里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

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第40話 M男?

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「な、な、何だっ!これは~っ!!」

繋ぎ場へとやってきたデニムの絶叫が響き渡った。

「あら~馬車が1台も並んでいませんね~」

私は今分かったかのように演技をする。

「な、何故…何故馬車が1台もないのだっ?!しかも御者すらいないじゃないか!」

そこで私はポンと手を打った。

「あ…そう言えば思い出しました」

「何だっ?!何を思い出したんだっ?!」

デニムは私の両肩を掴み、グイッと顔を近づけてきた。眼前に迫るデニムの顔。その時、デニムが眉を潜めた。

「うん?お前…」

ま、まずい!まさか…私がフェリシアだと気付かれてしまったのだろうかっ?!慌ててデニムの手をさり気なく?振り払い、距離を取ると言った。

「ええ、実は今日は半年に一度のコネリー家の馬車の一斉メンテナンス日だったのですよ」

「何?そんな日があったのか?初耳だぞ?」

デニムが腕組みをして私を見る。初耳なのは当然だ。私が今適当に作った日なのだから。

「ええそうです。そして今日は御者の方々も研修の日でとある場所に行っています」

これも口からでまかせだ。馬車が1台も無い状態で御者の人達がここにいたらデニムに激しく咎められるかもしれないので私が彼らを休暇扱いにして、思い思いに出掛けたい場所へ外出してもらったのだ。

「何処だ?そのとある場所とは?」

「実はそれは秘密の場所なのです。噂によるとそこは誰にも知られてはいけない場所で彼らは目隠しをした状態で馬車に乗せられ、目隠しをしたまま馬車から降ろされ、更に目隠ししたまま建物の中へ連れて行かれて初めてそこで目隠しを外されるそうです。帰る時も同じですね」

とある場所を聞かれて、思いつかなかったので私はまた適当に口からでまかせを言ったのだが、世間的に見て無知なデニムはあっさり私の作り話を信じてしまった。

「な、何だって…?そ、それは少し恐ろしい場所だな…」

「ええ、そうなのです。なので今の話は決して口外しないで下さいね。私もこの話はたまたま立ち聞きして知ってしまったのですから」

「あ、ああ…分かった。誰にも言わん。肝に銘じておこう」

デニムは真剣な顔で頷く。こんな口からでまかせを信じるなんて本当に単純馬鹿男だ。

「クッ・・・!し、しかし肝心の馬車が無くては…出掛けられないっ!どうすれば良いのだっ!!」

デニムは悔しそうに地団駄を踏んでいる。そこで私は提案をした。

「デニム様、馬車ならありますよ」

「何っ?!あるのかっ!どこに!」

「ええ、使用人通用口にある繋ぎ場です。荷馬車がありますけど?」

「な、何っ?!荷馬車だと?この俺に荷馬車に乗れというのか!!」

「ええ。でも荷馬車でも椅子はありますよ。木箱の椅子なので少々乗り心地は悪いかもしれませが」

「な、何だってっ?!この俺に荷馬車に乗れというのか!無理に決まっているだろう!大体辻馬車だって無理だ。俺のように乗り心地最高クラスの馬車に乗り付けてしまった人間に普通の馬車が乗れるはずなど無い!」

デニムは身を捩って叫ぶ。叫び声さえ聞こえなければ、何だか喜んでいるように見えてくるから不思議なものだ。ひょっとするとデニムはMっ気があるのだろうか・・?

「デニム様、それでこれからどうするつもりなのでしょうか?」

早くどうするか聞かせなさい!

「ぐ…もうダメだ。今日は諦める。見合いを済ませてから、次の見合いの状況を確認した上で今後の予定を考える」

「作用でございますか。それではこれからどうするおつもりですか?」

「仕方あるまい…今日はもう諦めて部屋に戻るとしよう。お前が持ってきたおやつとお茶を部屋で頂く事にする」

「はい!」

やった!あのデニム用に特別に仕上げた『刺激たっぷりジンジャークッキー』と『苦味強すぎドクダミティー』をついにこの阿呆デニムに出せるのだ!

思わず嬉しくて笑みを浮かべると、なぜかデニムがじ~っと私を見ている。ま、まずい!気付かれてしまう。

「どうかされましたか?」

咄嗟に誤魔化す為にデニムに尋ねた。

「い、いや。なんでも無い」

デニムは私から視線をそらすと前に立って歩き出した。そして私もその後を追う。

それにしても一体今のは何だったのだろう…。


この時の私はまだ何も気づいていなかった。

デニムの恐ろしい考えに―。
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