親切心で言ってくれてるんですよ?彼はそんな人じゃありませんよ。何でも部屋が余ってるので私1人位どうって事無いって言ってましたから。」
「けど・・・それでも俺は心配だ。」
う~ん・・・。ひょっとして私の保護者にでもなった気でいるのかもしれない。確かにこの世界では彼は私よりも年上だけど、実年齢は私の方が上なのに。
「やっぱり・・1人暮らしの男性の家に居候になるの・・駄目でしょうか・・?」
本当ならデヴィットの許可なく勝手にすれば良いのだろうが、彼には色々お世話になったのでなるべくならデヴィットの考えを尊重したい。」
「駄目というよりは・・俺が・・嫌なんだ。」
そう言うと、フイと視線を逸らせるデヴィット。
「え?何故・・・・ですか?」
「お、お前・・・それを俺に聞くのか・・・と言うか・・聞かないでくれっ!」
言いながらコーヒーをグイッと一気飲みするデヴィット。
「・・・分かりました。それではマイケルさんの家にお世話になるのはやめにします。」
デヴィットがこれだけ嫌がっているなら仕方が無いか・・・。今後も彼には色々お世話になるだろうし、機嫌を損ねられて協力を断られる方が私にとっては痛手だ。
「え・・?やめに・・・してくれるのか・・?俺の・・・為に・・?」
信じられないと言わんばかりの目で私を見つめるデヴィット。
「はい、そうです。デヴィットさんの(機嫌を損ねない)為にやめます。」
頷いて答える。でもそうなると・・・困ったな。今後は何処に暮らせば良いのだろう?
あ~あ・・・別荘でも持っていれば良かったのに・・・。アラン王子のように・・・。
そう言えば・・・。
「ノア先輩・・・。」
私は口に出して呟いた。
「ノア先輩?あの魔界に連れさられていた・・・『ノア・シンプソン』か?」
「はい、そうです。ノア先輩はセント・レイズシティに小さな家を1軒借りているんです・・・。そこに住まわせて貰えないかな・・・。あ、でも生徒会には場所が知られてるから、そこも無理かも・・・。」
「へえ・・・。あの男、この町に家を借りていたのか・・・でも何故そんな事をジェシカは知ってるんだ?」
不思議そうな顔で尋ねて来るデヴィットについ、私はポロリと答えてしまった。
「はい、以前にノア先輩に連れて行かれた事があるので・・・。」
そこまで言いかけて、私は何やらデヴィットから黒いオーラのようなものを感じ・・顔を上げた。みると彼は険しい表情で私を見つめている。
「おい、ジェシカ・・・。連れて行かれたって・・・どういう事だ・・・?」
「あ・・あの、そ、それは・・・・。」
駄目だ、とても言えない。睡眠薬で気絶したところを無理やりその家に連れ去られたなんて・・・。
「そう言えば、聞いたことがあるぞ?あの男は気に入った女子学生を次々と自分の隠れ家に連れ込んでるって話・・・。ま、まさか・・・ジェシカ!お前迄・・・!」
「ち、違いますっ!な、何もされてません!(その時は)」
「そうか・・・それなら良かった・・・。」
デヴィットは安堵の溜息をついている。
だ、駄目だ・・・い、いくら夢の世界の出来事とは言え・・・ノア先輩に抱かれている事を絶対に知られては・・・!
もしバレれば、それこそ大変な目に遭いそうだ。きっとデヴイットの信頼を一気に失ってしまうことになりかねない。だって、今私が確実に頼れる相手は目の前にいる彼だけなのだから。
「そ、それならこれはどうだ?俺がお前の為にこの町で何処か住む場所を借りてやるのは・・。」
何やらとんでもない事を言いだしてきた。
「だ、駄目ですよ!そんな事・・させられるわけ無いじゃ無いですか!」
そう。これではまるで愛人に囲って貰う女みたいじゃないの。そんな事だけは絶対に避けたい。
でも・・・。
私は食堂に飾ってある時計に目をやった。
「あの・・・実は10時にマイケルさんと約束してるんです。どのみちあの人には会いに行かないとならないので・・・。改めてそこで・・話をさせて頂けますか?」
「何だ?またあの男に会うのか?」
何故かイライラした口調になるデヴィット。
「はい・・・。」
それにしても・・・・。
「あの・・・何故デヴィットさんは・・そこまでマイケルさんを毛嫌いしてるのですか?」
「!べ、別に毛嫌いなど・・・俺はただ・・お前があの男と・・・あ~ッ、もうどうでもいい!いいぞ、ジェシカ。お前・・・マイケルとか言う男と一緒に暮らせばいいさ。」
そう言うと、ガタンと席を立つデヴィット。
「あ、あの?デヴィットさん?」
「俺は・・・今日は学院に行くつもりは無い。ここで・・・ジェシカが戻って来るのを待ってるから・・行って来いよ。約束してるんだろう?」
何故か少し寂しげに言うデヴィット。
「は、はい。分かりました。」
そして私は食事を終えると、マイケルさんとの待ち合わせ場所へと向かった—。
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「お早うございます、マイケルさん。」
私がその場所に着いた頃。既に彼は屋台を組み立て、開店準備をしていた。
「やあ、お早う。お嬢さん。約束通り来たんだね。」
そう言って爽やかな笑顔を向けてくる。
「どう?昨夜あの後・・・何も問題は無かったかい?」
何故か意味深な事を尋ねて来るけれども・・・うん、この人を心配させてはならない。
「いいえ、特に何もありませんでしたよ。」
「そうか、なら良かった。」
「それで・・・本当にお世話になっても宜しいんですか?」
「うん、勿論俺は構わないよ。」
テキパキと作業を進めるマイケルさんを見つめながら尋ねる。
「でも・・・ただで置いてもらう訳には・・・。」
「そうかな?俺は別に構わないけど・・・いや、それよりもむしろお嬢さんの様な貴族の女性が俺の家での生活・・・大丈夫かなってそっちの心配の方が強いんだけどね。」
苦笑しながら言う。
「それなら問題ありません。私はそこら辺の貴族令嬢とは違いますから。家事だって出来ますよ。」
そう、何せ私の中身は本当は庶民中の庶民なのだから。
「本当かい?それなら・・・食事を作って貰う・・・なんてお願いしても大丈夫なのかな?」
「はい、私の作った食事でよければ・・・ですけど。」
するとマイケルさんは今迄に無い位の笑顔で言った。
「本当かい?すごく嬉しいよ。」
「あ、でも・・・あまり期待しないで下さいね・・・。屋台をやってるマイケルさんのお口に合う食事を用意出来るか・・・正直あまり自信無いので・・・。」
参ったな・・・。あまり大喜びされるとプレッシャーを感じてしまう。
「そんな事無いさ。お嬢さんが作ってくれる食事なら俺はどんな物だって嬉しいよ。」
「マイケルさん・・・。」
おお~っ!なんてイケメンな台詞を言ってくれるのだろう・・・。ちょっと感動。
「それでどうする?今・・・一緒に俺の住んでる家に行ってみるかい?まだ時間に余裕はあるけど・・・。」
「あ、大丈夫です。あの・・・昨日会った彼が今宿屋で待ってるので。夕方4時にまたここへ伺いますから。」
これからお世話になる人だ。なるべく迷惑はかけたく無いしね。
「うん、分かったよ。それじゃまた後でね。」
「はい!」
手を振ってマイケルさんと一旦別れた私は宿屋へと戻った。
「デヴィットさん。戻りました。」
コンコンとドアをノックしながら声を掛けるも返事が無い。
「あれ・・・留守かな?」
試しにドアを回してみるとカチャリと開いた。鍵を掛けないで出かけたのかな?
「入りますよ・・・。」
遠慮がちに声をかけ、部屋の中へ入ってみるとベッドの上で眠っているデヴィットがいた。何だ・・・眠っていたのか。でも・・・・何だか様子がおかしい。
「う・・・。」
苦しそうに顔を歪めている。それによく見ると額には汗も浮かんでいる。
・・・うなされているのだろうか?
「よ、よせ・・・やめろ・・・。」
何事か寝言を言っている。ひょっとして・・・悪い夢でも見ている?
「やめろ―っ!!」
途端に大声で叫ぶデヴィット。そのあまりの声の大きさに思わず飛び跳ねそうになったが・・デヴィットの様子がおかしい。目を閉じたまま苦痛の表情を浮かべて、ガタガタと震えている。これは・・・。
見るに耐えきれなかった私はデヴィットを揺さぶり起こした。
「デヴィットさん、デヴィットさん!起きてくださいっ!」
「ハッ!」
突然目を見開き、荒い呼吸をしながらデヴィットは呆然としたまま天井を見つめている。そして両手で頭を押さえて叫んだ。
「よせ!ライアン!ケビン!やめてくれーっ!!」
え?ライアン?ケビン?一体何があったの?
「デヴィットさん!しっかりして!」
怯えるデヴィットの頬を両手でつかむと、私は無理やり自分の方に向けさせた。
「私の事が分かりますか?ジェシカですっ!」
すると・・・虚ろだった彼の目が私を捕えた。
「あ・・・ジェ、ジェシカ・・・・?」
「はい、私です。」
何かに怯えているデヴィットを安心させる為に私は微笑んで答えた。
「っ!」
するとデイヴィットは無言で私の右手を掴み、自分の方へ引き寄せると私をかき抱いて来た。
「ジェシカ・・・お前・・・ジェシカだよな・・・これは・・現実なんだよな・・・?」
震えながら私を抱きしめるデヴィットの背中にそっと手を回して私は言った。
「はい、私はジェシカです。そして・・ここは現実世界ですよ。」
「そ、そうか・・・あれは・・ゆ、夢だったのか・・・。」
言いながら、さらにデヴィットが私を抱き寄せて来た。
「デヴィットさん・・・?」
一体どうしたと言うのだろう?
「わ・・悪い・・・。暫く・・このままでいてくれないか・・・・。」
デヴィットの声が、身体が今迄に無い位震えていたので・・・私は黙って頷いた—。
「少しは落ち着きましたか?」
ようやく私から身体を離し、大人しくベットの上に座るデヴィットの為にコーヒーを渡しながら尋ねた。
「あ、ああ・・・。驚かせて悪かった・・・。みっともない所・・見せてしまったな。」
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「いいんですよ。気にしないで下さい。」
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「ジェシカ・・・・。」
やがてデビットが口を開いた。
「はい、何ですか?」
「何も・・・聞かないんだな・・・。」
「・・・お話したい事があるなら・・伺いますよ?」
「ジェシカ・・・お前は・・ライアンとケビンと・・仲が良かった・・・だろう?」
頭を押さえながらデヴィットが言う。
「そうですね・・・。お2人には・・・・本当にお世話になりました・・。」
「お前にこんな話するのは・・・酷かもしれないが・・・。」
「構いません。どんな話でも・・私は聞きますよ。」
デヴィットの瞳を真っすぐに見つめると言った。
「・・・・。」
フイと私の視線からデヴィットは逸らすと、語り始めた・・・。
「お前が『ワールズ・エンド』へ向かった後の出来事だ・・。あの全校集会の後の翌日の事だったんだが・・・朝早くにいきなりライアンとケビンが・・前日と同じ兵士の格好をして俺の部屋へやってきたんだ。始めは何の冗談かと思ったよ。まだ夜明け前なのに鎧を身に纏った姿で人の部屋へ入ってくるんだから・・・。この学院にいるジェシカ・リッジウェイと言う女子学生が『魔界』へ渡ったと・・・。しかもその際に1人の聖剣士を殺害し、『門』の封印を解くと言う重罪を犯したので、やがてこの世界に戻ってきた時にはその女を捕える為に聖女直々の兵士になるようにと言って来たんだ・・・。」
「!」
私は悲鳴を上げそうになった。それじゃ・・・やっぱりもうライアンとケビンは間違いなくソフィーの配下に・・・!
「勿論・・・その頃の俺には、もうお前に関する記憶なんか綺麗さっぱり消えていたけどな・・・どうしても、あのソフィーという胡散臭い女は信用出来なかった。だからすぐに断り、あの2人にも馬鹿な真似はよせ、目を覚ませって言ったら・・・。」
デヴィットは口を閉ざした。
「・・・いきなり取り押さえられ・・・地下牢に放り込まれた時は流石に驚いたよ。まさか・・学院の地下にあんなものが作られていたなんて・・・。」
自嘲気味に言うデヴィット。
「デヴィットさん・・・。」
私は・・何と声を掛けてあげれば良いのか分からなかった。
「魔力を奪う拘束具を付けられて・・あの2人に何度も鞭で打たれたよ。・・・。その様子をソフィーが面白そうに見ていたっけな・・・。」
「!」
「3日間、監禁されたよ。食事も貰えなく水だけで・・・その間に何度も鞭で打たれたけど・・。俺が意識を失った時・・・初めてまずいと思ったんじゃ無いのか?ようやく解放されたのさ。そしてその際、ソフィーが言ったんだ。この2人を自分の兵士にしたのはジェシカに対する見せしめだと・・。」
「そ、そんな・・・・。」
私の目に徐々に涙が浮かんでくる。私が巻き込んだせいで・・・。
「だから・・俺は尚の事・・・ジェシカ、お前を憎んだ・・・。お前のせいで俺の親友が愚かな女の手に堕ちてしまったんだと・・・。」
デヴィットの目にも涙が浮かんでいる。
「い・・・今も・・・私が・・・に、憎い・・・ですか・・?」
涙を堪えながらデヴィットに尋ねた。
すると、一瞬デヴィットの顔が苦し気に歪み・・・。
「・・・っ!この・・・馬鹿っ!」
突然腕が伸びてきて気付けば私はデヴィットに組み伏せられていた。
「俺が・・・お前を憎んでるか・・・だって?そんな風に・・・見えるか?」
真剣な眼差しで私を見つめて来る。その瞳は・・・。
「見えません・・・。デヴィットさんは・・・私を憎んでいる様には見えません。」
その時・・・突然私の左腕が熱くなり、光り輝きだした。え・・・・これは・・・あの時と同じ・・・?一体何故・・・?
一方のデヴィットも何故か驚いた様に私を見つめていたが・・・やがてフッと笑みを浮かべると言った。
「ジェシカ・・・『聖剣士と聖女の誓い』の話は知ってるか?」
え・・・?今・・・何て・・・?
「あいつ等も馬鹿だよな・・・。俺が何故あそこまで兵士になるのを拒んだのか理由に気付かないなんて・・・。」
面白そうに言うデヴィット。ま、まさか・・・。
「俺は・・・今年、聖剣士になったんだ。勿論・・・ソフィーに忠誠を誓わなかった聖剣士だけどな。」
デヴィットの目には私の驚愕した顔が映し出されている。そして・・私の左腕は相変わらず光り輝いている。
「ジェシカ・・・お前がマシューの事を愛しているのは・・よく知っている。」
私から片時も目を離さずに熱のこもった口調でデヴィットは語る。
「聖剣士って言うのは・・・紋章が光り輝く相手と強い絆を結ぶ事によって・・・さらに強くなれるんだ・・。ジェシカ・・・お前・・ソフィーを何とか・・したいんだろう?」
私は黙って頷く。
「そうか・・・なら、これは・・儀式だ・・・。」
「儀式・・・・?」
「ああ。ジェシカだけは・・儀式だと思ってくれればいい。」
私だけ・・・。
徐々にデヴィットの顔が近付いてくる。
睫毛が触れそうなほど距離が近づいたところで私は尋ねた。
「そ、それじゃ・・・デヴィットさんは・・・?」
するとデヴィットは目を閉じて私に口付けすると言った。
「俺の場合は・・・愛だ。」
見ると、デヴィットは私を愛おしそうに見つめている。
え・・・?愛・・?
「これは・・儀式だから・・・今だけは、あの聖剣士の事を忘れてくれ・・。頼む・・・。俺の為にも・・・。お前を守れる程に・・強くなるから・・・。」
デヴィットは切なげに、私の耳元で囁くように言う。
今だけは・・・?
マシュー・・・・。
瞳を閉じると再びデヴィットは口付けして来た。
私は彼の背中に手を回し・・・・そのままデヴィットに身を委ねた。
そしてこの日、デヴィットは私の聖剣士となった―。
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