目覚めれば、自作小説の悪女になっておりました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
225 / 258

第7章 7 涙が枯れるまで

しおりを挟む
「あ・・・れ・・・。お前・・・ひょっとしてジェシカか・・・?!」

え?その聞き覚えのある声は・・・・?

「テ・テオ・・さん?」

私は床の上に倒れたまま彼を見上げて名前を呼んだ。

「ああ、そうだ。テオだよ。ジェシカ・・・大丈夫だったか?ほら、起き上がれるか?」

テオは心配そうな顔で私に手を差し伸べて来た。

「あ、ありがとうございます・・・。」

手を引かれて身体を起こすが、恐怖で腰が抜けてしまったのか立つ事が出来ない。
それに身体の震えも止まらない。
するとそんな私を見てか、テオが突然抱きしめて来た。

「!」

「大丈夫だ・・・。お前は何もされていない。それにあの男は俺が殴りつけて気絶させてやったから安心しろ・・・。」

まるであやすように抱きしめながら背中や頭を撫でてくれた。

「あ・・・。」

その温もりが嬉しくて・・・私はテオの胸に顔を埋めて泣いた・・・。
恐らくテオは私が恐怖の為に泣いていると思っているのだろう。だけど、私のこの涙は・・・・。今は誰でもいい・・・。側に寄り添ってくれる人がいれば・・・。
そして私はひとしきり泣いた—。


「どうだ、ジェシカ。少しは落ち着いたか?」

ようやく泣き止んだ私をみてテオは尋ねて来た。

「はい、すみません。あんなに・・・泣いてしまって。」

「いいって、それだけ・・怖かったんだろ?本当にここにいるソフィーの兵士達は皆、こうなんだ。女と見れば見境が無くて・・・・。でも、無事で良かったよ、ジェシカ。お前・・・魔界へ行ってきて・・・帰ってきたんだろう?それに・・何かあったんだろう?今にも倒れそうなくらい酷い顔色をしているぞ?ほら。俺に寄りかかれよ。フラフラして危なっかしいからな。」

そう言ってテオが私の肩を抱き寄せて来た。
「・・・ありがとうございます・・・。」
テオの肩に頭を置いて私は目を閉じると尋ねた。
「私達が・・・『ワールズ・エンド』へ向かった後・・・一体何があったんですか?教えてください。最近知り合ったある人からは・・・ライアンさんとケビンさんは・・・ソフィーの兵士になったと聞いたのですが・・。」

「ああ。そこまで知ってたのか、ジェシカ・・・。あの後、ケビンはお前達が心配だと言って・・・実は『ワールズ・エンド』へ向かったんだよ。俺は見張りがあったからその場でずっと待機していたんだ。そしたら・・・・アラン王子とドミニク公爵が
『ワールズ・エンド』へ向かっていく姿を目にしたんだ。」

「!」

「それで、さらにそのまま見張りをしていたら、あの2人が・・・ぐったりしているライアンとケビン、マシューにそして・・・レオ?だったか?あいつらを馬に乗せて戻って来たんだ・・・。」

「そ・・そうだった・・・・んですか・・?」

再び身体が震えて来た。その時にはマシューは息を吹き返していたのだろうか・・?

「で、そこから先は・・・悪い、何があったのか良く分からないんだ。身の危険を感じて・・俺はなりを潜めていたから。ただ、いつの間にかライアンとケビンは兵士にされて、マシューの合同葬儀が行われた。『ワールズ・エンド』でジェシカ・・お前に殺害された聖剣士として・・・。」

「ご・・・合同葬儀・・?」
駄目だ・・・今はマシューの名前を聞くだけで・・・倒れそうになってしまう。だけど・・・言わなくては・・・。
「テオさん・・・。マ、マシューは・・・。」

しかし何を勘違いしたのか、テオは私を抱きしめると言った。

「大丈夫だっ!俺は・・・いや、学院中の人間は誰一人としてお前がマシューを殺害した犯人だとは思っていないっ!」


すると背後で声が聞こえた。

「誰が、俺を殺害した犯人ですって?」

!あ、あの声は・・・マシューだ・・・っ!

テオに抱き締められたまま・・・恐る恐る私は顔を上げると、そこにはマシューが立っていた。

「お・・・お前・・・い、生きていたのかっ?!」

テオは驚いた様に叫んだ。

「ええ、その辺りの記憶が混濁して・・・良く分かりませんが、見ての通り俺は生きてますよ。」

マシューの声は依然と変わらず穏やかな声だったが・・・今の私にはとても・・とても遠く離れた存在になってしまった。お願い、貴方の声を聞かせないで。その声は・・私の心を傷つける。心・・・・がひび割れていく。
私は思わずテオにしがみ付いた。

「?どうした、ジェシカ・・・?お前・・・様子がおかしいぞ?」

それでも私が震えていたからだろう。・・・テオが私を抱きしめて来た。

するとマシューが言った。

「あ・・・何か、俺お邪魔だったみたいですね・・・。席外しますよ。」

立去りかけるマシューにテオが声をかけた。

「おい・・・お前・・・マシューだよな?」

「ええ。そうですけど?どうかしましたか?」

「・・・いや、何でも無い・・・。後で、2人だけで話がしたい。1時間後に・・この場所に来てくれるか?」

え・・・?テオ・・・。一体どうするつもり・・・?だけど、私はマシューの顔を見る事が出来なった。あの・・・私の事を意にも介さないマシューのあっさりした態度は・・・私の心を傷つけるには十分すぎる程だった。彼の顔など見ようものなら・・再び涙が止まらなくなりそうだった。


「ジェシカ・・・。マシューの奴・・・行ったぞ?」

テオが優しげな声で私に言った。

「あ・・・。」

私は顔を上げてテオを見た。

「・・・っ!おまえ・・・何て顔してるんだよ・・・っ!」

テオがクシャリと顔を歪めて私を見ると、再び強く抱き寄せて来た。

「今は・・・何があったかは聞かないでおくが・・・泣きたいなら我慢しないで泣け。俺の胸でよければ・・・いつでも貸してやるから・・・っ!好きなだけ泣いてしまえよ・・・。」

「テ・・テオさん・・・。」

「テオでいいよ。」

「え・・・?」
私は涙を浮かべてテオを見た。

「俺はさん付けで呼ばれるようなタイプの男じゃないさ。いいからテオって呼んでみろよ。」

「テ・・・テオ・・?」
零れ落ちそうな涙をこらえて私はテオの名前を呼んでみた。

「ああ・・・それでいい。ジェシカ。」

テオは私を見て笑顔で言った。

「テ・・・テオ・・・。」

私はもう、あふれ出る涙を止める事が出来なかった。そしてテオの胸に顔を埋め・・・涙が枯れるまで泣き続けた。
さようなら、マシュー。泣くだけ泣いたら・・・貴方への想いを・・・未練を・・全て断ち切ります・・・っ!

そして、泣きじゃ来る私をテオは・・・いつまでも優しく抱きしめてくれた―。



「ジェシカ、今のお前じゃ・・・とても話をするのは無理だと思う。あいつから俺が話を聞くから・・・取りあえず、生徒会室へ行ってろよ。」

言いながらテオは私に鍵を渡してきた。

「これは・・?」

「生徒会室の鍵さ。・・・もう誰も使っていないんだ。殆ど俺の部屋みたいに私物化しているよ。ジェシカ・・学院に着いても・・・驚くなよ?それじゃ・・また後でな。」

テオに神殿の外まで見送られると、私は学院へ向かった。
だけど・・・ジェシカの姿のままで学院に戻っても・・・大丈夫なのだろうか?それに・・・魔物の群れは・・・今どうなってる?今は誰が・・・『ワールズ・エンド』で見張りをしているのだろう?他の人達は・・・?

考える事が沢山あり過ぎたけど・・・けれどその考え事のどれもが全て最終的にはマシューと・・・ソフィーに繋がってしまう。駄目だ、あの2人の事を思うだけで・・・また悲しみで押しつぶされそうになる。本当はこんな風に泣いてる場合じゃないのに・・。魔界へ行ったはずのソフィー・・・そして彼女を追った公爵は・・・今どうしているのだろう・・?

でも・・・今はそんな事を忘れて・・・自分の心を休めたい・・・。
私はテオから預かった生徒会室の鍵を握り締め・・・重たい足取りで向かった—。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 日曜日以外、1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします! 2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております! こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!! 2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?! なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!! こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。 どうしよう、欲が出て来た? …ショートショートとか書いてみようかな? 2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?! 欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい… 2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?! どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

処理中です...