お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

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第13話 家族の登場

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 不思議な事にニコラスが怒りを募らせれば募らせるほど、私は冷静さを取り戻していた。

「良く1時間も待てましたね?私なら不在と言う段階ですぐにおいとましますけど?余程ニコラス様はお暇なのですね」

私だったらさっさと帰って自分の為に時間を費やすが…ニコラスにはそのような考えは無いのだろうか?

「何だって…?お前、俺を馬鹿にしているのか?!元はと言えばお前とそこのメイド達がしっかり連絡を取り合っていれば俺は1時間も待たずに済んだんだっ!」

「「!!」」

2人のメイドに脅えが走る。

あまりにも身勝手な言い分に私は呆れてしまった。

「…本気でそんな事をおっしゃっているのですか?」

「ああ、そうだ。…いい機会だ。きちんと仕事が出来ないメイド達には指導が必要そうだな。他のメイド達に見せしめにもなるし…少し罰を与えておくか」

そしてニコラスはメイド達に近付いて行く。

「ヒッ!」
「お、お許しを…っ!」

2人のメイドは震えあがった。

「やめて下さいっ!彼女たちに何をするつもりですかっ?!」

私はとっさに2人のメイド達の前に立ち塞がった。

「どけ。どのみちそこの2人のメイドに罰を与えたら、次はお前の番だ」

「…嫌です。どきません」

私はそれでも動かない。2人のメイドは互いに抱きしめ合ったまま涙を浮かべて震えている。ここでニコラスに叩かれたとしても私はこの場を引くつもりはなかった。それに万一暴力を振るわれれば、その事をニコラスの父親に報告しようと考えていた。流石にニコラスから暴力を振るわれた事が耳に入れば、当然彼は厳しく罰せられるだろうし、婚約解消にもつながるかもしれない。

「本当に生意気な女だ。ならお前から罰を与えてやるっ!」

ニコラスは手を振り上げた。今度こそ叩かれるっ!

そう思った瞬間―。

「ニコラス様っ!一体そこで何をしているのですかっ!」

部屋に鋭い声が響いた。

「お、お父様…それにお兄様まで…?」

2人肩で息をしながら部屋に入って来た。その背後には母の姿もある。

「仕事から帰宅するとニコラス様が怒った様子で我が屋敷にいらしていると報告を受けて部屋に来てみれば…まさかメイドのみならず、わが娘にまで手を上げようとしていらしたとは驚きですな」

父は部屋に入りながらニコラスに言う。

「…っ!」

ニコラスは悔しそうに唇を噛んで父を見ている。

「貴方はこの屋敷の人間では無い。よって我が屋敷の使用人に手を出す資格も…ましてや仮にもご自分の許婚に手を上げるなど、言語道断ですっ!」

父は私が手を上げられそうになったのが余程許せなかったのか、今までに見せたことが無いくらい、怒りに満ちた形相でニコラスを睨み付けた。

「…くっ…」

ニコラスは悔しそうに下唇を噛む。

「本日の事は…ニコラス様のお父上に報告させて頂きます。どうぞお引き取り下さい」

「だ、だが…まだ話は…」

「お引き取りをっ!」

父は若い頃は騎士団に所属していた。その名残だろう。恐ろしい程に迫力があった。

「わ、分った…帰るよっ!帰ればいいんだろうっ!」

ニコラスは顔を真っ赤にさせ、踵を返して扉へ向かって歩いていく。その背中に兄も声を掛けた。

「またあのような真似を妹にした場合…こちらも考えがありますから」

そしてニコリと笑みを浮かべた。

「!」

ニコラスは一瞬怯えた表情を浮かべ…逃げる様に足早に立ち去って行った。



「大丈夫だったかい?アンジェラ」

父が心配そうに声を掛けて来た。

「はい、大丈夫です」

「君達は平気か?」

兄が震えているメイド達に声をかける。

「は、はい…私たちは大丈夫です…」
「アンジェラ様がかばって下さったので…」

「そうか。怖い思いをさせてすまなかったね?」

「い、いえ。それでは私たちはこれで失礼します」

2人のメイドは頭を下げると、部屋を去って行った。その後ろ姿を見届けると父は溜息をついた。

「全く…ニコラス様にも困ったものだ。今日の事はコンラート伯爵に報告しなければな」

「しかし、それで彼は反省するでしょうか?」

母が心配そうに尋ねる。

「さぁな…しかし、自分の息子が許婚に暴力を振るおうとした事を見過ごされるならこちらから婚約解消を申し出るだけだ」

「そうですね。私もそれが望みです」

母が頷く。すると兄が言った。

「ああ、そうだ。あんな男にアンジェラは勿体ない。大体ニコラスの家庭教師をしている頃から彼は馬鹿だったが、あそこまで愚かだとは思いもしなかったよ」

そう、ニコラスは昔兄が家庭教師として教えていた出来の悪い生徒だった。だからニコラスは兄を苦手としていた。

「兎に角、厄介者は帰った事だし…皆で食事でもしましょうか?」

「ああ、そうだな。それがいい」

父が頷く。

そして私たちは家族揃ってダイニングルームへと向かった―。



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