71 / 107
4-10 心を偽って
しおりを挟む
「シルビア…」
俯いて震えを押さえていると、ユベールが私の名を呼んだ。その声は…今まで聞いたことが無い位、穏やかな声だった。
「は、はい…」
袋をギュッと握りしめ、私は顔を上げた。
「どうした?シルビア。酷く震えているじゃないか」
「あ、こ・これは…緊張…しているからです」
ユベールに余計な気を使わせたくは無かった。明日からユベールがいなくて不安だとはとてもではないが言えない。
「緊張…?」
ユベールが美しい眉をひそめる。
「はい。この魔石を入れる袋を持っていると…き、緊張して来るんです。何というか‥気を引き締めなくちゃって…言うか…」
「そうか…そんな様子で本当に明日から大丈夫か?」
ユベール…ひょっとして私の事心配してくれている…?
「は、はい。大丈夫です。ご安心下さい。アンリ王子が戻ってきた時には『すごいじゃないか!こんなに魔石を集めたんだね?!』と言って貰える程に張り切って集めておきますから」
そんな自信全く無かった。ただ私はユベールを安心させたかっただけだった。だって…彼の事が好きだから。心置きなくアンリ王子の護衛任務に就いて欲しかったのだ。
「それは…何とも心強い事を言ってくれるな?」
ユベールは口元をほころばせた。
「!」
まさか…ユベールがこんな表情を私に向けてくれるとは思わなかった。でもいい、それだけで私は十分だ。
「シルビア、それじゃ俺はそろそろ行くが…俺が戻ってくるまで勝手にいなくなったりするなよ?」
きっと魔石探しを断念して逃げるなと言いたいのだろう。
「はい、約束します」
「じゃあな」
ユベールは言うと私に背を向けて去って行く。
「ユベール様…本当に今までありがとうございました‥」
私は彼の背中に向けて小声でお礼を言った。その時、視界が滲むのを感じた。
「あ…」
気付けば目に涙が滲んでいた。黙って涙を拭うと私も町へ向かう為に廊下を歩きだした―。
****
エントランスへ向かって歩いている途中、王宮の騎士たちのいる訓練場の広場が見える渡り廊下に出た。
「…」
いつもならユベールと一緒だったから通り過ぎているところだが、私はふと足を止めて何気なくその光景をぼんやり眺めていた。彼らは剣術の訓練をしていた。互いに木刀で1対1になって剣術の訓練で打ち合っていたが、誰もユベールよりは強そうに見えなかった。
しかし、1人だけ強い人物がいた。その人物は4人を相手に戦っていたが、それは見事な戦いぶりだった。軽々と攻撃を避け、1人、また1人と着実に相手の木刀を叩き落としている。素人の私でも分る。彼は…とても強いと。恐らくユベールと互角に近いだろう。
「…」
本当なら次の仲間もこの城の騎士に頼めば良いのかも知れないけれど、どうも私は騎士たちにあまり好かれてはいないようだった。ユベールと一緒に歩いていると騎士たちが彼に挨拶をしてくる。そこで私も挨拶をすると、何故か視線をそらされたり、ビクリとされることがあった。そんな彼らに正面から仲間になって欲しいと頼んでも恐らく引き受けてはくれないだろう。
「…町にいる傭兵たちの中に…彼位強人がいてくれればいいのだけど…」
ポツリと呟き、背を向けて歩き始めた時に背後から名前を呼ばれた。
「シルビアッ!」
「え?」
騎士に知り合いなどいないはずなのに…?一体誰だろう?振り向くと、私の方に駆け寄って来る人物がいた。
「あ!キリアン様」
立ち止まって待っているとキリアンが掛けつけ、私の前に来るとピタリと止まった。
「シルビア、今俺の剣術の訓練を見ていただろう?」
キリアンは笑顔で語り掛けてきた―。
俯いて震えを押さえていると、ユベールが私の名を呼んだ。その声は…今まで聞いたことが無い位、穏やかな声だった。
「は、はい…」
袋をギュッと握りしめ、私は顔を上げた。
「どうした?シルビア。酷く震えているじゃないか」
「あ、こ・これは…緊張…しているからです」
ユベールに余計な気を使わせたくは無かった。明日からユベールがいなくて不安だとはとてもではないが言えない。
「緊張…?」
ユベールが美しい眉をひそめる。
「はい。この魔石を入れる袋を持っていると…き、緊張して来るんです。何というか‥気を引き締めなくちゃって…言うか…」
「そうか…そんな様子で本当に明日から大丈夫か?」
ユベール…ひょっとして私の事心配してくれている…?
「は、はい。大丈夫です。ご安心下さい。アンリ王子が戻ってきた時には『すごいじゃないか!こんなに魔石を集めたんだね?!』と言って貰える程に張り切って集めておきますから」
そんな自信全く無かった。ただ私はユベールを安心させたかっただけだった。だって…彼の事が好きだから。心置きなくアンリ王子の護衛任務に就いて欲しかったのだ。
「それは…何とも心強い事を言ってくれるな?」
ユベールは口元をほころばせた。
「!」
まさか…ユベールがこんな表情を私に向けてくれるとは思わなかった。でもいい、それだけで私は十分だ。
「シルビア、それじゃ俺はそろそろ行くが…俺が戻ってくるまで勝手にいなくなったりするなよ?」
きっと魔石探しを断念して逃げるなと言いたいのだろう。
「はい、約束します」
「じゃあな」
ユベールは言うと私に背を向けて去って行く。
「ユベール様…本当に今までありがとうございました‥」
私は彼の背中に向けて小声でお礼を言った。その時、視界が滲むのを感じた。
「あ…」
気付けば目に涙が滲んでいた。黙って涙を拭うと私も町へ向かう為に廊下を歩きだした―。
****
エントランスへ向かって歩いている途中、王宮の騎士たちのいる訓練場の広場が見える渡り廊下に出た。
「…」
いつもならユベールと一緒だったから通り過ぎているところだが、私はふと足を止めて何気なくその光景をぼんやり眺めていた。彼らは剣術の訓練をしていた。互いに木刀で1対1になって剣術の訓練で打ち合っていたが、誰もユベールよりは強そうに見えなかった。
しかし、1人だけ強い人物がいた。その人物は4人を相手に戦っていたが、それは見事な戦いぶりだった。軽々と攻撃を避け、1人、また1人と着実に相手の木刀を叩き落としている。素人の私でも分る。彼は…とても強いと。恐らくユベールと互角に近いだろう。
「…」
本当なら次の仲間もこの城の騎士に頼めば良いのかも知れないけれど、どうも私は騎士たちにあまり好かれてはいないようだった。ユベールと一緒に歩いていると騎士たちが彼に挨拶をしてくる。そこで私も挨拶をすると、何故か視線をそらされたり、ビクリとされることがあった。そんな彼らに正面から仲間になって欲しいと頼んでも恐らく引き受けてはくれないだろう。
「…町にいる傭兵たちの中に…彼位強人がいてくれればいいのだけど…」
ポツリと呟き、背を向けて歩き始めた時に背後から名前を呼ばれた。
「シルビアッ!」
「え?」
騎士に知り合いなどいないはずなのに…?一体誰だろう?振り向くと、私の方に駆け寄って来る人物がいた。
「あ!キリアン様」
立ち止まって待っているとキリアンが掛けつけ、私の前に来るとピタリと止まった。
「シルビア、今俺の剣術の訓練を見ていただろう?」
キリアンは笑顔で語り掛けてきた―。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】✴︎私と結婚しない王太子(あなた)に存在価値はありませんのよ?
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
「エステファニア・サラ・メレンデス――お前との婚約を破棄する」
婚約者であるクラウディオ王太子に、王妃の生誕祝いの夜会で言い渡された私。愛しているわけでもない男に婚約破棄され、断罪されるが……残念ですけど、私と結婚しない王太子殿下に価値はありませんのよ? 何を勘違いしたのか、淫らな恰好の女を伴った元婚約者の暴挙は彼自身へ跳ね返った。
ざまぁ要素あり。溺愛される主人公が無事婚約破棄を乗り越えて幸せを掴むお話。
表紙イラスト:リルドア様(https://coconala.com/users/791723)
【完結】本編63話+外伝11話、2021/01/19
【複数掲載】アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ、カクヨム、ノベルアップ+
2021/12 異世界恋愛小説コンテスト 一次審査通過
2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過
若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
長岡更紗
恋愛
侯爵令嬢だったユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
仲睦まじく過ごしていたある日、父親の死をきっかけにどん底まで落ちたユリアーナは婚約破棄されてしまう。
愛し合う二人は、離れ離れとなってしまったのだった。
ディートフリートを待ち続けるユリアーナ。
ユリアーナを迎えに行こうと奮闘するディートフリート。
二人に巻き込まれてしまった、男装の王弟。
時に笑い、時に泣き、諦めそうになり、奮闘し……
全ては、愛する人と幸せになるために。
他サイトと重複投稿しています。
全面改稿して投稿中です。
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
悪役令嬢、第四王子と結婚します!
水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします!
小説家になろう様にも、書き起こしております。
悪役令嬢の逆襲
すけさん
恋愛
断罪される1年前に前世の記憶が甦る!
前世は三十代の子持ちのおばちゃんだった。
素行は悪かった悪役令嬢は、急におばちゃんチックな思想が芽生え恋に友情に新たな一面を見せ始めた事で、断罪を回避するべく奮闘する!
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
【完結】すり替わられた小間使い令嬢は、元婚約者に恋をする
白雨 音
恋愛
公爵令嬢オーロラの罪は、雇われのエバが罰を受ける、
12歳の時からの日常だった。
恨みを持つエバは、オーロラの14歳の誕生日、魔力を使い入れ換わりを果たす。
それ以来、オーロラはエバ、エバはオーロラとして暮らす事に…。
ガッカリな婚約者と思っていたオーロラの婚約者は、《エバ》には何故か優しい。
『自分を許してくれれば、元の姿に戻してくれる』と信じて待つが、
魔法学校に上がっても、入れ換わったままで___
(※転生ものではありません) ※完結しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる