罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
47 / 98

3章 1 戦争犯罪者のいる町

しおりを挟む
『ウィスタリア』地区を出発して二日目――

 ガタガタガタガタ……

 
 私は今揺れ動く荷馬車の中にいた。目の前には戦争の影響で大地の荒れ果てた景色が広がっている。

 私が知るこの国は……とても自然あふれるとても美しい国だったのに今では見る影もない。

御者台にはジェイクが座り、彼が今手綱を握っている。太陽は真上にあり、今の時間は丁度昼時に当たる頃であった。

「この周辺も酷い戦火に巻き込まれたのでしょうね……」

エドモントが焼け落ちた木々を見つめている。

「ええ、そうね……」

まさか自分の祖国が戦争に巻き込まれるとは思わなかった。しかも十年間も……

「ところで、ユリアナ様。ジェイクさんのことをどれ位ご存じなのですか?」

エドモントが不意に私に小声で尋ねてきた。

「え? 突然何を言い出すの?」

「いえ……時折、あの方から強いオーラのようなものを感じるときがあるものでして……とてもただの民間人に思えないからです」

「あ、それは僕も時々感じていました」

ラルフもエドモントの話に乗ってくる。

「さぁ……私も彼のことはさっぱり分からないのよ。家族は誰もいないと言っていたけれども」

だけど、私も二人と同様のことを考えていた。ジェイクは博識だった。
彼は文字も読めるし、地図も読める。それに国内外の社会情勢にも詳しい。

おまけに一般庶民が手の出せないようなワインも飲み慣れているように思えた。
私は馬の手綱を握っているジェイクの後ろ姿を見つめた。

本当に……彼は何者だろう? と少しの疑念を抱きながら――


****


 空が茜色に染まる頃、私達は目的地『オーリンズ』地区へ到着した。

この地区もやはり戦争に巻き込まれたのだろう。立ち並ぶ家屋は半分近くが消失し、仮設住宅のようなバラックが立ち並んでいる。
町の人々には活気が無く、あちこちに兵士が武器を携えて立っている。
それでも『ウィスタリア』地区に比べ、治安はまともに見えた。

「ユリアナ様。囚人たちが収監されている刑務所は町外れにあるようです。今夜は何処か宿を探して泊まることにしましょう」

手綱を握るエドモントが声を掛けてきた。

「ええ、そうね。夜に刑務所を尋ねれば変に怪しまれてしまうかもしれないものね」

「俺もそう思う。今夜一晩、宿を借りるついでに刑務所の情報も集めたほうがいいだろう」

ジェイクの言葉に、私達全員が頷いた――



****


私達は、この町でたった一つだけの宿屋兼、食堂に来ていた。

「それにしても宿屋がたった一つしか無いなんて……その割には食堂は随分賑わっていますね」

食堂には大勢の人々がひしめき合って、話をしている。けれども戦争という状況下に置かれているためか、彼らの顔には笑顔が無い。
誰もが神妙そうな顔で話をしている。

そこへ――

「おまちどうさま!」

男性店員が料理を運んできた。

「ありがとう」

口元部分をスカーフで隠したエドモントが代表で礼を述べる。

すると、男性店員は私達をジロジロと見ながら尋ねてきた。

「ところであなた方は一体何処から来たのです?」

その目は疑い深い目だった。しかし、そういう目で見られても無理はないだろう。何しろ私達は全員、フードを目深に被って素顔を見られないように隠しているからだ。

「『ウィスタリア』地区からだ。あの町は治安が悪くて住みにくいいからな。ここまで来たんだよ」

「なる程、たしかにあの地区は荒れていますからな。だが、ここ『オーリンズ』だってあまり治安が良いとは言えませんよ。何しろこの先にある刑務所には戦争犯罪を犯した者達が数多く収監されているのですからな。しかも十年間も」

『!!』

店員の言葉に、私達全員が反応したのは言うまでもなかった――
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】 ※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。 ※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。 愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

【完結】立場を弁えぬモブ令嬢Aは、ヒロインをぶっ潰し、ついでに恋も叶えちゃいます!

MEIKO
ファンタジー
最近まで死の病に冒されていたランドン伯爵家令嬢のアリシア。十六歳になったのを機に、胸をときめかせながら帝都学園にやって来た。「病も克服したし、今日からドキドキワクワクの学園生活が始まるんだわ!」そう思いながら一歩踏み入れた瞬間浮かれ過ぎてコケた。その時、突然奇妙な記憶が呼び醒まされる。見たこともない子爵家の令嬢ルーシーが、学園に通う見目麗しい男性達との恋模様を繰り広げる乙女ゲームの場面が、次から次へと思い浮かぶ。この記憶って、もしかして前世?かつての自分は、日本人の女子高生だったことを思い出す。そして目の前で転んでしまった私を心配そうに見つめる美しい令嬢キャロラインは、断罪される側の人間なのだと気付く…。「こんな見た目も心も綺麗な方が、そんな目に遭っていいいわけ!?」おまけに婚約者までもがヒロインに懸想していて、自分に見向きもしない。そう愕然としたアリシアは、自らキャロライン嬢の取り巻きAとなり、断罪を阻止し婚約者の目を覚まさせようと暗躍することを決める。ヒロインのヤロウ…赦すまじ!  笑って泣けるコメディです。この作品のアイデアが浮かんだ時、男女の恋愛以外には考えられず、BLじゃない物語は初挑戦です。貴族的表現を取り入れていますが、あくまで違う世界です。おかしいところもあるかと思いますが、ご了承下さいね。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

時が巻き戻った悪役令嬢は、追放先で今度こそ幸せに暮らしたい

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【その断罪、待っていました!】 私は侯爵令嬢オフィーリア・ドヌーブ。王太子アシル・バスチエの婚約者だった。良い国母になる為、日々努力を怠らなかった。そんなある日、聖女を名乗る女性ソネットが現れ、あっという間にアシルは彼女に夢中になってしまう。妃の座を奪われることに危機感を抱いた私は、ありとあらゆる手段でソネットを陥れようとして失敗。逆に罰として侯爵家から除籍され、辺境の地へ幾人かの使用人達と共に追放されてしまう。追放先の村での暮らしは不便だったが、人々は皆親切だった。けれど元侯爵令嬢というプライドから最後まで私は素直になれなかった。そんな自分に後悔しながら長い時を孤独に過ごしていたある日。不思議な懐中時計の力によって、何故か断罪の真っ最中に時が巻き戻っていた。聖女への嫌がらせは無かったことに出来ない。それなら今世はおとなしく追放されて和やかに過ごそう。今度こそ幸せに暮らす為に—— ※他サイトでも投稿中

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

処理中です...