目覚めれば、自作小説の悪女になっておりました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

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第9章 12 新月が来るその時までは ※(性描写有り)

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「マ、マシュー・・・。今、何て言ったの・・・?」

マシューは未だに私を抱きしめたまま離さない。そして私の肩に頭を乗せると言った。

「何度でも言うよ・・・。ジェシカが傍にいてくれるなら、俺は何もかも捨てられる。学院の生活も・・・今住んでいる世界も・・・それに両親だってきっと分かってくれる。俺はね・・・『ワールズ・エンド』へジェシカを連れて行く前に・・・最後の別れになるかもしれないと思って・・・父さんと母さんの処へ会いに行ってきたんだ。そして両親に伝えている。俺には・・・愛する女性がいるんだって事を・・。」

「マ・・・・マシュー・・・。」

マシューの言葉は私を動揺させるには十分だった。だけど・・・私の中にはテオがいる。彼は私の体内で暴走してしまったアカシックレコードを止めるために、自らの命を犠牲にして、私の中へ入り込んだ。エルヴィラは、テオの事は助ける事が出来ないと言っていたけど、私はそうは思わない。だって・・・私がアカシックレコードを書き換えた時に・・・・私の中にいたテオに会えたのだから・・・!
 だけど、今またマシューにそんなことを告げられては、自分の心が揺らいでしまう。だって・・・彼は私がこの世界へ来て・・・初めて愛した人なのだから。今・・ここにテオがいてくれれば・・・こんなに苦しい思いをしなくても済むのに・・!

「ジェシカ・・・?何故、泣いてるの・・・・?」

気付けば、マシューが私の頬に両手を添えて、心配そうに見つめている。

「わ・・・分からない・・・。だけど・・・・たった一度の貴方の裏切りで・・私の心が・・どうしようもない位深く傷ついて・・・何度も何度も泣きながら、戻ってきて欲しいと願ったのは・・マシュー。貴方が初めてだったのよ・・。そしてそんな私を支えてくれたのが・・・テオだったの・・・。」

「ジェシカ・・・。俺・・・今すごく君を困らせているんだよね・・・?」

私はただ、黙って頷いた。

「ごめん・・・。ジェシカ・・・。困らせて・・。」

マシューは私から離れると言った。

「ジェシカ、空が・・赤くなってきたよ。この近くに何処か休める場所はあるのかな?魔女の話ではどのみち後5日は俺達はこの世界から出られないんだよね?それなら仮住まいが必要だと思うんだ。」

確かにマシューの言う事は最もだ。本来ならあの城で5日間過ごせばよいのだろうが・・とても身体を休める事が出来る環境の城では無い。
それなら・・・。

「この城からずっと道が伸びているでしょう?この道を15分程行くと、確か小さな町があったと思うの。だからそこへ行ってみたらどうかな?」

「うん、よし!それじゃ行ってみよう!」

マシューは笑顔で言うと、自然に私の手を繋いだ。

「マシュー・・・?」

するとマシューが頬を赤らめて言った。

「ごめんね、ジェシカ。せめて・・せめて新月がやってくるまでの・・5日間だけでも・・・俺の恋人になっていて貰えないかな・・・?」

マシューの切なげに潤んだ瞳が・・・何処か痛むような口調が・・私の心を揺さぶる。だから私は彼に言う。

「うん・・。マシュー。5日間・・・恋人として・・よろしくお願いします・・・。」

最期の方は消え入りそうな声で、私は俯きながら返事をすると、マシューの握りしめる手に力が籠った―。



 記憶の通り、歩いて約15分程の距離にその町はあった。
古い町並みはどこかセント・レイズシティを思わせるような佇まいを見せている。

「へえ~。この町って・・・どこかセント・レイズシティに似ていない?」

マシューもそれを感じたのか、辺りをキョロキョロ見渡しながら言った。

「あ、そう言えば・・・似ているのは当然なのかも。考えてみれば、セント・レイズシティのモデルになった町がここだったんだもの。」

「え?そうだったの?」

マシューが驚いた様に振り返る。

「うん。そうよ。だけど・・・自分であの小説を作って置いて・・・色々な事忘れちゃっていたな・・・。初めてエルヴィラに会った時に言われたのよ。長くこの世界にい過ぎて、同化して分からなくなってしまったのかって・・・。でも本当にそうなのかも・・・。」

「ジェシカには・・・元の世界に恋人がいたんだよね?でも・・・・別の女性にとられてしまったって言ったど・・その後は恋人はいたの?」

「いなかったわ。」

「そうか・・・。でも恋人はいなくても・・大切な人達は沢山いるんだよね?その人たちを思い出す事は無かったの?」

「言われてみれば・・・あまり無かったかも・・・今思えば、あの世界で生きる事に必死だったからかもしれないね・・あ!止まって、マシュー。」

私は見覚えのある建物を発見した。

「え?何、この建物が・・・どうかしたの?」

「あのね、ここ・・・確か私の記憶が正しければ、小さなホテルになってるのよ。中へ入ってみましょう?」


そしてドア開けて、中へ入ってみる。その光景を見て思った。ああ、やっぱりこのホテルに私は友人達と一緒に泊ったのだ・・・。

「室内は綺麗なのに・・・本当に町の外と同様に人の姿が無いんだね。」

マシューがキョロキョロと辺りを見渡しながら言う。

「うん。やっぱりエルヴィラが言う通り、次元が違う世界なんだね・・。でも良かったね。誰もいないから、咎められることなくこのホテルを使るんだもの。だって・・・考えてみたら今の私達ってお金を持っていないでしょう?」

「あ・・・そう言えばそうだった。それじゃ、ある意味ラッキーだったね。」

笑顔でマシューが答える。

「あのね、この建物の上の階が部屋になってるの。行ってみましょう。」

私達は階段をあがり、客室へと向かった。
その中の一室を開けてみる。

「うん。いい部屋だ・・綺麗な部屋だし、居心地が良さそうだよ。」

マシューが満足げに言う。

「それじゃマシューはこの部屋を使えばいいと思うよ?私は隣の部屋を使わせて貰うから。」

「うん、分かったよ。ところで・・・・。」

マシューが真剣な顔で言う。

「食事はどうしようか・・・?」

その後、私とマシューは町の中をくまなく歩き、1軒のスーパーを発見した。
ありがたい事に、ここで売られていた食材はどれも新鮮で、今居る次元と本来の世界は時の流れが同じ様であった。

取りあえず、2人で調理をしなくても済みそうなパンや缶詰、飲み物・・ついでにお酒を拝借?して、ホテルへと戻った。



ホテルの食堂にスーパーから持ってきた食事と、お酒をテーブルに並べるとマシューが言った。

「それじゃ・・乾杯しようか?」

「うん・・・。でも・・何に乾杯するの?」

「そうだな・・・。それじゃ・・・俺のお願いを聞いてくれたジェシカに・・乾杯。」

そして2人でグラスを鳴らして、ささやかな食事が始まった。
私とマシューはたわいもない話をして微笑みあった。・・・本当は、もっと深い・・・込み入った話をしなければいけないのは十分分かっていたけれども・・・敢えてその話には触れず、静かに会話をし・・お互い、久々に飲むお酒を楽しんだ。


その後、お互いの部屋のシャワーが使える事を確認すると私は言った。

「それじゃ、お休みなさい、マシュー。」

「うん、お休み。ジェシカ、また明日。」

互いに挨拶を交わし、私は部屋に入るとすぐにシャワーを浴びた。

ホテルに備え付けてあったバスローブを羽織り、窓の外を眺める。
今見えている月は下弦の月・・・・5日後には新月になる。

「公爵・・・。人間界に・・戻ってきてくれるよね・・・?」

その後・・・次元が違うとは言え、久しぶりに現実世界へ戻って来た私は中々眠る事が出来ないので、1人月を眺めながらワインを飲んでいると、突然隣で寝ているマシューの部屋から叫び声が聞こえてきた。

「え?何っ?!今の悲鳴は・・・!!」

驚いて慌ててマシューがいる部屋のドアを開けると、そこには頭を抱えて荒い息を吐いてベッドから身体を起こしているマシューがいた。

「ど・・・どうしたの・・・?マシュー・・・。い、今・・・凄い悲鳴が聞こえたけど・・・?」

恐る恐る声を掛けると、マシューは虚ろな瞳で私を見た。

「あ・・・。ジェシカ・・・。ご、ごめん・・・・。寝ている所・・・驚かせてしまったよね?」

マシューの顔は青ざめている。

「う、うううん・・・。まだ寝ていなかったから・・・大丈夫だったけど・・。一体どうしたの・・・?」

マシューの側に寄ると尋ねた。

「あ・・・ゆ、夢を・・・・。」

「夢・・・?」

「うん・・・。仮面が外れてからも・・・殆ど毎晩のように、夢で見るんだ。ソフィーに無理やり仮面を被らされた日の事を・・・。絶望していた日々の事を・・・。」

「マシュー・・・。」

何と声をかけてあげれいいのか分からなかったので、そっと彼の手に自分の手を重ねると、突然強く腕を引かれ、気付けば強く抱きしめられて口付けされていた。

やがて、マシューはそっと唇を離すと言った。

「ジェシカ・・・何処にも行かないで・・・この部屋に居て欲しいんだ・・・。そうじゃないと・・俺はまたあの夢を・・・っ!」

マシューが再び強く抱きしめてきた。

「うん・・・・分かった・・。何処にも行かない、ここにいるから・・・。」

そっとマシューの背中に腕をまわすと、マシューは言った。

「ジェシカ・・・君を・・抱いてもいい・・?」

その瞳は真剣で・・・何処か切羽詰まって見えた。
私達は・・今だけは恋人同士・・・。
拒絶する理由は何処にも無い。だから私は頷いた。

「うん・・・。抱いて?」

すると、マシューは優しい笑みを浮かべて私を見つめ・・・口付けすると静かに私の身体の上に覆いかぶさって来た。

ジェシカ・・・ジェシカ・・と熱に浮かされたように名前を呼びながらマシューの私を抱く手に、その唇に・・どうしようもないほどの彼の愛を感じる。

そんなマシューに縋りつき、甘い声を上げながら私は思う。
やっぱり、私は・・・・彼の香りが大好きだ・・・。


マシューの香りに包まれて・・・何もかも忘れて今はただ・・・甘い時間に溺れていたい—。
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