目覚めれば、自作小説の悪女になっておりました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

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第3章 1 貴方に将来を捧げます

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人通りの少ない旧校舎の中庭のベンチの上で私達は座っていた。
私の両隣りにデヴィット、マイケルさんが座っている。

「ああ・・失敗だった・・・。」

デヴィットが溜息をつきながら言った。

「うん、本当にそうだったね・・・。」

マイケルさんも何故か疲れ切った表情を見せている。

「2人とも・・どうしたんですか?」
何故かぐったりしているデヴィットとマイケルさんに私は尋ねた。

「何を言ってるんだ。それは・・・全てジェシカ。お前のせいなんだぞ?」

デヴィットは私をチラリと見るとベンチの背もたれによりかかった。
「え・・・?何故私が?」
さっぱり分からない、何故私のせいなのだろう。

「お嬢さん・・・君って本当に無自覚なんだね・・・。」

苦笑しながらマイケルさんは私を見た。

「ああ、ジェシカは・・・・すごく鈍いんだ。相手の心の機微にちっとも気が付いてくれなくて・・・。」

恨めしそうな目で私を見つめつつ、手をしっかり握りしめるデヴィット。
「ちょ、ちょっとどうしたんですか?急に手なんか繋いだりして・・。」

「駄目か?」

少し拗ねたように私を見つめるデヴィット。

「あの・・・駄目というか・・・。」

「ゴホン」

そこで咳払いが聞こえた。見るとマイケルさんがニコニコしながらこちらを見ている。

「2人とも・・・俺がいるの忘れていないかい?だいたい、君・・俺の弟にあまり馴れ馴れしくしないでくれよ?」

言いながらさり気なく私とデヴィットさんの繋いだ手を解き、マイケルさんが今度は指を絡めて来た。

「な、何するんだ?!俺はジェシカの聖剣士だぞ?」

「それなら僕はお嬢さんの兄だ。」

憤慨するデヴィットとは対照的に、穏やかに抵抗するマイケルさん。

「あの~・・・こんな所で喧嘩するの辞めましょうよ・・・。」

「「別に喧嘩なんかしていないけど?」」

2人口を揃えて言う。おおっ!ハモった!

「それで・・・先程の話の続きですけど・・・何が失敗だったのですか?」
改めて質問する。

「それはな・・・ジェシカ。お前が目立ちすぎるんだ。」

デヴィットが真剣な目で私を見つめる。

「え・・?目立ちすぎる・・・?」

「うん、そうだね。俺も初めてお嬢さんを見た時は天使が降臨して来たのでは無いかと思う位にびっくりしたよ。だって物凄い美少年が立っていたんだもの。」

マイケルさんも私を見ながら言う。何故か・・・その目はうっとりしているようにも見えるけど・・・え?も、もしかして・・少しその気がある人だったの?!

「おい、ジェシカを変な目で見るなよ?」

私を腕に隠す様に囲い込むデヴィットにマイケルさんは言った。

「いやだなあ~。俺は至ってノーマル人間だよ。男装のお嬢さんもいいけど、普段の女性の姿のお嬢さんの方が俺は好きだから。」

にこやかに話すマイケルさんにデヴィットが素早く反応した。

「な・・・何?い、今・・お前何て言った?ジェシカの事を好きだって・・・?やはりお前、恋愛対象としてジェシカを見ていたのか?!」

「駄目かい?だってお嬢さんは素敵な女性だからねえ。」

のらりくらりと会話をするマイケルさん。あ・・・これ、きっとデヴィットがからかわれているだけだ・・・。

「2人とも・・・やめましょうよ。こんな所で。」

私が止めに入ると、ようやく落ち着いたデヴィットが私の方を見ると言った。

「ジェシカ、俺の上着を貸してやる。これを着るんだ。」

突然デヴィットが上着を脱ぐと、手渡してきた。

「え・・・・?これを渡せば、デヴィットさんが寒いじゃ無いですか・・。」

彼が来ていたのはフード付きの防寒具。私はロングートを羽織っているから別に上着なんかいらないのに・・。

「駄目だ、その上着に付いてるフードを被っているんだぞ?むやみやたらに顔を見せるな。俺は上着は必要無いから。」

「はあ・・・。分かりました。」

私は自分の着ていたコートを脱いで、デヴィットから借りた上着を着た。

「あの・・・。」

「「うん、何だ?」」

デヴィットとマイケルが目をウルウルさせて私を見つめている。

「大きすぎなんですけど・・・。」

背の高いデヴィットの上着は私にははっきり言って大きすぎる。袖の先は出てこないし、上着だって今にも裾を引きずる程に丈が長すぎる。

「か、可愛い・・・。」

デヴィットが頬を赤らめて私を見ている。

「うん、やっぱり可愛いね。大きすぎる上着を着る美少年・・・最高だ。」

何やら意味深な言い方をするマイケルさん。

「つまり・・・顔を見せないで校舎内を歩け・・という事ですか?」

溜息をつきながら言うと、2人は同時に頷くのだった。

「大体、ジェシカ。どうしてさっき、中庭で突然笑顔を見せたんだ?あの女子学生と知り合いだったのか?」

突然デヴィットが中庭での私が取った行動に質問してきた。

「はい、彼女はエマと言って私の親友なんですよ。ちなみに隣に立っていた女性も私の親友のシャーロットです。」

「そうか・・・君は特定の女性に笑顔を向けたんだね・・・。」

溜息をつくマイケルさん。

「全く・・・その顔で笑顔を振りまくな。はっきり言って・・そ、その顔は‥罪だ。」

ええええ~っ!何でそこまで言われなくちゃならないんだろう!

「ああ、本当にそうだね。彼女達を撒くのにどれだけ大変だったか覚えていないわけじゃ無いよね?」

「確かに・・・。」

あの時、中庭を3人で歩いていたら突然女子学生達の集団が黄色い歓声を上げながら、私達を取り囲んでしまった。そして彼女達は熱い視線?を私に向けてあれやこれやと色々質問をしてくるし、中には手を握りしめて来る女子学生もいた位だった。
そしてそれを何とか追い払おうとしていたのがデヴィットとマイケルさん。
そんな時に現れたのがエマで、つい私は彼女に笑顔を向け・・ますます女子学生達はパニック状態になり・・・命からがら?ここまで逃げてきたのだった。
それにしても・・・『魅了』の魔力が彼女達の前でも発動してしまったのだろうか・・・?

「いいか、もう絶対にそのフードを外すなよ?そうじゃないと目立ちまくって行動する事が出来ないからな?人探しをしたいんだろう?まずい奴に見つかったら厄介だからな。」

デヴィットの言葉に私は頷いた。
まずいヤツ・・・私の頭には複数の人物が浮かび上がった。ソフィー、ドミニク公爵、アラン王子。ついでに言うと・・・マリウス、元生徒会長。
うん、彼等にだけは絶対に見つかりたくない。

「それで・・・一番初めに会いたいのは・・やはりノアか?」

デヴィットが質問して来た。

「はい、そうですね。『ワールズ・エンド』で完全にはぐれてしまったので・・ノア先輩が無事か確認したいんです。ついでに言うと魔界にいた時の記憶が残っているかも聞きたいし。」

「後は・・・・誰だ?」

「ダニエル先輩です。あの先輩には・・・私の全財産の入った預金通帳を預かって貰っているんです。」

「え?そのダニエルって彼と・・・お嬢さんはそういう仲だったの?」

何故かマイケルさんが驚いた様に私を見るし、デヴィットは肩を震わせて、私を見ている。

「あの・・・?なにか・・・?」

何だろう、この2人の態度・・何か気になる。

「ジェシカ・・・お、お、おまえ・・・あのダニエルに通帳を預けたのか?」

「あ、ダニエル先輩の事知ってるんですね?」

「当然だ、有名人だからな。特に・・・女子学生達の間では。いや、それより問題なのは・・・ジェシカ、お前がダニエルに通帳を預けた事だ。」

「それが・・・何か?先輩は信頼できる人だったので預かって貰ったんですよ?」

「異性に通帳を預かって貰うって意味はな・・。その相手に自分の将来を捧げてもいいですって意味なんだよ!」

デヴィットの言葉に今度は私が驚く番だった—。



2

ええっ?!そ、そんな・・・。貴方に将来を捧げます?知らない、私はそんな話は全く知らないっ!!
「ま、待って下さい。私がダニエル先輩に通帳を預かって貰った時、先輩はそんな話一言も持ち出しませんでしたけど?」

「それは・・・ひょっとすると・・・。」

マイケルさんが再び意味深な事を言って来る。

「ああ、ひょとするかもしれない。」

デヴィットまで・・・!

「あの、もったいぶっていないで教えて下さいよ。ひょっとすると・・・ってどういう意味ですか?」

「それは多分、ダニエルは通帳と引き換えにジェシカに結婚を迫ってくるかもしれないって事だ。」

デヴィットが言うと、マイケルさんは腕組みをしながら頷いている。あのダニエル先輩が?はは・・まさか・・・。

「嫌ですね~。2人とも・・・考え過ぎですよ。ダニエル先輩はそんな人では無いですよ。」

掌をヒラヒラさせながら私は言うが、2人は至って大真面目だ。

「いいか、ジェシカ。もしダニエルが結婚の約束をしなければ通帳を返さないと言って来た時には必ず俺に相談しろ。俺があいつを倒してでも取り返してやるからな。・・・それでダニエルは強いのか?」

デヴィットは何やら物騒な事を言って来る。
「駄目ですよ、倒しちゃ・・・。ダニエル先輩が強いかどうかは分かりませんけど。」

「俺もその時は及ばずながら力を貸すからね。」

「マ、マイケルさん・・・。あまり妙な考えは起こさないで下さいね?そんな事よりも・・・ノア先輩は今何処にいるんでしょうか・・・。」

「よし、俺はあいつの寮の部屋番号を知っているから様子を見て来る。この場所は人目に付きにくい場所だから、ここ2人は待っていてくれ。」

言うが早いか、デヴィットはすぐに転移魔法を使ってその場から消え去った。
そしてその様子を見ていたマイケルさんが言った。

「いや~。初めて転移魔法と言うのを見たけど・・・凄い物だね。目の前でパッと人が消えてしまうのだから・・。それでお嬢さんも転移魔法を使えるのかい?」

マイケルさんが目をキラキラさせながら尋ねて来た。
う・・・何だかものすごく期待に満ちた目を向けて来るのだけど・・・・私が一切魔法を使えないと分かったら・・・幻滅されてしまうかな・・・?

「い、いえ・・・。お恥ずかしながら私は魔法を一切使う事が出来なくて・・・。」

「ふ~ん。そうなのかい?だとしたら・・お嬢さんはその内、誰も使えなかったようなすごい魔法を使えるようになるかもしれないね。」

意外な事を言って来た。

「え・・・?まさか・・・。何故そんな風に思ったのですか?」

「うん、実は・・・。」

そこまでマイケルさんが言いかけた時、突如としてデヴィットが私達の目の前に現れた。

「デヴィットさん、どうでしたか?ノア先輩は寮にいましたか?」

「いや・・・いなかった。だが・・・。」

何故かデヴィットの表情が優れない。一体どうしたのだろう・・・?

「デヴィットさん。ノア先輩について何か・・・情報を得られたなら教えて下さい。」

「あ、ああ・・・。実は・・・男子寮の寮夫に念の為、尋ねてみたんだ。そうしたら教えてくれたよ。『ワールズ・エンド』で忽然と姿を消したノア・シンプソンは再び『ワールズエンド』で頭から血を流した状態でソフィーと聖剣士達によって発見されたって。そしてその怪我を負わせたのがジェシカ・リッジウェイだと言ってるんだ・・・。どうやら、たまたま見回りをしていたソフィーがジェシカが石を振り下ろして、ノアの頭に叩きつけたのを見たと証言したらしい。それで今は絶対安静で療養の為に神殿に運ばれて手当てを受けている・・・そうだ。」

 え?ノア先輩が大怪我・・・?しかも怪我を負わせた人物が私だとソフィーが証言を・・?!挙句に治療の為に神殿に運ばれて、今は会う事すら出来ないなんて・・・。

「そ、そんな・・・。」

私は絶望的な気分になり・・・・俯いた。

「お嬢さん。・・・大丈夫かい。」

マイケルさんが心配そうに声を掛けて来た。


「非常にまずい事態だな・・・。今や神殿は完全にソフィーの物と化してるんだ。聖女の奇跡の力と称して、あの神殿では連日ソフィーが聖剣士や神官・・それに兵士達の前で自らの聖女の力とやらを披露しているらしいが・・・俺はそれがどんな物なおのか見た事も聞いたことも無いから、全く分からないが・・・。恐らくそれは真っ赤な嘘だと思う。」

デヴィットが声を潜めながら言う。

「・・それはどういう事なのかな?」

「実は・・・聞いてしまったんだ。神殿で何が日々行われているのか気になって一度だけ神殿に忍び込んだことが一度だけあったんだ。だが生憎・・・結局ソフィーの奇跡の力とやらのお披露目はこの日は無かったけどな。その後、俺はソフィーの後を付けた。するとソフィーが誰かと神殿の中庭の方に行くと足を止めて・・・こんな所に何の用事があるかのと思って隠れて様子を見ていたらローブを羽織った人物が現れて、会話を始めたんだ。相手はフードを被っていたせいで男なのか女なのかも分からなかったが、その相手にソフィーがこう話していた。やっぱりお前が作るお香は催眠暗示をかけるのにすごく有効な手段だ・・・と。」

お香・・・催眠暗示・・・?・・ひょ、ひょっとして・・・!

「それじゃ、恐らくその聖女が催眠暗示をかけて自分があたかも奇跡を起こしている姿の幻覚を彼等に見せていただけなのかもしれないね。」

マイケルさんが素早く答えた。うん、私も今同じ事を考えていました。

「デヴィットさん・・・。ひょとするとソフィーはその手を使って聖剣士や神官達を暗示にかけて自分の支配下に置いていったのでは無いでしょうか?」

「ああ、多分そうだろうな・・・。ノアの事も・・・催眠暗示にかけるつもりなんだろうな・・・。いや・・もうかけられているかもしれない・・。」

言われて見れば確かにソフィーはノア先輩を気に入っていた。それじゃ・・ひょっとするとノア先輩はもう・・・?!

「そ、そんな・・・何とかしないと・・・。こ、こうなったら私が直接神殿に行って・・・。」

「「そんなのは駄目だっ!!」」

・・・2人から怒られてしまった。

「ジェシカ、焦る気持ちは分かるが・・・・一旦ノアの事は置いておこう。代わりにダニエルを訪ねてみたらどうだ?」

デヴィット言った。

「そうですね・・・。どのみち以前からダニエル先輩には魔界から戻ってきたら真っ先に、会いに行こうと思っていたので・・・。」

すると、途端に機嫌が悪くなるデヴィット。心なしか・・・マイケルさんも何となく面白くなさそうな顔をして私を見つめている。

「ジェシカ・・・それ程までにダニエルに会いたかったのか?・・・昨年の事だったか・・少しの間だっだけど、ジェシカ・・・お前ダニエルと恋人同士だったことがあるんだろう?あの時は物凄くその話でもちきりだったからな・・・・。だからなのか?・・・だから・・あの男に通帳を預けたのか?かつてはお前の恋人だったから・・?」

「ええ!お嬢さん・・・そうだったの?」

「ち・・・違いますよっ!一番通帳を預かって貰うのに適した方だと思ったからです。ダニエル先輩は・・・ノア先輩の親友だったんですよ?だから私は魔界へ行く前にノア先輩の事を伝えたんです。・・・・最も・・・その時はダニエル先輩は既にノア先輩の事を忘れていましたけど。」

「おい、ちょと待て・・・。ダニエルはノアの事を忘れていたって・・言ってたけど・・考えてみるとジェシカ、何故お前はノア・シンプソンの事を・・覚えていたんだ・・・?」

声を震わせながらデヴィットが私に尋ねて来た。

あ・・・こ、これは・・・非常にまずいかも―。
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