目覚めれば、自作小説の悪女になっておりました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
207 / 258

デヴィット・リバー 後編

しおりを挟む
う・・・。ここはどこだろう・・・?
ズキズキと痛む身体を起こすと、ここはベッドルームだと言う事が分かった。
リビングでは話声が聞こえて来る。
戸を開けると、目覚めたノアを含め、一斉に冷たい視線が俺に向けて集中する。

「フン!目が覚めたようだね・・・。」

ダニエルはそっぽを向くと言った。

「あ、ああ・・・。」

曖昧に返事をすると、俺は一番端のソファに腰掛ける。するとマイケルが俺に視線を向けると言った。

「今ね・・・今後の事を話し合っていた所だよ。それで・・・話し合いの末、俺達はジェシカを助けに行く事に決めたからね。」

淡々と話すマイケルに俺は返事をした。

「ああ・・・分かった・・。それで・・・いつ行くんだ?」

「明日にはまた古城を目指すが・・・デヴィット。お前とはここまでだ。」

アラン王子が腕組みをしながら俺を睨み付けた。え・・?今、何と言った・・・?

「ここまで・・ってどういう意味だ?」

「言葉通りの意味だ。デヴィット、お前はもう俺達の仲間では無い。俺達は皆でジェシカを救いに行くが・・・お前とは行かない。ここでお別れだ。」

俺は信じられない思いで話を聞いていた。

「いいかい?デヴィット。君はお嬢さんと・・・そこにいるノアと交換する事を条件に彼を連れて帰って来た。そうだよね?」

マイケルは冷静に俺を見据えながら言う。

「あ・・ああ。その通りだ。」

「だけど、俺達は違う。最初から目的はノアを助け出す事。そこにはお嬢さんと引き換えに・・・何て交換条件は含まれていない。なのに・・・君は勝手に約束をしてしまった。」

確かにマイケルの言う事は一理ある。俺が・・・全て自分一人で勝手に取った行動だ。他の連中には関係ない話だ。

「つまり、君がいると厄介な話になるんだよ。約束を破ったことになる。だから・・・俺達はもうこれ以上君と行動を共にする事は出来ないのさ。」

「わ・・・分かった・・・。」

返事をするとマイケルは信じられない事を言った。

「さ、それじゃ・・・すぐに荷物を持って出て行ってくれないか?ここは・・・君の居場所じゃない。」

「!」

流石に他の連中もマイケルの言葉に驚いたようだが、この男の底知れぬ恐怖に恐れをなしたのか、異論を唱える者は誰もいなかった。


「わ・・・分かった・・・・。今すぐ・・出て行く。」

俺は立ち上がると、自分の私物が入ったリュックを背負い、玄関へと向かった。

「皆・・・色々世話になった・・・な・・・・。」

そして出る直前にマイケルが声を掛けて来た。

「俺はね・・・本当にお嬢さんを大切に思って来たんだよ?休暇の度に俺の屋台にお客さんとしてやって来てくれて・・彼女のお陰で俺の屋台も人気になれた。だからそんな彼女を俺はまるで妹のように大切に思って見守って来たのに・・・。でも、その俺の大事な妹を敵の手に渡すなんて・・・そんな人間は絶対に許す訳にはいかないんだよ。」

「・・・。悪かった・・・マイケル。・・皆も・・・。」

頭を下げる。

だが・・・全員マイケルが怖いのか返事をしない。
俺は溜息を1つつくと、ドアを開けた。そして最後アラン王子が俺に言った。

「デヴィット。お前は・・・ジェシカの聖剣士としては失格だ。聖剣士は聖女を守るべきなのに・・。本当に、最低な馬鹿男だ。お前は・・・。」

「ああ・・・本当にそうだな。」

そしてドアを閉めた。

この日、俺は皆と決別した—。



 皆と別れてから1週間が経過した。
俺はセント・レイズシティの町外れに小さな家を1軒借りて1人で暮していた。
学院は・・・今は殆ど機能していないので休学届を出し、今は身分を隠して荷物を運搬する作業員の仕事をして過ごしていた。
 本当はこんな事をしてる場合では無いのは十分過ぎる程に分かっている。
だが・・・あの時、自分の気持ちを優先させるために縋って来るジェシカを捨ててしまったのだ。仮に助けに行ったところで・・・今更何をしに来たのだと責められるのがオチだろう。
俺が・・・一番怖かったのはジェシカに面と向かって冷たい言葉を投げられたり、拒絶される態度を取られる事を恐れていたのだ。
もう顔も見たくないと言われてしまえば・・・きっともう立ち直る事が出来ないだろう。そしてふと思った。
あれ程ジェシカを恋い慕っていたマリウスは・・・さぞかし辛かっただろうと。
恋は・・・人をここまで臆病にするものなのだと改めて思った。だが・・・やはり俺は最低な人間なのだろう。過去に付き合った恋人の顔すら今は思い出せず・・・そしてジェシカの気持ちを踏みにじってドミニクの元へ置き去りにしてしまったのだから。
 
 それにしても・・・改めて今借りている家を外に出て、まじまじと見る。2階建てで赤い屋根の小さな家。それが今の俺の住まいだ。
本来なら何処かの安い宿をずっと借り切っている方が楽だと言うのに、わざわざ小さな一軒家を借りてしまうなんて・・・。男の1人暮らしで、いつまでこの生活が続くかも分からないのに・・。ジェシカのあの時の言葉が忘れられず、無意識のうちに家を借りてしまたのだろう。

『私・・・将来はこういう可愛らしい家に住んでみたいです。』

あの時、マイケルの家に初めてやって来たジェシカは頬を染めて見上げていた。
その言葉が頭の片隅に残っていたから・・・ひょっとするとジェシカと将来一緒に暮らせるのでは無いかと、勝手に甘い幻想を抱いて、俺は家を借りてしまった。
「馬鹿だよな・・・。ジェシカには・・・別に愛する男がいるっていうのに・・・。」

自嘲気味に笑うと、突然背後で声を掛けられた。

「おい!一体ジェシカが誰を愛しているだって?お前はその男の事を知っているのか?!」

え・・・?その声は・・・?
俺は振り向き、驚いた。何とそこに立っていたのはアラン王子だったのだ―。

「え・・?アラン王子・・?どうしたんだ?こんな朝っぱらから・・・。一体何でここへやって来たんだ?俺はこれから仕事へ出掛けるんだが・・・?いや、そもそも何でこの場所が分かったんだ?・・・まあ別にいいか。」

ナップザックを背負い、戸締りをする。

「よし、それじゃあな。」

そう言い残し、アラン王子の前を通り過ぎようとすると襟首を突然掴まれ、首がギュッと閉められる。

「グエッ!」
・・・まるでカエルのような声が出てしまった。

「プッ!」
その声を聞いたアラン王子は・・・口を押えて笑いをこらえてた。

「・・・おい、一体何の真似だよ・・・。俺はこれから仕事に行かなくちゃならないんだよっ!忙しいんだよっ!じゃあなっ!」

「待てっ!デヴィットッ!!」

アラン王子が鋭い声で俺を呼ぶ。

「一体何だよ?俺は忙しいって言ってるだろう?!」

「ジェシカの事を完全に忘れるつもりか?!」

そこで俺は足を止めた。

「ジェシカ・・・?ジェシカなら・・・もうお前達が助け出したんだろう?城の場所だって分かっているんだし・・・。俺はもう・・彼女に合わせる顔が無いからな。・・せめて・・よろしく伝えておいてくれ。」
力なく笑い、歩き出すとアラン王子の声が追いかけて来た。

「デヴィットッ!力を・・・貸してくれっ!」

「え・・・?」

その言葉に驚いて振り返る。

「力を・・貸す・・?一体どういう意味なんだ?」

「実は・・・ジェシカは・・・未だに・・見つかっていないんだ。」

「な・・・何だって?あれからもう1週間も経過しているんだぞっ?!そ、それに・・城の場所だって分かっているじゃないかっ!」

「いや・・・それが・・・幾らあの森に入っても・・・見つからないんだ。城の場所が・・・。お前・・・マーキングしたんだろう?ジェシカに・・・。お前なら・・探し出せるんじゃないか?ジェシカの事を・・・。」

「そんなの無理に決まっているだろう?!ジェシカは・・・ジェシカはもう数えきれない位ドミニクに抱かれているんだぞっ?!俺のマーキングなんか・・・とっくに消されているに決まっているっ!」
俺は半ばやけくそになって大声で怒鳴った。くそっ!思い出させるなよっ!

「いいや!探すんだっ!お前・・・ジェシカの・・・聖剣士なんだろう?!」

アラン王子は真剣な目で俺を見た。
ジェシカ・・・。俺にもう一度お前に会えるチャンスを与えてくれるか―?
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 日曜日以外、1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします! 2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております! こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!! 2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?! なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!! こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。 どうしよう、欲が出て来た? …ショートショートとか書いてみようかな? 2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?! 欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい… 2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?! どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

処理中です...