目覚めれば、自作小説の悪女になっておりました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
248 / 258

第9章 10 私の秘密とマシューの涙

しおりを挟む
「マシュー・・・。覚えている?私が魔界へ行く為に『ワールズ・エンド』へ行く前日に、貴方が連れて行ってくれた魔法で作られた違う次元の世界・・美しい桜吹雪のあの場所を・・・。」

城を見つめていた私はマシューの方を振り向くと言った。

「うん・・・。勿論。忘れるはず無いだろう?だってあの場所は・・・ジェシカ。君と初めて結ばれた場所だったんだから。」

マシューは私をじっと見つめながら答えた。
そうだ、私はあの場所で初めてマシューと関係を持ったのだ。あの時はマシューの私を望む気持ちに応えてあげたいと思ったから、彼に身をゆだねた。けど・・・今なら分かる。本当はあの時の私は彼を・・愛していたから結ばれたいと思ったのだ。
でも、今となっては・・・それは全て過ぎ去った過去の話。

「それじゃ、私があの時貴方に話した言葉・・・覚えてる?」

「言葉・・・?」

マシューが首を傾げる。

「そう、貴方が私に『君は何者なんだい?』と尋ねたでしょう?だから私は自分の事をこの物語の世界の悪女、『ジェシカ・リッジウェイ』そしてソフィーはこの物語の『聖女』だと言った事・・。」

「勿論・・・覚えているよ。どうして、そんな言い方をするのだろう?まるでこの世界は物語の世界の話だと言ってるのかと思ったよ。」

マシューの言葉に私は息を吸い込むと言った。

「マシュー。この世界はね、本当に物語の世界の話なの。今からする私の話・・・信じるか信じないかは貴方に任せる。だから・・聞いてくれる?」

「うん。ジェシカ・・・聞かせて。」

「私はね・・・本当はこの世界の人間では無いの。別の世界・・・日本と言う国に住んでいたの。その事実を知っているのはエルヴィラと・・・アンジュ。この2人だけよ。そして、この物語のオリジナルを書いたのはこの私。だけど・・ある人物によって私の作った物語は大き変えられてしまった。それが、今私達が存在してる世界なの。」

「え・・・?ジェシカ・・。あまりにも急な話で、俺には何の事だか・・・。」

戸惑うマシュー。うん、それは当然だろう。誰だってこんな話をされて戸惑わない人間はいない。それどころか頭のおかしい人間に思われても仕方ない位だ。

「私の本当の名前はジェシカ・リッジウェイじゃない。川島遙って言うの。」

「カワシマハルカ・・・・?」

「そう、だからエルヴィラとアンジュは私と2人きりの時はハルカって呼んでくれてるの。」

「・・・俺も・・・そう呼んだ方が・・いい?」

マシューがためらいがちに言う。

「え?」

「あの魔女と・・・『狭間の世界』の王がそう呼んでるんだよね?だったら俺も君をジェシカではなく、ハルカって呼んだ方がいいのかなって思って。」

照れたようにマシューは言う。

「ジェシカのままでいいよ。でも、マシュー・・・。私の話・・・信じてくれるの?」

「うん。勿論だよ。だから・・全て教えてくれる?」

マシューは頷いた。

「私はね・・・日本では25歳の、仕事をしているごく普通の女性だったの。恋人もいたんだけど・・・ある日突然別の女性に彼を取られてしまってね。挙句に仕事もクビになっちゃったし。それでやけになって・・・物語を書いたの。今目の前にあるこの城をイメージした・・・恋と魔法のファンタジー小説の世界。そこで出てくる登場人物が、聖女と呼ばれるソフィーと、いずれソフィーと結ばれる運命の相手のアラン王子。そして・・・悪女と呼ばれた女性・・・それが私、ジェシカ・リッジウェイ。そして、本物のジェシカは・・・セント・レイズ学院の入学式の時に学院の塔から落ちて死んでしまったのよ。その話はマリウスと・・エルヴィラから聞いたわ。エルヴィラが・・私をこの世界に連れてきたのよ。彼女は私が書いた小説の語り部だったから。」

「え・・・?そ、それじゃ・・入学式で学院の外で光に包まれていたのは・・?」

え・・?

「マシュー。今・・何て言ったの?」

「いや・・実は今まで黙っていたけど・・・俺・・入学式の時、ジェシカに会ってるんだ。君は光の中で眠っていて・・すごく綺麗だった。そしたら、その直後に誰か人の気配を感じたから、俺は姿を消したんだけどね。そうか・・。その時にジェシカはこの世界に連れて来られたんだね・・?」

「うん。多分そうだったんだと思う。実は私も元の世界で死にかけていたんだって。そこを私を迎えに来たエルヴィラに連れて来られて・・死んでしまったジェシカの肉体に・・・私の魂を入れたんですって。」



「はじめ、自分がこの世界の悪女になっていた時は驚いた。・・何度も元の世界へ帰りたいって思っていたけど・・色々な人達に出会って・・・好意を寄せられて・・・。この世界も悪く無いかなって思うようになったの。でも・・私はずっと怖かった。だって私の作った物語の世界なら・・・確実に私は魔界の門を開けた罪人として裁かれて流刑島へ流される事は決まっていたから・・・。それに私は皆とは違う世界の人間だから・・・絶対に誰も好きになってはいけないって心に決めていたし・・・。」

「・・・。」

マシューは何を思っているのか・・両手を強く握りしめたまま私の話を聞いている。


「だけど、本当に魔界の門を開けて、魔界へ行く事になるとは思わなかったな。小説の世界とはかなり展開が違ったけどね。魔界から戻ってきたその後の事は・・・もう分かるでしょう?小説通りに私は裁判にかけられたけど、ドミニク公爵が私を助けてくれたお陰で、今こうしていられるのよ。」

「ジェシカ・・・君は・・・ドミニク公爵を・・・今は愛してるの・・?だけど彼は君を監獄塔に閉じ込め、嵐の晩・・・君の所へ来るどころか・・あのソフィーを抱いていたんだよ?そんな男を・・・。しかも彼は・・・魔王だった・・・。」

「マシュー・・・?」

マシューが悲し気に私を見つめてくる。

「分からない。確かにドミニク公爵は私にとって特別な人に違いないけど・・。」

「けど・・?」

「だって・・・今の私にはもっと他に大切な人がいるから・・。」

「テオ・・・先輩なんだよね・・・?ジェシカの命を救った・・・?」

「テオの事を愛しているって聞かれても・・それもよく分からないの。でも・・私が絶望してしまったこの世界で・・テオは言ってくれた。自分の居場所は私の隣だって。・・・それがすごく嬉しかった。だって・・・彼が初めてだったのよ。私の事を裏切らなかったのは・・・魅了の魔力を失った私を愛してるって言ってくれたのは、全部・・テオが初めてだったから。今、はっきり言えるのは・・・テオは私にとってのかけがえのない人だって事・・。」

「・・・・。」

マシューは下を向いたまま、黙って俯いて私の話を聞いていたが・・やがて顔を上げると言った。

「ジェシカ・・・。俺が君を絶望させてしまったんだよね?俺がソフィーの手に落ちて、ジェシカから貰った愛を・・一瞬でも踏み躙ってしまったから・・・!」

私は首を振った。

「そうじゃないわ、マシュー。だってそもそも・・・貴方が私の事を好きになったのは『魅了の魔力』にあてられたからなんでしょう?偽ソフィーに私の魅了の魔力が渡った瞬間・・マシュー。貴方はソフィーを愛したでしょう?」

「だから?だからもう俺はジェシカを愛していないと決めつけるの?俺の事を愛してると言った事も・・・ジェシカは帳消しにしてしまうの?」

「マシュー・・?」

マシューの顔が悲し気に歪んでいる。そして彼は血を吐くように言った。

「ジェシカ・・・。俺は、『ワールズ・エンド』で一度は心臓が止まったんだ。だけど、どういう分けか命を吹き返した。そしてその時にはすでにあのソフィーに捕まっていたんだ。そして・・無理やり仮面を付けられてしまい・・あの状態だった時の俺の事は、もう知ってるよね?」

気付けば、マシューは私の両肩を掴んでいた。

「も・・・勿論知ってるわ。」

「ジェシカ・・・俺・・実は・・今はもうあの時の記憶も・・・仮面の呪いが消えた直後の事も全て覚えている・・記憶が戻ったんだ。信じてくれるかは分からないけど、俺は・・入学式の時に、初めてジェシカを見た時から『魅了の魔力』を君が持っている事に気付いてたよ。だって俺は半分は魔族だから・・魔族の血を持つ者はそう言う能力にはすぐに分かるんだ。だけど、そんな事は関係なく、俺は・・ジェシカに惹かれたんだよ?だから生徒会長から君の護衛をするように言われた時は・・・すごく嬉しかった。だって、ようやく君との接点が出来ると思ったから・・・。」

「マシュー・・・・。」

知らなかった。彼がそんな風に思っていたなんて。

「初めて・・・君に許しを貰って抱いた時・・・嬉しさの反面、半分は罪悪感があったんだ。命の危険を冒して魔界の門を通らせる事の交換条件のように感じて・・ジェシカは俺と関係を持ってくれたのだろうって・・・。あの時ジェシカはノア先輩を愛していると思っていたから・・・!」

次の瞬間、マシューは私を強く抱きしめてきた。それと同時に・・あの魔族の香りが私の鼻腔を刺激する。

「だけど・・2度目・・仮面をつけていた時にジェシカを抱いた時は・・・君から・・愛を感じたんだ・・!己惚れなんかじゃ無く・・・全身で俺を愛してくれているって言われているように感じた。もう・・・その時の君の感情は戻ってきてくれないの・・?」

マシューが泣いている・・・。
私の髪に顔をうずめ・・熱い涙が髪を通して伝ってくる。

「お願いだ・・・。ジェシカ・・俺は・・・君を愛しているんだ・・・・。仮面の呪いは・・本当に恐ろしくて・・未だに時々、あの当時の事が夢に出て・・思い出されるんだ・・。もう一度・・俺の事を愛してるって言って欲しい・・。」

マシューは子供のよう私に縋って泣いている。いつもどこか飄々とした態度を装っていたマシュー。でもそれは半分魔族だから・・・人間界で虐げられた生活を余儀なくされてきたから・・わざとそんな風に自分を演じて・・・周囲を・・・そして自分を騙して生きてきたのだろうか・・・?
公爵とはまた違った意味での孤独な世界で生きてきた、半分魔族のマシュー。
そして・・かつて一度は愛した事のある男性・・・・。


だから、泣きながら抱きしめて来るマシューの背中にそっと手を回し・・まるで小さな子供をあやす様に、彼が泣き止むまで私は背中をさすり続けた—。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 日曜日以外、1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします! 2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております! こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!! 2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?! なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!! こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。 どうしよう、欲が出て来た? …ショートショートとか書いてみようかな? 2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?! 欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい… 2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?! どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

処理中です...