目覚めれば、自作小説の悪女になっておりました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

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第5章 4 夢の続き

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1

明け方の5時少し過ぎ・・・・。私はまんじりともせず天井を見つめていた。 
何だか落ち着いて眠れない・・・。
でもそれは無理もないかもしれない。私はチラリと頭を動かして隣を向いた。
だってそこには中世的で美しい顔立ちのダニエル先輩が持ちよさそうに眠っているのだから。
そしてもう一つ隣のベッドには何故か犬猿の仲のデヴィットとアラン王子の2人が同じベッドで眠っている。
幾らキングサイズのベッドだからと言って、2人とも背が高いし、お互いになるべく距離を取ろうとギリギリに離れて眠っているから違和感極まりない。
う~ん・・・中々シュールな光景だ・・・。


 何故こんな事になってしまっているかと言うと・・・・・・。
時は今から1時間程遡る―。



「もう駄目だ、今夜からはジェシカを1人で眠らせるのは危険過ぎる。何せマリウスの前にはドミニクの侵入まで許してしまっていたのだから。くそっ!あの男・・・俺の眼前でジェシカに無理やりキスして・・・っ!」

ギリギリと歯を食いしばり悔しそうに言うデヴイットの言葉にまたもや全員が驚く事になった。

「何だって?ジェシカにキスだって?!」

アラン王子は顔を真っ赤にして憤慨しているし、ダニエル先輩もジェシカは僕の物なのに!と怒っている

「「そ、そんな・・・ドミニク公爵までジェシカを・・・。」」

またまた綺麗にハモるグレイとルーク。うん、最早・・・この2人のシンクロ率は何も言わないでおこう。
マイケルさんもお嬢さんがここまで異性からモテまくってるとは思わなかったと妙に感心している。
ああ・・・どうしてデヴィットは後先の事を考えずに思った事を何でも口走ってしまうのだろうか?いや、そもそも彼の辞書には「恥ずかしい」とう単語が存在していないのかもしれない。

「と言う訳だから、ジェシカ。お前は今夜から俺と一緒に寝ろ。何と言っても俺はお前の聖剣士だからな。お前の隣で寝るのは最早俺しか適任者はいない。近くで眠っていれば、例えどんな敵が来ようとも俺が必ず守ってやるから。」

そう言って、私の肩を抱くと寝室に連れて行こうとし・・・。

「ちょ、ちょっと待って下さいッ!デヴィットさんっ!」

慌ててデヴィットを見上げると、私達の前に両手を広げたアラン王子が現れた。

「何を言ってるっ!俺もお前と同様ジェシカの聖剣士だっ!勝手に物事を決めるなッ!」

「そうだぞ、デヴィットッ!これでは幾ら何でも公平性に欠けるッ!」

ダニエル先輩も私達の前に立ち塞がった。

「あの~これからは・・仲良くしていくのではありませんでしたっけ・・・?」

私が声を掛けるも3人の耳には届かない。

「よし・・。」

デヴィットが言う。

「ああ、そうだな。」

アラン王子。

「僕は構わないよ。」

ダニエル先輩。

3人が声を揃えて言う。

「「「じゃんけんで勝負だっ!!」」」

「「あの・・・俺達もそのじゃんけんに・・・。」」

グレイとルークが声を掛けると・・・。

「「お前たちはマイケルと同じ部屋で寝ろ。」」

綺麗に声を揃えるデヴィットとアラン王子。
そして2人は肩を落としてすごすごと隣の寝室へ移動していく。あ~あ・・・。気の毒に・・。あの2人からすれば俺様王子が2人に増えたようなものなのだろうな。

グレイとルークが引っ込むと、デヴィットが言った。

「よ~し・・・いいか、一番初めに勝った奴がジェシカと同じベッドで寝るんだ。負けた2人は隣のベッドで寝る。いいな?」

「ああ。異論は無い。」

「いいよ、僕はじゃんけんが強いんだからね。」

アラン王子に続いてダニエル先輩が返事をする。

「よ~し、それではいくぞ・・・。」

デヴィットの掛け声と共に・・・。

「「「じゃ~んけ~ん・・・・!!!」」」


 そして今に至る。
結局言葉通り、一番に勝ったのはダニエル先輩でデヴィットとアラン王子は2人で一つのベッドに眠る事になったのだ。

「良かった~。ジェシカと同じベッドで眠れて。ほら、あの時ジェシカの寮の部屋で2人で一緒に眠った時の夜を思いだすね。」

わざとなのか、無意識なのかダニエル先輩がとんでもない事を言う。

「な・・・何いいっ?!そ、それは・・・本当なのか、ジェシカッ!!」

デヴィットが恐ろしい位の勢いで私に迫って来た。

「ジェシカッ!お前・・・やはりダニエルの・・・恋人だったのか?!」

アラン王子は情けない声で背後に立つ。

しかし、ダニエル先輩は私の肩を抱くと言った。

「ほらほら、負けた2人は隣のベッドで男2人仲良く寝たらどうだい?さ、ジェシカ。それじゃ一緒に寝ようね~。」

ダニエル先輩は軽々と私を抱き上げる。

「「あ!!」」

それを見たデヴィットとアラン王子が同時に声を上げた。

「キャッ!」
いきなりの事で驚いた私は思わずダニエル先輩の首に腕を回す。すごい・・・やっぱりダニエル先輩は力持ちだ。そのまま私をベッドまで運び、ストンと降ろすと言った。
「お休み、ジェシカ。僕が隣に寝るから安心して休むんだよ。」
そして何と私に軽くキスしてきたのだ。

「「ああっ?!」」

それを見てますます大声を上げるデヴィットとアラン王子。

「ダ・ダニエル先輩・・・・い、一体何を・・・?!」
キャーッ!!人前で・・・しかもよりにもよってデヴィットとアラン王子の前でダニエル先輩は何て事をしてくれるのだろうか・・・っ!

「うん?お休みのキスだよ?」

ダニエル先輩は背後に殺気を放っている2人をものともせずに、ニコニコと答える。

「ダニエル・・・貴様・・・。」

デヴィットがゆらりと立ち上る。

「よくも・・ジェシカの唇を・・・。」

アラン王子も怒りをあらわにダニエル先輩を睨み付ける。

あああ!もう、また始まった・・・っ!

「い・・・いい加減にして下さいッ!皆仲良くするんじゃなかったんですか?!」

私が叫ぶと、ようやく2人は我に返った。

「す、すまなかった・・・ジェシカ・・・。」

デヴィットは項垂れる。

「つ、つい頭に血が上って・・・悪かった。」

アラン王子は頭を下げる。

「はいはい、それじゃ皆もう寝ようね~。あっという間に夜明けになっちゃうからさ。」

一番ご機嫌なのはダニエル先輩だ。

全く、男と一緒のベッドに寝るなんて前代未聞だとブツブツアラン王子が言うと、デヴィットも煩い、それは俺も同じだとお互い背を向けたまま文句を言い合っていたが・・・やがて部屋はしんと静まり返り・・・今に至っている。

フウ~。疲れているのに、頭の中が冴え切って眠る事が出来ない。
けれども何度目かの寝返りを打っている内に・・・いつしか私は意識を無くした—。



 寒い・・・ここは何処だろう・・・。
私は辺りを見渡す。私は冷たい石畳の上に薄絹1枚で立たされていた。辺りはモヤで囲まれ全く周囲を見渡せない。
あ・・・こ、これは・・・・あの時と同じ夢だ・・・・っ!

「ジェシカ・リッジウェイ!!」

鋭い声で名前を呼ばれる。あの声は・・・そう、私が良く知っている人物・・・。
顔を上げるとそこに座っていたのは・・・・。

「ド、ドミニク様・・・。」

そして隣にはピンク色のドレスを着たソフィー・ローラン・・・。だけど、前回とは少し夢の内容が違っている。
あの時の夢は他に私の前にはマリウス、グレイ、ルーク、ノア、ダニエル先輩、エマ、生徒会長、そして・・・アラン王子がいた。
だけど今私の目の前に座っているのは公爵とソフィー。そして3人のソフィー付きの兜を被った兵士が座っている。

そして公爵は私の名前を一度叫んだきりで・・・後は・・何処か切なげに私を見つめている・・・。
え・・・一体どういう事・・・?

「さあ、ドミニク。早くあの悪女・・・ジェシカに裁きを。」

ソフィーが公爵に言う。

「ああ。分かった。」

公爵は頷くと、再び視線を私に戻し・・・・。

 
 そこで今度はいきなり画面が切り替わる。
私は小さな鉄格子から頭を覗かせて必死で外を見つめ・・・何かに向かって手を振って叫んでいる後ろ姿を、何故か私は眺めている。そう、まるでテレビに映る自分を眺めている様な感覚だ。

私はやはり・・・捕まってしまうのだ。だけど・・以前の夢とは大分様相が変わっている。
この先・・・私はどうなるの・・・?誰か・・・教えて・・・。

徐々に周りの景色が霞んでゆく。


「ジェシカ・・・・。」

その時誰かが私の名を呼ぶのが聞こえた。あの声の主は・・一体誰・・?

そして私は夢の世界から目が覚める—。



2

う~ん・・・何だか周りが騒がしいなあ・・・。

「うん、やっぱりお嬢さんは眠っている姿も綺麗だよね。」

「ほんとだよね~まさに眠れる美女って感じだよ。」

「おい、あまりジェシカの側で騒がしくするな。目を覚ましてしまうだろう。もっと寝かせておいてやれ。」

「そう言いながらお前は、何故ジェシカの一番近くにいるんだ?!」

何だか揉めているみたいだけど・・・。徐々に目が覚めてきてパチッと目を開け・・・

「キャアアアアアッ!」
思わず悲鳴を上げてしまった—。

何で?何で?いつの間にか私はリビングのソファで寝かされ、それをデヴィットを始めとした全員が私をグルリと取り囲み、見下ろしているでは無いか。

「よう、お早う、ジェシカ。目が覚めたか?」

ニコリと笑うデヴィット。

「・・・よく眠れたみたいだな。その・・・良かった・・・。」

アラン王子は照れたように言う。

「そんなの当たり前じゃ無いか。なんてったって僕の隣で眠ったんだからさ。」

ダニエル先輩は言いながら、するりと私の頬に手を添え・・・・。

「「ジェシカに触るなっ!」」

デヴィットとアラン王子に怒鳴られた。・・・・何だかこの2人も徐々にシンクロ率が上がっているような気が・・・?


「そ、そんな事より!何故ベッドで眠っていたはずなのに、私はここで寝かされていたのですか?!」

起き上がると全員を見渡しながら言った。クッ・・・!寝姿をこんなに大勢の男性達に見られるとは・・・っ!

「そんなのは当たり前だろう?いつどこでソフィーの刺客が現れるか分からないんだ。片時もお前から目を離す訳にはいかない。」

デヴィットが言う。

「全員朝になって目が覚めたから、ジェシカ・・・お前をリビングに移したのだ。」

アラン王子が説明する。

「ここで皆で朝のコーヒーを飲んでいたんだよ。」

ダニエル先輩がコーヒー片手に言う。


「「おはよう、ジェシカ。」」

今朝もシンクロ率マックスのグレイとルーク。う~ん・・・今に姿まで似て来るのでは無いだろうか・・・?

「さて、お嬢さんも起きた事だし、皆で下のレストランに朝食を取りに行かないかい?」

マイケルさんの提案に、全員が乗る事にした。


 着替えを終えて部屋から出て来ると、全員がもう待機していた。

「さあ、行くか。ジェシカ。」

当然のように手を取って来るデヴィットにアラン王子が噛み付いた。

「だから、何故お前が仕切る?いや、それ以前に必要以上にジェシカに接触するな!」

「何だと・・・?また俺とやる気か・・・?」

「ああ。望むところだ。」

激しく火花を散らす2人。全く・・・結局何処まで行ってもこの2人は相性が最悪なのかもしれない・・・。

「ジェシカ、あんな2人は放っておいて、行こう。」

睨み合いを続けるデヴィットとアラン王子を尻目にダニエル先輩が手を取る。

「そうですね・・・行きましょうか。」

そして私たちは2人を残して朝食を取りにレストランへと向かった・・・。


「うん、やっぱりこのホテルの食事は本当に美味しかったね。一体どんな調味料を使っているのだろう・・・?」

マイケルさんは食後のコーヒーを飲みながら腕組みをしながら言った。

「確かに、ここの食事は美味しいですよね。ガイドブックにも乗るくらいだし。」

本好きのグレイが言う。

「僕の領地もね・・・中々食文化が発展していて、美食家が大勢いるけど、このホテルの食事も結構美味しいな。」

ダニエル先輩の話に思わず耳を傾ける。へえ~そうなんだ・・・ちっとも知らなかった。
一方無口なルークは黙ってコーヒーを飲んでいた。
うん・・・・この時間・・・平和だなあ・・・。こうしていると今朝見たあの嫌な夢を一瞬忘れてしまいそうになる。
アラン王子を救い、マリウスは去って私の未来は大分変ったと思ったけど・・結局私は牢獄の様な場所に捕らえられていた。
・・・やはり私の未来は変わらないのだろう・・・。

「どうしたの?お嬢さん。何だか元気が無いように見えるけど?」

私の様子に気付いたマイケルさんが声を掛けて来た。

「本当だ。ジェシカ・・・何だか顔色が悪いようだけど・・・大丈夫?今日は1日部屋で休んでいた方がいいんじゃないの?」

ダニエル先輩は心配そうに私を見つめる。


「いいえ・・・そんな悠長な事は言っていられないんです。いつ何処でまたドミニク様がやって来るか分からないので・・・。」

声を震わせて言うと、それまで黙っていたルークが言った。

「そうしたらまた宿泊先を変えれば済む事なんじゃ無いか?」

「ああ、そうだ。そんなに心配なら今、このホテルを引き払って別の場所を探せばいい。」

グレイも言うが・・・・。

「それでは・・・・駄目なの!私はもう・・・逃げられないのよ・・!」
思わず感情に任せて・・・叫んでいた。

「何が駄目なんだ?」

背後からデヴィットの声が聞こえた。

「あ・・・・。」
思わず俯く。

「ジェシカ、一体何が駄目だと言うんだ?」

アラン王子が私のすぐ傍まで来ると肩に手を置いて来た。

「ア・アラン王子・・・。」
声が震えてしまう。

「ジェシカ・・・お前・・まだ俺達に話していないことがあるだろう?全部正直に話すんだ。・・・包み隠さず。」

デヴィットは私の隣に座っていたグレイを追いやると、隣に座って来た。
何故、席を移動しなければ・・・とブツブツグレイは言うものの、デヴィットは完全にそれをスルー。

アラン王子までいつの間にか隣に座ると、2人が同時に言った。

「「さあ。話せ、ジェシカ。」」

「はい・・・・。」
私はついに観念した—。



「この間・・・ドミニク様があの部屋にやって来た時の話です・・・。ドミニク様はまだ完全にはソフィーに支配されていないようですが、1日の大半はソフィーから呪縛を受けていました。そして・・・記憶が途切れ途切れで、いつも思いがけない場所で自分の意識を取り戻しているらしく・・・かなり精神的に参っているようにも見えました。」

私の話にアラン王子が驚いた様子で言った。

「え・・・?そうだったのか・・?俺はてっきり・・・あの男はもう完全にソフィーの虜になっていると思っていたが・・・。」

「それで・・他には?」

デヴィットが続きを促してくる。

「そ、そして・・・私の紋章と・・ドミニク様の紋章が反応して光って・・・。」

「何?!ドミニクの紋章が光ったのか?!ま・まさか・・・・?!」

アラン王子が顔色を変えてよろめく。デヴィットは言葉を無くしている。

「ジェ・ジェシカ・・・・き、君は・・・。あ、ああ・・でもそう言えば・・・君とドミニク公爵は・・・婚約者同士だったものね。そういう関係になっても・・おかしくは無いか・・。」

ダニエル先輩は俯きながら苦し気に言う。
グレイとルークは開いた口が塞がらないし、マイケルさんは相変わらず状況が理解出来ず、グレイとルークに説明を求めている。

「そ、それで・・・・。」

私が言いかけるとデヴィットが悲鳴じみた声を上げた。

「何?!まだその上2人の話は続くのかっ?!」

デヴィットは大分混乱をきたしているようだ・・・。続きも何も私に話を聞きだそうとしているのは彼自身なのに・・・。

「はい・・・。そしてドミニク様は言いました。そ、その・・・私と・・・関係を・・・持った時・・・に・・逆マーキングをしたと・・・。」

うう・・・。こんなに大勢の男性陣の前で私と公爵が男女の仲になった事を告白しなくてはならないなんて・・・・。恥ずかし過ぎて今すぐこの場から逃げたい位だ。

「逆マーキング・・・?そんな事が可能なのか?!」

アラン王子は信じられないと言わんばかりの表情を浮かべている。

「くそっ・・・っ!そ、それじゃ・・・ジェシカが何処に行っても・・・ドミニクに居場所を把握されてしまうって事か?!」

デヴィットは悔しそうにテーブルを叩いた。

「はい・・・だから・・私達はゆっくり休んでいられないんです。一刻も早くノア先輩を助け出して・・・そして・・。」

私はその後の台詞を言う事が出来なかった。

「ジェシカ・・・。そして・・・どうするんだい?」

ダニエル先輩が優し気に声を掛けて来る。私は顔を上げて言った。

「私は・・・ソフィーと公爵に捕らえらます・・・。」

そして彼等は息を飲んで私を見つめた—。
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