目覚めれば、自作小説の悪女になっておりました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

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第2章 3 私の中に残る彼の痕跡を消して・・・ (イラスト有)

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1

 明日の夜にはソフィーがここにやってくる?どうして彼女に私の居場所が・・・。
そこまで考えて、急に笑いが込み上げて来た。そんなの決まってる。アラン王子に付けられたマーキングのせいで居場所が知られているんだ。だから宿にも現れ、マイケルさんの家にまでやってきて・・・。
結局口ではあんな事を言っていてもアラン王子は私の敵。ソフィーのスパイなのだ。

 でも、これ以上ここにいたらマイケルさんに迷惑がかかってしまう。かと言って相談すれば、2人を巻き込んでしまう・・・。だとすると、私の今取るべき行動は・・・。

「逃げなくちゃ。アラン王子は明日の夜には何て言ってたけども、それだって嘘かもしれない。油断させて・・・朝にはソフィー達が来てしまうかも・・・!」

急いで荷物をまとめて、置手紙を書く。本当は黙って居なくなりたいけども、そうなるときっとあの2人の事だ。夜通し私を探し続けるかもしれない。
だけど、この家に危険が迫っている事も知らせておかなくては・・・!


『アラン王子が今夜家にやってきました。明日にはソフィーが兵士を連れてこの家にやってきます。これ以上迷惑をかける訳にはいきません。私はここを出ていきます。お世話になりました。最後にお願いがあります。私の為を思うなら、どうか探さないで下さい。 ジェシカ・リッジウェイ 』

ほぼ、殴り書きの様な置手紙にはなってしまったが・・・。そろそろ2人が家に戻ってきてしまうかもしれない。
私は防寒着のフードを目深に被り、荷物を持つと鍵をかけて・・・自分のマフラーを外した。そしてその中に鍵をくるんで玄関の前に置いておいた。
こうしておけば・・・気が付いてくれるかもしれない。

 そして私は急いで夜の町へと駆け出して行った—。

 トボトボと行く当てもなく町の中を彷徨っていた。考えてみれば、逃げると言っても何処へ逃げれば良いのだろう。私はこの町を離れたくはない。だってあの学院にはマシューがいるかもしれないから・・・。最初の目的とは違ってしまったけど、私がここに今、居るのは・・・全てはマシューに会いたい為・・。最も彼が学院にいるかどうかさえ分からないが、マシューの手掛かりがあるのも『セント・レイズ学院』にしか無いのだから。
今ここでソフィーに捕まってしまえば、きっともう二度とマシューには会えない。
どうせ掴まってしまうなら・・・その前にせめて一目だけでも彼に・・・!
だから、今は・・・逃げないと。ソフィーの手から。

 だけど・・・。
「逃げる・・・?一体何処へ逃げるって言うの・・?何処へ逃げたってアラン王子に付けられたマーキングが残っている限り・・・居場所を知られてしまうのに・・・。」
思わず口に出して呟いていた。結局、このマーキングが残されている限り、何処へ逃げたって同じなんだ・・・。

こんな事なら・・・デヴィットに抱かれた時にアラン王子のマーキングを消して貰えば良かった・・・。
他に・・他にどんな方法を使えば、相手のマーキングを消す事が出来るのだろう?

「取りあえず・・・今夜は何処か宿を借りて、明日の朝にでもマジックシップへ行って相談してみようかな。」

 その時、ふと辺りを見渡して気が付いた。私はいつの間にかマシューと訪れた公園に来ていたのだ。
私はベンチに座り、夜空を見上げた。
あの時2人で見上げた夜空はそれはきれいな星が沢山出ていた・・・。なのに今の空はまるで真っ黒の墨をこぼしたかのような雲におおわれ、どんよりとした空となっている・・・。
たった1カ月の間に、何もかもがこれ程までに変わってしまうなんて、当時の私には想像もつかなかった。

ここに居てもしょうがない・・・。溜息をついて立上がり、私は宿を探す為に町へと降りて行った―。


 あまり所持金が無かったけれども、なんとか1軒安い宿を見つけて私は今夜の寝る場所を確保する事が出来た。
小さな6畳ほどの部屋に簡易ベッドとテーブル・椅子が1セットずつ置いてあるだけのシンプルな部屋。
腕時計をみると時刻は深夜0時を回っていた。
今頃・・・・・あの2人はあの手紙を読んでどう思ったろうか?マイケルさんはきっと困った顔をしているだろう。そして・・デヴィットは・・私は苦笑した。
きっと彼の事だ。今頃は怒り狂っているかもしれない。だって、彼は私の聖剣士になったのに、私は彼を捨ててしまったようなものだから・・・。

 持ってきた寝間着に着替えると小さめのベッドに潜り込んだ。
今夜も疲れた・・・・。嫌な夢を見ずに眠れるといいのに・・・・。
そうして私は眠りに就いた—。

翌朝—。

「う~ん・・・。」
目が覚めた私はベッドの上で伸びをするとベッドサイドに置いた腕時計に目をやる。
「え・・嘘・・・・・。」
余程疲れていたのだろうか。時計の針は9時を過ぎていた。どうやら大分寝過ごしてしまったらしい。
「マジックショップに行きたいから早く起きるつもりだったのに・・・。」
急いで起きると、着替えをして手早く朝の支度をする。それにしても・・バッサリ髪を切ったので、大分楽になったなあ。こんな事ならジェシカ本人に遠慮せずにもっと早くに髪を切って置けば良かった。

 この宿屋は簡易宿泊所のような場所だったので食堂はついていない。
なので私は荷物を持って宿代を払うと、そのままカフェへ向かった。そこでモーニングセットでも食べてからマジックショップへ行ってみようかと考えていたのだ。


 食後のコーヒーを飲み終え、窓の外をボンヤリと眺めた。
もう時刻は10時を過ぎているので町の大通りは人で溢れかえっていたが、もう1月も太陽が空から出ていない為か・・人々の顔も何処か覇気が無いように思えた。
やはり・・太陽が出なくなったのはソフィーが聖女についたからなのだろうか・・?

「さて、そろそろ行こうかな。」
自分に言い聞かせるように席を立ち、私はマジックショップを目指した―。



「う~ん・・・。自分につけられたマーキングを無効化するアイテムねえ・・・。」

今私の目の前には難しい顔をして腕組みをする女性店員がいる。

「はい、そうです。・・・何とかならないでしょうか・・・。」

私は小声でお願いした。

このマジックショップには男性店員と女性店員がいる。勿論、私は女性店員に相談を持ち掛けた。・・・やはり異性から付けられたマーキングの相談は・・・男女の仲を告白するような気分で・・恥ずかしかったからだ。

「う~ん・・・。そんな前に付けられたマーキングなら・・・放って置いても後数日も経てば完全に消えると思いますけどねえ・・・。」

「そ、それでは駄目なんです!お願いです!何とかなりませんか?」

気付けば私は女性店員の襟首を締め上げていた。

「お、落ち着いて下さい!お、お客さん・・・!そ、そんなにすぐに消したいなら・・もう別の誰かに上書きしてもらえばいいじゃないですか!」

挙句の果てにこの女店主はとんでもない事を言い出した。
「それが出来ないからここのお店を訪ねたんですっ!」
冗談じゃない、マーキングを消す為に別の男と関係を持てと言うのだろうか。

「なら、俺があんたのマーキングを消す協力をしてやろうか?相手してやるよ。」

店員と押し問答していると、不意に背後から声をかけられた。
振り向くと、何ともガラの悪そうな若い男が下卑た笑いをしながら見下ろしている。


 あの後—。
「い・・嫌ッ!離してっ!」
無理やり腕を掴まれ、引きずられるように歩かされる私。何て強い力なんだろう。振りほどく事すら出来ない。

「遠慮するなって。可愛がってやるからよ。」

思わず背筋がゾクリとする。
冗談じゃない、マーキングは確かに消したいが、私はこんな方法なんかちっとも望んでいないのに・・・っ!いやだ、怖い・・・。恐怖で目に涙が溜まる。もう、こんな『魅了』の魔力なんか・・・消えてしまえばいいのに・・・っ!

 すると突然前方を歩いていた男が悲鳴を上げ、倒れ込んだ。
え・・?何が起こったの・・?
恐る恐る顔を上に上げると、そこには防寒着を纏い、怒りの表情で男を見下ろしているデヴィットの姿があった―。

「おい、貴様・・・その汚らしい手で勝手に彼女に触るな。」

「う・・・うるせえ・・・。あ・・ひょっとしてお前かあ?この女がマーキングを消したがっていた相手っていうのは・・・。」

倒れ込んだ男はデヴィットを見上げながら言った。

「何・・・?マーキングだと・・?」

デヴィットの眉が上がって、チラリと私を見る。その目は・・・恐ろしいほど冷え切っている。

「そんなに暴力的だからこの女に逃げられるんじゃ・・・・。」

そこまで言いかけた男をデヴィットは問答無用で殴りつけ、気絶させてしまった。

「ジェシカ・・・。」

デヴィットはまるで凍り付いてしまうのでは無いかと思う程の冷たい視線で私を見ている。どうしよう・・・すごく怒っている・・・。でも、デヴィットが怒るのは当然だ。
「あ・・・あの・・・わ、私・・・。」

そこまで言いかけた時—。

気が付けば、私はデヴィットに強く抱きしめられていた・・・。




2

「デ、デヴィットさん・・・?」

名前を呼んでも返事が無い。ただ・・・デヴィットは私をきつく抱きしめ、肩を震わせている。

「この・・・馬鹿がっ!!どれだけ心配して・・・探し回ったと思ってるんだ?!」

私を怒鳴り付けるその声は・・・涙声だった。

「ご、ごめんなさい・・・。」

「何故俺が帰るまで待たなかった?俺はお前の聖剣士だろう?そんなに俺が信用出来なかったのか?!」

「そ、そんなつもりじゃ・・・。」
ただ、私はこれ以上誰にも迷惑をかけたくなかっただけで・・・。
だ、だけど・・・。
「こ、怖かった・・・。」
今頃になって恐怖が増してきた。後少しデヴィットが助けに来るのが遅かったら、今頃私は・・・。

「頼むから、もう俺の前から勝手にいなくなるな。アラン王子に追われているのは知っている・・・。何の為に俺がいると思ってるんだ?!」

「ご、ごめんなさい・・・。もう二度と勝手な事は・・・しません・・。」
私は身体の震えが止まるまで、デヴィットにしがみついていた―。



私とデヴィットは公園のベンチに座っていた。

「どうだ?ジェシカ。少しは落ち着いたか?」

デヴィットが声をかけてきた。

「は、はい。お陰様で大分・・・。」

「それにしても気づかなかった・・・。ジェシカが・・・アラン王子に・・・マーキングされていたなんて・・・。」

その言葉に思わず顔が赤くなる。 

「もっと早く気がついていれば、あの時・・・上書きしてやったのに・・・。」

頬を赤らめながらポツリと呟くデヴィットにさらに顔が火照る。

「そ、それでアラン王子の話では今夜ソフィーが兵士を連れて、マイケルの家にやって来ると言ったんだな?」

「はい、アラン王子は夜に・・と言ってましたが、もしかすると明け方に来ることもあり得るかと思い・・あの家を出たんです。だけど・・・。」
私は・・・自分の愚かさに気が付いた。
「考え見れば・・・何処へ逃げてもアラン王子のマーキングが付いているかぎり、私の居場所は見つかってしまうんだなと思い・・・何かマーキングを消すマジックアイテムが無いか、お店に探しに行ったんです。そしたら・・・あの男が現れて・・・。」
思い出すとまた震えが出て来る。

「分かった、もういい。それ以上思い出さなくても・・・!」

デヴィットが私の肩を引き寄せると言った。

「デビットさん・・・。ご迷惑・・お掛けしました・・・。」

「い、いや・・。もういい。こうしてお前を無事に見つける事が出来たんだから・・。でも、こんな事なら・・・。」

そう言うと、デビットは言葉を濁した。

「?どうかしましたか?」

「い、いや、何でも無い。それにしてもあの時は全然気が付かなかったが・・確かにジェシカから、俺とは違う別の魔力のマーキングを感じる。・・・微々たるものだけど・・。」

デヴィットは言うと、私の身体に顔を近付けてスンスンと匂いを嗅ぎ始めた。
う・・ま、町中でこれはちょっと・・・。
私達の前を行き交う人々の視線が・・・かなり痛い・・。

「あ、あのデヴィットさん・・・人目があるので、これはちょっと・・・。」

そっと彼を押しのけるとデヴィットはその時初めて自分の取っている行動に気が付いたようで、慌てて身体を離し、顔を真っ赤にすると言った。

「す、すまない!ジェシカ!」

「い、いえ。大丈夫です・・・。あの・・それでデビットさんにお願いがあるのですが・・。」
私はデヴィットを見つめながら言った。

「?」

「私に付けられた・・・アラン王子のマーキング・・消して頂けませんか?」

「・・・へ?」

一瞬間の抜けた声を出すデヴィット。

「あの・・?マーキングって・・・消せる事が出来るんですよね?」

「あ、ああ・・・・。も・勿論、け・消す事はできるぞ?」

何故か激しく動揺するデヴィット。

「では今すぐ消して下さい。」

「え?え?い・今すぐここでか?!」

「はい・・・?あの・・無理でしょうか・・・?」
優秀な聖剣士のデヴィットの事だ。上書きなんて事をせずとも、きっと呪文の1つでも唱えて、簡単に消してくれるだろう。

「む・無理だっ!こんな所では・・・!そ、それに・・もうアラン王子のマーキング・・放って置いても今日中には完全に消えそうだしな。」

え?そんなに難しい事なのだろうか・・・。でも・・・。
「本当に?本当に今日中には消えそうですか・・・?」

「うっ・・・・。」

何故か難しい顔をして黙り込むデヴィット。でも・・・きっと彼が言う事に間違いは無いだろう。

「分かりました。」

「え?」

デヴィットが私を見た。

「聖剣士であるデヴィットさんの言う事ですから・・・間違いないに決まってますね。私、今日中にはアラン王子のマーキングが消えるって信じます。」

笑みを浮かべてデヴィットに言った。

「あ・ああ・・・。そ、そうだ。お・俺を信じろ。それに・・例えソフィー達が現れても・・必ず俺がお前を守ってやるから。・・・ジェシカ・・・お前、どうしても学院に行きたいんだろう?」

「はい、なので・・・今ソフィーに捕まる訳には・・いかないんです。」

「そうだな・・・。」

そしてデヴィットは少し寂しげに笑った―。



「私・・・マイケルさんにも謝らないと・・・。」

デヴィットと並んで歩きながらポツリと言った。

「ああ・・・あいつも・・相当心配していたからなあ・・・。俺がお前を探しに行って・・あの男には家に待機していて貰ったんだ。」

「本当に・・すみませんでした・・・。」

「兎に角・・あの男の屋台へ行こう。もう・・仕事始めてるからな・・・。」


 デヴィットと2人でその後、マイケルさんの屋台へ行って私は彼に謝罪した。マイケルさんは笑って許してくれたが、目の下のクマを見つけて、改めて悪い事をしてしまったと私は感じ、申し訳ない気持ちで一杯になってしまった。


「実は・・・今夜ジェシカを捕まえにソフィー達がやって来るらしいんだ。だから・・俺はお前を巻き込みたくない。今夜俺とソフィーは宿を取る事にするよ。それでいいな?ジェシカ。」

デヴィットの突然の発言に私は驚いたが・・・確かに彼の言う事ももっともかもしれない。

「ええ・・・そうですね。その方が良いかも・・・。」

「そうか・・・でも君達2人が決めた事だからね。俺は・・口を挟まないよ。だからせめて・・・2人の無事を祈っているよ。」

マイケルさんはそう言って笑みを浮かべた。


 今、私達は男性専用のブティックに来ている。

「ジェシカ。結局服を着るのはお前自身なんだから、自分の意思で服を決めた方が俺はいいと思うぞ。」

「そうですね・・・。」

店員からは妙な目で見られたが、デヴィットのアドバイスを受けて私はシャツとボトムス、ベスト、そしてジャケットをチョイスした。

「あの・・・お金なんですが・・・。」

「何だ?金の心配ならするな。俺が支払ってやるから。」

「で、でも・・・!申し訳無いですよ!」
それでは余りにも肩身が狭い。

「いいって言ってるだろう?だってこれは学院へ潜入する為の必要な物なんだから。」

「でも・・・貰いっぱなしでは気が済まないので・・・後で何かお礼させて下さいね。私に出来る事なら何でもします。お金も後で必ずお返ししますからっ!」

「・・・・わかったよ。」

そんな私を見て・・・デヴィットは苦笑しながら返事をすると言った。

「で・・どうする?ジェシカ。今日・・これから学院へ行くか?」

「えっと・・・こ・心の準備があるので・・・あ、明日でもいいですか?今日はもう明日に備えたいと思います。」

「うん・・・確かにそうした方が良いかもしれないな・・・・。」

デヴィットは頷くと言った。

「それじゃ、今夜の宿を探しに行くか?」


「このホテルにしようかと思っているんだ。」

デヴィットが足を止めたのはこの町で一番大きなホテルの前だった。

「この辺りは治安もいいしな・・。だが・・ジェシカ。もしかするとアラン王子達が今夜襲ってくるかもしれないから部屋を1つだけにさせて貰うが・・構わないか?」

「はい、そうですね・・・。その方が私も安心です。」

部屋の中はかなり広く、ダブルサイズのベッドが2置いてある。デヴィットは部屋に入るなり、あちこちをチェックし始めた。

バスルームを調べたり、ベッドの下を覗き込んだり・・・。

「あの・・・何してるんですか?」

デヴィットの様子が気になった私は彼に声を掛けた。

「あ、ああ・・。万一ソフィー達が襲ってきた場合の事を考えて、その際は何処にお前が隠れて貰うか場所を探してたんだ。」

おお~ッ!まるで探偵みたいだ・・。

「だが・・・・。」

デヴィットは突然振り向いた。

「デヴィットさん?」

「いや、何でも無い・・・とにかく・・・アラン王子達に居場所がバレない事を祈ろう。もし、バレたとしても・・・かならずお前の事は守ってやるから・・。」

「は、はい・・・。」

そう、きっと大丈夫・・・。今夜一晩乗り切れば—。

私は自分に言い聞かせるように両手を強く握りしめるのだった。



3

「どうですか?デヴィットさん。」
私は先ほど買って来た男性用の服を着用して、デヴィットの前に現れた。ジェシカはかなり胸のサイズが大きく、コルセットでュウギュウに締め付けているので、少々呼吸するのが苦しいが、これはやむを得ない。そして髪の毛も金色のウィッグを付けて、ついでにカラーコンタクトを入れて瞳の色もグリーンに変えてみた。

「・・・・。」

デヴィットはポカンと口を開けたまま、私の事を凝視している。

「あの・・・デヴィットさん?」


「に・・。」

「に?」

「に、似合い過ぎているっ!」

「え?」

「い、いや・・これは非常にまずい、まず過ぎるかもしれない・・・!女子学生達に人気が出るのはやむを得まいとして・・・問題は男子学生の方だ。俺の隣の部屋に住むキースは前から男色家では無いかと噂されていたしな・・・。そう言えばこの間後輩を誘って一緒に映画に行ったという話を聞かされているし・・・いや、待てよ?そいえば、あいつはどうだった・・・?C組のガイもその気があるのでは無いかと怪しまれていたよな・・・・。」

デヴィットは何やらブツブツと物凄い速さで独り言を言っている。

「あの~デヴィットさん?」
幾ら呼びかけても返事が無いので彼の真正面に立ち、顔を覗き込みながら声を掛けた。

「ウワアアアアッ?!」

何故か大袈裟な声を上げてデヴィットがのけぞった。

「な、な、何だ?!驚かせるな、ジェシカッ!」

「え・・でも・・さっきからずっと声を掛けていたのに気付かれていなかったので・・・。それでどうですか?おかしく無いですか?」

「い、いや・・おかしくない!と言うか・・・まるで芸術品のように似合い過ぎていて・・・俺は別の心配をしている!」

「え?」

「いいか。ジェシカ。明日・・・この姿で学院に行く時は・・・片時も俺から離れるなよ?!少しでも油断すれば・・・あ、あいつ等に・・襲われてしまうかもしれない・・・!」

私の両肩をガシイッと掴んで、デヴィットは真剣な眼差しを向けて来る。

「あ、あの・・・・あいつ等って・・?」

「お前はそんな心配はしなくていい!ただ・・よ、世の中には・・男にしか興味が無い男がいると言う事だけ・・・覚えていてくれ・・・。」

あ・・・・な、成程・・・そういう事ですか・・・。まあ確かに私も最初の方は生徒会長の事を男色家と思ったり、ノア先輩とダニエル先輩がお付き合いしていると勘違いしてしまった事もあったしね・・・。

「は、はい。分かりました・・・。肝に銘じておきます・・・・」


 その後・・・私の男装のお披露目?を終えたので、バスルームで着替えて部屋へ戻るとデヴィットが剣の手入れをしていた。

「!」

その剣を見て、思わず硬直してしまった。あの剣は・・・聖剣士が持つ剣・・・。そしてマシューはあの剣で胸を貫かれて・・・。

「あ、ジェシカ。着替えてきたのか。うん、さっきの男の姿も似合っていたが、やっぱりお前はその姿の方が・・・ん?ど、どうしたんだ?ジェシカッ!」

デヴィットは手入れしていた剣を床に置くと、私の方へと歩み寄って来た。

「ジェシカ・・・?一体どうした?顔色が・・・真っ青じゃ無いか・・何かあったのか?」

「け、剣が・・・・。」
声を震わせながら私は何とか答える。

「剣?ああ、あの剣か・・。万一、ソフィーが兵士を連れてここへやって来た時は戦わなくてはならないかもしれないからな。その準備をしていただけだ。」

「あ・・・あの剣で・・・マ、マシューは・・・。」
駄目だ、震えが止まらない。あの日、あれと同じ剣でマシューは・・・!

「!す、すまなかった!俺の配慮が足りなかった!考えてみれば・・・あれと同じ剣で・・・マシューは・・。今すぐに剣を片付けるから・・・っ!」

デヴィットが何かに気が付いたかのように慌てて剣を片付けに行こうとした所を私は袖を引いて止めた。

「行かないでっ!」

「え・・?ジェシカ・・・?」

驚いたような顔で私を見つめるデヴィット。そんな彼に私は震えながらしがみついた。
「デ・・・・デヴィットさん・・・。も、もし・・アラン王子にこの場所が・・見つかって・・この部屋をソフィーの兵士たちが襲ってきたら・・・あの剣で・・戦うつもり・・・だったんですか?」

すると、少しの間を開けてデヴィットが躊躇いがちに返事をした。

「あ、ああ・・。そのつもりだった。」

「!」
私はマシューが死んだときの事を思い出し・・・怖くなり、ますます強くデヴィットにしがみ付くと尋ねた。

「デ・・・デヴィットさん・・・。ま、まだ・・私の身体に・・アラン王子の付けたマーキング・・・残っていますか・・?」

「ジェシカ・・・・。ああ・・・。まだ・・ほんの僅かだけど・・・。」

「デヴィットさんっ!」
私は顔を上げて彼を見つめた。

「どうしたんだ?ジェシカ?」

その気迫に驚いたかのようにデヴィットは私を見下ろした。

「お願い・・・戦わないで・・・。死んでは嫌・・・死なないで・・・っ!」
私はデヴィットに縋りついた。

「ジェシカッ!しっかりしろ!大丈夫だ、俺は死んでいない!俺の顔を良く見ろっ!」

デヴィットに両手で顔を挟まれ、私は彼の顔を見た。生きてる・・・。
まだデヴィットは・・・。私の目にみるみる涙が溜って来る。

「どうしたんだ?ジェシカ・・・何故、そんな風に泣くんだ・・・?」

デヴィットが私の頬に触れながら声を掛けて来る。

「お、お願いがあります・・・。」
涙を浮かべながら私は言った。

「お願い・・・?」
デビットは怪訝そうな顔で私を見つめている。

「わ・・私の中に残っている・・アラン王子のマーキングを・・今すぐ消して下さい・・・っ!」

「!」

デヴィットの息を飲む気配が伝わった。そして彼は溜息をつきながら言った。

「ジェシカ・・・マーキングを消す方法なんて・・・たった一つしか無い・・・。それはもう一度他の誰かに・・より強いマーキングをしてもらい、上書きするしか無いんだ・・。」

「なら・・・なら、デヴィットさん、私に今すぐ・・マーキングして下さいッ!」
私はデヴィットに縋りついた。
同じだ・・・ノア先輩にお願いした時と同じ台詞を今の私は言っている・・・。
でも今度のお願いは前回とは全く違う理由だ。2人で生き残る為に・・・マーキングをしてもらうんだ。

「ジェシカ、本気で言ってるのか?そんな事・・・軽々しく口に出していい物じゃないんだぞ?第一・・お前には他に愛する男がいるんだろう?それなのに俺にそんな事を頼んで・・・。」

デヴィットは私の顔を覗き込みながら言った。

「け、けど・・・私の中に・・・アラン王子のマーキングが残っている限り、居場所を知られてしまうんですよ?今だって・・・もうこの場所はばれてるんですよね?だったら・・今、ここでマーキングを消して、他の場所へ移動すれば・・もう私達の居場所が彼等に分からなくなる訳じゃ無いですか・・・。無駄に戦わなくて済むんですよ?!私・・・デヴィットさんに・・・絶対死んでもらいたくないんですっ!」



「ジェシカ・・・・。」
俯いて泣いていると、不意にデヴィットに顔を上に向けられ・・・口付けされた。
何時しか、それは深い口付けに変わり・・・やがてそっと私から離れるとデヴィットが言った。

「いいんだな?ジェシカ・・・・。」

「はい・・・!」
私はデヴィットの首に腕を回した。

「ジェシカ・・・。俺はお前に忠誠を誓うよ・・・。」


その言葉に反応するかのように、私とデヴィットの紋章が二つ同時に一瞬強く光り輝いた。そうか・・・これが・・聖剣士と聖女の絆・・・なんだ・・・。
デヴィットは再び私に口付けて来た。
そして・・・マーキングが完全に消えるまで、私達は抱き合った—。



「ジェシカ・・・もうアラン王子のマーキングは・・完全に消えたよ・・。」

デヴィットが優しく私の髪の毛を撫でながら耳元で囁くのが聞こえた。
「ほ・・・本当に・・・?」

「ああ、もう大丈夫だ。」

「よ・・・良かった・・・・。」
私はデヴィットに抱き付き・・・再び泣いた。これで・・・アラン王子に私の居場所が知られる事が無くなったんだと思うと、安堵の涙が止まらなかった。
そして、そんな私をデヴィットは優しく抱きしめてくれた。


 その数時間後。
私達は宿泊先を変えて、今は違うホテルに滞在していた。
そしてソフィー達に襲われる事も無く、私とデヴィットは無事に朝を迎える事が出来たのだった・・・。


翌朝の事—。
今、男装した私はマイケルさんとデヴィットの3人で『セント・レイズ学院』の門の前に立っている。

「お嬢さん、今から君は俺の弟としてふるまうんだよ?」

マイケルさんが右手を差し出しながら私に言う。

「はい、分かりました。」
私は彼の手をしっかり握り締めると返事をした。

「よし、それじゃ・・・行こうか。2人とも。」

デヴィットに促され、無言で頷く私。
・・・ついに私は再び『セント・レイズ学院』へ戻って来たのだ。

待っていて、マシュー。
貴方を必ず見つけ出すから—。

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 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

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