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第62話 それぞれの役目
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翌朝7時―
私は義父の執務室のソファに座っていた。執務室にはロバートさんもいる。そして私は今はもうメイドの姿はしていない。
「それで、本日何時に今日のお見合い相手が来る事になっているのだね?」
義父が尋ねてきた。
「はい、デニムに逃げられないように朝10時にこちらにお越し頂く事になっています。」
「なるほど、10時か…その時間は丁度妻とデニムが朝食を取っている時間かもしれないな?」
「へ~相変わらずデニムは朝寝坊しているのですね。働きもせずに惰眠を貪るなんて25歳にもなっていつまでも怠惰な生活ばかり送って…相変わらず本当に最低な男なのですね」
ロバートさんは義父の前だと言うのに平気でデニムをこき下ろすことを言ってのける。まあ、言いたくなるのも無理は無いけれども。
「それでは何処で見合いさせるのだい?」
「勿論、迎賓室でお見合いして頂きます。ブレンダ様にデニムと朝食を一緒に食べながら食事していただこうと思っておりますので、お義父様!」
「な、何だい?」
「今すぐお義母様を起こして、朝食に誘って下さい!デニムとブレンダ様の2人きりでお見合いしていただきますので!」
「わ、分かった!すぐに起こしてこよう!」
義父は慌てて執務室を飛び出していった。そして残されたのは私とロバートさん。
2人きりになるとロバートさんが話しかけてきた。
「ところでフェリシアさん」
「はい、何でしょう」
「デニムとは今日離婚するんだよね?」
「ええ、そのつもりです。もう書類にサインもしてあります」
「そうか、僕も準備万端だよ。これからおばさんとデニムが公金を横領し、更に少なく税金を収めていたことを報告に行ってくるよ。あ、ついでに掛け賭博の話もね」
「忙しい1日になりそうですね」
「それはお互い様だろう?」
私とロバートは微笑みあった。さて、デニムの見合いまでに最後の仕上げをしなければ―。
****
朝9時―
「デニム様、朝です。起きて下さい!」
私は阿呆デニムを揺り起こした。
「う~ん…もう少し寝かせてくれ…」
ブランケットを被って眠っていたデニムは右腕をニョキッ伸ばして、シッシッと追い払う仕草をする。おのれ、相変わらず寝坊助男め。
「デニム様、今朝の朝食はデニム様の大好きなフレンチトーストの生クリーム添えですよ」
「な、何っ?!それは本当かっ?!」
デニムはガバッと飛び起き、私を見た。
「ん…?誰だ?お前は?」
「私は新しくこの屋敷で働き始めたフットマンです」
そう、今の私はフットマンの姿…男装をしている。メイドのメイの扮装は昨夜で終わったのだ。
「メイは?メイドのメイは何処へ行った?」
「彼女なら、もういませんよ」
「何?いない?どういうことだ?」
「さぁ。私は何も知らないので」
「おい、知らないことは無いだろう?同じ使用人なのに!」
あーもう!しつっこい男だ!
「それよりも早く起きて下さい、朝食が冷めてしまいますよ」
「分かった…お前では埒が明かない。他の使用人達に聞いてみることにしよう!よし、起きるぞ!」
デニムはブランケットをはねのけた。
「では衣類を御用意しましたので、どうぞ本日はこちらに着替えてください」
「あ、ああ。しかし…朝からスーツを着るのか?」
お子様デニムは口を尖らせた。ええい!この阿呆男め!普通働く貴族はスーツを着用するものだ!
「はい、ではお着替えが終わりましたら迎賓室へ9時50分にお越しください」
「え?な、何故迎賓室なんだっ?!」
デニムは驚いた顔で私を見る。
「本日ダイニングルームはワックスがけの掃除が入っているのです」
今や、私の口は平気で嘘をペラペラ口に出せるようになっていた。
「な、なるほど…そういう訳なら仕方あるまい」
「それでは失礼致します」
私は頭を下げるとデニムの部屋を急ぎ退室し、厨房へと向かった。
フフフ…!
いよいよデニムの年貢の納め時がやってきた!
私の胸は興奮で高鳴るのだった―。
私は義父の執務室のソファに座っていた。執務室にはロバートさんもいる。そして私は今はもうメイドの姿はしていない。
「それで、本日何時に今日のお見合い相手が来る事になっているのだね?」
義父が尋ねてきた。
「はい、デニムに逃げられないように朝10時にこちらにお越し頂く事になっています。」
「なるほど、10時か…その時間は丁度妻とデニムが朝食を取っている時間かもしれないな?」
「へ~相変わらずデニムは朝寝坊しているのですね。働きもせずに惰眠を貪るなんて25歳にもなっていつまでも怠惰な生活ばかり送って…相変わらず本当に最低な男なのですね」
ロバートさんは義父の前だと言うのに平気でデニムをこき下ろすことを言ってのける。まあ、言いたくなるのも無理は無いけれども。
「それでは何処で見合いさせるのだい?」
「勿論、迎賓室でお見合いして頂きます。ブレンダ様にデニムと朝食を一緒に食べながら食事していただこうと思っておりますので、お義父様!」
「な、何だい?」
「今すぐお義母様を起こして、朝食に誘って下さい!デニムとブレンダ様の2人きりでお見合いしていただきますので!」
「わ、分かった!すぐに起こしてこよう!」
義父は慌てて執務室を飛び出していった。そして残されたのは私とロバートさん。
2人きりになるとロバートさんが話しかけてきた。
「ところでフェリシアさん」
「はい、何でしょう」
「デニムとは今日離婚するんだよね?」
「ええ、そのつもりです。もう書類にサインもしてあります」
「そうか、僕も準備万端だよ。これからおばさんとデニムが公金を横領し、更に少なく税金を収めていたことを報告に行ってくるよ。あ、ついでに掛け賭博の話もね」
「忙しい1日になりそうですね」
「それはお互い様だろう?」
私とロバートは微笑みあった。さて、デニムの見合いまでに最後の仕上げをしなければ―。
****
朝9時―
「デニム様、朝です。起きて下さい!」
私は阿呆デニムを揺り起こした。
「う~ん…もう少し寝かせてくれ…」
ブランケットを被って眠っていたデニムは右腕をニョキッ伸ばして、シッシッと追い払う仕草をする。おのれ、相変わらず寝坊助男め。
「デニム様、今朝の朝食はデニム様の大好きなフレンチトーストの生クリーム添えですよ」
「な、何っ?!それは本当かっ?!」
デニムはガバッと飛び起き、私を見た。
「ん…?誰だ?お前は?」
「私は新しくこの屋敷で働き始めたフットマンです」
そう、今の私はフットマンの姿…男装をしている。メイドのメイの扮装は昨夜で終わったのだ。
「メイは?メイドのメイは何処へ行った?」
「彼女なら、もういませんよ」
「何?いない?どういうことだ?」
「さぁ。私は何も知らないので」
「おい、知らないことは無いだろう?同じ使用人なのに!」
あーもう!しつっこい男だ!
「それよりも早く起きて下さい、朝食が冷めてしまいますよ」
「分かった…お前では埒が明かない。他の使用人達に聞いてみることにしよう!よし、起きるぞ!」
デニムはブランケットをはねのけた。
「では衣類を御用意しましたので、どうぞ本日はこちらに着替えてください」
「あ、ああ。しかし…朝からスーツを着るのか?」
お子様デニムは口を尖らせた。ええい!この阿呆男め!普通働く貴族はスーツを着用するものだ!
「はい、ではお着替えが終わりましたら迎賓室へ9時50分にお越しください」
「え?な、何故迎賓室なんだっ?!」
デニムは驚いた顔で私を見る。
「本日ダイニングルームはワックスがけの掃除が入っているのです」
今や、私の口は平気で嘘をペラペラ口に出せるようになっていた。
「な、なるほど…そういう訳なら仕方あるまい」
「それでは失礼致します」
私は頭を下げるとデニムの部屋を急ぎ退室し、厨房へと向かった。
フフフ…!
いよいよデニムの年貢の納め時がやってきた!
私の胸は興奮で高鳴るのだった―。
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