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3章 1 戦争犯罪者のいる町
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『ウィスタリア』地区を出発して二日目――
ガタガタガタガタ……
私は今揺れ動く荷馬車の中にいた。目の前には戦争の影響で大地の荒れ果てた景色が広がっている。
私が知るこの国は……とても自然あふれるとても美しい国だったのに今では見る影もない。
御者台にはジェイクが座り、彼が今手綱を握っている。太陽は真上にあり、今の時間は丁度昼時に当たる頃であった。
「この周辺も酷い戦火に巻き込まれたのでしょうね……」
エドモントが焼け落ちた木々を見つめている。
「ええ、そうね……」
まさか自分の祖国が戦争に巻き込まれるとは思わなかった。しかも十年間も……
「ところで、ユリアナ様。ジェイクさんのことをどれ位ご存じなのですか?」
エドモントが不意に私に小声で尋ねてきた。
「え? 突然何を言い出すの?」
「いえ……時折、あの方から強いオーラのようなものを感じるときがあるものでして……とてもただの民間人に思えないからです」
「あ、それは僕も時々感じていました」
ラルフもエドモントの話に乗ってくる。
「さぁ……私も彼のことはさっぱり分からないのよ。家族は誰もいないと言っていたけれども」
だけど、私も二人と同様のことを考えていた。ジェイクは博識だった。
彼は文字も読めるし、地図も読める。それに国内外の社会情勢にも詳しい。
おまけに一般庶民が手の出せないようなワインも飲み慣れているように思えた。
私は馬の手綱を握っているジェイクの後ろ姿を見つめた。
本当に……彼は何者だろう? と少しの疑念を抱きながら――
****
空が茜色に染まる頃、私達は目的地『オーリンズ』地区へ到着した。
この地区もやはり戦争に巻き込まれたのだろう。立ち並ぶ家屋は半分近くが消失し、仮設住宅のようなバラックが立ち並んでいる。
町の人々には活気が無く、あちこちに兵士が武器を携えて立っている。
それでも『ウィスタリア』地区に比べ、治安はまともに見えた。
「ユリアナ様。囚人たちが収監されている刑務所は町外れにあるようです。今夜は何処か宿を探して泊まることにしましょう」
手綱を握るエドモントが声を掛けてきた。
「ええ、そうね。夜に刑務所を尋ねれば変に怪しまれてしまうかもしれないものね」
「俺もそう思う。今夜一晩、宿を借りるついでに刑務所の情報も集めたほうがいいだろう」
ジェイクの言葉に、私達全員が頷いた――
****
私達は、この町でたった一つだけの宿屋兼、食堂に来ていた。
「それにしても宿屋がたった一つしか無いなんて……その割には食堂は随分賑わっていますね」
食堂には大勢の人々がひしめき合って、話をしている。けれども戦争という状況下に置かれているためか、彼らの顔には笑顔が無い。
誰もが神妙そうな顔で話をしている。
そこへ――
「おまちどうさま!」
男性店員が料理を運んできた。
「ありがとう」
口元部分をスカーフで隠したエドモントが代表で礼を述べる。
すると、男性店員は私達をジロジロと見ながら尋ねてきた。
「ところであなた方は一体何処から来たのです?」
その目は疑い深い目だった。しかし、そういう目で見られても無理はないだろう。何しろ私達は全員、フードを目深に被って素顔を見られないように隠しているからだ。
「『ウィスタリア』地区からだ。あの町は治安が悪くて住みにくいいからな。ここまで来たんだよ」
「なる程、たしかにあの地区は荒れていますからな。だが、ここ『オーリンズ』だってあまり治安が良いとは言えませんよ。何しろこの先にある刑務所には戦争犯罪を犯した者達が数多く収監されているのですからな。しかも十年間も」
『!!』
店員の言葉に、私達全員が反応したのは言うまでもなかった――
ガタガタガタガタ……
私は今揺れ動く荷馬車の中にいた。目の前には戦争の影響で大地の荒れ果てた景色が広がっている。
私が知るこの国は……とても自然あふれるとても美しい国だったのに今では見る影もない。
御者台にはジェイクが座り、彼が今手綱を握っている。太陽は真上にあり、今の時間は丁度昼時に当たる頃であった。
「この周辺も酷い戦火に巻き込まれたのでしょうね……」
エドモントが焼け落ちた木々を見つめている。
「ええ、そうね……」
まさか自分の祖国が戦争に巻き込まれるとは思わなかった。しかも十年間も……
「ところで、ユリアナ様。ジェイクさんのことをどれ位ご存じなのですか?」
エドモントが不意に私に小声で尋ねてきた。
「え? 突然何を言い出すの?」
「いえ……時折、あの方から強いオーラのようなものを感じるときがあるものでして……とてもただの民間人に思えないからです」
「あ、それは僕も時々感じていました」
ラルフもエドモントの話に乗ってくる。
「さぁ……私も彼のことはさっぱり分からないのよ。家族は誰もいないと言っていたけれども」
だけど、私も二人と同様のことを考えていた。ジェイクは博識だった。
彼は文字も読めるし、地図も読める。それに国内外の社会情勢にも詳しい。
おまけに一般庶民が手の出せないようなワインも飲み慣れているように思えた。
私は馬の手綱を握っているジェイクの後ろ姿を見つめた。
本当に……彼は何者だろう? と少しの疑念を抱きながら――
****
空が茜色に染まる頃、私達は目的地『オーリンズ』地区へ到着した。
この地区もやはり戦争に巻き込まれたのだろう。立ち並ぶ家屋は半分近くが消失し、仮設住宅のようなバラックが立ち並んでいる。
町の人々には活気が無く、あちこちに兵士が武器を携えて立っている。
それでも『ウィスタリア』地区に比べ、治安はまともに見えた。
「ユリアナ様。囚人たちが収監されている刑務所は町外れにあるようです。今夜は何処か宿を探して泊まることにしましょう」
手綱を握るエドモントが声を掛けてきた。
「ええ、そうね。夜に刑務所を尋ねれば変に怪しまれてしまうかもしれないものね」
「俺もそう思う。今夜一晩、宿を借りるついでに刑務所の情報も集めたほうがいいだろう」
ジェイクの言葉に、私達全員が頷いた――
****
私達は、この町でたった一つだけの宿屋兼、食堂に来ていた。
「それにしても宿屋がたった一つしか無いなんて……その割には食堂は随分賑わっていますね」
食堂には大勢の人々がひしめき合って、話をしている。けれども戦争という状況下に置かれているためか、彼らの顔には笑顔が無い。
誰もが神妙そうな顔で話をしている。
そこへ――
「おまちどうさま!」
男性店員が料理を運んできた。
「ありがとう」
口元部分をスカーフで隠したエドモントが代表で礼を述べる。
すると、男性店員は私達をジロジロと見ながら尋ねてきた。
「ところであなた方は一体何処から来たのです?」
その目は疑い深い目だった。しかし、そういう目で見られても無理はないだろう。何しろ私達は全員、フードを目深に被って素顔を見られないように隠しているからだ。
「『ウィスタリア』地区からだ。あの町は治安が悪くて住みにくいいからな。ここまで来たんだよ」
「なる程、たしかにあの地区は荒れていますからな。だが、ここ『オーリンズ』だってあまり治安が良いとは言えませんよ。何しろこの先にある刑務所には戦争犯罪を犯した者達が数多く収監されているのですからな。しかも十年間も」
『!!』
店員の言葉に、私達全員が反応したのは言うまでもなかった――
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