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13 現状
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「もともと『ウィスタリア』地区はベルンハルト家の領地だったんだ」
「そうですか……」
これ以上ジェイクに疑われるのを防ぐ為に、私は敢て知らないふりをした。
「十年前に公女が行方不明になった際、ベルンハルト家が王家に赴いた話はしただろう? そして関係が破綻し……シュタイナー王族を敵とみなしクーデターを起こした。けれど失敗し、ベルンハルト家一族は全員捕らえられて処刑されてしまった」
私は自分の手を握りしめ、黙って彼の話を聞いていた。
「クーデターはベルンハルト家の滅亡で終わる予定だった……けれど公爵家に仕えていた騎士達は諦めなかったんだ。何としてもベルンハルト家の無念を晴らすために抵抗を続けた」
「騎士達がですか……?」
彼らは私達に忠誠を誓ってくれていたことを思い出す。
「けれど結局失敗に終わったんだよ。何故なら『タリス』国の騎士たちが王家に手を貸したからね。ベルンハルト家の騎士達はことごとく捕らえられ……処刑された」
「そ、そんな……!」
「けれど、中には逃げ延びることが出来た者達もいた。彼らは今も『ウィスタリア』地区に潜んで王家に転覆を虎視眈々と狙っているそうだ。噂によると彼らは傭兵を募っているとも言われている。もともと傭兵はならず者達が多いからね……」
「それで、治安が悪化している……ということでしょうか?」
「そういうことだよ。これで分かったかい? あの地区が今どれほど危険かということが。ただでさえ、戦争中だというのにこの国ではクーデターを目論んでい連中もいる。本当に……イヤな世の中だよ」
ジェイクは吐き捨てるように言った。
「本当に……その通りですね」
頷きながら私は考えた。ということは、『ウィスタリア』地区へ行けば、私の知っている騎士たちがいるかもしれないということだ。彼らの協力をあおげば、私と家族を殺した者達に報復出来るチャンスがある。
けれど、ここで問題がある。
それはあの事件から十年もの歳月が経過しているということと、この身体が全くの別人だということだ。
今の私を見て、彼らが『ユリアナ』だと気づくことは無いだろう。何しろ以前の私とは全く似ても似つかない姿なのだから。
それでも、私は『ウィスタリア』へ行かなくては。ジェイクにこれ以上迷惑を掛けるわけにはいかない。
何より、ここにいてもベルンハルト家を滅ぼした者達に報復することが出来ないからだ。
「どうだい? ユリアナ。これで分かっただろう? 『ウィスタリア』地区が今、どれほど危険な場所かということを」
「はい、分かりました。ますます『ウィスタリア』へ行かなければならないということが」
私の言葉にジェイクが目を見開いた。
「は? 一体君は何を言っているんだ? 俺の話を聞いていなかったのか?」
「いえ、ちゃんと聞いておりました。そのうえで、色々思い出したことがあるのです。私は『ベルンハルト家』の人たちとは親しい間柄にありました。だから、尚更今の『ウィスタリア』地区の様子が知りたいのです」
「ユリアナ……」
ジェイクは私をじっと見つめてきた――
「そうですか……」
これ以上ジェイクに疑われるのを防ぐ為に、私は敢て知らないふりをした。
「十年前に公女が行方不明になった際、ベルンハルト家が王家に赴いた話はしただろう? そして関係が破綻し……シュタイナー王族を敵とみなしクーデターを起こした。けれど失敗し、ベルンハルト家一族は全員捕らえられて処刑されてしまった」
私は自分の手を握りしめ、黙って彼の話を聞いていた。
「クーデターはベルンハルト家の滅亡で終わる予定だった……けれど公爵家に仕えていた騎士達は諦めなかったんだ。何としてもベルンハルト家の無念を晴らすために抵抗を続けた」
「騎士達がですか……?」
彼らは私達に忠誠を誓ってくれていたことを思い出す。
「けれど結局失敗に終わったんだよ。何故なら『タリス』国の騎士たちが王家に手を貸したからね。ベルンハルト家の騎士達はことごとく捕らえられ……処刑された」
「そ、そんな……!」
「けれど、中には逃げ延びることが出来た者達もいた。彼らは今も『ウィスタリア』地区に潜んで王家に転覆を虎視眈々と狙っているそうだ。噂によると彼らは傭兵を募っているとも言われている。もともと傭兵はならず者達が多いからね……」
「それで、治安が悪化している……ということでしょうか?」
「そういうことだよ。これで分かったかい? あの地区が今どれほど危険かということが。ただでさえ、戦争中だというのにこの国ではクーデターを目論んでい連中もいる。本当に……イヤな世の中だよ」
ジェイクは吐き捨てるように言った。
「本当に……その通りですね」
頷きながら私は考えた。ということは、『ウィスタリア』地区へ行けば、私の知っている騎士たちがいるかもしれないということだ。彼らの協力をあおげば、私と家族を殺した者達に報復出来るチャンスがある。
けれど、ここで問題がある。
それはあの事件から十年もの歳月が経過しているということと、この身体が全くの別人だということだ。
今の私を見て、彼らが『ユリアナ』だと気づくことは無いだろう。何しろ以前の私とは全く似ても似つかない姿なのだから。
それでも、私は『ウィスタリア』へ行かなくては。ジェイクにこれ以上迷惑を掛けるわけにはいかない。
何より、ここにいてもベルンハルト家を滅ぼした者達に報復することが出来ないからだ。
「どうだい? ユリアナ。これで分かっただろう? 『ウィスタリア』地区が今、どれほど危険な場所かということを」
「はい、分かりました。ますます『ウィスタリア』へ行かなければならないということが」
私の言葉にジェイクが目を見開いた。
「は? 一体君は何を言っているんだ? 俺の話を聞いていなかったのか?」
「いえ、ちゃんと聞いておりました。そのうえで、色々思い出したことがあるのです。私は『ベルンハルト家』の人たちとは親しい間柄にありました。だから、尚更今の『ウィスタリア』地区の様子が知りたいのです」
「ユリアナ……」
ジェイクは私をじっと見つめてきた――
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