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第8章 1 『狭間の世界』での再会 (イラスト有り)

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1

私はテオと2人で『ワールズ・エンド』へ向かった。 
すると、そこにはなんとアラン王子とデヴィットがいたのだ。
ああ・・・きっとヴォルフと見張りを交代したのだろう。

 2人は私達を見ると顔色を変えた。私は彼等の顔を見る事が出来なくて目を伏せると、テオが私の肩をしっかり抱き寄せ、耳元に囁いてきた。

「大丈夫だ、ジェシカ。俺がついてる。あいつ等が何か言ってきても答える必要は無い。代わりに俺が答えるからな。」 

「テオ・・・。ありがとう・・・。」

すると彼は優しく私に微笑んだ。
そしてアラン王子とデヴィットは複雑そうな顔でこちらを見ていたが、デヴィットが声を掛けてきた。

「ジェシカ、お前・・・その男と何処へ行くんだ?」 

まるで私を咎めるような言い方に思わず肩が跳ねる。するとテオが、私を抱きしめると言った。

「俺達は門の様子を見にきたんだ。」

「何の為に・・・と言うか、ジェシカを離せ。」

アラン王子がイライラした様子でテオに言った。

「何故・・・お前にそんな事言われないとならないんだ?」

テオが挑発的にますます私を強く抱きしめる。

「き、貴様・・・っ!!」

突然デヴィットが剣に手を添える。

「何だ?もしかして・・・お前・・嫉妬してるのか?」

「!!」

え?そう・・・なの・・・?
思わずデヴィットを見ると彼は青ざめた顔で私を見つめている。

「お前達2人はもうソフィーの聖剣士になったんだろう?さっき一緒に生徒会室へやって来たんだものな?それにあの2人からも何か事情は聞いてるんだろう?ジェシカは・・あの女に自分の魔力を全て渡したんだ。だからもうジェシカはお前達の聖女じゃない。俺達にはもう構うな。さ、行こうか?ジェシカ。」

テオは飛び切り甘い笑顔で私を見ると言った。

「う、うん・・・。」

小さく返事をし、頷く私にアラン王子とデヴィットの視線が突き刺さって来るように感じる。
テオに肩を抱かれて2人の前を素通りしようとした時・・・アラン王子が声を掛けて来た。

「ジェシカッ!お・・・俺はまた・・・選択を誤ったのか・・・?」

私は思わずアラン王子を見ると・・・その顔は真っ青になっている。何故・・・そんな顔をするの?それとも今のソフィーが・・・偽物だと言う事に気が付いたの?


「気にするな。行こう。」

テオに促され、私は無言でアラン王子の前を通り過ぎる。

「ジェシカッ!確かにお前はもう・・・聖女じゃ無いが・・・仲間だろう?戻って来いよ。俺達の元へ・・・。一緒に行動しよう?」

デヴィットが私に両手を広げて来る。
貴方達と・・・一緒に行動?!そんなの・・・出来っこない・・・!デビットは気付いていないのだろうか?あれ程軽蔑していたソフィーと今のソフィーが同一人物だって事が・・・。それとも私の魔力を得た事によって・・・・より一層彼女が本物のソフィーに近付いたから・・気が付かなかったの?

「ジェシカ、俺が話す。お前は何も・・答える必要は無いからな。」

そしてテオは2人の方を向いた。

「もうこれ以上ジェシカには構うな。お前達とジェシカが一緒に行動なんか出来るはずが無いだろう?ジェシカは・・・あの女に聖女の力を渡し・・・挙句の果てに自分の愛する男迄失ってしまったんだからなっ?!その男の名はマシュー・クラウド・・
アイツはジェシカの見ている目の前で・・・ソフィーに心変わりしたんだ・・。俺は・・マシューだけは絶対に許さない。俺はジェシカを愛してる。お前達とは一緒にするなよ?俺は・・・『魅了』の魔力を失ったジェシカを愛したんだからな?分かったら・・もう二度と俺達には関わるなっ!」

「!」

途端にデヴィットが辛そうに顔を背ける。ああ・・そうだった、デヴィットは私が・・マシューを愛していたのを知っていたから。

「な・・何だって?!ジェシカ・・・お前・・・マシューの事を・・・愛していたのかっ?!」

アラン王子の顔は・・・絶望に満ちていた。その表情は・・あの時、マシューを目の前で失ってしまった私と・・同じ表情をしていた。

だけど、私は・・・今ここで・・全てを断ち切る。マシューとの事も・・・アラン王子やデヴィットの聖女だったことも・・・全て過ぎ去った過去の話。今は前を向いて、この世界を救う方法を考えるのだ。だって・・私はこの世界を作り上げた作者なのだから。

「テオ。私は以前ここから初めに『狭間の世界』へ鍵を使って渡ったの。まだ鍵穴がのこっていないか・・・一緒に探してくれる?」

私はアラン王子とデヴィットに聞かれないようにテオの耳元で囁いた。

「ああ、分かった。ジェシカ。2人で手分けして探そう。」

そして私たちは滅茶苦茶に破壊された門の瓦礫の山から鍵穴を差し込むプレートが無いか探し始めた。
あの鍵穴は・・・金属製で出来ていた。ひょっとしたら・・・破壊されずにそのままの形で残されているかもしれない・・・っ!私は一縷の望みをかけて必死に探した。

 一方のアラン王子とデヴィットは私達の様子を訝し気に観察していたが・・・。

その時、破壊された門の側で突然ひずみが起こり・・・そこから魔物が現れた。

「!!」

驚いて逃げようとするよりも早く、デヴィットが飛び出してきた。

「危ないっ!!ジェシカッ!!」

そして魔物と私の前に立ちはだかると剣を抜いた。そこに現れたのは、まるで巨大な牛を思わせるような大きな角を生やした魔物だった。

「ジェシカッ!逃げろっ!」

デヴィットは一瞬私に振り返って叫ぶと剣を振りかざして魔物へ突進していく。

「ジェシカッ!」

すると背後からテオの私を呼ぶ声が聞こえ、振り向くと同時に腕を引かれた。

「良かった・・・!ジェシカッ!無事で・・・っ!」

テオは私を力強く抱き締めると言った。

「わ、私は大丈夫だけど・・・デヴィットさんがっ!」

「あいつなら大丈夫だ。聖女付きの聖剣士は・・・通常の聖剣士より何倍も強くなれるんだっ!」

そこへ現れたのはアラン王子。

「ここは・・・俺達に任せろっ!・・・2人は・・・何か目的があって、ここへやって来たんだろう?その目的を果たすんだっ!」

そう叫ぶと、アラン王子も剣を構えてデヴィットの加勢をしに走り去って行った。

「デ・・デヴィットさん・・・。アラン王子・・。」

私は思わず地面維にへたり込み・・・その時、足元に半分地面に埋まっているキラリと光る何かを発見した。
ま・・まさか・・・っ?!私は手近な石を拾うと、必死で地面を掘り起こし始めた。


「どうしたんだ、ジェシカッ!」

私の様子にテオが声を掛けて来た。

「この地面の下に埋まっているのは・・・もしかしたら門の鍵穴かもしれないのっ!」

「な・・何だって?よし!俺が替わるっ!」

テオは石を受け取ると必死で地面を掘り起こし始めた。
私達の背後ではデヴィットとアラン王子が魔物達を相手に必死で戦っている。お願い・・・どうか二人とも・・・無事でいてっ!!
私は必死で祈った。

「ジェシカッ!間違いないっ!これは確かに鍵穴だっ!」

テオが金属製のプレートをついに掘り起こした。

ああ・・・これだ、間違いない。私は・・・この鍵穴を使って・・『狭間の世界』へ・・アンジュがいるあの世界へ渡ったんだ・・・。
私が『ワールズ・エンド』へやってきたのは・・・アンジュの力を借りる為・・・!

「だけど・・・ジェシカ。今更こんな鍵穴が役立つのか?門だってもう無いのに・・・?」

テオが私の顔を覗き込みながら言う。

「確かに・・・門はもう無いかもしれないけれど・・・でも鍵穴がある。そして・・差し込んで回せる。ひょっとしたら・・・上手くいくかもしれない・・っ!」

そして・・テオを見つめると言った。
「テオ・・・。私を信じて・・・ついて来てくれる?」

「ああ、当たり前だ・・・。俺の居場所は・・お前の隣なんだから・・・っ!」

テオ・・・・。
私は鍵穴に『狭間の世界』の鍵を差し込むと言った。
「テオ、私を・・・しっかり抱きしめていて・・・!」

するとテオは私の顎を摘まんで上を向かせると唇を重ね・・強く抱きしめて来た。

テオ・・・。
私は目を閉じて鍵穴を回した—。




2

「・・・・。」
テオは黙って私から唇を離した。

「テ・テオ・・・。」
突然の出来後に目を見開いていると、テオが熱を込めた目で私の頬に触れながら囁いて来た。

「ジェシカ・・・愛してる・・。突然こんなことして驚かせてすまなかった。お前にしっかり抱きしめていてと言われて・・つい嬉しくて・・・!」

そして再びテオは私を強く抱きしめると、唇を重ねてきた。



「全く・・・こんな所で何をしているのかしら?」

その時、私達の頭上から女性の声が降って来た。え・・?そ、その声は・・?

テオも驚いたのか、私から唇を離すと上を見上げる。

「え・・・?お、お前は誰だ・・・?」

だけど・・・私はこの女性を良く知っている。

「フ・・・フレアさんっ!」

するとフレアは私を見ながら言った。

「全く、相変わらず騒がしい女ね・・・。でも・・よく来れたわね。アンジュが・・待ってるわよ?」

「ア・・・アンジュが・・・?」

「ええ。もう今回の騒ぎはとっくに私達も知っていたわ。・・・大変な事になっているようだけど・・・。ようこそ、『狭間の世界』へ。」

フレアは腕組みをしながら言った—。



「そ・・・それじゃ、お前は魔族の女だったのか?」

テオは生れて初めて見る魔族に驚いたのか。フレアを見つめた。

「ええ、そうよ。魔界の第3階層と呼ばれる場所に住んでいるエリート魔族なのよ。」

今私達はアンジュの待つ宮殿へ続く門を目指して森の中を歩いていた。

「フレアさん・・・。お腹の赤ちゃんの具合は・・・どうですか?」

「そうね・・・。多分順調よ。まあ何と言っても私とノアの子供だからきっと美しい子供が生まれて来るに決まってると思うけどね。」

フレアの言葉にテオは驚きを隠せない。

「な・・・何だって?!ち・・父親はノアなのかっ?!あ・・あいつはその事知ってるのか?」

するとフレアは言う。

「知ってるはず無いでしょう?だってノアは私の事覚えてなんかいないのだから。」

フレアの横顔は・・・何処か寂しげだった。

「フレアさん・・・。これから・・どうするんですか?」

私の質問にフレアは大きなため息をつくと言った。

「これからどうするって・・・・。私の事はどうでもいいわよ。まあ、もう魔界に戻るつもりは無いから、ここでこの子を産んで育てるつもりよ。ヴォルフが協力してくれるって言うからね。」

「そうですか・・・ヴォルフが・・・。」
私はその話を聞いても別に驚きはしなかった。きっとヴォルフは私を助けるために一時的に人間界へ来てくれただけで・・恐らくフレアさんの元へ戻ると思っていたから。

「ヴォルフ?ヴォルフって・・・誰だ?」

テオが質問して来た。

「ヴォルフは彼女と同じ第3階層に住んでいた魔族の男性なの。今は・・人間界に来てくれて、魔物達から私たちを守る為に戦ってくれてる。」

「そうよ、全く・・・ヴォルフの奴ったら・・・。『ジェシカの危機だから見過ごせないっ!俺はジェシカを助けに行くッ!』て言って人間界へ向かったんだから。全く私という者がありながら・・・。」

フレアはブツブツと文句を言った。

「お・・おい、そのヴォルフって男はもしかしてジェシカの事を・・・?」

テオは私を見ながら声を震わせて尋ねて来た。

「あ・・・あの・・・そ、それはもう前の話だから・・・、ほ、ほら。今はフレアさんだっている訳だし・・・。」
言えない。テオには・・・ヴォルフに愛を告白されたことがあるなんて・・・!

「ええ、そうよ。もうヴォルフは私の物。貴女なんかに渡さないからね?」

じろりと挑戦的にフレアは私を見た。
「勿論、分かってますよ。お2人の仲をどうこうするなんて思ってもいませんから。」

「ええ、当然よ。だってこの子の父親になってくれるって約束してくれたんだからね。」

「それは良かったですね。」
言いながら私は思った。全く・・・ヴォルフはフレアさんという伴侶?を手に入れたのに・・・皆の前で私にちょっかいを出して、揉め事を作ってくれて・・・。今度会ったら一度文句を言っておかないと・・。

「でも・・・呪いが解けたんですよね?良かった・・・。」
私は改めてフレアを見ると尋ねた。

「まあ、呪いは解けたけど・・・大きな代償は払ってしまったけどね。」

「代償・・・?」

私は首を傾げた。

「そう。私は・・魔族の呪いによって、危うくお腹の赤ちゃんを失いそうになったのよ。だから・・・自分の魔力を全てこの子に注ぎ込んで・・・この子は助かったの。だけど・・・私は魔力を失った。もう二度と・・魔法を使う事は出来なくなったわ。」

フレアさん・・・。
ああ、そうだったのか・・・。ヴォルフの顔が浮かなかったのは・・・そういう事だったんだ・・・。

「でも後悔はしてないわ。だって愛する人の子供は助かったんだもの。貴女だって魔法を使えないでしょう?例え二度と魔力が戻らなくてもちっとも後悔なんかしていないから。あ、門に着いたわよ。」

「それじゃ、行きましょうか?アンジュが・・・貴女を待ってるから。」

フレアの言葉に私は頷き・・・・3人で門の中を潜り抜けた—。



「ジェシカーッ!僕の愛しい人・・・やっぱり戻って来てくれたんだね?!」

宮殿に着くなり、 アンジュは誰が聞いても誤解されそう台詞を言い放ち、私に抱き付いて来た。

「お、おい!お前・・・ジェシカに何するんだっ?!」

驚いたのはテオだ。
何せ飛び切り美形の男性がいきなり私に抱き付いて来たのだから。

「ハア?何だい。君は・・・。ジェシカ。又君は違う男をこの世界に連れて来たんだね?」

「何?違う男?前回は誰を連れて来たんだ?ジェシカ・・・。」

テオは縋るような眼つきで私を見つめて来る。
ああ・・・全くアンジュは・・・誤解される言動ばかりして・・・。

「ア・・アンジュ。カトレアさんとの結婚はどうなったの?」

「ああ、彼女ね。もう僕の妻だよ。今日は実家に里帰りしてるんだ。と言うか・・・愛しいジェシカが来るのが分かっていたから、急遽カトレアには実家に戻って貰ったんだ。」

言いながら、挑発的な目でテオを見つめる。

「アンジュッ!もうからかうのはいい加減にして!テオも・・・彼の言う事は気にしないでね?」

アンジュを押しやりながら私は言った。

「あ・ああ・・・分かったよ。ジェシカ・・・。」



今、私達はお茶をご馳走になりながら話合いをしている。


「とにかく門を修復しない事には、いつまでたっても人間界に魔物が現れるのを止める事は出来ないね。」

アンジュは紅茶を飲みながら言う。

「アンジュ。門はどうすれば修復する事が出来るの?」

私が尋ねるとアンジュが言った。

「そうだね・・・。修復するのはもう無理だから・・・新しく作り直さないと無理なんじゃ無いかな?」

「作り直す・・。ただ単に似たような門を作って、鍵穴を付ければいいのか?」

テオが尋ねる。

「いや、そんな簡単な事じゃない。門には3つの保護を掛けないと・・・封印の機能は働かないよ。」


「3つの保護・・・?」
私は首を傾げた。

「そう、3つの保護。まず一つは人間界の聖女の祈りの保護、2つ目は『狭間の世界の王』・・つまり僕の保護、そし3つ目は魔族の王の保護・・・この3人の力が必要だね。」

アンジュの言葉に私は絶望的な気分になった。

「聖女のソフィーは今何処にいるか行方が分からないし・・・魔族の王なんて・・・今は居ないんじゃなかったの?」

するとフレアが言った。


「あら、魔族の王なら・・・もう現れたわよ。人間界にね・・・もっとも今は魔界にいるみたいだけど?そうよね、アンジュ。」

「うん。そうだよ。彼が・・・新しい魔族の王だよ。」

そしアンジュは空中に直径1m程の大きな球体を出現させると言った。

「ほら。彼が・・・新しい魔族の王だよ。」


その球体に映しだされた人物は・・・。

「ド・ドミニク様・・・・・」

私は信じられない思いで映像を見つめた—。
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