目覚めれば、自作小説の悪女になっておりました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

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第4章 1 誰を選ぶ?

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1

ここはセント・レイズシティのホテルの一室・・・。
今、私達は一番大きな客室を借りている。キングサイズのベッドが2台置かれている寝室が2部屋ずつ、さらにはリビングルームにバーカウンターまで付いている、言わゆるスイートルームのような部屋にいた。

「あの・・・こんな豪華なお部屋・・一泊いくらするんですか?私・・・お金殆ど持ち合わせが無いって言いましたよね?確か・・・。」

私が3人を見渡しながら言う。

「「「何言ってるんだっ!女性からお金を取る訳無いだろう?!」」」

何故か、全員が同じ回答をしてきた。

「で、ですが・・・一泊一体いくらすると思って居るんですか?」
こ・怖い・・・金額を聞くのが非常に怖い・・・っ!

「大丈夫だ、ジェシカ。金の事なら心配するな。知ってたか?聖剣士に選ばれるとな・・・毎月相当額の金額が支給される事になってるんだ。俺は金を持っている。お前に不自由な思いをさせる事は無いからな。」

何故か私の髪を撫でながら、うっとりした目つきで見つめるデヴィット。
「あ・・ソ、ソウデスカ・・・。」
一体彼はどうしてしまったのだろう?ここへ到着した時はアラン王子の件で怒りまくって大変だったと言うのに・・・。

「お金なら・・・僕だって持ってるさ。これでも僕はね、株を持っていて結構儲かってるんだからな。だから・・・いいよね。ジェシカ?」

ダニエル先輩は負けじと言う。
はて?いいよねって・・・一体何がいいと言うのだろう?何だか徐々に嫌な予感がしてきた。

 そしてマイケルさんは黙っていると思ったのだが・・・・。

「お嬢さん。俺もお嬢さんには一生お金で苦労をさせる事は無いよ。実はね・・・俺の実家はこのセント・レイズ諸島の大商家なんだよ?爵位こそ無いけど、多分その辺りの貴族よりはお金を持っていると思うけどね?」

マイケルさんは私の両手を握り締めると言った。

「え・・・えええええっ?!そ、そうだったんですか?!そ、それなら・・・何故屋台などやってるんですか?実家の仕事を継がなくても良いのですか?!」

「うん。それも片手間だけどやってるよ。屋台はね・・・僕が好きでやってるんだ。おかげでお嬢さんのように素敵な女性に巡り合えたしね・・・。」

「は、はあ・・・。」

「「「さあ、ジェシカ(お嬢さん)。それでは誰を選ぶ?」」」

3人が何故か両手を私の方に向けて笑顔で同時に言う。
「え?あの・・・選ぶって・・・一体何の事ですか?」
分からない、彼等が何を考えているのか私にはさっぱり分からない。

「そんなのは決まっているだろう?」

デヴィットが言う。

「そうそう、これは大事な事だからね。」

ダニエル先輩は腕組みして頷いている。

「お嬢さん、俺が一番安全な男だと思うよ?何せ君のお兄さんだからね。」

マイケルさんが意味深な事を言う。俺が安全・・・?はて、何の事だろう・・?
「あの・・・何を選べば良いのか全く分からないのですが?」

するとデヴィットが呆けた顔になった。

「う・・嘘だろう・・・本当に分からないのか?」

「相変わらず・・・ジェシカは鈍いねえ・・・。」

ダニエル先輩は溜息をつく。

「まあまあ。そこがお嬢さんが男心をくすぐるポイントだよね?」

マイケルさんの言葉にますます謎が深まっていく。

「だから、私は何を選べば良いのですか?」

「そんなのは決まっている。」

デヴィットが私の肩を掴むと言った。

「いいか、ジェシカ。俺はお前の聖剣士なんだ。そして今、お前はソフィーと神殿にいる者達に狙われている。俺を傍に置くのが当然だろう?」

「何勝手な事言ってるのさっ!僕だって攻撃魔法も防御魔法も剣だって使えるんだからな?!」

「う~ん・・力では叶わないけど・・・包容力なら誰にも負けていないと思うけどなあ・・・。」

もう何が何だか私には分からない。
それに・・・今夜は疲れたし・・・。

「あの~・・・皆さん。今夜はとても疲れたので、申し訳ありませんが1人でベッドルームを使わせて下さい。部屋に置いてあるベッド・・・すみませんがもう一つの寝室に運んで頂いて・・・皆さんはご一緒の部屋で休んでいただけますか?お願いします。」


「「「え・・・・?」」」

何故か3人同時にお互いの顔を見渡し・・・がっくり肩を落としてしまった。
「あの~・・皆さん・・・どうされたのですか?」

「ハハハ・・・そうだよな・・・やっぱり当然そうなるよな・・・。」

デヴィットは乾いた笑いを見せる。

「ジェシカ・・・まさかそんな答えを用意していたなんて・・・僕はちっともそこまで頭が回らなかったよ・・・。」

項垂れるダニエル先輩。

「フフフ・・・やっぱり流石お嬢さんだ。やられたようだね・・・。」

マイケルさんも白けた笑いをしている。そして3人は力を合わせて?キングサイズのベッドをもう一つの客室に運ぶのだった・・・。

そう言えば・・・結局何を選べば良かったのだ?私は・・・?


「ふう~・・・気持ちいいいなあ・・・。」

バスルームでお湯に浸かりながら私は天井を見上げた。・・・それにしてもこっちの世界へ戻ってからおかしな事ばかり起こっている。
何故今迄一度も私の左腕の紋章が反応したことが無かったのに、ここへきて突然聖女の力?に目覚めたのだろうか・・・。
でも・・ひょっとすると・・聖剣士が近くにいるようになったから?でもそれを言えばマシューだって聖剣士だった。それなのに・・・私達は紋章が光る事は無かった。一体何故・・・?ある意味、私とマシューも聖女と聖剣士の誓いの契りを交わした仲だと言えるのに・・・。でもあれは・・・絆を深めるのが目的では無く・・ただお互いを求め合って・・・。
だけど・・・え・・?私は重要な何かを忘れている気がする・・。
そう言えば・・・アラン王子の時は記憶が無いので分からないが、ドミニク公爵の時も、デヴィットの時も・・・彼等の右腕には聖剣士の証となる紋章が浮かび上がっていた・・・。だけど、マシューには?マシューにはそんな紋章は無かった・・・。

「マシューは・・・ひょっとして・・・正式な聖剣士では無かった・・の・・・?」

だとしたら・・本当に酷い話だ。もしかすると学院側はマシューが人間と魔族のハーフだから紋章が無いのにマシューに聖剣士の役割を押し付けたのかもしれない・・。
もし・・・もし・・マシューが本物の聖剣士だったら?私と聖女と聖剣士の誓いの契りを交わした事になっていたはず・・・。そうしたら・・・マシューは聖剣士の本来の力を発揮して・・・。

「死ななくて済んだかもしれないのに・・・。」
思わず再び涙がこぼれそうになるが・・・まだマシューは死んでしまったとは限らない。絶対に・・・何処かで生きているはず。
ノア先輩を助け出すときに・・・同時にマシューの事も探しだして・・。

その時、私はアラン王子に肝心な事を聞くのを忘れていた事に気が付いた。

そうだ・・・アラン王子はマシューの事を知っている。それに・・『ワールズ・エンド』で対面だってしてるのに・・・。何故・・何故アラン王子はマシューの事
を話してくれなかったのだろう?
こうなったら・・・少々危険かもしれないけれど・・・。

「もう一度・・・もう一度アラン王子に会わなくちゃ・・・。」

私は思わず言葉にしていた。どうすればアラン王子に会う事が出来るのだろう?

明日の夜・・・何かうまい言い訳を考えて・・1人でこっそりアラン王子に会いに行く事は出来るだろうか・・・?
お湯に浸かりながら必死で何か良い方法が無いか考え抜いたけれども・・結局何もアイデアが浮かばなかった—。




2

私がバスルームから出て来ると、ダニエル先輩とマイケルさんはバーカウンターでお酒を飲んでいた。

「あ、ジェシカ!お風呂から上がって来たんだね。うん・・・すごくいい香りがするよ・・・。」

いきなりダニエル先輩が私の元に駆けつけてきて肩に手をまわし、首筋に顔を近付けてスンスンと匂いを嗅いできた。
こ、これは・・・流石に恥ずかしいかも!

「ちょ、ちょっと待って下さい・・・ダニエル先輩。・・もしかして酔ってます?」

何とかダニエル先輩を押しのけて、顔を覗き込むとその目はトロンとして頬は赤みが差している。

「こらこら、ダニエル君。君ねえ・・お嬢さんと距離が近すぎるよ。」

そこへソファに座ってお酒を飲んでいたマイケルさんがこちらを振り向いてダニエルさんに注意する。そして再びお酒を飲みながら、言った。


「うん、やはり最高級クラスのホテルの部屋で飲むお酒は格別だ・・・。」



相変わらずダニエル先輩は酔いが回っているらしく、私の肩に頭を乗せたまま、フフフ・・いい匂い・・等と呟いているし・・・。
あれ・・・?そうえいばデヴィットは・・・?こんな時、真っ先に俺の聖女に勝手に触れるなとか言って来るのに今夜に限ってやけに静かだ。

「ダニエル先輩、デヴィットさんは何処ですか?」
するとその声にダニエル先輩はピクリと反応して顔を上げた。あ・・・目が座ってるよ・・・。

「ジェシカ・・・。あのデヴィットとか言う男は・・・君の聖剣士には違いないだろうけど・・・ベタベタし過ぎだ!全く持って気に入らないっ!絶対・・あの男は・・・君に気があるに決まっている!でも・・駄目だ・・駄目なんだよ・・。だってジェシカは・・僕の・・・僕の恋人なんだからあ~・・・。」

言いながらソファの上に寝そべると終いにシクシクと泣きだす始末。
やだ、ダニエル先輩・・・ツンデレキャラだけじゃなく、甘えん坊な要素も持ち合わせていたんだ・・・っ!

「やれやれ・・お酒に飲まれるなんて・・・情けないなあ・・君は・・・。」

言いながら、マイケルさんは自分のグラスにどんどんお酒を注いでは飲み干していく。うわ・・・すごい、まるでザルのようだ。しかも・・えええっ!見れば空になったボトルが何本もテーブルどころか床にまで転がっている。
ま・・まさか・・・これを1人で・・・?

 そんなマイケルさんに注意を払っている間にダニエル先輩はソファの上で気持ちよさそうに眠ってしまった。

「ダニエル先輩、こんな所で眠ったら風邪を引いてしまいますよ。ほら、起きてベッドまで行きましょうよ。」

揺さぶるも、一向に起きる気配が無い。仕方ない・・・。ベッドルームに余分に毛布があったから持って来て掛けてあげよう。
そして自分が寝る客室から毛布を2枚持って戻ってみると案の定マイケルさんも空のボトルを抱えたままスヤスヤと眠りに就いている。
 私は2人に毛布を掛けてあげると、今度はデヴィットの事が気になってきた。
バーカウンターの部屋でお酒を飲んでいたのはマイケルさんとダニエル先輩のみ。
肝心のデヴィットはいなかった。
ひょっとすると・・・隣のベッドルームでもう眠っているのだろうか・・・?

 コンコン。
ドアをノックしてみる。
「デヴィットさん・・・?」
返事が無い。眠っているのだろうか・・・?
「入りますよ・・・。バスルーム開いたので、よろしければいかがですか・・・?」
言いながらドアノブを回すも、中はもぬけの殻。

「え・・・?デヴィットさん・・・?」

おかしい。・・・部屋にいないなんて・・・一体彼は何処へ行ってしまったのだろう?だけど・・。うん、デヴィットは成人男性だ。私があれこれ心配してみても仕方が無い。ひょっとすると・・出掛けているのかもしれないし・・・。

 私は改めてバーカウンターへ戻って来た。彼等が飲み散らかしたお酒を片付けようと思って居たのだが・・・久々に私もお酒を飲みたくなってしまった。

「ちょっとくらいならいいよね・・・・?」

どんなお酒があるんだろう。ワクワクしながらカウンターを覗き込み・・・危うく悲鳴を上げそうになった。
何とそこには空になったワインボトルを抱きかかえたまま、床にうずくまるように眠っていたデヴィットの姿がそこにあったからだ。

「ちょ、ちょっとデヴィットさん!起きてくださいよっ!駄目じゃ無いですか。こんな所で眠ったりしたら・・・・。」

いくら揺すっても全く起きる気配が無い。しかもデヴィットは聖剣士に選ばれただけあって、背も高く、その身体は筋肉で引き締まっている為にとても私の力ではビクともしない。
それにしても・・・・こんなに酔い潰れていては・・ソフィー達が攻め込んできた時に対応出来るのだろうか?今床の上で転がっているデヴィットを目にして、私はこのまま彼に身辺警護を任せて大丈夫なのだろうか・・?と思わず不安に思ってしまった。

うん、でも・・・・これはある意味チャンスかも・・・?恐らく、ダニエル先輩は学院の寮には当分戻らないだろう。今の学院は神殿もろともソフィーの手に堕ちてしまったと考えて間違いは無さそうだ。そうなるとソフィーのお気にいりのダニエル先輩もいつ、捕らえられるか分かったものじゃ無いし、マイケルさんに至っては家の場所が完全にアラン王子にばれてしまっている。そんな場所へノコノコ帰ってもあっという間に掴まって・・・マイケルさんと引き換えに私を捕えようとするかもしれないだろう。
そう考えると・・・
うん!きっとあと数日は確実にこのホテルに泊まるはず。幸いにも彼等は皆リッチマンのようだし・・・デヴィットのお陰でアラン王子のマーキングも消されてる。
そして今私の目の前で繰り広げられているこの光景・・・・。
全員お酒で酔いつぶれている・・。
と言う事は・・・。
「よし、明日は早めに彼等にお酒を沢山飲ませて酔い潰してしまおう!」
そうすればアラン王子に会いに神殿へ行けそうだ。
思わず口から言葉が飛び出し、慌てて押さえる。・・・・そして私の足元に転がっているデヴィットをチラリと見て・・・。
ホッ・・・良かった・・・。眠ってるようだ。規則正しい寝息が聞こえて来る・・。

 それにしても・・・私はマジマジとデヴィットの顔を見つめた。本当に・・・髪の毛真っ白だなあ・・・。本人はこの髪色とても嫌っているけれど・・・。
「何故嫌うんだろう?こんなに綺麗な髪色なのに・・・・。」
そしてデヴィットの髪の毛にそっと触れてみる・・・が。
その時・・・突然パチリとデヴィットが目を覚まし、至近距離で目と目が合う。
うわ・・本当に瞳の色まで白い色をしている・・・。

「あ・・・ジェシカ・・・か・・?」

アルコールが入っているからか、いつもの白い肌をうっすらと赤く染めてデヴィットは私を見上げた。

「はい、私です。・・・大丈夫ですか・・・?こんなに飲んで・・。」

まともに会話を出来るかどうか分からなかったが、とり合えずデヴィットに話しかけてみた。

「こんな所で眠っては風邪をひきますよ。デヴィットさんに何かあったら困るのは私ですから・・・。もっとお身体をご自愛下さい。」

しかし、デヴィットは何を聞き間違えたのか・・じ~っと私を見つめながら言った。

「ジェシカ・・・今・・・何て言った・・?」

「え・・?今ですか?お身体をご自愛下さいと・・・。」

「そうか・・・俺に愛を下さいって言うんだな・・・?いいだろう。お前になら・・・いや、お前だから・・・俺の愛をくれてやる。」

「え・・・・?」
一体彼は何を言っているのだろう?
そしてデヴィットは戸惑ったままの私の頭をガシイッと掴むと、自分の方に引き寄せて突然強く唇を押し付けて来た—!

く・苦しい・・・。深い口付けとアルコールの香りで頭がクラクラしてくる。
しかしデヴィットは私が苦しんでいるのを知ってか知らずか、お構いなしにますます深い口付けをしてくる。
振りほどこうにもデヴィットの力が強すぎて話にならない。

う・・・も、もう駄目・・・。い・意識が・・・

とその時、ガクリとデヴィットが私の上に崩れ落ちて来た。

「え・・?ちょ、ちょっと!」

何とデヴィットは私を下敷きにしたまま、眠りに就いてしまったのだ。

「お・・・重い・・・・。」

何とか必死にデヴィットの身体から這い出て・・・私は逃げるように一人用のベッドルームに駆け込み・・・鍵を掛けて布団を被った。

う・・。も、もう二度と酔っ払いの前では勘違いさせるような言葉を使うのはやめにしよう・・。私は心に誓った—。
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