転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

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5章 6 ゲーム通りの世界へ

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――20時45分

私は、待ち合わせ場所のガゼボに行くために女子寮を出た。

ホーウ
ホーウ

夜空に、どこからともなくフクロウの鳴き声が聞こえている。
ガス灯に照らされた敷地内を歩いているのは私だけだった。

「それにしても、まさかセシル達からも同じ場所を指定されるとは思わなかったわ」

つい独り言が漏れてしまう。
ガゼボを目指して歩いていると、ふいに何故か前世でプレイした『ニルヴァーナ』のストーリーを思い出してしまった。

ヒロインのクラリスは度々親密度が上がったヒーローと夜のガゼボでデートをし、恋人同士の時間を楽しんでいたことを。
そして今現在……信じられないことに、私がヒロインのクラリスになってしまった。
けれど今の私は、あの4人のヒーロー達の誰とも恋愛をするような関係にはなっていないし、ましてデートで呼ばれているわけでもない。
どちらかというと、呼び出しを受けているという表現をするべきだろう。

「今夜も満月が綺麗ね……」

そういえばゲーム内でクラリスがリオンに捕まって監禁された時も、美しい満月の夜だったっけ……。

その時。

ザッ!

背後で何か音が聞こえた。

「え?」

振り向こうとしたその矢先、突然背後から羽交い締めにされて口元を布で押さえつけられた。

「んっ! んんっ!!」

何!? 一体何が起こったの!?

必死で暴れるも、力が強すぎて敵わない。それどころか徐々に意識が朦朧としてくる。

「……ごめん……」

私の耳元で聞き覚えのある声が聞こえ……私の意識はそこで途絶えた――



****


 酷く頭が痛い。
ズキズキと断続的に続く頭痛で頭が割れそうだ。

「う……」

自分のうめき声で、徐々に意識が戻ってきた。ぼんやり薄目を開けると、天蓋付きのベッドに寝かされていることに気付いた。

月明かりで青白く照らされた部屋は、とても広かった。

「こ、ここ……は……? うっ!」

ベッドから身体を起こした途端、ズキッと激しい頭痛で呻いてしまった。

「一体何があったの……?」

頭を押さえながら、辺りを見渡す。

「確か私はセシル達にガゼボに呼び出されて……それで……」

そうだ。その時背後に人の気配を感じて振り向こうとした時に何者かに……。

「私……攫われたんだ……」

自分の言葉にゾッとする。ベッドに寝かされていたということは、酷い扱いを受けずにすみそうだけれども……。

「まさか……私を誘拐したのって……」

そこまで口にしたとき。

カチャ……

静かに扉が開く音が聞こえ、振り向くと扉の前に誰かが立っている姿が見えた。

まさか……。

「……あれ? もしかして……君、目が覚めたのかい?」

その人物は私の方に近づいてきた。

「そ、そんな……」

嘘だと思いたい。
だって、この世界の私は誰とも恋愛関係になっていない。それに彼とだって、殆ど関わっていない。

それなのに……何故、彼がここにいるの?

やがて、その人物は私の前にやってくると足を止めた。
月明かりの下で、その姿がはっきりと見える。

「良かった。中々目が覚めなくて、心配になって何度も様子を見に来たんだよ」

笑顔で私に話しかけてくる。

「リ……オン……」

笑顔の彼は、ヒロインが監禁されたときに登場するリオンその者の姿だった――
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