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第8話 新妻の話
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――19時
執事マイクがダイニングルームに現れ、目を見開いた。
「お、奥様! これはどういうことでしょうか!?」
「あら、マイクさん。どうなさったのですか?」
ジャンヌが1人、食事をしながら首を傾げる。
「どうなさったも何も……給仕の者から話を聞いて駆けつけてきたのですよ。奥様がお一人でダイニングルームで夕食を召し上がっておられると。一体、ヘンリー様はどちらに行かれたのですか?」
「あぁ……彼のことですか」
ジャンヌはナフキンで口元を拭くと、答えた。
「折角仕事が片付いたんだ。久しぶりに酒でも飲みに行くつもりだと言って、出ていってしまいました」
「は? 何ですって?」
「私も御一緒させて下さいと申し上げたのですが、冗談じゃない、何で女連れで酒場に行かなきゃならないんだよと言い放って出て行かれましたよ」
「え……? そ、そのようなことがあったのですか……?」
「はい、そうです。そこで仕方なく1人で食事を頂いていたところです。大変美味しい夕食でした。ありがとうございます」
背筋を正したジャンヌはニコリと笑みを浮かべた。
「これは大変申し訳ございませんでした……わざわざ、ここ『イナカ』までお一人で嫁いで来られたばかりだと言うのに。しかもその日のうちにお仕事まで手伝って頂いておきながら、ジャンヌ様を蔑ろにするとは……」
マイクは肩を震わせる。
「落ち着いて下さい、マイクさん」
「いいえ! 落ち着いてなどいられません! ヘンリー様がお酒を飲んで戻られましたら私の方から注意させていただきますので」
「いいえ。私なら大丈夫ですわ。少しも気にしておりませんので。誰だっていきなり押しかけ妻が現れれば拒絶したくなりますから」
「ですが……」
なおも申し訳無さそうな様子を見せるマイクにジャンヌは笑顔を向けた。
「久しぶりに仕事が片付いて、心置きなくお酒を飲みに行きたかったのでしょう。だから広い心で旦那様を待つことにいたします。では、私は準備がありますのでお部屋に戻らせていただきますね」
ジャンヌが立ち上がり、ヘンリーは首を傾げた。
「あの……? 準備とは……?」
「ええ、入浴を済ませて身綺麗にしておくのです。何しろ今夜は新婚初夜ですから」
「あ……!」
マイクは口元を押さえる。
「では旦那様がお戻りになられましたら、私が寝室で待っていることを伝えておいていただけますか?」
「ええ、もちろんでございます! では入浴の準備を手伝うようにメイドたちに申し伝えておきましょう」
「いいえ、それには及びません。確認したところ、このお屋敷にはボイラーが完備しておりましたね? コックをひねれば温かいシャワーが出てくるなんて驚きましたわ。ビリー男爵は本当に素晴らしい方ですわね」
ニコニコ笑みを浮かべるジャンヌ。
「お褒めに預かり、ありがとうございます。今の話を旦那様が耳にすれば、さぞかしお喜びになられたことでしょう」
「では、旦那様が戻られましたら伝えておいてくださいね?」
「はい、承知致しました」
マイクの返事を聞くと、ジャンヌは満足げに頷いて自分の部屋へと戻っていった。
その後姿を見守りながらマイクは呟く。
「いやはや……まさかジャンヌ様の口から初夜という言葉が出てくるとは……。旦那様はとんでもないお方をヘンリー様の奥様として見つけてこられたようだ。流石ですな……おっと、こうしてはいられない。すぐに報告書をあげなければ」
慌てたようにマイクもダイニングルームを後にした。
そして、この日。
マイクは寝ずの番をしながらヘンリーの帰りを待ち続けた。
しかし……ヘンリーは屋敷に戻ってくることは無かった――
執事マイクがダイニングルームに現れ、目を見開いた。
「お、奥様! これはどういうことでしょうか!?」
「あら、マイクさん。どうなさったのですか?」
ジャンヌが1人、食事をしながら首を傾げる。
「どうなさったも何も……給仕の者から話を聞いて駆けつけてきたのですよ。奥様がお一人でダイニングルームで夕食を召し上がっておられると。一体、ヘンリー様はどちらに行かれたのですか?」
「あぁ……彼のことですか」
ジャンヌはナフキンで口元を拭くと、答えた。
「折角仕事が片付いたんだ。久しぶりに酒でも飲みに行くつもりだと言って、出ていってしまいました」
「は? 何ですって?」
「私も御一緒させて下さいと申し上げたのですが、冗談じゃない、何で女連れで酒場に行かなきゃならないんだよと言い放って出て行かれましたよ」
「え……? そ、そのようなことがあったのですか……?」
「はい、そうです。そこで仕方なく1人で食事を頂いていたところです。大変美味しい夕食でした。ありがとうございます」
背筋を正したジャンヌはニコリと笑みを浮かべた。
「これは大変申し訳ございませんでした……わざわざ、ここ『イナカ』までお一人で嫁いで来られたばかりだと言うのに。しかもその日のうちにお仕事まで手伝って頂いておきながら、ジャンヌ様を蔑ろにするとは……」
マイクは肩を震わせる。
「落ち着いて下さい、マイクさん」
「いいえ! 落ち着いてなどいられません! ヘンリー様がお酒を飲んで戻られましたら私の方から注意させていただきますので」
「いいえ。私なら大丈夫ですわ。少しも気にしておりませんので。誰だっていきなり押しかけ妻が現れれば拒絶したくなりますから」
「ですが……」
なおも申し訳無さそうな様子を見せるマイクにジャンヌは笑顔を向けた。
「久しぶりに仕事が片付いて、心置きなくお酒を飲みに行きたかったのでしょう。だから広い心で旦那様を待つことにいたします。では、私は準備がありますのでお部屋に戻らせていただきますね」
ジャンヌが立ち上がり、ヘンリーは首を傾げた。
「あの……? 準備とは……?」
「ええ、入浴を済ませて身綺麗にしておくのです。何しろ今夜は新婚初夜ですから」
「あ……!」
マイクは口元を押さえる。
「では旦那様がお戻りになられましたら、私が寝室で待っていることを伝えておいていただけますか?」
「ええ、もちろんでございます! では入浴の準備を手伝うようにメイドたちに申し伝えておきましょう」
「いいえ、それには及びません。確認したところ、このお屋敷にはボイラーが完備しておりましたね? コックをひねれば温かいシャワーが出てくるなんて驚きましたわ。ビリー男爵は本当に素晴らしい方ですわね」
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「では、旦那様が戻られましたら伝えておいてくださいね?」
「はい、承知致しました」
マイクの返事を聞くと、ジャンヌは満足げに頷いて自分の部屋へと戻っていった。
その後姿を見守りながらマイクは呟く。
「いやはや……まさかジャンヌ様の口から初夜という言葉が出てくるとは……。旦那様はとんでもないお方をヘンリー様の奥様として見つけてこられたようだ。流石ですな……おっと、こうしてはいられない。すぐに報告書をあげなければ」
慌てたようにマイクもダイニングルームを後にした。
そして、この日。
マイクは寝ずの番をしながらヘンリーの帰りを待ち続けた。
しかし……ヘンリーは屋敷に戻ってくることは無かった――
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