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序章1 蘇る前世の記憶
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――8時
今朝もいつものように鏡の前でため息をついた。
「はぁ~……いつまで経っても慣れないわね」
鏡には肩先まで伸びたオリーブグレーの髪に、ブラウンの瞳の少女が映っている。
「まさか、自分がゲームの中のモブキャラに生まれ変わっていたとは思わなかったわ……」
そして改めて自分の顔をじっと見つめた――
****
私の名前はユニス・ウェルナー。
伯爵家の長女で、家族構成は両親に5歳年上の兄がいる。兄は今、全寮制の学院に通っているために現在のところは不在。
私は物心ついたときから、自分を取り巻く環境に違和感を抱いていた。
それが、「魔法」だった。
この世界には「魔法」という物が存在し、魔法の種類は人によって千差万別だった。
例えば、自由自在に炎を作り出したり水を操れたり……時には傷を治せる神聖魔法も存在した。
魔法が存在して当然な世界なのに、残念ながら私には全く魔力が無かった。
それは誰もが出来る初歩的な魔法すら使うことが出来なかったからだ。
でもそのことすら、私は当然のことだと受け入れていた。何しろ魔法がこの世に存在する自体がありえないことだと思っていたからだ。
それに、私のように全く魔法を使えない人間も稀にいる。中には魔法を使えないことで悲観的になってしまう人たちもいたが、私はそんなことはなかった。
優しい両親に恵まれ、何不自由ない暮らしを送ることが出来ていたからだ。
そして、そんな私に転機が訪れたのは今からほんの1週間ほど前。
1人の少年が両親に連れられて私の前に現れたときのことだった――
****
――14時
この日は学校が休みの日で、私はいつものように屋敷の図書室でお気に入りの本を読んでいた。
「ユニス、今日もここにいたんだね」
図書室に父が現れた。
「はい、お父様。今、丁度お気に入りの本を読んでいたところです」
「ハハハハハ。本当にユニスは読書が好きだな」
父は普段、私が読書をしているときには声をかけてくることがない。もしや、何か私に用事でもあるのだろうか?
「ところで、お父様。何か私に御用でしょうか?」
「さすがはユニス、勘がいいな。そうだよ、今日はユニスに会わせたい子がいるんだ。私の知り合いの子供だよ」
そして父は背後を振り返ると、声をかけた。
「入っておいで」
すると、遠慮がちに1人の少年が図書室の中に入ってきた。
年齢は私と同年代くらい。アイスシルバーの髪に特徴的なアンバーの瞳の少年は、うつむき加減に私を見つめる。
あれ……? 何だか何処かで見たことがある……?
訝しんでいると、少年が自己紹介をした。
「はじめまして、リオン・ハイランドです」
「え? リオン……ハイランド?」
特徴的な外見と、その名前を聞いて私の記憶が蘇った。
そ、そうだ……思い出した!
彼は私が前世、数ある乙女ゲームの中でも尤もハマっていた『ニルヴァーナ』というゲームの中に出てくるリオン・ハイランドだ!!
彼はどのルートでもヒロインと結ばれることがなく、最終的には悲惨な結末を迎えてしまう。
ヒロインを狙うあまりに、追放されたり流刑島へ送られたり……場合によっては処刑されてしまうこともある。そんな気の毒な立ち位置だった。
そしてリオンの不遇さに惹かれ、いつしか彼は私の最推しになっていた。
その推しが今、私の目の前に立っているなんて……。
「どうしたんだ? ユニス。挨拶をしなさい」
私がいつまでも無言のままだったからだろう。父に声をかけられて我に返った。
「は、はじめまして……ユニス・ウェルナーです……」
突然前世の記憶が蘇り、混乱しながらも挨拶した。すると父の言葉でさらに衝撃を受けることになる。
「リオン君は、ユニスの婚約者になる人だからね。二人共仲良くするのだよ」
「ええっ!? こ、婚約者!?」
驚いてリオンを見ると、彼は既に知っているのか別に驚いた素振りを見せずに私を見つめている。
そのときになって、私は自分の置かれている立場をようやく理解した――
今朝もいつものように鏡の前でため息をついた。
「はぁ~……いつまで経っても慣れないわね」
鏡には肩先まで伸びたオリーブグレーの髪に、ブラウンの瞳の少女が映っている。
「まさか、自分がゲームの中のモブキャラに生まれ変わっていたとは思わなかったわ……」
そして改めて自分の顔をじっと見つめた――
****
私の名前はユニス・ウェルナー。
伯爵家の長女で、家族構成は両親に5歳年上の兄がいる。兄は今、全寮制の学院に通っているために現在のところは不在。
私は物心ついたときから、自分を取り巻く環境に違和感を抱いていた。
それが、「魔法」だった。
この世界には「魔法」という物が存在し、魔法の種類は人によって千差万別だった。
例えば、自由自在に炎を作り出したり水を操れたり……時には傷を治せる神聖魔法も存在した。
魔法が存在して当然な世界なのに、残念ながら私には全く魔力が無かった。
それは誰もが出来る初歩的な魔法すら使うことが出来なかったからだ。
でもそのことすら、私は当然のことだと受け入れていた。何しろ魔法がこの世に存在する自体がありえないことだと思っていたからだ。
それに、私のように全く魔法を使えない人間も稀にいる。中には魔法を使えないことで悲観的になってしまう人たちもいたが、私はそんなことはなかった。
優しい両親に恵まれ、何不自由ない暮らしを送ることが出来ていたからだ。
そして、そんな私に転機が訪れたのは今からほんの1週間ほど前。
1人の少年が両親に連れられて私の前に現れたときのことだった――
****
――14時
この日は学校が休みの日で、私はいつものように屋敷の図書室でお気に入りの本を読んでいた。
「ユニス、今日もここにいたんだね」
図書室に父が現れた。
「はい、お父様。今、丁度お気に入りの本を読んでいたところです」
「ハハハハハ。本当にユニスは読書が好きだな」
父は普段、私が読書をしているときには声をかけてくることがない。もしや、何か私に用事でもあるのだろうか?
「ところで、お父様。何か私に御用でしょうか?」
「さすがはユニス、勘がいいな。そうだよ、今日はユニスに会わせたい子がいるんだ。私の知り合いの子供だよ」
そして父は背後を振り返ると、声をかけた。
「入っておいで」
すると、遠慮がちに1人の少年が図書室の中に入ってきた。
年齢は私と同年代くらい。アイスシルバーの髪に特徴的なアンバーの瞳の少年は、うつむき加減に私を見つめる。
あれ……? 何だか何処かで見たことがある……?
訝しんでいると、少年が自己紹介をした。
「はじめまして、リオン・ハイランドです」
「え? リオン……ハイランド?」
特徴的な外見と、その名前を聞いて私の記憶が蘇った。
そ、そうだ……思い出した!
彼は私が前世、数ある乙女ゲームの中でも尤もハマっていた『ニルヴァーナ』というゲームの中に出てくるリオン・ハイランドだ!!
彼はどのルートでもヒロインと結ばれることがなく、最終的には悲惨な結末を迎えてしまう。
ヒロインを狙うあまりに、追放されたり流刑島へ送られたり……場合によっては処刑されてしまうこともある。そんな気の毒な立ち位置だった。
そしてリオンの不遇さに惹かれ、いつしか彼は私の最推しになっていた。
その推しが今、私の目の前に立っているなんて……。
「どうしたんだ? ユニス。挨拶をしなさい」
私がいつまでも無言のままだったからだろう。父に声をかけられて我に返った。
「は、はじめまして……ユニス・ウェルナーです……」
突然前世の記憶が蘇り、混乱しながらも挨拶した。すると父の言葉でさらに衝撃を受けることになる。
「リオン君は、ユニスの婚約者になる人だからね。二人共仲良くするのだよ」
「ええっ!? こ、婚約者!?」
驚いてリオンを見ると、彼は既に知っているのか別に驚いた素振りを見せずに私を見つめている。
そのときになって、私は自分の置かれている立場をようやく理解した――
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