11 / 98
5 あり得ない事実
しおりを挟む
「ほら。これでも食べなよ」
暖炉がパチパチと燃えるテーブルの側で、ジェイクが木の皿によそったスープを私の前に置いてくれた。
「御親切にどうもありがとうございます……」
テーブルに置かれたのはスープと黒パンだった。質素な料理ではあったけれども、彼なりの精一杯のもてなしなのだろう。
それに騎士として戦ってきた私は何度も野営の経験がある。このような料理は口に慣れていた。
「それじゃ冷めないうちに食べようか」
ジェイクが料理を口にし始めたので、私も頂くことにした。早速スプーンでスープを一口飲んでみた。
味付けは薄かったが、優しい味に感じられる。
「美味しいです。とても」
「そうか、それは良かった」
笑みを浮かべたジェイクに私は尋ねた。
「どうして、見ず知らずの私にここまで親切にして下さるのですか?命を救って頂いただけではなく、看病から食事まで……」
「どうしてって……それならユリアナは自分の目の前で死にかけている人を見かけたらどうする?」
「それは勿論助けます」
私は騎士道をゆく誇り高きベルンハルト公爵家の人間。困っている人間には手を差し伸べるように両親から教えられて育ってきた。
「同じことだよ。俺もそうだ。目の前でたまたま溺れている君を目にした。だから助けて連れ帰って来た。それだけのことだよ」
その言葉に、私は改めて自分がどのような状況で彼に助けられたのか気になった。
「あの、ジェイクさん」
「何?」
「私を助けてくれた時の状況を教えて頂けますか?」
「うん、いいよ。あれは今から3日前のことだよ。魚を釣る為に川に行ったんだ。その日は前日に降り続いた雨のせいで水かさが増していたからいつもより川の流れが激しかったな。その時、川上から君が流れて来るのを発見して、慌てて助けに川に入ったんだよ」
「川上から……流れて来た?」
「うん。何とか引き上げると、まだかろうじて息をしていることが分かってね。急いで君を家に連れ帰って来たんだ」
「そうだったのですか」
やはり、ここはジェイクの家だったのだ。一瞬でも小屋だと思った自分を恥じる。
「そして……俺は男だからね。濡れた服を着替えさせる為に近所に住む女性に助けを求めたんだよ。彼女は快く引き受けてくれて、君をベッドに寝かせるところまでやってくれたんだよ」
「御親切な女性なのですね」
「そうだね。でも……こんな社会が不安定で混乱している世の中だから、お互い助け合っていかないと生きていけないからね」
ジェイクの発言で少し気になる点があった。
「その女性の方へはまた改めてお礼に伺いたいと思いますが、もう一つ伺ってもよろしいですか?」
「いいよ」
「今、社会が不安定で混乱している世の中だと仰っていましたが……どういうことなのでしょうか?」
少なくとも私の知ってる限り、国は隣国との冷戦状態で緊張している雰囲気が漂っていたけれども不安定とか混乱している様子は無かった。
するとジェイクが怪訝な顔つきになった。
「え……?一体何を言ってるんだい?今この国は『タリス』の支配下に置かれ、隣国の『モルス』と戦争の真っ最中じゃないか?」
「え?!」
その言葉に血の気が引いた。
戦争中?そんな馬鹿な。私は騎士、戦争が起こっていることを知らないなんてあり得ない。しかも『モルス』とは不可侵条約を結んでいたはずなのに……?
「い、一体……いつから戦争が起こっているのですか……?」
震えながらジェイクに尋ねた。
「え……?今から丁度10年位前だよ。レグヌム歴538年のことだからね」
「そ、そんな…‥!」
私が襲撃されたあの時はレグヌム歴528年だった。
つまり、ここは私にとって10年後の世界だったのだ――。
暖炉がパチパチと燃えるテーブルの側で、ジェイクが木の皿によそったスープを私の前に置いてくれた。
「御親切にどうもありがとうございます……」
テーブルに置かれたのはスープと黒パンだった。質素な料理ではあったけれども、彼なりの精一杯のもてなしなのだろう。
それに騎士として戦ってきた私は何度も野営の経験がある。このような料理は口に慣れていた。
「それじゃ冷めないうちに食べようか」
ジェイクが料理を口にし始めたので、私も頂くことにした。早速スプーンでスープを一口飲んでみた。
味付けは薄かったが、優しい味に感じられる。
「美味しいです。とても」
「そうか、それは良かった」
笑みを浮かべたジェイクに私は尋ねた。
「どうして、見ず知らずの私にここまで親切にして下さるのですか?命を救って頂いただけではなく、看病から食事まで……」
「どうしてって……それならユリアナは自分の目の前で死にかけている人を見かけたらどうする?」
「それは勿論助けます」
私は騎士道をゆく誇り高きベルンハルト公爵家の人間。困っている人間には手を差し伸べるように両親から教えられて育ってきた。
「同じことだよ。俺もそうだ。目の前でたまたま溺れている君を目にした。だから助けて連れ帰って来た。それだけのことだよ」
その言葉に、私は改めて自分がどのような状況で彼に助けられたのか気になった。
「あの、ジェイクさん」
「何?」
「私を助けてくれた時の状況を教えて頂けますか?」
「うん、いいよ。あれは今から3日前のことだよ。魚を釣る為に川に行ったんだ。その日は前日に降り続いた雨のせいで水かさが増していたからいつもより川の流れが激しかったな。その時、川上から君が流れて来るのを発見して、慌てて助けに川に入ったんだよ」
「川上から……流れて来た?」
「うん。何とか引き上げると、まだかろうじて息をしていることが分かってね。急いで君を家に連れ帰って来たんだ」
「そうだったのですか」
やはり、ここはジェイクの家だったのだ。一瞬でも小屋だと思った自分を恥じる。
「そして……俺は男だからね。濡れた服を着替えさせる為に近所に住む女性に助けを求めたんだよ。彼女は快く引き受けてくれて、君をベッドに寝かせるところまでやってくれたんだよ」
「御親切な女性なのですね」
「そうだね。でも……こんな社会が不安定で混乱している世の中だから、お互い助け合っていかないと生きていけないからね」
ジェイクの発言で少し気になる点があった。
「その女性の方へはまた改めてお礼に伺いたいと思いますが、もう一つ伺ってもよろしいですか?」
「いいよ」
「今、社会が不安定で混乱している世の中だと仰っていましたが……どういうことなのでしょうか?」
少なくとも私の知ってる限り、国は隣国との冷戦状態で緊張している雰囲気が漂っていたけれども不安定とか混乱している様子は無かった。
するとジェイクが怪訝な顔つきになった。
「え……?一体何を言ってるんだい?今この国は『タリス』の支配下に置かれ、隣国の『モルス』と戦争の真っ最中じゃないか?」
「え?!」
その言葉に血の気が引いた。
戦争中?そんな馬鹿な。私は騎士、戦争が起こっていることを知らないなんてあり得ない。しかも『モルス』とは不可侵条約を結んでいたはずなのに……?
「い、一体……いつから戦争が起こっているのですか……?」
震えながらジェイクに尋ねた。
「え……?今から丁度10年位前だよ。レグヌム歴538年のことだからね」
「そ、そんな…‥!」
私が襲撃されたあの時はレグヌム歴528年だった。
つまり、ここは私にとって10年後の世界だったのだ――。
92
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】
※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。
※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします
タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。
悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結】ご期待に、お応えいたします
楽歩
恋愛
王太子妃教育を予定より早く修了した公爵令嬢フェリシアは、残りの学園生活を友人のオリヴィア、ライラと穏やかに過ごせると喜んでいた。ところが、その友人から思いもよらぬ噂を耳にする。
ーー私たちは、学院内で“悪役令嬢”と呼ばれているらしいーー
ヒロインをいじめる高慢で意地悪な令嬢。オリヴィアは婚約者に近づく男爵令嬢を、ライラは突然侯爵家に迎えられた庶子の妹を、そしてフェリシアは平民出身の“精霊姫”をそれぞれ思い浮かべる。
小説の筋書きのような、婚約破棄や破滅の結末を思い浮かべながらも、三人は皮肉を交えて笑い合う。
そんな役どころに仕立て上げられていたなんて。しかも、当の“ヒロイン”たちはそれを承知のうえで、あくまで“純真”に振る舞っているというのだから、たちが悪い。
けれど、そう望むのなら――さあ、ご期待にお応えして、見事に演じきって見せますわ。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」
公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。
死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」
目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。
「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」
隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。
そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……?
「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」
資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる