目覚めれば、自作小説の悪女になっておりました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

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第8章 2 この世界の全てを知る者

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1

私が名前を呼んだので、フレアとアンジュが不思議そうにこちらを見た。

「あら、ジェシカ。貴女、魔界の王の名前を知っていたのね?」

フレアが不思議そうな顔で私を見た。

「へえ~凄いね。この『狭間の世界の王』であるこの僕もまだ彼の名前を知らなかったのに・・・。」

アンジュも球体に映し出されている公爵を見つめながら言った。

「お、おい・・・・ジェシカ・・・。こ、この男って・・・。」

テオは指先を震わせながら公爵を指している。

「う、うん・・・。間違いない・・。この方は・・ドミニク・テレステオ公爵。」

何故?何故公爵が魔界の王なの?それに・・・何故今魔界にいるの?!
私には謎だらけだった。

「な・・何故なの・・?」
私は唇を震わせながら、誰にともなく言っていた。
「何故・・・ドミニク公爵が・・・魔界の・・・王なの?彼は・・彼は人間だったはずよ・・・!」

私は思わず公爵が映っている球体を抱え込んだ。熱い・・・!球体が焼けるように熱い・・っ!

「キャアアッ!貴女、一体なにするのよっ!」

フレアが驚いて悲鳴を上げる。

「ウワアッ!ジェシカ!君、一体急にどうしのさっ?!」

マシューも私の突然取った行動に声を掛けてきた。

「お、おい!ジェシカッ!落ち着けっ!」

するとそこへテオが私を後ろから羽交い絞めにしてきた。

「あ・・・。」

そこで私はようやく我に返り、球体から身体を離した。
私の手の平は・・熱で真っ赤になっていた。

「・・・・大丈夫か?ジェシカ?」

「う、うん・・・。ごめんなさい。皆さん・・・突然大声を上げて・・おかしな真似を・・・。」

「う、うん・・・。別に僕は大丈夫だけど・・・・それより、ジェシカどうしたんだい?彼は・・・君の知合いなの?」

アンジュが尋ねて来た。
知り合いも何も・・・。

「こ、この男性は・・私と・・・ここにる彼と同じ学院の学生なの。年齢は私と同じ18歳の・・・青年・・・。」

どうして?嘘でしょう?公爵・・・・。貴方は魔族だったの?だから・・・私は魔族の香りに魅せられて・・・。何度も何度も・・・貴方と・・・。貴方は聖剣士では無かったの?

呆然としている私に、そっとテオが声をかける。

「ジェシカ・・・。落ち着け、まずは・・・座ろう。」

促されて私が椅子に座ると、フレアが口を開いた。

「人間の貴女は気が付いていなかっただろうけど・・私は気が付いていたわよ。初めて『ワールズ・エンド』で彼を見た時から・・・。でも本人はその事に気が付いていなかったから何も声を掛けなかったわ。と言うか、それどころじゃなかったのよ。
マシューの事があったから・・・。」

そこまで言いかけて、フレアは何かに気が付いたかのようにアッと言う顔つきで私を見た。

「そ・・・そう言えば、マシューよっ!ジェシカッ!あ・・貴女・・・確かマシューを愛していたはずよね?それなのに、どうして別の男と一緒にいるのよっ!し、しかも・・・キスまでして・・。全く・・・マシューやノアだけじゃ飽きたらず・・・って訳かしら?!」

「何だって?!ジェシカッ!き・・・君はこの男とキ・・キスをしていたって言うのかいっ?!よ・・よくも僕のジェシカに・・・っ!」

そう言ってアンジュはテオに掴みかかる。

「ちょ・・ちょっと待てッ!誰が僕のジェシカだって?!い、いや!それよりも・・ジェシカッ!ノアが一体どうしたって言うんだっ?!」

テオはアンジュに抵抗しながら私に必死に訴えて来る・・。
もう収集が付かない状態だ。仕方が無い・・・・。
私は皆が落ち着くまでじっと待つ事にしたのだった―。


それから約30分後―。

「皆・・・・落ち着いた?」
私は3人を見渡しながら尋ねた。

「落ち着くも何も・・・私は初めから冷静よ。騒いでいたのはあの2人の男じゃ無いの。」

フレアはアンジュとテオをチラリと一瞥すると言った。

「お・・男って・・・。おい!僕はこれでも一応この世界の王なんだからなっ?!もう少しを敬意を払った言い方をしてもいいんじゃないかなッ?!」

「何っ?!お前がこの世界の王だってっ?!女みたいな外見だから、女王の方がお似合いなんじゃないかっ?!」

テオは先ほどの恨みがあるのか、とんでもない事を言い出した。

「何だって?!この僕の何処が女なんだよっ!」

「煩いっ!女みたいな外見だって言っただけだろうっ?!」

「「うう~ッ!」」

息を揃えて激しく睨み合うのを止めたのはフレアだった。

「はいはい、分かったからそこまでにして頂戴。全く・・・こんな騒がしい環境じゃお腹の子に悪い影響が出そうだわ。」

フレアは自分のお腹を愛おしそうに撫でながら言う。

「「・・・・。」」

流石にその台詞を聞いたアンジュとテオは静かになった。

「はい、じゃあジェシカ。さっきの話は・・もう終わりにしましょう。貴女のその短く切られた髪とか・・・やつれた感じとか見れば・・・今ここにマシューがいない理由も・・・何となく察しがつくから。」

「フレアさん・・・。」

「それじゃ、あの・・・魔界の王の事について話したほうがいいわね。」

フレアが言う。

「ああ。そうだね。・・・魔界の王なんだから、フレア。君から話しなよ。」

アンジュはフレアに言った。

「お願いします。フレアさん。」

「ああ、何故ドミニクが魔界の王なのか・・・聞かせてくれ。」

私とテオは交互に言った。

「ええ。いいわ。まずは・・・魔界の王についての事なんだけど・・・。これは第3階層に住む魔族なら全員が大人達から教えられてきた事だから誰もが知ってる話なんだけど・・・。」

フレアは語りだした。

今から数百年前、魔界は神界を支配する為の足掛かりとして人間界を征服しようとした。それを神界・・正しくは『狭間の世界』の者達が人間達に協力し、戦いを挑み、ついには英雄と呼ばれた人間界の王と聖女、『狭間の世界の王』との戦いに敗れた魔王は消滅してしまった。ただし、魔王は肉体が滅ぶ前に魂だけを人間界に解き放つと宣言をした。やがて、いずれ時が来れば魔王として目覚めた自分が魔界に戻って来れるようにその魂には魔王の記憶が植え付けられていると言われている・・・。


「そ・・・それじゃ、初めからドミニク様は・・・魔王の魂が宿っていたと言うの・・?」

私の問いにフレアが答えた。

「ええ。その通りよ。その証拠が・・・あの黒髪と左右の瞳の色の違いね。あの姿は私達の間で言い伝えられている魔王の肖像画、そのものの姿よ。だから・・・彼の持つ魔力もそうだけど、姿を見て一目で分かったわ。」
その後、フレアは何かに気付いたのか私を振り返ると言った。
「ああ、それにね・・・。確かこれは別に聞いた話なんだけど・・・魔界の王は特に人間の女性を・・・強く魅了する力を持っていると言われているんだけど・・・・。ジェシカ・・・心当たりはある?」

「え?」
その言葉に私は一瞬心臓が止まりそうになった。そうだ、私は・・・気付けば公爵の香りに酔わされて・・・何度も何度も・・・。
「・・・・。」
だけど、こんな事・・皆の前で答えられず、思わず黙ってしまう。

「ジェシカ?」

テオが心配そうに声を掛けてきた。アンジュは何故か青ざめた顔で私を見つめている。

「・・・まあいいわ。私が知ってる話はそれ位ね。」

フレアは肩をすくめると言った。
するとアンジュが手を挙げた。

「それじゃ、僕が知ってる魔王の話をするよ。魔王が自分の肉体が滅ぶ時に言った言葉・・・いずれ、人間の肉体を持って生まれ変わるだろうと聞かされた先代達はそうはさせまいと、魔王の身体から抜け出した魂に封印をかけたんだ。決して、その魂が目覚めないようにと・・・。多分今までもずっと魔王は同じ魂を持って何度も何度もこの世に生まれ変わってきていると思うんだけど・・・いつもその力が目覚める前に人間の肉体が力尽きて亡くなっていった・・・。それが、今回何故魔王として目覚めてしまったのか・・・考えられる理由がある。」

「考えられる理由って・・・?」

「多分、彼のすぐ側に・・・・邪悪な魂を持った人物がいた。そしてその人物によって悪影響をもたらされ・・・・とうとう魔王として覚醒してしまった・・・。」

アンジュの言葉に・・・私が真っ先に浮かんだのは誰だったのかは言うまでも無かった—。



2

「ドミニク様は・・・今、魔界の何処にいるのか分かりますか?」
フレアの方を向いて尋ねた。

「まさか・・・ジェシカ。魔界へ行くつもり?」

フレアが目を見開いて私を見つめた。

「はい。ドミニク様を・・・連れ戻しに・・。」

「駄目だっ!ジェシカっ!」

真っ先に声を上げたのは他でも無いアンジュだった。

「ア・・・アンジュ・・・?」

アンジュの顔は今迄に無いくらい、感情が露わになっている。

「駄目だ・・・・・魔界へ行ったら・・・今度こそジェシカ。君は無事でいられないかもしれない・・。君に危険が迫ると僕に知らせる警報が鳴るって事は・・・前に話したよね?今はそれがどんどん音が強まってきている。お願いだ。どうか魔界へ行く事は考え直してくれる?」

「だ・・・だけど・・。」
私は縋るようにテオを見た。

「ジェシカ・・・。俺は・・・ジェシカが行きたい場所に・・・何処までも付いて行くだけだよ。否定はしない・・・。」

テオは優しい笑顔で私に言う。・・・有難う、テオ。

「駄目だ!僕は絶対に魔界へ行く事を認めないっ!」

それでもアンジュは引かない。

「そうね・・・・。今回ばかりは私も行かない方がいいと思うわ。それに・・どのみち私はもう魔界へ足を踏み入れる事は出来ないから付いて行けないわよ?」

「大丈夫です。構いません・・・。あの、それで今ドミニク公爵は何処に?」

「もう一度彼の居場所を映し出してみようか?」

アンジュが再度球体に触れると、再び公爵の姿が映しだされる。ここは・・一体何処なのだろう?
そして公爵の前には空中に浮かぶ城があった。

「あらま~大変。」

フレアはまるで他人事のようにのんびりした口調で話す。

「た・・大変・・て・・な、何が大変・・・なのでしょうか・・?」

引きつりながら私は尋ねる。

「あの空中に浮かんでいる城なんだけど・・・・。」

フレアの言葉に私は再度球体に映し出される映像を見つめる。

「あそこに映っているのは・・・かつて魔王が住んでいた城よ。でも今は・・・あそこは魔界の総裁の拠点よ。貴女・・・映像で会ったことあるわよね?」

「は・・・はい。覚えています。」

「僕もはっきり覚えているよ。まさか・・・また関わりになるとは思わなかったけどね。」

アンジュはそう言ってため息をついた。

「お、おい・・・。まずいんじゃないか?ドミニクが映像で今あの場所にいるっていう事は・・・。」

テオがフレアに話しかけた。

「そうね・・・。きっともう彼は・・・駄目かも。」

肩をすくめるフレアにテオが食って掛かった。

「お・・・おい!な・・・何だよ、その駄目かもって台詞は・・・っ!身も蓋もない言い方するなっ!」

「何よっ!ほんとの事言っただけでしょう?!」

「だからって・・・もっと物には言い方があるだろう?クッソ・・・俺とジェシカの気も知らないで・・・っ!」

「それじゃ、貴方には仲間達から追われる身になった私の気持ちが分かるって言うの?!」

何故か激しく言い合いを始める2人。
全く・・・最近薄々感じてきたのだが・・・どうもこの世界の住人達は喧嘩ッ早い人達が多い気がする・・・。

「ふたりとも、落ち着いて!今はそんな言い争いをしている場合では・・・。」

「そうだよ、2人とも。ジェシカの言う通りだよ。」

アンジュも喧嘩の仲裁に入った。

「だって・・・今のままじゃ打つ手が無いんだろう?」

テオが悲し気に目を伏せる。

「テオ・・・・。」
その時、私はふとある人物を思い出した。

「そ、そうだっ!ねえ、アンジュ。私を魔界へ行く為に力になってくれた・・・『大木の森の魔女』彼女にもう一度会わせて、お願いっ!」

縋りつくようにアンジュにお願いすると・・・・。

「ええ~・・・どうしようかなあ・・・。彼女は気まぐれだし、偉大な魔女だから・・・そう簡単には会えないんだよね・・・。そうだっ!ジェシカッ!僕にキスしてくれたら、会わせてあげるよっ!」

とんでもない事を言ってきた。

「な・・・何だと、お前・・・っ!」

ついにテオがアンジュの襟首をムンズと掴みかかった。

「二度とジェシカにそんな事を言うなっ!」

「煩いっ!お前に言われる筋合いは無いからなっ!ましてやジェシカにキスするような男は・・尚更だっ!」

と、その時・・・。

「全くここは騒がしい場所だよねえ・・・・。」

突如部屋の中へ、あの『大木の森の魔女』が現れたのだ。

「ま・・・まさか、貴女からここへやって来るとは思っていもいませんでした・・・。」

アンジュが魔女を見つめながら言った。

「何言ってるのよ、あんたが彼等に意地悪な態度を取るからでしょう?全くこの世界の王になったっていうのに・・・いつまでたっても子供みたいなんだからねえ・・・。」

まるでアンジュを小さな子供のように言い聞かせる魔女。本当に・・・この女性は何者なのだろうか?

「さて。と言う訳だから・・・ジェシカを借りていくね。」

言いながら魔女は私の右腕をグイと掴むと・・・その瞬間、私は以前訪れた事のある魔女の家の中にいた。

「え?え?そ、そんな・・いつの間に・・・っ!」

転移魔法とも違う、一体今の力は・・・?しかし、そんな私の動揺を他所に、魔女は突然何故か私の前で膝を折り、恭しく頭を下げると言った。

「この世界の創造主、そして我が主・・・ハルカ様・・・。ようやく貴女に御挨拶する事が出来て・・・光栄至極に存じます。」

そして顔を上げて私の事をじっと見つめてきた。

「え・・・・?い、今・・・・何て・・言ったのですか・・・?」

すると魔女はにっこりと微笑むと言った。

「ああ、私にそのような言葉遣いをされるなんて・・・。やはり謙虚な方なのですね。本当は・・・初めて学院でお会いした時から、ずっと貴女に私の存在を知って貰いたくて・・・何度名乗りを上げようかと思った事か・・・。」

え?一体この魔女はさっきから何を言ってるの?この魔女の話を理解出来る様な、出来ないような複雑な感情が私の中で入り混じっている。いえ、それよりも・・。

「あ、あの学院で会った時から・・・っていつの話ですか?私・・この世界で会う前から・・貴女に会った事があるんですか?」

すると・・次の瞬間私の前に現れたのは・・・。

「え・・・?マ・・・・マリア先生・・・・?」

そこに立っていたのは『セント・レイズ学院』の医務室の女医・・・マリア・ペイン先生だったのだ。

「驚きましたか?貴女の命を・・・そしてこの世界の重要人物「ジェシカ」の命の両方を守る為・・・・私がこの世界に貴女を呼んだのです。」

「え・・・?な・・・何の事なのですか?私にはもう何が何だか・・・・。」

すると・・魔女は突然手のひらから一冊の本を取り出した。

「この本を・・・御覧下さい。」

魔女から本を手渡された私は・・・その本の題名を見て息を飲んだ。
その本の題名は『聖剣士と剣の乙女』
私の書いた小説の題名と同じだった。そして・・・作者名の所には・・。

川島遥

私の名前が記されていた・・・。

「あ・・・?一体これは・・・?」
嘘・・・。どうして私の書いた小説が・・・本になって・・・しかもこの世界に存在しているの?!こ・・・こんな事って・・・!

「私が誰なのかは・・・もう作者である貴女でしたらお分かりになりますよね・・?それとも長くこの世界にい過ぎて同化して・・・分からなくなってしまいましたか?中をご覧になりますか?」

魔女に促されて、私は恐る恐るページを開いた—。
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