目覚めれば、自作小説の悪女になっておりました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

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第9章 11 現実世界をつなぐ場所

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「ごめん・・・。情けない姿を・・・見せてしまったね・・。」

ようやく泣きやんだマシューが恥ずかし気に視線を逸らせながら言う。

「いいよ、そんな事気にしないで・・・だって私は今迄大勢の男の人の涙を見てきたからね。アラン王子や公爵、それにノア先輩やあのデヴィットさんまで・・。」

すると、咳ばらいをしながらマシューが言った。

「え~と・・・あまりそういう話はしない方がいいと思うよ?男っていう者は・・・人前で泣く事を恥ずかしいと思ってるから・・。」

確かに・・・言われてみればそうかもしれない。

「うん・・・そうかもね。ごめんなさい。」

「でも・・・多分ジェシカの前で泣いた男達は・・・皆君の事が好きだから・・泣いたと思うよ?それだけ感情をジェシカの前では揺すぶられるって事だと思うんだ。・・・っ。ごめん・・・。迷惑だったね。こんな話をするのは。」

「マシュー・・・。」

「あ、いや・・。と、とに角・・もう・・・俺がさっき言った事は忘れてくれて構わないから。それよりも魔法が使えないのは困ったな・・・。これでは学院に戻る事が出来ないし・・・。」

確かに、魔法が使えないとなると元の世界へ戻る事は不可能だ。この世界は私が住んでいた現実世界でファンタジー小説の世界では無い。魔力が使えなくなったのは元々魔法が存在しない世界だからなのかもしれない。

「マシューが魔法を使えなくなったのは、多分魔力切れとかそう言う類のものじゃないと思うの。元々の世界では魔法が使えるのが当たり前の世界だけど・・・この世界では魔法なんて使える人は誰もいないし、魔法自体が存在しない世界だから。それに・・・。」

「それに・・?」

「何だか凄く違和感を感じるの。この城は、市街地から数キロしか離れてない場所だったから・・・初めてこの城を訪れた時も大勢の人がこの城に見学に来ていたのに・・全く人の気配がしないし・・。」

何となく不気味な気配を感じた私はブルリと身体を震わせた。

「ジェシカ・・・・大丈夫?」

マシューが心配そうに声をかけてくる。

「う、うん・・・。あのね・・これは勘だけど・・この城の中に入れば・・何か分かりそうな気がする。だから、私、城の中へ入るね。」

私は『Keep out』と 貼られてテープを剥がした。

「え?ジェシカ・・・。中へ入ってもいいの?」

「う~ん・・・本当は駄目なんだろうけど・・3年前にここへ来た時はこんなテープ貼られていなかったのよ。ひょっとして、何かがあって中へ入れなくされているのかと思って・・・。」

「ジェシカ。どんな危険があるか分からないから・・俺が先に中へ入るよ。」

マシューを先頭に私達は城の内部へと入って行った。

床も壁も全面石造りのこの古城は約1000年前に建てられた名も無き小さな城で、古城マニアからは『アンネイムド』と呼ばれ、いつしかそれが固有名詞になっていた。

「随分古そうな城だね・・・。床も壁も石で出来ているなんて・・・。これじゃいつ崩れるかも分からないよ。」

時折、舞い散る砂埃に口元を押さえながらマシューが言った。

「うん、そうだね。この城は1000年前に建てられたって言われているから・・・。」

「え?!1000年前・・・?そんなんに古い城なの?!」

マシューが驚いた様に声をあげる。

「うん、そう。そんなに驚く事?」

「勿論だよ!だって俺達が住んでいた世界にはそんなに古い歴史はまだ無いからね。」

「・・・そうだったっけ・・?」

う~ん・・。自分で書いた小説なのにその辺の古い歴史は曖昧にしてきたからなあ・・・。

「それでジェシカ。上に登る?下に降りる?何だか地下にも階段があるみたいだけど・・・?」

先頭を行くマシューが尋ねて来た。

「え・・?地下?地下なんてあるの?!」

「うん・・・。ほら、あの床を見て。」

マシューの指さした先には床から下に続く階段が見えている。

「え?そんな・・・。地下へ続く階段なんて以前は無かったはず・・。」

「どういう事なんだろうね・・?」

マシューも不思議そうに首を傾げている。

「どうする?地下へ降りてみる?魔物とか・・・出てこないと思うけど。」

マシューの真剣な顔に思わず私は噴き出してしまった。

「プ!フフフ・・。」

「な、何?!どうしたの?突然笑ったりして・・。」

「あ、ご・ごめんなさい。マシューが魔物の話をするから・・・。あのね、この世界には魔物なんて存在しないよ?せいぜいいても野生動物くらいで・・・」

「え?そうなの・・・?本当に・・・俺達がいた世界とは何もかも違うんだね。でも・・・魔物がいないならある意味安心だね。よし、それじゃ行ってみよう。」


そして私とマシューは地下へと続く階段を下りて行った・・・。



「え・・?何だろう。ここだけ何か雰囲気が違うね・・。」


地下へ降り立つとマシューが言った。

「本当だ・・・確かにそうだね・・。」

その地下室はやけにだだっ広い部屋で何もおかれていない只の地下空間であった。ただ1つ違っていたのは部屋の中心に青白く光る五芒星が浮き出ていた。

「え・・?あれは・・・魔法陣・・?」

マシューが慌てて魔法陣に駆け寄った。

「な・・・何故・・・こんな所に・・・?」
思わず呟くと、魔法陣から声が聞こえてきた。

<聞こえますか・・?!ジェシカ様・・>

え・・?その声は・・・?

「エルヴィラッ!エルヴィラなのっ?!」

<ああ!良かった・・・やっとジェシカ様と通じる事が出来ました。ジェシカ様・・・申し訳ございません。こんな事になってしまったのは全て私の責任なんです。>

エルヴィラの声は悲痛に満ちていた。

「落ち着いて、私は今マシューと一緒に居るの。私の考えが間違えていなければ・・・ここは私が元いた世界・・現実の世界なのよね?」

<正確に言えば、どちらでもありません。>

「どちらでもない・・・?」

<はい、そこは現実世界とこちらの世界の中間地点に当たる場所です。本来であればその場所を通り抜けて、こちらの世界か、ジェシカ様が元々住んでいた世界に行く為の中間地点・・・次元の狭間のような場所です。私の使用した『ワームホール』の魔法が、当時気を失っていたジェシカ様の・・元の世界へ戻りたいと無意識で願っていたことが・・・中途半端な場所へ導いたのだと思います。>

「エルヴィラ・・・どうすればそちらの世界へ戻れるの?」

<!ジェシカ様・・・。まだこちらの世界へ戻ろうと思う意思があるのですね?>

「勿論!だって・・・『ワールズ・エンド』の門を直すのを見届ける義務が私にはあるから・・。それに、マシューがいる・・・。彼を・・・元の世界へ帰してあげないと・・・。」

「ジェシカ・・・・。」

マシューが複雑な表情を浮かべて私を見つめている。

<ジェシカ様。今の状況では私の力ではこちらの世界へ戻すだけの魔力が足りません。次の新月の時・・・魔力が完全に満ちます。その時に・・・ジェシカ様とこちらをつなぐ門を開く事が出来ます。>

「エルヴィラ・・・次の新月はいつになるの?」

<はい、5日後になります。>

「そう・・・それじゃ、あと5日待てば・・・そっちへ戻れるのね?」

<はい、そうです。5日後の午前0時・・・この魔法陣の上に立って下さい。その時に門が開かれ、こちらの世界へ呼び戻す事が出来ます。それまでは・・・そちらの世界でお待ちください。>

「うん・・・分かったわ。ところでエルヴィラ・・・。この世界には人の気配を感じないのだけど・・・?何故なの?」

<はい。そこは次元の狭間のような世界なのでジェシカ様のいた世界とは空間が違うのです。なので存在している建物や自然界の植物などは現実世界と何ら変わりませんが、生物に関しては・・・そちらの世界には恐らく存在しないはずです。>

「ああ・・だから人の気配を感じなかったのね。それで・・・話しは変わるけど・・ドミニク様はどうなったの?」

<生憎・・・未だにこちらも情報が掴めません。ただ、分かった事は・・あれ以来魔物が『ワールズ・エンド』に現れなくなったと言う事です。>

「そうなの?ドミニク様・・・・魔族達を説得してくれたのね・・・。」

私は目を閉じて言った。
公爵・・・大丈夫だよね?絶対・・・魔界から戻ってきてくれるよね・・・?

<ジェシカ様・・・大丈夫ですか?>

「うん、大丈夫。それじゃエルヴィラ・・・。新月までの間、定期的に貴女と連絡を取り合いたいの。1日1回でもいいから・・。」

<ええ、私もその方がよろしいかと思います。では・・・今の時間は午後4時です。明日もこの時間で宜しいですか?>

「うん。お願いね。」

<はい、承知致しました。それではジェシカ様・・後少しだけお待ちください・・・。>


そしてエルヴィラからのメッセージは途絶えた。

「ジェシカ・・・。」

背後でマシューが私を呼んだ。私は振り返ると頭を下げた。
「マシュー。・・・巻き込んでしまってごめんなさい。私の手を掴まなければ・・貴方はこの世界に来る事も無かったのに・・。」

「そんな事・・気にしなくていいよ。それに・・・。」

マシューが私に近寄ると言った。

「俺だって・・・ジェシカが隣にいてくれるなら・・・元々いた世界なんて帰らなくたっていいと思ってるんだ・・・。」

「え・・・?」

そしてマシューは私を抱きしめた—。

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