お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので

結城芙由奈@コミカライズ連載中

文字の大きさ
39 / 119

第39話 焦るパメラの父

 物乞い…兄は明らかにカチンとした顔をしたが、黙っていた。

「いえいえ。私共は物乞い等ではありません。実は私どもは最近此方に越して来た者で、ご近所の方々にご挨拶に回っているのです」

父の言葉にウッド氏は頷いた。

「成程…道理で見かけない顔だと思った。それにしても…」

ウッド氏は私達を不躾なくらいジロジロ見るとまたもや失礼な事を言ってきた。

「随分と貧相な身なりだから物乞いと思ったわ。それじゃ挨拶も済んだのなら帰ってくれ」

私達をシッシッと追い払う仕草をする。全く何という人物なのだろう?人を身なりだけで見下すような態度は正直言って不快でならない。

「あ、待って下さい。ついでと言っては何ですが…実は仕事を探しているのです。こちらでは募集はされているのでしょうか?お見受けした所…この農園の経営をされている方ですよね?」

「ああ…そうだが…何だ?仕事を探しているのかね?」

途端にウッド氏は私達を値踏みするような目で見てきた。

「はい、労働希望は息子と私です。2人とも健康と体力には自身が有ります。早急に仕事を探しているのですが…なかなか仕事が見つからなくて正直困り果てていたのです」

それにしても父には驚いた。真顔で嘘をペラペラと並べられるのだから。しかもとても演技には思えないほど迫真に迫っている。

「成程…お前たちは仕事を探しているのか…。まぁそれほど困っているなら雇ってやらない事も無いがな」

「本当ですか?ありがとうございます!」

父は笑みを浮かべて頭を下げる。

「なら、早速明日から…」

ウッド氏が言いかけると父が素早く言葉を重ねた。

「それではすぐに雇用契約書を交わして頂けますか?」

「何?雇用契約書だと?」

ウッド氏の眉が上がる。そう、実は父から馬車の中で聞かされた事なのだがこの農園で働かされている従業員達は即決で採用されているが、どうやら雇用契約書を交わしていないらしいと聞かされていたのだ。

「そ、そんなものは無いが?」

「え?無いのですか?それは困りましたね…。実は借家に住んでいるのですが仕事に就いている証明書がいるのですよ。そこで大家さんから雇用契約書を持ってくるように言われているのです。けれど無いとなると…」

「な、何だ?文句があるならうちでは雇わない。他所に行くことだ」

意地悪そうな表情を浮かべるウッド氏に父は涼しい顔で言った。

「こちらの農園では雇用契約書は無いと農園組合に報告に行かなければなりませんね」

「な、何だとっ?!何故そうなるのだっ?!」

ウッド氏の顔が驚愕に変わる。

「ええ、そうですね。それが良いでしょう」

兄が初めて口を開いた。

「だ、だから理由を説明しろっ!何故組合に報告に行く必要があるのだっ?!」

「いえ、実はこちらの農園を訪れる前に仕事の斡旋をお願い出来ないか農園組合を訪れたのですよ。すると斡旋は出来ないけれども、この辺り一体の農園を教えて頂いたのです。そこで仕事を募集していないか確認してくるように言われたのですが、必ず雇用契約書を交わしてくれる農園で働くように言われていたのです。もし契約書も無しに採用するような農園があれば報告するように言われておりまして」

その言葉にウッド氏は青ざめた。

「わ、分かった!契約書はある!あるのだが…す、少し時間がかかる。1時間…いや、2時間後にまた来れば契約書を用意してやろう。一旦帰ってくれっ!」

ウッド氏は何故か私達を追い返そうとする。

「…分かりました。それでは2時間後にまた伺いますね」

父は言うと、私達に目配せした。

「それでは失礼致します」

「「失礼致します」」

父が挨拶をしたので、私と兄も挨拶をするとウッド氏の事務所を後にした。



****

 
 事務所を出ると父は言った。

「恐らく、雇用契約書など書いたこともないから、どこからか資料を取り寄せるなりしてこれから作成するのだろう」

「ええ、僕もそう思います」

兄が賛同する。

「本当にパメラの父親は酷い人ですね。父娘そっくりです」

私は率直な意見を述べた。

「それでは我々も一旦屋敷に戻ることにしよう。次はいよいよ仕上げだ。派手な演出をするとしよう」

そして父は嬉しそうに笑った―。
感想 310

あなたにおすすめの小説

王命って何ですか? 虐げられ才女は理不尽な我慢をやめることにした

まるまる⭐️
恋愛
【第18回恋愛小説大賞において優秀賞を頂戴致しました。応援頂いた読者の皆様に心よりの感謝を申し上げます。本当にありがとうございました】 その日、貴族裁判所前には多くの貴族達が傍聴券を求め、所狭しと行列を作っていた。 貴族達にとって注目すべき裁判が開かれるからだ。 現国王の妹王女の嫁ぎ先である建国以来の名門侯爵家が、新興貴族である伯爵家から訴えを起こされたこの裁判。 人々の関心を集めないはずがない。 裁判の冒頭、証言台に立った伯爵家長女は涙ながらに訴えた。 「私には婚約者がいました…。 彼を愛していました。でも、私とその方の婚約は破棄され、私は意に沿わぬ男性の元へと嫁ぎ、侯爵夫人となったのです。 そう…。誰も覆す事の出来ない王命と言う理不尽な制度によって…。 ですが、理不尽な制度には理不尽な扱いが待っていました…」 裁判開始早々、王命を理不尽だと公衆の面前で公言した彼女。裁判での証言でなければ不敬罪に問われても可笑しくはない発言だ。 だが、彼女はそんな事は全て承知の上であえてこの言葉を発した。   彼女はこれより少し前、嫁ぎ先の侯爵家から彼女の有責で離縁されている。原因は彼女の不貞行為だ。彼女はそれを否定し、この裁判に於いて自身の無実を証明しようとしているのだ。 次々に積み重ねられていく証言に次第に追い込まれていく侯爵家。明らかになっていく真実を傍聴席の貴族達は息を飲んで見守る。 裁判の最後、彼女は傍聴席に向かって訴えかけた。 「王命って何ですか?」と。 ✳︎不定期更新、設定ゆるゆるです。

逆行した悪女は婚約破棄を待ち望む~他の令嬢に夢中だったはずの婚約者の距離感がおかしいのですか!?

魚谷
恋愛
目が覚めると公爵令嬢オリヴィエは学生時代に逆行していた。 彼女は婚約者である王太子カリストに近づく伯爵令嬢ミリエルを妬み、毒殺を図るも失敗。 国外追放の系に処された。 そこで老商人に拾われ、世界中を見て回り、いかにそれまで自分の世界が狭かったのかを痛感する。 新しい人生がこのまま謳歌しようと思いきや、偶然滞在していた某国の動乱に巻き込まれて命を落としてしまう。 しかし次の瞬間、まるで夢から目覚めるように、オリヴィエは5年前──ミリエルの毒殺を図った学生時代まで時を遡っていた。 夢ではないことを確信したオリヴィエはやり直しを決意する。 ミリエルはもちろん、王太子カリストとも距離を取り、静かに生きる。 そして学校を卒業したら大陸中を巡る! そう胸に誓ったのも束の間、次々と押し寄せる問題に回帰前に習得した知識で対応していたら、 鬼のように恐ろしかったはずの王妃に気に入られ、回帰前はオリヴィエを疎ましく思っていたはずのカリストが少しずつ距離をつめてきて……? 「君を愛している」 一体なにがどうなってるの!?

令嬢たちの華麗なる断罪 ~婚約破棄は、こちらから~

櫻井みこと
恋愛
婚約者である令嬢たちを差し置いて、ひとりの女性に夢中になっている婚約者たち。 その女性はあまりにも常識知らずだったから、少し注意をしていただけなのに、嫉妬して彼女をいじめていると言いがかりをつけられる。 どうして政略結婚の相手に、嫉妬などしなければならないのでしょう。 呆れた令嬢たちは、ひそかに婚約破棄の準備を進めていた。 ※期間限定で再公開しました。

【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない

かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、 それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。 しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、 結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。 3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか? 聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか? そもそも、なぜ死に戻ることになったのか? そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか… 色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、 そんなエレナの逆転勝利物語。

婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!

みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。 幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、 いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。 そして――年末の舞踏会の夜。 「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」 エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、 王国の均衡は揺らぎ始める。 誇りを捨てず、誠実を貫く娘。 政の闇に挑む父。 陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。 そして――再び立ち上がる若き王女。 ――沈黙は逃げではなく、力の証。 公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。 ――荘厳で静謐な政略ロマンス。 (本作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載中です)

最愛の人に裏切られ死んだ私ですが、人生をやり直します〜今度は【真実の愛】を探し、元婚約者の後悔を笑って見届ける〜

腐ったバナナ
恋愛
愛する婚約者アラン王子に裏切られ、非業の死を遂げた公爵令嬢エステル。 「二度と誰も愛さない」と誓った瞬間、【死に戻り】を果たし、愛の感情を失った冷徹な復讐者として覚醒する。 エステルの標的は、自分を裏切った元婚約者と仲間たち。彼女は未来の知識を武器に、王国の影の支配者ノア宰相と接触。「私の知性を利用し、絶対的な庇護を」と、大胆な契約結婚を持ちかける。

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

最後の誕生日会

まるまる⭐️
恋愛
「お父様のことを……お願いね……」  母は亡くなる間際、まだ小さかった私の手を握り締めてそう言った。  それから8年……。  母の残したこの言葉は、まるで呪文のようにずっと私の心を縛り付けてきた。  でも、それももう限界だ。  ねぇ、お母様。  私……お父様を捨てて良いですか……?  ****** 宮廷貴族ゾールマン伯爵家の娘アイリスは、愛する母を病気で亡くして以来、父ヨーゼフと2人肩を寄せ合い暮らしてきた。 そんな日々が続いたある日、父ヨーゼフはいきなり宰相から筆頭補佐官への就任を命じられる。それは次の宰相への試金石とも言える重要な役職。日頃からの父の働きぶりが認められたことにアイリスは大きな喜びを感じるが、筆頭補佐官の仕事は激務。それ以来、アイリスが父と過ごす時間は激減してしまう。 そんなある日、父ヨーゼフは彼の秘書官だったメラニアを後妻に迎えると屋敷に突然連れて帰って来た。 「彼女にはお前と一つ違いの娘がいるんだ。喜べアイリス。お前に母と妹が一度に出来るんだ! これでもう寂しくはないだろう?」 父は満面の笑みを浮かべながらアイリスにそう告げるが……。