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第4章 10 1人じゃないから
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1
「グレイ・・・ルーク・・・・。私の事・・・分かる?」
私の前に現れた2人に・・声を震わせながら尋ねた。見るとグレイとルークの目には涙が浮かんでいる。
「ああ・・勿論分かる・・随分髪の毛が短くなってしまったけど・・・分かるに決まってるさ!」
グレイは涙混じりに返事をし・・・ルークは無言で私を抱きしめて来た。
「おいっ!何抱き付いてるんだっ!」
デヴィットの抗議の声が上がるが、ルークは耳を貸さない。
「お・・・お帰り・・ジェシカ・・・。ずっと・・お前が戻って来るの・・待ってた・・・。」
ルークは私の髪に顔を埋め・・肩を震わせて泣いている。
「ルーク・・・。」
私はそっとルークの背中を撫でると・・・。
「ジェシカから離れろっ!」
今度はダニエル先輩が私とルークを引き離した。そしてそれを腕を組んで満足そうに頷くデヴィットとマイケルさん。・・・う~ん・・・。妙な信頼関係?がこの3人の間で出来上がってしまったような気がする・・・。
「まあまあ、積もる話はあるだろうけどさ、まずは再会を祝ってパーティーをしようよ。俺とお嬢さんとで2人で仲良く協力して『ラフト』を焼いたんだよ?ね。お嬢さん?」
これ見よがしに私の肩を抱き寄せるマイケルさんに全員の怒りの込められた視線が集中する。はあ~・・・これじゃ・・・先が思いやられるなあ・・・・。
6人でテーブルを囲んでの食事会?が始まった。私は彼等を見渡して思った。
皆が思い思いにお酒を飲んで、ラフトを食べてお喋りをしている・・・。
それにしても随分大所帯になったな・・・。最初にこっちに戻ってきた時には一人ぼっちだったのに、そこへデヴィットが現れて、マイケルさんとの再会。そしてダニエル先輩と会えて・・・今はここにグレイとルークがいる。
ああ・・・私はもう1人じゃ無いんだ・・・。
思わず涙ぐんでいると隣に座っているグレイが声を掛けて来た。
「どうしたんだ、ジェシカ?何か・・・あったのか?」
ちなみに誰が私の隣に座るか?で揉めに揉めて男性全員がじゃんけんで席を決めたのは言うまでもない。
「ううん・・・嬉しくて・・・。皆とまたこうして会えたことが・・・魔界の門を抜けて・・・『ワールズ・エンド』でアラン王子とソフィーに追われて・・やっと逃げてきた時・・・本当に一人ぼっちだったから・・・。だけど、デヴィットさんが声を掛けてくれて・・・そして・・こんな風に皆が集まってくれて・・・。本当にうれしくて・・。だ、だって私は『魔界の門』の封印を解いた悪女として・・指名手配されてたから・・絶対、皆私の事を忘れて・・悪女として見られて追われる身となるんじゃないかと思ってたから・・。」
涙混じりに言うと、グレイがギュッと抱きしめて来ると私に言った。
「何言ってるんだっ!俺達・・・いや、少なくとも俺は!お前を一度でも悪女なんて思った事は無いぞ!お前を思い出した時から、ずっと・・会いたいと思っていたんだから・・・。」
その時・・・・
ヒュンッ!
何かが音を立てて飛んできた。
「う、うわ?!な、何だ?!」
見ると・・・飛んできたのは紙皿だった・・・。え?紙皿?一体誰が投げた・・・の・・?すると・・。
「チッ!当たらなかったようだね・・・。君・・・勝手にお嬢さんに触れないでくれないかな?」
なんと!紙皿をグレイに向かって投げてきたのはマイケルさんだった!これには全員目を見開いて驚いている。あのデヴィットでさえ唖然とした顔をしているのだから。
「あ・・・貴方・・・確かマイケル・・・さんでしたか?い。いきなり俺に何するんですかっ!」
グレイが大声で抗議する。おおっ!でも流石はグレイ。王族に仕えるだけあって、礼儀を弁えている。誰かさんと違って・・そしてチラリとデヴィットを見ると、偶然目がい、ニッコリと微笑まれた。
「うん?どうした、ジェシカ。やっぱり聖剣士であるこの俺の隣に座りたくなったのか?」
「駄目だ、デヴィット!一度決めた事だから変えるなんて許さないぞっ!」
さらに隣に座っているダニエル先輩が声を荒げる。
「ジェシカ・・・明日は隣に座ってもいいか?」
ルークがボソリと言うと、おい、ぬけがけするなとデヴィットが文句を言っている。
全く・・男5人揃うとこんなに騒がしくなるものなのだろうか・・・。
夕食後—
「なあ、ジェシカ。本当に俺達は席を外さないといけないのか?」
ホテルのドアから未練たらしく、デヴィットが動こうとしない。
「はい、すみません。どうしてもアラン王子の件で・・グレイとルークから聞きたい事があるので・・・これはアラン王子のプライバシーにも関わる事なので・・申し訳ありませんが、遠慮して下さい。」
「ほら、ジェシカがああ言ってるんだから行くよ!」
そこへダニエル先輩現れてデヴィットの袖を引っ張る。
「マイケルがセント・レイズシティで美味しいお酒を飲める店を紹介してくれるって言ってるんだから・・・。」
え?美味しいお酒?
ピクリと思わず私のアルコールセンサー?が反応する。
「美味しいお酒・・・ですか・・・?あ、あの・・・私も今度連れて行って貰えますか?」
手を組んでダニエル先輩にお願いすると、何故かしたり顔でデビットの顔を一瞬チラリと見る。
「うん、いいよ。ジェシカ。例えお酒に酔ってしまっても・・・僕がちゃんと介抱してあげるからね?あの時のように・・・。」
ダニエル先輩は私の両手を片手ですくいあげ、もう片方の手で頭を撫でながら言う。
「え?あの時って・・?」
「ダニエルッ!ジェシカから手を離せっ!」
嫉妬の入り混じった声を上げるデビット。そこへヒョイと顔を見せたのはマイケルさん。
「お嬢さん、大丈夫。その店はね・・・お土産でお酒を買って来れるんだよ。お嬢さんの為に飛び切り美味しいお酒を買って来るから待っていてね。後で2人きりで飲むかい?」
ああ・・・またマイケルさんのおふざけが始まってしまった。デヴィットとダニエル先輩が恐ろしい目つきでマイケルさんを睨み付けているよ・・。仕方がない。
「はい、お酒のお土産楽しみにしています。後で皆さんと一緒に飲みましょうね?それではすみませんが、席を外していてください。」
私はデヴィットの背中を押しながら言った。
「おい、ジェシカ。押すなって・・・。」
最期までデヴィットの台詞を言わせず、私はドアをバタンと閉めると溜息をついた。
ふう~やれやれ・・・・。これでやっと静かに話が出来る・・・。
「お待たせ、グレイ、ルーク。」
リビングで待たせていた二人に声を掛けながら部屋に入ると、何故か恨めしそうな目で私を見る2人がいた。
「え・・?どうしたの・・2人とも・・・?」
「ジェシカ・・・どういう事なんだ?」
グレイが悲しそうな目で私を見る。
「え?どういう事って・・・?」
「何で・・・人数が増えているんだ?」
ルークは恨めしそうな目で言う。
「え?人数が増えてるって・・・一体何の事?」
分からない。グレイとルークは何を言いたいのだろう?その時、私はある事を思い出した。
「あ、ねえ。そう言えば・・・どうして2人ともここへやってきた時、ほっぺたが真っ赤になってたの?まるで誰かに叩かれたみたい・・に・・・?あ・・あれ・・?」
ますます2人の目が恨めしそうな目に変わって来る。
「ジェシカ・・・俺達・・実は付き合っていた女性がいたんだ・・・。」
ルークが重そうな口を開く。
「え・・ええっ?!そうだったの?おめでとう!」
思わず手を叩いてお祝いの言葉を述べると、たちまち顔色を変える2人。
「ジェシカ・・・それ・・本気で言ってるのか・・?」」
グレイが身体を震わせている。
「う、うん・・・?そうだけ・・ど・・・?」
ドサッ!!
途端に同時にソファに崩れ落ちる2人。
「え?え?一体どうしたの?!2人とも!」
「ハハハ・・・やっぱり全く脈なしか・・・。」
乾いた笑いをするルーク。
「うう・・・やっと別れられたのに・・・おまけにライバルは増えているし・・・。」
ブツブツ口の中で呟いているグレイ。
・・・仕方がない、少しの間・・・そっとしといてあげよう。
「それで・・・アラン王子の事なんだけど・・・2人の知っている情報を教えて貰える?」
ようやく落ち着きを取り戻したグレイとルークに尋ねてみた。
「知ってるも何も・・・俺達もあまり詳しくは分からないんだ。」
グレイが言葉を濁らせる。え?どういうことなの?
「アラン王子はソフィーが聖女になってからはもう一切授業に顔を出す事をやめてしまったんだ。寮にも戻っていないし・・今は殆ど神殿に軟禁状態にされている。」
ルークの言葉に私は驚いた。
「え・・ええっ?!アラン王子が・・・?!」
何てことだろう。私は操られている事は知っていたけれども、まさか軟禁状態に遭っていたなんて思いもしなかった!
「ソフィーは・・・アラン王子が中々完全に自分の暗示にかからないから・・アラン王子に・・。む、無理やり・・・か・・・体の関係を・・・・。」
グレイはそこまで言いかけ、後は言葉にならなかった。
「そ、そんな・・・。」
そう言えばアラン王子は言っていた。確かにソフィーとは通じているが、一度も紋章が光った事は無いと—。
「アラン王子は・・物凄く苦しんでいた・・・。そして・・ジェシカの事を口にしていたんだ・・。」
ルークの言葉にドキリとする。
「え・・・?アラン王子・・・が・・・?」
そう言えば神殿の庭園で・・アラン王子は私の事をすごく求めていた。逃げようとしても手を離してはくれなかった・・・。そこまでしてアラン王子は私を・・・?
「頼む!ジェシカッ!アラン王子を・・・助けてくれっ!俺は・・・あんな哀れな王子の姿をこれ以上は見たくないっ!あのままだとアラン王子は完全にソフィーの手に堕ちてしまうかもしれない・・・。ドミニク公爵のように・・。だ、だけど・・まだアラン王子が正気でいられるのは・・・それだけジェシカを思っているからなんだ!」
グレイが涙混じりに訴えて来る。
「ああ。グレイの言う通りだ・・・。アラン王子はソフィーにこう話していた。自分の心はジェシカのものだと・・・!」
ルークも・・・泣いていた。泣いてアラン王子の事を・・伝えて来た。
だ・・・だけど・・・私に・・・アラン王子を救う事なんて出来るはずは・・・!
「アラン王子とは・・・もう一度会いたいとは思っていたけれども・・アラン王子は夜の間の数時間だけがソフィーの呪縛から逃れられると言っていたの。その時間に・・ソフィーの目を盗んで会えれば・・・話をするくらいなら・・・出来るかもしれないけど・・・。」
でも、果たして・・・それでアラン王子の呪縛を解く事が出来るのだろうか・・?
第一・・もう一度デヴィットが私とアラン王子を会わせてくれるだろうか?いや・・きっとそれは無い。
残る方法はただ一つ・・・。
「ねえ・・・グレイ、ルーク・・・。私・・あの神殿に・・潜りこむ事・・出来ないかな・・?」
そして2人の顔を交互に見つめた—
2
「駄目だっ!そんなの認める訳が無いだろうっ?!」
開口一番・・・デヴィットが言った。ああ・・・やっぱりね、そう言うと思ったよ。
「ま、待って下さい!え・・と・・デヴィットさん。俺達も中には忍び込んだことがあるんですよ。しかも驚くぐらいにあっさりと簡単に。」
グレイが興奮しているデヴィットを必死に宥めるように説得している。
「お前達はいい!魔法も使えるし剣だって使えるじゃ無いか。だがジェシカはどうだ?魔法も使えないし、剣だって使えない。いや、そもそもこの細腕じゃ剣を持つ事だって不可能だ。こんなか弱い女を敵の本拠地に・・・しかもあの薄汚い聖女が狙ってるんだぞ・・・?そんな場所へ俺の聖女を・・・ジェシカをやれるかっ!」
デヴィットは私を羽交い絞めにしながらグレイに抗議した。く・苦しい・・・。
「ちょっと!どさくさに紛れてジェシカに抱き付くなっ!この獣めっ!」
ダニエル先輩が喚く。
「煩い!俺は獣なんかじゃないっ!」
言い返すデヴィット。
「ま、待って下さいっ!わ・・私の話も聞いて下さいっ!」
必死でデヴィットの腕から逃れると言った。
「何も私1人で神殿に潜り込もうと思っているつもりではありません。」
「そんなのは当たり前だ。」
ムットしたように言うデヴィット。
「あの・・・ここにいる全員で・・・神殿に潜り込めたらなって思うんですけど・・・。あ、でも・・マイケルさんは残っていて下さい。」
「ええ~お嬢さん・・・。俺は行ったら駄目なのかい?」
すかさず反応するマイケルさん。
「はい・・・マイケルさんは私同様・・魔法を使えませんから・・・。私達と一緒にいたら・・・反って危険だと思うので。」
「う~ん・・・。お嬢さんがそう言うなら・・・いいよ、君の言うとおりにするね。」
「はい、ありがとうございます。」
「神殿の兵士の中には兜を身に着けている兵士が何人もいるんだ。その連中を背後から襲って鎧から兜まで全て奪って変装すればばれないはずだ。現に俺達は誰にも気付かれる事無く神殿の最上階・・・ソフィーとアラン王子の元へ辿り着く事が出来ましたからね。」
ルークが言う。
「え?何?そうだったの?だったらどうしてアラン王子を連れて逃げなかったのさ。」
ダニエル先輩が不思議そうに首をかしげる。
「う・・・・。」
「そ、それは・・・。」
2人は顔を赤らめ、口を閉ざしてしまった。その態度を見て私はピンときた。
もしかしてさっき2人が話していたのは・・・そこできっとソフィーとアラン王子の行為を目にしてしまったんだ・・・。
「何だ?何故黙るんだ?ちゃんと説明しろ。」
ああっ!デヴィットが2人に迫っている・・・。
「ま、まあまあ。タイミングが悪くてきっと助け出せなかったんですよ。ね?グレイ、ルーク。」
2人の代わりに私がデヴィットに応えると言った。
「神殿には数多くの兵士が集められているので・・・全員の顔と名前の把握なんて不可能だと思うんです。だから・・・紛れ込みやすいかなって思って・・・。駄目・・・ですか・・?」
上目遣いにデヴィットを見る。デヴィットさえ陥落する事が出来れば・・・後は絶対になんとかなるはず・・・
「う・・・そ、そんな目で・・お、俺を見るな・・・っ!」
デヴィットは私から顔を背けようとするも・・・。
「あああっ!分かった!俺の負けだ!いいだろう・・全員で・・あ、マイケルは留守番で神殿に乗り込むぞっ!」
とうとう観念したのか、デヴィットが折れた。やった―!これでアラン王子に近付く事が出来る・・・。
「まずはやみくもに神殿に乗り込んでも駄目だ。と言う訳で・・・。」
デヴィットはグレイとルークを見ると言った。
「お前らはもう寮に帰れ。門限があるだろう?」
言われてみると確かに・・・時計の針はもうそろそろ夜の10時になろうとしている。
「ええ?!そ、そんなっ!」
「何故、俺達だけ?俺達もここに泊めて下さいよ。」
グレイ、ルークが交互に泣きつく。
「駄目だっ!この部屋は4人で借りる契約を結んでいるんだ。お前達は頭数に入っていない。」
頑なに2人を拒絶するデヴィット。グレイとルークが必死にデヴィットに縋りついている。
しかし・・・アラン王子には虐げられ・・・デヴィットには逆らえず・・・とことん不運な彼等だなあ・・。
「まあまあ、別に構わないじゃ無いか。ほら、この部屋はこんなに広いんだし・・彼等にはソファで寝て貰えばいいじゃ無いか。」
ニコニコ顔で言うマイケルさん。
・・・じゃんけんとかクジ引きとかで誰がベッドを使えるかは決めないんですね・・・。
「ええ、俺はソファでも構いません!」
「この部屋に泊れるなら何処に寝たって構いません!」
グレイとルークが即答する。ええええ?!いいの?そんな簡単に決めちゃって?!
「グ、グレイ・・。ルーク・・・。貴方たちは・・それでもいいの?」
「ああ、お前の側に居られれば何処で寝たって構わないさ。」
グレイは笑顔で答える。
「そ、そうだ・・・。グレイの・・言う通り・・だ。」
ルークは頬を赤く染めながら言う。
「おい、お前達。ソフィーは俺の聖女なんだ。半径1m以上近付くなよ。」
私を腕に囲い込みながらデヴィットが彼等をジロリと見て威嚇する。
う~ん・・・デヴィットは・・・アラン王子に性格が似ている気がする。だから・・・きっとあの2人もデヴィットに逆らえないんだろうな・・・。
その時、不意に声をかけられた。
「お嬢さん、さっき話していた美味しいお酒を買って来たよ。早速2人で飲んでみないかい?」
「マイケルさんがグラスをを持って立っていた。」
「うわあ・・。本当に買って来てくれたんですね?どうもありがとうございます。」
笑顔で答えると、ダニエル先輩が言った。
「あ、何?2人だけで飲むつもりなの?僕だって当然一緒に飲むからね!」
そして私の手を引くとリビングルームへ移動し・・・ソファに座った。
「あの・・・ダニエル先輩・・。」
「うん?何だい、ジェシカ。」
「何故・・ダニエル先輩の膝の上に乗っているのでしょうか・・?」
「フフ・・・。それはね、僕がそうしたいからだよ。ね、ジェシカ・・・。」
私の耳元に息を吹きかけながらダニエル先輩が言う。こ・・・これはまさか・・すでにダニエル先輩は酔っているのでは・・・?
「あ!ダニエル!お前・・・俺が目を離した隙に・・・ジェシカに何をしてるんだっ?」
声が上がった方向を見ると・・・やはりデヴィットだった。グラスを用意していたのだろうか?デヴィットの持っている銀のトレーにはグラスが沢山つみあげあれている。
おや・・・意外とデヴィットは世話好きなのかもしれない。
「ほら、早くジェシカを降ろせ。と言うか、お前もお前だ。何故素直にダニエルの膝の上に乗るんだ?乗るなら俺の膝の上にして置け。いいか?分かったな?」
そしてデヴィットは言いたい事だけ言うと、すぐに奥のカウンターへ引っ込んでしまった。
うん?何だかどさくさに紛れて妙な事を言われた気がしたけど・・聞かなかった事にしよう。
「え~。と言う訳で、ダニエル先輩。膝から降ろして頂けませんか?」
しかしダニエル先輩は私の腰に手を回し、しっかりホールドして離そうとしない。
そして潤んだ瞳で私を見つめると言った。
「いいじゃないか・・・。だって・・・ずっと君が側にいなくて・・・寂しかったんだよ・・。」
「え・・?」
言いながら徐々にダニエル先輩が顔を近付けてきて・・・・。
「はいはい~。そこまでだよ。」
突然マイケルさんがダニエル先輩の腕を振りほどき、私を引き剥がした。
「何するんだよ!折角いいところだったのに!」
ダニエル先輩が怒って抗議するとマイケルさんは言った。
「はいはい、抜け駆けは禁止だよ。さあ、お嬢さん。今彼等に手伝って貰っておつまみを沢山作っているからね~。」
言いながらマイケルさんはテーブルに次々と料理を並べていく。
「す・・すごい!いつの間に用意していたんですか?」
「大した事ないよ、これ位・・・。俺はね、お嬢さん。料理を作る事が大好きなんだ。」
「すごいですね・・尊敬します!」
私は両手を胸の前で組んでマイケルさんを見上げると、ダニエル先輩は面白くなさそうな顔をして何やらブツブツ独り言を言ってる。
「あの、私もお手伝いしますよ。」
「うん、それじゃ出来上がった料理を運んでもらおうかな?」
「はい!」
この日の夜は皆でお酒を飲んだり、食べたりと、おお賑わいの夜となった。
そして、夜は更けてゆく—。
「グレイ・・・ルーク・・・・。私の事・・・分かる?」
私の前に現れた2人に・・声を震わせながら尋ねた。見るとグレイとルークの目には涙が浮かんでいる。
「ああ・・勿論分かる・・随分髪の毛が短くなってしまったけど・・・分かるに決まってるさ!」
グレイは涙混じりに返事をし・・・ルークは無言で私を抱きしめて来た。
「おいっ!何抱き付いてるんだっ!」
デヴィットの抗議の声が上がるが、ルークは耳を貸さない。
「お・・・お帰り・・ジェシカ・・・。ずっと・・お前が戻って来るの・・待ってた・・・。」
ルークは私の髪に顔を埋め・・肩を震わせて泣いている。
「ルーク・・・。」
私はそっとルークの背中を撫でると・・・。
「ジェシカから離れろっ!」
今度はダニエル先輩が私とルークを引き離した。そしてそれを腕を組んで満足そうに頷くデヴィットとマイケルさん。・・・う~ん・・・。妙な信頼関係?がこの3人の間で出来上がってしまったような気がする・・・。
「まあまあ、積もる話はあるだろうけどさ、まずは再会を祝ってパーティーをしようよ。俺とお嬢さんとで2人で仲良く協力して『ラフト』を焼いたんだよ?ね。お嬢さん?」
これ見よがしに私の肩を抱き寄せるマイケルさんに全員の怒りの込められた視線が集中する。はあ~・・・これじゃ・・・先が思いやられるなあ・・・・。
6人でテーブルを囲んでの食事会?が始まった。私は彼等を見渡して思った。
皆が思い思いにお酒を飲んで、ラフトを食べてお喋りをしている・・・。
それにしても随分大所帯になったな・・・。最初にこっちに戻ってきた時には一人ぼっちだったのに、そこへデヴィットが現れて、マイケルさんとの再会。そしてダニエル先輩と会えて・・・今はここにグレイとルークがいる。
ああ・・・私はもう1人じゃ無いんだ・・・。
思わず涙ぐんでいると隣に座っているグレイが声を掛けて来た。
「どうしたんだ、ジェシカ?何か・・・あったのか?」
ちなみに誰が私の隣に座るか?で揉めに揉めて男性全員がじゃんけんで席を決めたのは言うまでもない。
「ううん・・・嬉しくて・・・。皆とまたこうして会えたことが・・・魔界の門を抜けて・・・『ワールズ・エンド』でアラン王子とソフィーに追われて・・やっと逃げてきた時・・・本当に一人ぼっちだったから・・・。だけど、デヴィットさんが声を掛けてくれて・・・そして・・こんな風に皆が集まってくれて・・・。本当にうれしくて・・。だ、だって私は『魔界の門』の封印を解いた悪女として・・指名手配されてたから・・絶対、皆私の事を忘れて・・悪女として見られて追われる身となるんじゃないかと思ってたから・・。」
涙混じりに言うと、グレイがギュッと抱きしめて来ると私に言った。
「何言ってるんだっ!俺達・・・いや、少なくとも俺は!お前を一度でも悪女なんて思った事は無いぞ!お前を思い出した時から、ずっと・・会いたいと思っていたんだから・・・。」
その時・・・・
ヒュンッ!
何かが音を立てて飛んできた。
「う、うわ?!な、何だ?!」
見ると・・・飛んできたのは紙皿だった・・・。え?紙皿?一体誰が投げた・・・の・・?すると・・。
「チッ!当たらなかったようだね・・・。君・・・勝手にお嬢さんに触れないでくれないかな?」
なんと!紙皿をグレイに向かって投げてきたのはマイケルさんだった!これには全員目を見開いて驚いている。あのデヴィットでさえ唖然とした顔をしているのだから。
「あ・・・貴方・・・確かマイケル・・・さんでしたか?い。いきなり俺に何するんですかっ!」
グレイが大声で抗議する。おおっ!でも流石はグレイ。王族に仕えるだけあって、礼儀を弁えている。誰かさんと違って・・そしてチラリとデヴィットを見ると、偶然目がい、ニッコリと微笑まれた。
「うん?どうした、ジェシカ。やっぱり聖剣士であるこの俺の隣に座りたくなったのか?」
「駄目だ、デヴィット!一度決めた事だから変えるなんて許さないぞっ!」
さらに隣に座っているダニエル先輩が声を荒げる。
「ジェシカ・・・明日は隣に座ってもいいか?」
ルークがボソリと言うと、おい、ぬけがけするなとデヴィットが文句を言っている。
全く・・男5人揃うとこんなに騒がしくなるものなのだろうか・・・。
夕食後—
「なあ、ジェシカ。本当に俺達は席を外さないといけないのか?」
ホテルのドアから未練たらしく、デヴィットが動こうとしない。
「はい、すみません。どうしてもアラン王子の件で・・グレイとルークから聞きたい事があるので・・・これはアラン王子のプライバシーにも関わる事なので・・申し訳ありませんが、遠慮して下さい。」
「ほら、ジェシカがああ言ってるんだから行くよ!」
そこへダニエル先輩現れてデヴィットの袖を引っ張る。
「マイケルがセント・レイズシティで美味しいお酒を飲める店を紹介してくれるって言ってるんだから・・・。」
え?美味しいお酒?
ピクリと思わず私のアルコールセンサー?が反応する。
「美味しいお酒・・・ですか・・・?あ、あの・・・私も今度連れて行って貰えますか?」
手を組んでダニエル先輩にお願いすると、何故かしたり顔でデビットの顔を一瞬チラリと見る。
「うん、いいよ。ジェシカ。例えお酒に酔ってしまっても・・・僕がちゃんと介抱してあげるからね?あの時のように・・・。」
ダニエル先輩は私の両手を片手ですくいあげ、もう片方の手で頭を撫でながら言う。
「え?あの時って・・?」
「ダニエルッ!ジェシカから手を離せっ!」
嫉妬の入り混じった声を上げるデビット。そこへヒョイと顔を見せたのはマイケルさん。
「お嬢さん、大丈夫。その店はね・・・お土産でお酒を買って来れるんだよ。お嬢さんの為に飛び切り美味しいお酒を買って来るから待っていてね。後で2人きりで飲むかい?」
ああ・・・またマイケルさんのおふざけが始まってしまった。デヴィットとダニエル先輩が恐ろしい目つきでマイケルさんを睨み付けているよ・・。仕方がない。
「はい、お酒のお土産楽しみにしています。後で皆さんと一緒に飲みましょうね?それではすみませんが、席を外していてください。」
私はデヴィットの背中を押しながら言った。
「おい、ジェシカ。押すなって・・・。」
最期までデヴィットの台詞を言わせず、私はドアをバタンと閉めると溜息をついた。
ふう~やれやれ・・・・。これでやっと静かに話が出来る・・・。
「お待たせ、グレイ、ルーク。」
リビングで待たせていた二人に声を掛けながら部屋に入ると、何故か恨めしそうな目で私を見る2人がいた。
「え・・?どうしたの・・2人とも・・・?」
「ジェシカ・・・どういう事なんだ?」
グレイが悲しそうな目で私を見る。
「え?どういう事って・・・?」
「何で・・・人数が増えているんだ?」
ルークは恨めしそうな目で言う。
「え?人数が増えてるって・・・一体何の事?」
分からない。グレイとルークは何を言いたいのだろう?その時、私はある事を思い出した。
「あ、ねえ。そう言えば・・・どうして2人ともここへやってきた時、ほっぺたが真っ赤になってたの?まるで誰かに叩かれたみたい・・に・・・?あ・・あれ・・?」
ますます2人の目が恨めしそうな目に変わって来る。
「ジェシカ・・・俺達・・実は付き合っていた女性がいたんだ・・・。」
ルークが重そうな口を開く。
「え・・ええっ?!そうだったの?おめでとう!」
思わず手を叩いてお祝いの言葉を述べると、たちまち顔色を変える2人。
「ジェシカ・・・それ・・本気で言ってるのか・・?」」
グレイが身体を震わせている。
「う、うん・・・?そうだけ・・ど・・・?」
ドサッ!!
途端に同時にソファに崩れ落ちる2人。
「え?え?一体どうしたの?!2人とも!」
「ハハハ・・・やっぱり全く脈なしか・・・。」
乾いた笑いをするルーク。
「うう・・・やっと別れられたのに・・・おまけにライバルは増えているし・・・。」
ブツブツ口の中で呟いているグレイ。
・・・仕方がない、少しの間・・・そっとしといてあげよう。
「それで・・・アラン王子の事なんだけど・・・2人の知っている情報を教えて貰える?」
ようやく落ち着きを取り戻したグレイとルークに尋ねてみた。
「知ってるも何も・・・俺達もあまり詳しくは分からないんだ。」
グレイが言葉を濁らせる。え?どういうことなの?
「アラン王子はソフィーが聖女になってからはもう一切授業に顔を出す事をやめてしまったんだ。寮にも戻っていないし・・今は殆ど神殿に軟禁状態にされている。」
ルークの言葉に私は驚いた。
「え・・ええっ?!アラン王子が・・・?!」
何てことだろう。私は操られている事は知っていたけれども、まさか軟禁状態に遭っていたなんて思いもしなかった!
「ソフィーは・・・アラン王子が中々完全に自分の暗示にかからないから・・アラン王子に・・。む、無理やり・・・か・・・体の関係を・・・・。」
グレイはそこまで言いかけ、後は言葉にならなかった。
「そ、そんな・・・。」
そう言えばアラン王子は言っていた。確かにソフィーとは通じているが、一度も紋章が光った事は無いと—。
「アラン王子は・・物凄く苦しんでいた・・・。そして・・ジェシカの事を口にしていたんだ・・。」
ルークの言葉にドキリとする。
「え・・・?アラン王子・・・が・・・?」
そう言えば神殿の庭園で・・アラン王子は私の事をすごく求めていた。逃げようとしても手を離してはくれなかった・・・。そこまでしてアラン王子は私を・・・?
「頼む!ジェシカッ!アラン王子を・・・助けてくれっ!俺は・・・あんな哀れな王子の姿をこれ以上は見たくないっ!あのままだとアラン王子は完全にソフィーの手に堕ちてしまうかもしれない・・・。ドミニク公爵のように・・。だ、だけど・・まだアラン王子が正気でいられるのは・・・それだけジェシカを思っているからなんだ!」
グレイが涙混じりに訴えて来る。
「ああ。グレイの言う通りだ・・・。アラン王子はソフィーにこう話していた。自分の心はジェシカのものだと・・・!」
ルークも・・・泣いていた。泣いてアラン王子の事を・・伝えて来た。
だ・・・だけど・・・私に・・・アラン王子を救う事なんて出来るはずは・・・!
「アラン王子とは・・・もう一度会いたいとは思っていたけれども・・アラン王子は夜の間の数時間だけがソフィーの呪縛から逃れられると言っていたの。その時間に・・ソフィーの目を盗んで会えれば・・・話をするくらいなら・・・出来るかもしれないけど・・・。」
でも、果たして・・・それでアラン王子の呪縛を解く事が出来るのだろうか・・?
第一・・もう一度デヴィットが私とアラン王子を会わせてくれるだろうか?いや・・きっとそれは無い。
残る方法はただ一つ・・・。
「ねえ・・・グレイ、ルーク・・・。私・・あの神殿に・・潜りこむ事・・出来ないかな・・?」
そして2人の顔を交互に見つめた—
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「駄目だっ!そんなの認める訳が無いだろうっ?!」
開口一番・・・デヴィットが言った。ああ・・・やっぱりね、そう言うと思ったよ。
「ま、待って下さい!え・・と・・デヴィットさん。俺達も中には忍び込んだことがあるんですよ。しかも驚くぐらいにあっさりと簡単に。」
グレイが興奮しているデヴィットを必死に宥めるように説得している。
「お前達はいい!魔法も使えるし剣だって使えるじゃ無いか。だがジェシカはどうだ?魔法も使えないし、剣だって使えない。いや、そもそもこの細腕じゃ剣を持つ事だって不可能だ。こんなか弱い女を敵の本拠地に・・・しかもあの薄汚い聖女が狙ってるんだぞ・・・?そんな場所へ俺の聖女を・・・ジェシカをやれるかっ!」
デヴィットは私を羽交い絞めにしながらグレイに抗議した。く・苦しい・・・。
「ちょっと!どさくさに紛れてジェシカに抱き付くなっ!この獣めっ!」
ダニエル先輩が喚く。
「煩い!俺は獣なんかじゃないっ!」
言い返すデヴィット。
「ま、待って下さいっ!わ・・私の話も聞いて下さいっ!」
必死でデヴィットの腕から逃れると言った。
「何も私1人で神殿に潜り込もうと思っているつもりではありません。」
「そんなのは当たり前だ。」
ムットしたように言うデヴィット。
「あの・・・ここにいる全員で・・・神殿に潜り込めたらなって思うんですけど・・・。あ、でも・・マイケルさんは残っていて下さい。」
「ええ~お嬢さん・・・。俺は行ったら駄目なのかい?」
すかさず反応するマイケルさん。
「はい・・・マイケルさんは私同様・・魔法を使えませんから・・・。私達と一緒にいたら・・・反って危険だと思うので。」
「う~ん・・・。お嬢さんがそう言うなら・・・いいよ、君の言うとおりにするね。」
「はい、ありがとうございます。」
「神殿の兵士の中には兜を身に着けている兵士が何人もいるんだ。その連中を背後から襲って鎧から兜まで全て奪って変装すればばれないはずだ。現に俺達は誰にも気付かれる事無く神殿の最上階・・・ソフィーとアラン王子の元へ辿り着く事が出来ましたからね。」
ルークが言う。
「え?何?そうだったの?だったらどうしてアラン王子を連れて逃げなかったのさ。」
ダニエル先輩が不思議そうに首をかしげる。
「う・・・・。」
「そ、それは・・・。」
2人は顔を赤らめ、口を閉ざしてしまった。その態度を見て私はピンときた。
もしかしてさっき2人が話していたのは・・・そこできっとソフィーとアラン王子の行為を目にしてしまったんだ・・・。
「何だ?何故黙るんだ?ちゃんと説明しろ。」
ああっ!デヴィットが2人に迫っている・・・。
「ま、まあまあ。タイミングが悪くてきっと助け出せなかったんですよ。ね?グレイ、ルーク。」
2人の代わりに私がデヴィットに応えると言った。
「神殿には数多くの兵士が集められているので・・・全員の顔と名前の把握なんて不可能だと思うんです。だから・・・紛れ込みやすいかなって思って・・・。駄目・・・ですか・・?」
上目遣いにデヴィットを見る。デヴィットさえ陥落する事が出来れば・・・後は絶対になんとかなるはず・・・
「う・・・そ、そんな目で・・お、俺を見るな・・・っ!」
デヴィットは私から顔を背けようとするも・・・。
「あああっ!分かった!俺の負けだ!いいだろう・・全員で・・あ、マイケルは留守番で神殿に乗り込むぞっ!」
とうとう観念したのか、デヴィットが折れた。やった―!これでアラン王子に近付く事が出来る・・・。
「まずはやみくもに神殿に乗り込んでも駄目だ。と言う訳で・・・。」
デヴィットはグレイとルークを見ると言った。
「お前らはもう寮に帰れ。門限があるだろう?」
言われてみると確かに・・・時計の針はもうそろそろ夜の10時になろうとしている。
「ええ?!そ、そんなっ!」
「何故、俺達だけ?俺達もここに泊めて下さいよ。」
グレイ、ルークが交互に泣きつく。
「駄目だっ!この部屋は4人で借りる契約を結んでいるんだ。お前達は頭数に入っていない。」
頑なに2人を拒絶するデヴィット。グレイとルークが必死にデヴィットに縋りついている。
しかし・・・アラン王子には虐げられ・・・デヴィットには逆らえず・・・とことん不運な彼等だなあ・・。
「まあまあ、別に構わないじゃ無いか。ほら、この部屋はこんなに広いんだし・・彼等にはソファで寝て貰えばいいじゃ無いか。」
ニコニコ顔で言うマイケルさん。
・・・じゃんけんとかクジ引きとかで誰がベッドを使えるかは決めないんですね・・・。
「ええ、俺はソファでも構いません!」
「この部屋に泊れるなら何処に寝たって構いません!」
グレイとルークが即答する。ええええ?!いいの?そんな簡単に決めちゃって?!
「グ、グレイ・・。ルーク・・・。貴方たちは・・それでもいいの?」
「ああ、お前の側に居られれば何処で寝たって構わないさ。」
グレイは笑顔で答える。
「そ、そうだ・・・。グレイの・・言う通り・・だ。」
ルークは頬を赤く染めながら言う。
「おい、お前達。ソフィーは俺の聖女なんだ。半径1m以上近付くなよ。」
私を腕に囲い込みながらデヴィットが彼等をジロリと見て威嚇する。
う~ん・・・デヴィットは・・・アラン王子に性格が似ている気がする。だから・・・きっとあの2人もデヴィットに逆らえないんだろうな・・・。
その時、不意に声をかけられた。
「お嬢さん、さっき話していた美味しいお酒を買って来たよ。早速2人で飲んでみないかい?」
「マイケルさんがグラスをを持って立っていた。」
「うわあ・・。本当に買って来てくれたんですね?どうもありがとうございます。」
笑顔で答えると、ダニエル先輩が言った。
「あ、何?2人だけで飲むつもりなの?僕だって当然一緒に飲むからね!」
そして私の手を引くとリビングルームへ移動し・・・ソファに座った。
「あの・・・ダニエル先輩・・。」
「うん?何だい、ジェシカ。」
「何故・・ダニエル先輩の膝の上に乗っているのでしょうか・・?」
「フフ・・・。それはね、僕がそうしたいからだよ。ね、ジェシカ・・・。」
私の耳元に息を吹きかけながらダニエル先輩が言う。こ・・・これはまさか・・すでにダニエル先輩は酔っているのでは・・・?
「あ!ダニエル!お前・・・俺が目を離した隙に・・・ジェシカに何をしてるんだっ?」
声が上がった方向を見ると・・・やはりデヴィットだった。グラスを用意していたのだろうか?デヴィットの持っている銀のトレーにはグラスが沢山つみあげあれている。
おや・・・意外とデヴィットは世話好きなのかもしれない。
「ほら、早くジェシカを降ろせ。と言うか、お前もお前だ。何故素直にダニエルの膝の上に乗るんだ?乗るなら俺の膝の上にして置け。いいか?分かったな?」
そしてデヴィットは言いたい事だけ言うと、すぐに奥のカウンターへ引っ込んでしまった。
うん?何だかどさくさに紛れて妙な事を言われた気がしたけど・・聞かなかった事にしよう。
「え~。と言う訳で、ダニエル先輩。膝から降ろして頂けませんか?」
しかしダニエル先輩は私の腰に手を回し、しっかりホールドして離そうとしない。
そして潤んだ瞳で私を見つめると言った。
「いいじゃないか・・・。だって・・・ずっと君が側にいなくて・・・寂しかったんだよ・・。」
「え・・?」
言いながら徐々にダニエル先輩が顔を近付けてきて・・・・。
「はいはい~。そこまでだよ。」
突然マイケルさんがダニエル先輩の腕を振りほどき、私を引き剥がした。
「何するんだよ!折角いいところだったのに!」
ダニエル先輩が怒って抗議するとマイケルさんは言った。
「はいはい、抜け駆けは禁止だよ。さあ、お嬢さん。今彼等に手伝って貰っておつまみを沢山作っているからね~。」
言いながらマイケルさんはテーブルに次々と料理を並べていく。
「す・・すごい!いつの間に用意していたんですか?」
「大した事ないよ、これ位・・・。俺はね、お嬢さん。料理を作る事が大好きなんだ。」
「すごいですね・・尊敬します!」
私は両手を胸の前で組んでマイケルさんを見上げると、ダニエル先輩は面白くなさそうな顔をして何やらブツブツ独り言を言ってる。
「あの、私もお手伝いしますよ。」
「うん、それじゃ出来上がった料理を運んでもらおうかな?」
「はい!」
この日の夜は皆でお酒を飲んだり、食べたりと、おお賑わいの夜となった。
そして、夜は更けてゆく—。
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