目覚めれば、自作小説の悪女になっておりました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

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デヴィット・リバー 前編

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 森の古城を目指していた所を、オオカミの群れを引き連れた兵士が現れ、俺達は戦っていた。
よし!もう少しで野生のオオカミを全て倒せるっ!
そう思った矢先・・・・。

「うわあああああっ!!」

森の中に突然ダニエルの悲鳴が聞こえた。くそっ?!何だと言うのだ?あんな悲鳴を上げてジェシカが驚くじゃないかっ!だからお前は女みたいな奴なんだよ!

「煩いぞっ!ダニエルッ!!ジェシカが驚くだろう?!」

アラン王子も俺と同じ事を思ったようだ。

「た・・大変だっ!ジェシカが・・・・・ジェシカが消えたっ!」

ダニエルがパニックを起こして叫んだ。

「何っ?!ジェシカが消えただとっ?!」

俺は最後の一匹を薙ぎ払い、アラン王子は兵士を気絶させ、俺達はダニエルの元へ駆け寄った。
ダニエルを見ると確かに馬上からジェシカの姿が忽然と消えている。

「おい!ダニエル・・・ッ!お、お前・・・何やってたんだよっ!ジェシカを奪われたのか?!」

アラン王子は髪を振り乱してダニエルに激怒している。

「煩いっ!僕はずっとこの腕にジェシカを抱きしめていたんだっ!なのにいつの間にか忽然と姿を消してしまったんだよ!」

ダニエルも負けじと言い返している。

「ふざけるなッ!貴様・・・っ!」

アラン王子は剣を振り回しながら怒りをまき散らし、ダニエルも負けじと剣を振り回している。

勿論、俺だって怒り心頭だが・・・何か妙な胸騒ぎがした。この状況・・・あの時と似ているっ!

「おい!2人とも、落ち着けッ!これは・・・もしかするとやられたかもしれないぞ!」

「やられた・・・?一体何の事だ?」

髪を振り乱しながらアラン王子は俺を睨み付けている。

「デヴィトッ!早く言えよっ!」

くそっ・・・!煩い奴らめ・・・!

「ああ。なら言う。以前・・・俺達の泊まっているホテルにドミニクがやって来ただろう・・?ドミニクはジェシカが何処へ行こうとマーキングをしているから居場所が分かると言っていたからな・・・。ひょっとするとドミニクが何らかの手段でジェシカを攫ったのかもしれない!」

「あ・・・・。」

アラン王子は呆然としている。

「そ、そうだっ!絶対にそう決まっている!」

ダニエルめ・・・・。恐らく責任逃れをしたいのだろう・・・。やたら俺の考えに同調しているぞ?でも・・相手がどこの誰であろうと、俺からジェシカを奪った奴を許す訳にはいかない。

「よし!なら城を探すぞっ!」

俺の掛け声と共に、全員で城を探し回ったが・・・結局半日以上森の中を探し回っても城を見つける事は出来なかった・・・。


辺りはすっかり薄暗くなり、うっそうと茂った森の中は視界が悪すぎて見通しが効かなくなっていた。そこで俺達は止むを得ず、今夜はこの森の中で野営をする事に決めたのだが・・・。
「おいっ!アラン王子っ!本当に・・・間違いなくソフィーはこの森の中の城にいるんだよな?!」

俺は焚火に火をくべ、イライラしながらアラン王子に言った。

「何だと、貴様・・・。この俺が嘘をついているとでも思っているのか?」

枯れ枝を集めていたアラン王子は物凄い形相で俺を睨み付ける。

「煩いなあっ!仲間割れをしている場合じゃ無いだろう?!」

非常食の干し肉を串にさして焼いていたダニエルが喚いた。

「「「なんだと~っ!!!」」」

睨み合って俺達3人が火花を散らしそうになりかけた時・・・。

「ああああっ!!」

突然ダニエルが再び叫んだ。

「煩いっ!何をまた叫んでいるんだっ!」

俺はダニエルを怒鳴りつけ・・・息を飲んだ
どうして・・・だ?何故今迄気が付かなかったのだろう・・・?俺達の眼前には・・こんなに巨大な城が建っていたというのにっ!!

「おい・・・。一体これはどいう言う事だ・・・?」

俺は城を見上げながら隣に立つアラン王子に言う。

「どういう事?とは?」

アラン王子も俺同様城を見上げながら返事をする。

「だから、何故忽然と城が姿を現したかを聞いてるんだっ!」
この王子は・・・俺の言いたい事が伝わらないのかっ?!

「う・・煩いっ!そんな事俺に聞かれても分かるはずが無いだろう?!」

「だから、いちいち大声で話すのはやめてってばっ!どうせ、こんなのは恐らく誰かが城に封印を掛けたからじゃ無いの?僕たちにこの城を見つけさせない為にさっ!」

ダニエルの言葉に俺は納得した。そうか・・・となると・・こんな手の込んだ大がかりの魔法を使える人物は・・・あの男しかいないっ!

「ドミニクの奴の仕業だな・・・・。」

俺は剣を握りしめると頭上を見上げた。

「ああ。そうだな。あいつにしかこんな真似は出来ないと思う。」

アラン王子も剣を抜いた。

「よし、それじゃ僕たちの大切な姫と・・・ノアを助けに行こう。」

ダニエルは剣を引き抜き、キザな台詞を言うが・・・。
「姫」・・・か。確かにジェシカは俺達にとっての『姫』と言っても過言では無い存在だ。よし・・・っ!それじゃ・・・愛しい姫を助けに行くかっ!!


そして俺達は剣を構えると城へ向かって突進して行った—。

襲ってくるソフィーの兵士達を俺達はいとも簡単に倒していく。フッ!所詮烏合の衆だ。統制力も無ければ、弱い事この上ない。

俺は自分の付けたマーキングを頼りにジェシカの元を目指す。間違いない。あの部屋からジェシカの匂いを色濃く感じる!
突如として俺の前に兵士が現れ、叫んだ。

「城の中へ侵入者が入ったぞっ!」

ふんっ。仲間に知らせるつもりだろうが・・・遅すぎたなッ!
相手の兵士の顔面を蹴り飛ばし、俺の目に一つの部屋が飛び込んできた。

「そこかっ?!」
勢いをつけてドアを蹴破り、部屋の中へ飛び込み俺は目を見開いた。

そこには水色のジャケットに紺色のロングドレス姿のジェシカがドミニクに背後から羽交い絞めにされていたのだ。

な・・・何だ・・?あの状況は・・・っ!
俺は2人の様子と、部屋の状況を一瞬でザッと確認した。ジェシカは何故か女性のドレスを着用している。そして一方のドミニクは胸が大きくはだけたローブ1枚のみを羽織った姿。
そして・・・背後にあるベッドは・・布団もシーツも乱れ切っている・・・。
間違いない・・・!この部屋であの2人は・・・っ!!
その刹那、俺の中に言いようの知れない怒りと嫉妬が込み上げて来る。

「貴様・・・・ジェシカを放せっ!!彼女は・・・俺の聖女だっ!」

剣を抜くと俺は喚いた。ジェシカに触るな・・・ジェシカは・・・俺の・・・俺だけの聖女だっ!!

しかしドミニクはジェシカを抱きしめたまま、不敵に笑った。

「お前の聖女だと・・・?誰がそんな事を勝手に決めた?見ろっ!俺の腕を・・・。」

そしてまるで見せつけるかのようにドミニクは眩しく光り輝く右腕を俺の前にさしだした。
な・・・何て眩しい光なんだ・・・・?今にも目がくらみそうだ。そして一方のジェシカの左腕も同じく位の輝きを放ち始めた。

「ジェ・・ジェシカ・・・。う、嘘だろう・・・?お・お前・・もしかして・・?」

信じられない・・・いや、信じたくなかった。あの様に眩しい光・・・あれは一度や二度の関係を結ぶだけであんなに光り輝く事等ありえない。恐らくあの2人は・・何度も何度も・・・あのベッドで・・・っ!!

絶望劇な気分で俺はジェシカを見つめた。
そして、ジェシカは申し訳なさそうに俺を見つめていたが、ドミニクに訴え始めた。

「ドミニク様・・・。本当にお願いです、どうか私とノア先輩を・・彼等の元へ・・返してください。」

「駄目だっ!出来ないっ!それだけは絶対に・・・!」

抱きしめる腕に力を強めるドミニクを俺は呆然と見ていた。
すると・・・。

「デヴィットさんっ!」

ジェシカが俺に向かって手を伸ばし、縋りつくような目で俺を見つめた。
だが・・・俺は・・・もう・・・。
どうしてもジェシカとドミニクが何度も愛し合う姿が脳裏に浮かび、消えてくれない。
今のジェシカを見るのは・・・辛すぎるっ!俺はジェシカの視線を避けながら言った。
「そうだよな・・・。俺だけがジェシカの聖剣士だと・・・すっかり勘違いしていた。だけど、考えてみればアラン王子もお前の聖剣士だったし・・・。お前と公爵は・・・余程深い絆で結ばれているんだな・・・。それだけ絆が出来たなら・・・もうお前はドミニクに裁かれる事も・・・牢屋に入れられる事もなくなるんじゃないか・・・?」
思わず自虐的な言葉が口から出てしまった。

「・・・中々思慮深い所があるんだな。ああ・・・確かにそうだ。ジェシカが側にいてくれさえすれば、俺は自分を見失う事等決して無い。それだけは断言する。」

勝ち誇ったような・・・満足げな笑みを浮かべるドミニク。
もう・・俺はこれ以上ここにはいたく無かった。2人の強い絆を見せつけられ・・惨めな気持ちで一杯だ。だから俺は言った。
「よし、分かった。・・・さっきノアは返してやってもいいと・・・言ってたな?」

「ああ。確かに言ったな。いいだろう。ノアはこのすぐ隣にある部屋に閉じ込められている。この部屋を出て右側に隠し通路がある。一か所だけ壁の色が違う場所があるからそこに触れろ。隠し部屋へ続く道が開かれる。・・薬で眠らされてるが、死んではいない・・・。早く連れて帰ってやれ。そのかわり、ジェシカは俺が貰う。」

ジェシカは貰う・・・その言葉だけが大きく俺の耳に響いて聞こえた。

「・・・分かった。それで構わない。」
本当に?本当にそれで構わないのか?ジェシカを・・・あの危険人物であるドミニクに預けて本当にいいのか?
自分の中で自問自答を繰り返すが・・・今はジェシカをここに残すのが一番だと思えた。・・・自分自身の為に・・・。そうしなければ俺は嫉妬に狂って、連れ帰って来たジェシカを襲ってしまうかもしれない・・・っ!!

「え・・?な、何を言ってるんですか?デヴィットさん・・・・?」

ジェシカはその紫の瞳を大きく見開き、声を震わせて俺を見つめている。
やめろ・・・!そんな縋るような目で俺を・・・見るな・・・っ!!

ジェシカに背を向け、部屋を出ようとするとジェシカの声が追いかけて来た。

「待って!行かないでっ!デヴィットさんっ!」

駄目だ・・・っ!ジェシカ・・・ッ!頼むから・・・そんな声で俺を呼び止めるな・・っ!!

俺は後ろを振り返る事無く・・・ジェシカを残して部屋を出た。

ジェシカ、お別れだ—。
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