目覚めれば、自作小説の悪女になっておりました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
206 / 258

デヴィット・リバー 中編

しおりを挟む
ドミニクの話していた通り、その場所に隠し部屋はあった。
ドアノブに手を掛けると、どうやら鍵はかかっていない様だ。無言でドアを開けて部屋の中へ入るとそこには粗末なベッドの上に金の巻き毛の男が眠っている姿があった。
近寄って顔を覗き込んでみる。
ああ・・・・この男がノアか。そう言えば見た事があるな。確か・・・生徒会長の副会長をしていたな・・・。
しかし・・この男もダニエル同様、まるで女のような外見をしている。・・・きっとノアも・・・ジェシカの事を好きなんだろうな・・・。
溜息を1つつくと、ノアを揺さぶった。

「おい、起きろ、ノア。」

「・・・。」

しかし、全くの無反応だ。・・・ひょっとすると・・魔法で眠らされているのだろうか?

「仕方が無いな・・・。」

俺はノアを背負うと、転移魔法で城の外へと出た。そして茂みの中にノアを寝かせると、ダニエルとアラン王子を探しに再び城へと戻って行った。
魔力感知でダニエルとアラン王子の気配を探り、俺は急いで2人の元へ向かった。
そして1階のホールでダニエルを発見した。

「おい!ダニエルッ!ノアを発見したぞ!城の出口の茂みの中に置いて来たから、行って様子を見て来てくれッ!俺は今からアラン王子を探してくるっ!」

「え?ノアが見つかったの?!分かった・・・。すぐに行くよ。所でジェシカは?」

ダニエルが痛い所を突いてくる。

「その件については、後で話す。」

「え・・・?」

いぶかしむダニエルを置いて、俺はアラン王子の元へと向かった。

大広間にいたアラン王子を遠目で見つけると俺は大声を上げて声を掛けた。

「おい!アラン王子っ!ノアを発見した!取り合えず城の外に集合だっ!」

そしてアラン王子が何か口に出す前に俺は城の外へと飛んだ。

城の外ではダニエルがノアを揺さぶっていた。

「ノア!ノア!目を覚ませよっ!」

「うう・・・。」

すると・・・ノアが睫毛を震わせて、ゆっくりと目を開けた。

「あ・・・、ここは・・・?僕は今まで何を・・・。ウッ!」

ノアは頭痛がするのか、頭を押さえた。

「おい、大丈夫か?」

俺も思わず声を掛けたところで・・・アラン王子がやってきた。

「ノアッ!お前・・・無事だったんだなっ?!」

するとようやくノアは意識が徐々に戻って来たのか・・俺達を見渡すと言った。

「あれ・・・?君達は・・・?そ、それより僕は今迄何を・・・うっ!」

再びノアは苦し気に頭を抱える。

「ノア、そんなに一気に思い出そうとしなくていいよ。」

ダニエルは心配そうにノアを見つめながら言った。

「おい、所でジェシカは?」

アラン王子が俺に向かって尋ねて来た。

「・・・・。」
どうしよう・・・何と答えるべきか・・・。

「おい?デヴィット。何を黙っているんだ?」

アラン王子がイラついた声で言う。

「そうだよ、デヴィット。ジェシカはどうしたのさ。まさかまだ見つかっていないの?だったら・・助けに行かなくちゃっ。」

ダニエルが城の中へ戻ろうとしたので俺は大声で呼び止めた。

「行かなくていいっ!!」

「え・・・?」

ダニエルが信じられないと言う目で俺を見る。

「おい・・・。デヴィット・・・。貴様・・・何を言ってるんだ?ジェシカは一体どうしたんだっ?!」

アラン王子が怒気をはらんだ声で言う。

「ジェシカは・・・・。」
俺は深呼吸すると言った。

「ジェシカは・・・連れて帰らない。」

アラン王子とダニエルが息を飲む。
そして一方のノアは訳が分からない様子でぽかんとしている。

「おい!ジェシカを連れて帰らないとは・・・一体どういう事だっ?!」

いきなりアラン王子が抜刀し、剣を俺の首筋に突き立てる。

「ちょ、ちょっと!アラン王子っ!幾ら何でもやり過ぎだよっ!!」

ダニエルが慌てて俺達の前に割って入って来た。

「煩いっ!お前は引っ込んでろっ!そんな事よりもジェシカだ・・・っ!」

しかし、その直後城の中から10数人程の聖剣士達が飛び出してきたのである。

「な・・何だって?!まだ・・こんなに残っていたのか?!」

アラン王子が焦った声を上げる。
チッ・・・!まずい・・。あの中には1人・・・仮面を被った聖剣士がいる。
アイツは・・・ヤバイ奴だっ!!
ノアの奴はまだぐったりしているし・・・。

「おい!皆っ!ひとまず町まで戻るぞっ!」

「何言ってるんだっ!ジェシカはどうするんだっ!」

アラン王子が喚く。

「馬鹿っ!良く見ろ!あの聖剣士の中には・・・化け物がいるじゃ無いかっ!」

化け物・・・。それは銀の鉄仮面を被った聖剣士。あの聖剣士とはこの間ジェシカが神殿にいると思い、乗り込んだ時に俺達の前に立ちふさがった聖剣士だ。
兎に角・・・恐ろしいほどの強さを持っていて、危うく俺達はやられそうになった剣士だ。

「チッ!あいつがいたのか・・・!」

アラン王子は悔しそうに舌打ちをする。

「確かにあの聖剣士がいるなら逃げた方が良さそうだね・・・。」

ダニエルも賛同した。

「よし!逃げるぞっ!!」

そして俺達は彼等に襲われる直前に・・・町まで飛んだ—。



「それで・・・・命からがら逃げて来たというのは分かるけど・・・。なぜ、お嬢さんを城に残して逃げ帰って来てしまったんだい?」

マイケルが腕組みをして仁王立ちになり、俺達を見下ろしている。・・・信じられない。あのいつも何処か飄々としてつかみどころの無かった、あの男が・・・こんなに怒りをあらわにして俺達を見下ろしているなんて・・・・っ!!

多分俺だけでは無いだろう。この男に果てしない恐怖を感じているのは・・・っ!
その証拠にグレイとルークは小刻みに震えているし、いつも怖いもの知らずの口を利くダニエルだって押し黙っている。アラン王子も視線を合わさないように俯いている。
くそ・・・っ!な、なぜ・・・魔法も剣も使えない男にこれ程の恐怖を感じてしまうのだろうか・・・。


「さあ、デヴィット。何故・・・お嬢さんを城に置いて来たのか・・答えてくれないかな?」

どすのきいた低い声で俺に命じる。

「そ・・・それは・・・ドミニクと・・取引したから・・・だ。」

重い口を開いて俺は語った。

「取引?どんな?」

マイケルは目を細めて先を促す。

「ノアを返して貰う代わりに・・・ジェシカをドミニクの元に残すと・・。」

「ふ~ん・・・。それをお嬢さんは納得していたのかな?」

「い、いや・・・。俺と・・ドミニクで勝手に・・・決めた。」

「勝手に?」

マイケルの眉がピクリと動く。

「な・・何だと!デヴィットッ!貴様・・・ジェシカを売ったのか?!」

アラン王子がいきなり俺の胸倉をつかんできた。

「あ、ああ・・。そう言われても仕方が・・・ない・・・。」

「どうしてさっ!何でそんな酷いことをしたんだよっ!!」

ダニエルも俺に食って掛かって来た。

「そ・・その時は・・それが一番最善だと思ったんだっ!」

「最善・・・?どういう意味かな?」

飽くまでマイケルは冷静に俺に尋ねて来る。

「お・・・俺がジェシカを助けに行った時・・・ジェシカは既にドミニクと・・聖女と聖剣士の誓いを交わしていた・・・・。し、しかも・・・あんなに強い絆を見せられて・・・!ドミニクは言ったんだ。ジェシカが側にいてくれれば、自分は正気を保っていられるし、ソフィーからも守ってやると・・・。ジェシカだって、ドミニクの事を憎からず思っているから、あんなに強く絆を結んだのだろうと思って・・・・。いや。違う・・・。全ては・・・俺の嫉妬だ。ドミニクに何度もジェシカは抱かれたと思うと・・・ジェシカを見ているだけで苦しくて・・・俺は見捨てたんだ。誰よりも・・・本当は一番大事な存在だったジェシカを・・俺は切り捨ててしまった・・・っ!」


「貴様・・・っ!ふざけるなっ!!」

アラン王子が拳で殴りつけて来た。

「ジェシカの・・・その時の気持ちを考えた事があるのかっ?!ジェシカは‥どんな様子だったんだよっ!!」

アラン王子が荒い息を吐きながら俺を見降ろした。

「お・・俺の名を呼び・・助けを求めていた・・・。」

すると突然、マイケルが俺の襟首をつかむと床に投げ落とした。

「ガハッ!!」

あまりの衝撃に咳き込む。ウ・・嘘だろう・・・・こいつ・・本当は、物凄く・・強かった・・・のか・・・?

そして俺は意識を失った—。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 日曜日以外、1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします! 2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております! こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!! 2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?! なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!! こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。 どうしよう、欲が出て来た? …ショートショートとか書いてみようかな? 2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?! 欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい… 2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?! どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

処理中です...