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終幕 ―2 物語の終わり
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3
う~ん・・・。
何だろ・・・・周りがすごく煩いな・・。
私はゆっくり目を開けて驚いた。私の周りには4人のジェシカが倒れていたのだ。
ただ、私と違うのは、彼女達は入学式当時の学院の制服を着て、髪も長いままだった。
「な・・何だ・・・?一体何が起こったんだ・・・?」
アラン王子が声を震わせている。
「お・・おい・・・全員本物・・・なのか・・?」
デヴィットは私を見ながら言った。
「初めて出会った時のジェシカだ・・・。」
マシューが一番近くに倒れていたジェシカの側に寄った時、彼女がパチリと目を開けた。そしてマシューをじっと見つめる。次の瞬間・・・・。
「マシューッ!貴方を・・愛しているわっ!」
そう言うとマシューの首に腕を回した。
「え・・・ええっ?!」
マシューはジェシカに抱き付かれて真っ赤になっている。
う~ん・・・。同じジェシカがマシューに抱き付いている姿をこうしてみるのは何だか妙な気分だ。
すると次はもう1人のジェシカが目を覚まし・・・公爵を見つけると駆け寄っていく。
「ドミニク様っ!会いたかったですっ!」
そして公爵の胸に飛び込んで行った。
「お・・・おまえ・・・ジェシカなのか・・・?」
公爵は信じられないと言わんばかりに自分の胸に飛び込んできたジェシカを見下ろす。するとジェシカはにっこり微笑んで答えた。
「はい・・・貴方だけを愛する・・ジェシカです。」
「!」
それを聞いた公爵はジェシカを強く抱きしめた。
再会した恋人達?を口を開けたまま見ていた残りの彼等は暫くぽかんとしていたが・・・。
「そうだ!ジェシカは後2人いる!」
アラン王子がまだ眠っているジェシカに駆け寄る。
「なら・・・俺だってっ!」
デヴィットももう片方のジェシカに駆け寄って、抱き起す。
う・・・。何だかハラハラして来た。同じジェシカとして・・・彼女達の身が心配?になって来てしまった。
「あ!ずるいぞっ!僕だって!」
「そうだ!抜け駆けは許さないからなッ!」
続けてダニエル先輩はデヴィットの方へ、ノア先輩はアラン王子の元へと駆けていく。
「ジェシカッ!ジェシカッ!」
デヴィットが乱暴にジェシカを揺すり・・・彼女は目を覚ました。
「デヴィットさん・・・?どうしたんですか?そんなに騒いで・・・?」
ジェシカはキョトンとした目でデヴィットを見ている。
「ジェシカッ!俺の事は?俺の事は愛してるのかっ?!」
「はあ・・?いきなり何を言い出すんですか・・・?それよりも・・離して頂けますか?私は元のジェシカに用があるんですよ。」
「は・・?」
デヴィットはぽかんとしているし、ダニエル先輩も言葉を無くしている。
そしてジェシカはデヴィットの腕を自分で外すと、私の所へやってきた。
「ジェシカ、貴女・・・旅に出たいって思っていたでしょう?」
「う、うん・・・。そうだったけど・・・。」
するとジェシカは笑顔で言った。
「だから、私はこれから旅に出て世界中を見て周ろうと思うの。そして何処か気に行った土地が見つかったら・・そこに住んで、女1人で生計を立てていこうと思ってるんだ。」
「「な・・何だって?!」」
デヴィットとダニエル先輩が何とも情けない声をあげる。
「俺を・・愛してくれるジェシカじゃ無いのかっ?!」
デヴィットは悔しそうに地団太を踏みながら喚いているし、ダニエル先輩はすっかり落ち込んでいる。
さて、もう一人のジェシカは・・・・?
「嘘だろう?!ジェシカ・・・。お前は俺の后になるんだろう?」
アラン王子が懇願している。
するとジェシカが言った。
「何言ってるんですか。アラン王子にはソフィーさんがいるじゃないですか?お2人は運命の赤い糸で結ばれているんですよ?」
おおっ!そう来たか!
「ジェシカ、君は僕の女神なんだろう?僕と人生を歩んでくれないの?」
ノア先輩もジェシカに熱く語っているが、彼女は一瞥すると言った。
「ですから、私は誰のものでもありません。自分の相手は自分で探しますっ!」
「「そ、そんな~ジェシカ・・・・っ!!」」
アラン王子とノア先輩は情けなくジェシカに泣きついている。
「何か・・・すごい光景だな・・・。」
私の隣に立っていたテオが苦笑いしながら言う。
「うん・・・本当だね・・・。うまく言ってるのはマシュー達と公爵達だね。」
チラリと彼等を見ると、それぞれ互いに幸せそうに恋人達の語らいをしている姿が目に入った。
「ジェシカ・・・・これは一体どう言う事なんだ?説明してくれるよな?」
そこへ私とテオの元へライアン達が近付いて来た。
「ジェシカちゃんが・・本物なんだろう?彼女達は一体何なんだ?」
ケビンが尋ねて来た。
「いいえ、ケビンさん。皆・・・本物のジェシカですよ。ただ・・私の心が分離して・・1人の人間として現れただけです。」
「心が分離・・?」
ルークが首を傾げた。
「マシューを愛する私、公爵を愛する私、そして・・・自由に旅をしたいと思っていた私、最期は・・誰のものでもない私。多分・・この学院に残るのは彼女じゃ無いかな?」
私は笑顔で答えた。
その時、背後からエルヴィラに声を掛けられた。
「ジェシカ様。」
「エルヴィラ・・・。」
私はエルヴィラを見つめた。・・・私が生み出した魔女、そして死にかけていた私をこの世界に連れてきて・・命を救ってくれた恩人。・・・この世界の全てを知る者・・・。
「ジェシカ様・・・彼女達が現れたと言う事は・・・。」
「エルヴィラ・・・・私、もう何も心残りは無いわ。だって・・・私の心残りは彼女達が・・・全て引き受けてくれるから・・・元の世界へ帰るわね。」
「そうですか・・・。」
するとテオが私の肩に手を回すと言った。
「ジェシカ。俺は・・・当然お前に付いて行くからな?」
「テオ・・。」
「言っただろう?お前の隣が・・・俺の居場所だって・・・。」
それを聞いたその場にいた全員が驚いた。
「か・・帰るって・・・お前、一体何処へ帰るつもりなんだよ・・?」
ライアンが声を震わせた。
私は目を閉じると言った。
「私はね・・・この世界の人間じゃないの・・・。エルヴィラに呼ばれて別の世界からやって来たの・・。それ以上詳しい事は言えないけど・・・皆に会えて本当に良かった。色々あったけど・・・とても楽しかった。後の事はこの世界に残るジェシカ達に聞いて?」
「ジェシカ様。ジェシカ様が元の世界へ戻るお手伝いを致します。幸い・・ジェシカ様の中にはアカシックレコードがあります。それを使って・・お2人をジェシカ様のいた世界へ送らせて頂きます。ただ・・・暫くの間はテオ様とは・・・お別れになってしまいますが・・・。テオ様だけは元の身体がありませんので、生まれ変わる事になるからです。」
エルヴィラは顔を曇らせた。
「そ・・そんな!何故?!」
テオと離れ離れにならないといけないなんて・・・!
するとテオが言った。
「心配するな、ジェシカ。俺が・・必ずお前を見つけ出してやるから・・・それまで待ってろ。いいな?」
「テオ・・・。」
そんな私達のやり取りを黙って見ていたソフィーが言った。
「ジェシカさん・・・。私・・・しっかり聖女としての務めを・・これから果たして行くね?」
「うん。・・・・お願いね。ここから先の物語は・・・ソフィー。貴女が作るのよ。」
「え・・・?どういう意味なの?」
ソフィーは首を傾げるが、私は笑顔で言った。
「今に・・分かるから。」
そして再度エルヴィラに言った。
「お願い。エルヴィラ・・・私とテオを今すぐ、元の世界へ送り届けて。」
「ジェシカ様・・・。彼等に挨拶はされなくて良いのですか・・・?」
エルヴィラが4人のジェシカと彼女達を取り巻く男性陣を見ながら言った。
「いいの。きっと・・残った彼女達が私の代わりに説明してくれるだろうから。」
「分かりました。それでは・・・ジェシカ様たちを元の世界へ送ります・・・。ジェシカ様・・・。私は・・・貴女を忘れません・・・!」
エルヴィラが泣いていた。私も・・エルヴィラの事・・忘れないっ!
私とテオはしっかり手を握り締めた。
そしてそれを悲しそうに見守るライアン、ケビン、グレイ、ルーク。そして・・・・ソフィー。
「皆・・・元気でね・・・。さよなら・・・・!」
やがて術が完成し・・・・私の目の前が真っ白になる―。
4
「そうだった・・・。私、今全部思いだした・・・。赤城さん・・私をずっと探してくれていたの・・?」
「ああ・・。今まで告白されて何回か女性と付き合った事はあったけど・・・どれも長続きしなかったのは・・・・俺の中で・・常に君の存在があったからなんだ。だから不動産屋で初めて君を見た時は息が止まりそうなほど驚いた。ああ、やっと俺の・・大事な女性を見つけたって・・。」
そして次の瞬間、私は赤城さんに抱き締められていた。
「川島さん・・・俺は・・・君が好きだ。多分・・・この世界に生まれてきた時からずっと・・!俺の居場所は・・・君の隣だ・・・!」
彼はあの時のテオと同じ台詞を言った。
「はい・・・。私の居場所は・・赤城さんの隣です。ずっと側において下さい・・。」
そして私達はいつまでも抱き合っていた—。
5
「デヴィットさん・・・本当についてくるつもりですか?それにダニエル先輩も・・。」
今私は飛行船乗り場にいる。
そして恨めしそうな目でデヴィットとダニエル先輩を見た。
「ああ。そうだ!ジェシカ。お前が俺を好きになるまでは・・・何処までもついて行くからな?」
デヴィットは大きな荷物を抱えながら言った。
「ねえ、ジェシカ。旅の途中、絶対に僕の領地へ寄ってね。両親に君を紹介したいんだ。」
ダニエル先輩は楽しそうに言う。
「はあ・・もう好きにして下さいよ・・・。うう・・・折角1人で旅が出来ると思ったのに・・・。」
そして私は深いため息をついた。さて・・・どうやって彼等を旅の途中で撒いてくればいいのだろう・・・?
6
「ジェシカッ!お前を愛してるっ!さあ、この書類にサインしてくれっ!」
今朝もアラン王子が女子寮の前で待ち伏せしていた。
「全く・・いくら王子と言えど、ジェシカさんにしつこすぎますね。しつこい男は嫌われますよ、アラン王子。少しはノア先輩やライアン先輩・・それにケビン先輩を見習ったらどうですか?あの方たちは節度ある態度でジェシカさんに接していますよ?」
相変わらず友人のエマがきつい一言を浴びせる。
「う・・煩いっ!大体お前達はジェシカにべったりしすぎだっ!少し位俺との時間をとらせてくれてもいいんじゃないか?!」
「それはジェシカさん次第ですけど。・・・どうします?ジェシカさん。」
クロエが私に尋ねて来た。
「う~ん・・・。なら1週間に1度くらいなら・・・いいですよ?」
ちょっと考え込んでから返事をすると、アラン王子が喚いた。
「お、お、お前・・1週間に1度って・・それはあんまりだ~ッ!!」
情けなく喚くアラン王子を今日もグレイとルークが連れ去って行ってくれる。
はあ・・やれやれ。いい加減私の事等忘れてソフィーの元へ行ってくれないかな・・・?
そして、私は空を見上げて、愛する男性の元へ行った2人のジェシカに想いを馳せた。
7
ここはドミニク公爵の屋敷。
私と彼は学院を辞めて、今は公爵と一緒に住んでいる。
「ジェシカ。ここにいたのか?」
庭のベンチに座って本を読んでいると優しい笑みを浮かべて公爵が現れた。
「はい、今日は天気も良くて暖かかったから、庭で本の続きを読んでいたんです。お仕事はもう終わったのですか?」
「ああ。終わった。だから・・・今度はお前と過ごす時間だ。」
「ん・・・。」
公爵は私の顔をすくいあげると、唇を重ねてきた。
私は読みかけの本を離すと、彼の首に腕を巻き付けてその身を委ねる。
口付けの合間に公爵が私に愛を囁いてくれる。
こんなにも公爵に愛されて・・・私は今すごく幸せだ。
来月には私は晴れて彼と結婚式を挙げ・・・正式な妻になれる。
ドミニク様・・・愛しています。貴方に会えて・・本当に良かった—。
8
私とマシューは学院を辞めて、マシューの住む領地へ引っ越してきていた。
マシューはこれから家督を継いで、領主として仕事を学ぶことになるのだ。
「ジェシカ・・・。本当にこんな小さな家にしか住めないけど・・・君はそれでもいいの?」
2人で引っ越し作業をしていると、マシューが心配そうに尋ねて来た。
「どうして?私ね・・・こんな可愛らしい家で暮すことが夢だったのよ?大好きな人と一緒に・・。」
最期の方は頬を赤らめながら言うと、マシューはポカンとした顔で私を見ていたが・・・次の瞬間、私はマシューの腕の中に捕らえられ、口付けされていた。
マシューからは・・・私の大好きな香りが漂っている。
ああ・・・やっぱり私は彼の香りが大好きだ—。
口付けが終わると、マシューは切なげな瞳で言った。
「ジェシカ・・・・もう俺は絶対に君から離れない・・・。だから、ジェシカ、お願いだ。君もずっと俺の側にいてくれる・・・・?この先もずっと・・・・。」
「うん、勿論。だって・・・私はマシューを愛しているから・・・。」
そして私達はもう一度口付けを交わした—。
9
私があの時、病院で目が覚めてから早いもので8年の歳月が流れた。
今、私は海辺の町に住んでいる。
青い空に青い海―
私はこの町が大好きだ。
「ねえ、ママ。あのお舟見て。大きいね~。」
サマードレスを着て私の左手をギュッと握りしめるのは今年5歳になる愛しい私の娘の恵梨香。
「本当だー、すごく大きくて綺麗・・・。何処か外国にでも行くのかな?」
「ママ・・・私も今度ガイコクって場所に行ってみたいな・・・。」
「うん、でもパパが何て言うかなあ・・・?」
その時・・・サクサクと砂を踏む音が聞こえて、誰かが背後から私を優しく抱きしめると言った。
「外国か・・・いいね。今度、家族みんなで出かけよう。そうだな・・君の好きな古城巡りも楽しそうだね・・。」
その彼とは・・・赤城司。
「あ、あなた・・。びっくりした・・・。今日は仕事が忙しいって言ってたから海に来れないと思っていたけど・・・。」
「何、家族と過ごす為だから、頑張って仕事仕上げてきたのさ。よし、恵梨香、おいで。」
彼は軽々と娘を肩車すると、優しい笑顔で私に言う。
「向こうでお祭りをやってるんだ。行ってみよう?」
「うん、行きましょう。」
そして彼が私の右手を取った。優しい彼の笑顔に包まれ、愛しい娘が側にいる。
あの日、目覚めて以来・・・私は小説を書く事をやめた。
何故ならこれからの物語は・・・彼等で作り上げて欲しかったから。
エルヴィラ・・・元気にしてますか?
ジェシカ・・・・。
今・・貴女達は幸せですか?
私は、愛する人達に囲まれて・・・・とても幸せに暮らしています。
貴女達の幸せを、私はこの遠い世界からずっとずっと祈っています—。
<終わり>
う~ん・・・。
何だろ・・・・周りがすごく煩いな・・。
私はゆっくり目を開けて驚いた。私の周りには4人のジェシカが倒れていたのだ。
ただ、私と違うのは、彼女達は入学式当時の学院の制服を着て、髪も長いままだった。
「な・・何だ・・・?一体何が起こったんだ・・・?」
アラン王子が声を震わせている。
「お・・おい・・・全員本物・・・なのか・・?」
デヴィットは私を見ながら言った。
「初めて出会った時のジェシカだ・・・。」
マシューが一番近くに倒れていたジェシカの側に寄った時、彼女がパチリと目を開けた。そしてマシューをじっと見つめる。次の瞬間・・・・。
「マシューッ!貴方を・・愛しているわっ!」
そう言うとマシューの首に腕を回した。
「え・・・ええっ?!」
マシューはジェシカに抱き付かれて真っ赤になっている。
う~ん・・・。同じジェシカがマシューに抱き付いている姿をこうしてみるのは何だか妙な気分だ。
すると次はもう1人のジェシカが目を覚まし・・・公爵を見つけると駆け寄っていく。
「ドミニク様っ!会いたかったですっ!」
そして公爵の胸に飛び込んで行った。
「お・・・おまえ・・・ジェシカなのか・・・?」
公爵は信じられないと言わんばかりに自分の胸に飛び込んできたジェシカを見下ろす。するとジェシカはにっこり微笑んで答えた。
「はい・・・貴方だけを愛する・・ジェシカです。」
「!」
それを聞いた公爵はジェシカを強く抱きしめた。
再会した恋人達?を口を開けたまま見ていた残りの彼等は暫くぽかんとしていたが・・・。
「そうだ!ジェシカは後2人いる!」
アラン王子がまだ眠っているジェシカに駆け寄る。
「なら・・・俺だってっ!」
デヴィットももう片方のジェシカに駆け寄って、抱き起す。
う・・・。何だかハラハラして来た。同じジェシカとして・・・彼女達の身が心配?になって来てしまった。
「あ!ずるいぞっ!僕だって!」
「そうだ!抜け駆けは許さないからなッ!」
続けてダニエル先輩はデヴィットの方へ、ノア先輩はアラン王子の元へと駆けていく。
「ジェシカッ!ジェシカッ!」
デヴィットが乱暴にジェシカを揺すり・・・彼女は目を覚ました。
「デヴィットさん・・・?どうしたんですか?そんなに騒いで・・・?」
ジェシカはキョトンとした目でデヴィットを見ている。
「ジェシカッ!俺の事は?俺の事は愛してるのかっ?!」
「はあ・・?いきなり何を言い出すんですか・・・?それよりも・・離して頂けますか?私は元のジェシカに用があるんですよ。」
「は・・?」
デヴィットはぽかんとしているし、ダニエル先輩も言葉を無くしている。
そしてジェシカはデヴィットの腕を自分で外すと、私の所へやってきた。
「ジェシカ、貴女・・・旅に出たいって思っていたでしょう?」
「う、うん・・・。そうだったけど・・・。」
するとジェシカは笑顔で言った。
「だから、私はこれから旅に出て世界中を見て周ろうと思うの。そして何処か気に行った土地が見つかったら・・そこに住んで、女1人で生計を立てていこうと思ってるんだ。」
「「な・・何だって?!」」
デヴィットとダニエル先輩が何とも情けない声をあげる。
「俺を・・愛してくれるジェシカじゃ無いのかっ?!」
デヴィットは悔しそうに地団太を踏みながら喚いているし、ダニエル先輩はすっかり落ち込んでいる。
さて、もう一人のジェシカは・・・・?
「嘘だろう?!ジェシカ・・・。お前は俺の后になるんだろう?」
アラン王子が懇願している。
するとジェシカが言った。
「何言ってるんですか。アラン王子にはソフィーさんがいるじゃないですか?お2人は運命の赤い糸で結ばれているんですよ?」
おおっ!そう来たか!
「ジェシカ、君は僕の女神なんだろう?僕と人生を歩んでくれないの?」
ノア先輩もジェシカに熱く語っているが、彼女は一瞥すると言った。
「ですから、私は誰のものでもありません。自分の相手は自分で探しますっ!」
「「そ、そんな~ジェシカ・・・・っ!!」」
アラン王子とノア先輩は情けなくジェシカに泣きついている。
「何か・・・すごい光景だな・・・。」
私の隣に立っていたテオが苦笑いしながら言う。
「うん・・・本当だね・・・。うまく言ってるのはマシュー達と公爵達だね。」
チラリと彼等を見ると、それぞれ互いに幸せそうに恋人達の語らいをしている姿が目に入った。
「ジェシカ・・・・これは一体どう言う事なんだ?説明してくれるよな?」
そこへ私とテオの元へライアン達が近付いて来た。
「ジェシカちゃんが・・本物なんだろう?彼女達は一体何なんだ?」
ケビンが尋ねて来た。
「いいえ、ケビンさん。皆・・・本物のジェシカですよ。ただ・・私の心が分離して・・1人の人間として現れただけです。」
「心が分離・・?」
ルークが首を傾げた。
「マシューを愛する私、公爵を愛する私、そして・・・自由に旅をしたいと思っていた私、最期は・・誰のものでもない私。多分・・この学院に残るのは彼女じゃ無いかな?」
私は笑顔で答えた。
その時、背後からエルヴィラに声を掛けられた。
「ジェシカ様。」
「エルヴィラ・・・。」
私はエルヴィラを見つめた。・・・私が生み出した魔女、そして死にかけていた私をこの世界に連れてきて・・命を救ってくれた恩人。・・・この世界の全てを知る者・・・。
「ジェシカ様・・・彼女達が現れたと言う事は・・・。」
「エルヴィラ・・・・私、もう何も心残りは無いわ。だって・・・私の心残りは彼女達が・・・全て引き受けてくれるから・・・元の世界へ帰るわね。」
「そうですか・・・。」
するとテオが私の肩に手を回すと言った。
「ジェシカ。俺は・・・当然お前に付いて行くからな?」
「テオ・・。」
「言っただろう?お前の隣が・・・俺の居場所だって・・・。」
それを聞いたその場にいた全員が驚いた。
「か・・帰るって・・・お前、一体何処へ帰るつもりなんだよ・・?」
ライアンが声を震わせた。
私は目を閉じると言った。
「私はね・・・この世界の人間じゃないの・・・。エルヴィラに呼ばれて別の世界からやって来たの・・。それ以上詳しい事は言えないけど・・・皆に会えて本当に良かった。色々あったけど・・・とても楽しかった。後の事はこの世界に残るジェシカ達に聞いて?」
「ジェシカ様。ジェシカ様が元の世界へ戻るお手伝いを致します。幸い・・ジェシカ様の中にはアカシックレコードがあります。それを使って・・お2人をジェシカ様のいた世界へ送らせて頂きます。ただ・・・暫くの間はテオ様とは・・・お別れになってしまいますが・・・。テオ様だけは元の身体がありませんので、生まれ変わる事になるからです。」
エルヴィラは顔を曇らせた。
「そ・・そんな!何故?!」
テオと離れ離れにならないといけないなんて・・・!
するとテオが言った。
「心配するな、ジェシカ。俺が・・必ずお前を見つけ出してやるから・・・それまで待ってろ。いいな?」
「テオ・・・。」
そんな私達のやり取りを黙って見ていたソフィーが言った。
「ジェシカさん・・・。私・・・しっかり聖女としての務めを・・これから果たして行くね?」
「うん。・・・・お願いね。ここから先の物語は・・・ソフィー。貴女が作るのよ。」
「え・・・?どういう意味なの?」
ソフィーは首を傾げるが、私は笑顔で言った。
「今に・・分かるから。」
そして再度エルヴィラに言った。
「お願い。エルヴィラ・・・私とテオを今すぐ、元の世界へ送り届けて。」
「ジェシカ様・・・。彼等に挨拶はされなくて良いのですか・・・?」
エルヴィラが4人のジェシカと彼女達を取り巻く男性陣を見ながら言った。
「いいの。きっと・・残った彼女達が私の代わりに説明してくれるだろうから。」
「分かりました。それでは・・・ジェシカ様たちを元の世界へ送ります・・・。ジェシカ様・・・。私は・・・貴女を忘れません・・・!」
エルヴィラが泣いていた。私も・・エルヴィラの事・・忘れないっ!
私とテオはしっかり手を握り締めた。
そしてそれを悲しそうに見守るライアン、ケビン、グレイ、ルーク。そして・・・・ソフィー。
「皆・・・元気でね・・・。さよなら・・・・!」
やがて術が完成し・・・・私の目の前が真っ白になる―。
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「そうだった・・・。私、今全部思いだした・・・。赤城さん・・私をずっと探してくれていたの・・?」
「ああ・・。今まで告白されて何回か女性と付き合った事はあったけど・・・どれも長続きしなかったのは・・・・俺の中で・・常に君の存在があったからなんだ。だから不動産屋で初めて君を見た時は息が止まりそうなほど驚いた。ああ、やっと俺の・・大事な女性を見つけたって・・。」
そして次の瞬間、私は赤城さんに抱き締められていた。
「川島さん・・・俺は・・・君が好きだ。多分・・・この世界に生まれてきた時からずっと・・!俺の居場所は・・・君の隣だ・・・!」
彼はあの時のテオと同じ台詞を言った。
「はい・・・。私の居場所は・・赤城さんの隣です。ずっと側において下さい・・。」
そして私達はいつまでも抱き合っていた—。
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「デヴィットさん・・・本当についてくるつもりですか?それにダニエル先輩も・・。」
今私は飛行船乗り場にいる。
そして恨めしそうな目でデヴィットとダニエル先輩を見た。
「ああ。そうだ!ジェシカ。お前が俺を好きになるまでは・・・何処までもついて行くからな?」
デヴィットは大きな荷物を抱えながら言った。
「ねえ、ジェシカ。旅の途中、絶対に僕の領地へ寄ってね。両親に君を紹介したいんだ。」
ダニエル先輩は楽しそうに言う。
「はあ・・もう好きにして下さいよ・・・。うう・・・折角1人で旅が出来ると思ったのに・・・。」
そして私は深いため息をついた。さて・・・どうやって彼等を旅の途中で撒いてくればいいのだろう・・・?
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「ジェシカッ!お前を愛してるっ!さあ、この書類にサインしてくれっ!」
今朝もアラン王子が女子寮の前で待ち伏せしていた。
「全く・・いくら王子と言えど、ジェシカさんにしつこすぎますね。しつこい男は嫌われますよ、アラン王子。少しはノア先輩やライアン先輩・・それにケビン先輩を見習ったらどうですか?あの方たちは節度ある態度でジェシカさんに接していますよ?」
相変わらず友人のエマがきつい一言を浴びせる。
「う・・煩いっ!大体お前達はジェシカにべったりしすぎだっ!少し位俺との時間をとらせてくれてもいいんじゃないか?!」
「それはジェシカさん次第ですけど。・・・どうします?ジェシカさん。」
クロエが私に尋ねて来た。
「う~ん・・・。なら1週間に1度くらいなら・・・いいですよ?」
ちょっと考え込んでから返事をすると、アラン王子が喚いた。
「お、お、お前・・1週間に1度って・・それはあんまりだ~ッ!!」
情けなく喚くアラン王子を今日もグレイとルークが連れ去って行ってくれる。
はあ・・やれやれ。いい加減私の事等忘れてソフィーの元へ行ってくれないかな・・・?
そして、私は空を見上げて、愛する男性の元へ行った2人のジェシカに想いを馳せた。
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ここはドミニク公爵の屋敷。
私と彼は学院を辞めて、今は公爵と一緒に住んでいる。
「ジェシカ。ここにいたのか?」
庭のベンチに座って本を読んでいると優しい笑みを浮かべて公爵が現れた。
「はい、今日は天気も良くて暖かかったから、庭で本の続きを読んでいたんです。お仕事はもう終わったのですか?」
「ああ。終わった。だから・・・今度はお前と過ごす時間だ。」
「ん・・・。」
公爵は私の顔をすくいあげると、唇を重ねてきた。
私は読みかけの本を離すと、彼の首に腕を巻き付けてその身を委ねる。
口付けの合間に公爵が私に愛を囁いてくれる。
こんなにも公爵に愛されて・・・私は今すごく幸せだ。
来月には私は晴れて彼と結婚式を挙げ・・・正式な妻になれる。
ドミニク様・・・愛しています。貴方に会えて・・本当に良かった—。
8
私とマシューは学院を辞めて、マシューの住む領地へ引っ越してきていた。
マシューはこれから家督を継いで、領主として仕事を学ぶことになるのだ。
「ジェシカ・・・。本当にこんな小さな家にしか住めないけど・・・君はそれでもいいの?」
2人で引っ越し作業をしていると、マシューが心配そうに尋ねて来た。
「どうして?私ね・・・こんな可愛らしい家で暮すことが夢だったのよ?大好きな人と一緒に・・。」
最期の方は頬を赤らめながら言うと、マシューはポカンとした顔で私を見ていたが・・・次の瞬間、私はマシューの腕の中に捕らえられ、口付けされていた。
マシューからは・・・私の大好きな香りが漂っている。
ああ・・・やっぱり私は彼の香りが大好きだ—。
口付けが終わると、マシューは切なげな瞳で言った。
「ジェシカ・・・・もう俺は絶対に君から離れない・・・。だから、ジェシカ、お願いだ。君もずっと俺の側にいてくれる・・・・?この先もずっと・・・・。」
「うん、勿論。だって・・・私はマシューを愛しているから・・・。」
そして私達はもう一度口付けを交わした—。
9
私があの時、病院で目が覚めてから早いもので8年の歳月が流れた。
今、私は海辺の町に住んでいる。
青い空に青い海―
私はこの町が大好きだ。
「ねえ、ママ。あのお舟見て。大きいね~。」
サマードレスを着て私の左手をギュッと握りしめるのは今年5歳になる愛しい私の娘の恵梨香。
「本当だー、すごく大きくて綺麗・・・。何処か外国にでも行くのかな?」
「ママ・・・私も今度ガイコクって場所に行ってみたいな・・・。」
「うん、でもパパが何て言うかなあ・・・?」
その時・・・サクサクと砂を踏む音が聞こえて、誰かが背後から私を優しく抱きしめると言った。
「外国か・・・いいね。今度、家族みんなで出かけよう。そうだな・・君の好きな古城巡りも楽しそうだね・・。」
その彼とは・・・赤城司。
「あ、あなた・・。びっくりした・・・。今日は仕事が忙しいって言ってたから海に来れないと思っていたけど・・・。」
「何、家族と過ごす為だから、頑張って仕事仕上げてきたのさ。よし、恵梨香、おいで。」
彼は軽々と娘を肩車すると、優しい笑顔で私に言う。
「向こうでお祭りをやってるんだ。行ってみよう?」
「うん、行きましょう。」
そして彼が私の右手を取った。優しい彼の笑顔に包まれ、愛しい娘が側にいる。
あの日、目覚めて以来・・・私は小説を書く事をやめた。
何故ならこれからの物語は・・・彼等で作り上げて欲しかったから。
エルヴィラ・・・元気にしてますか?
ジェシカ・・・・。
今・・貴女達は幸せですか?
私は、愛する人達に囲まれて・・・・とても幸せに暮らしています。
貴女達の幸せを、私はこの遠い世界からずっとずっと祈っています—。
<終わり>
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こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!!
2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?!
なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!!
こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。
どうしよう、欲が出て来た?
…ショートショートとか書いてみようかな?
2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?!
欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい…
2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?!
どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…
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追記:2025/09/20
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もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
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素晴らしい小説をありがとうございました。
一気に読んだ事で凄く物語に入り込めたので本当に面白かったです。
将来アランが結婚出来るのかだけが心配ですww
他のみんなと違って一国の王子様ですからね~
まぁ国に帰ってお父さんに花嫁を決められるんだろうなぁww
ご愁傷様です( ̄m ̄〃)ぷぷっ!
長文、読んで頂いて有難うございました。
気に入って頂けて嬉しいです。
今後外伝的な話を書いていきますので・・・アラン王子の事も触れる・・?かもしれません。
テオか~~~~~~~っ
そっかぁぁ、そっかそっか、うんうん。
人間世界ではテオを愛してるって言ってたもんなぁぁ
ってことはあの4人のジェシカはマシュー、ドミニク、アラン、デヴィットと、ってことなのかな?
後1話で完結です。最後まで読んで下さい♪
やっと追いつきました~♪
みんな事情を抱えてジェシカを愛しているけど
最終的にマシューと結ばれて幸せになって欲しいなぁ…
それか
もしかして、ジェシカの生涯を終えるときに
エルヴィラがジェシカの魂を現実世界に戻すとか…
んでんで、実は赤城さんがマシューの生まれ変わりだったとか…
遥の周りに居る人達も実は皆が生まれ変わっていた人達だったとか…
ジェシカも現実世界の遥もハッピーエンドになるといいなぁ…
ここまで読んでいただいたんですね?
有難うございます♪
この物語の結末はもう決まっています。皆さんが納得できると良いな~と思っています。