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第92話 私の恋人
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「まさか…もう一度会えるとは思わなかったよ…。香織…」
「え…?」
私はその言葉に耳を疑った。香織…それは私の前世の名前。KAORIと言う名前で布小物雑貨のクリエイターとして活動していたあの頃の自分の記憶が蘇って来る。
「どうしたんだ?香織なんだろう?ひょっとして…前世の記憶があるのは俺だけなのかな?」
私が返事をしないからだろう。彼は私の瞳をじっと見つめて来る。
「ゆ…祐樹?祐樹…なの…?」
中条祐樹…それが前世の私の恋人の名前だった。私は彼と結婚するはずだったのに…その目前でこの世を去ってしまった―。
「そうだよ…俺だよ。中条…祐樹だ…」
彼の目には涙が浮かんでいる。いつの間にかその口調は…デリクさんでは無く、前世で私の恋人だった祐樹の口調に戻っていた。
「ゆ…祐樹…!」
名前を口にした途端、私は強く抱きしめられていた。そして、少しの間…私たちは固く抱きしめ合ったまま…互いに涙を流した―。
****
「どう?少しは落ち着いた?」
祐樹…デリクさんは私の髪を撫でながら静かに尋ねて来た。
「え、ええ…落ち着いたわ…貴方は?」
「僕も…もう大丈夫だよ」
「私…貴方の事…何て呼べばいいのかしら…?」
「今まで通り、デリクでいいよ。正し、さん付けは無しでね」
デリクはそう言うとウィンクした。
「でもこの世界では…年上の男性を女性が呼び捨てにするのは…似合わない世界だから…人の前では今まで通り、デリクさんと呼ばせて貰うわ」
「それじゃ…僕はアンジェラと呼ばせて貰ってもいいかな?何しろいずれは結婚するんだし…前世でも結婚する予定だった恋人同士だったんだから」
「こ、恋人…そ、そうよね?私達…結婚目前の恋人同士…だったものね…」
思わず顔が赤くなってしまった。すると彼が尋ねて来た。
「アンジェラ…本当はずっと前から前世の記憶を持っていたんだろう?」
「ええ、産まれた時から…前世の記憶があったわ。そのせいで妙に大人びていたから子供の頃は生き辛かったわ」
「生まれた時からか…それは色々大変だったね…」
「でも家族に恵まれたから…幸運だったわ」
「そうだね。素晴らしい家族だと思うよ」
「ありがとう」
そして彼は私をじっと見つめると語り始めた。
「実は…あの時、学生食堂で君がニコラスに暴力を振るわれそうになっている姿を見た時…何としても助けてあげなければって気持ちが強く働いたんだ。思えばあの時からアンジェラが気になって仕方なかったんだ…そしてあの店の前を何気なく通りかかって、棚に並べられている品物を見た時…驚いたよ。一度も見たことが無いはずだったのに…それでも何処かで見覚えがある品物ばかりだったから」
「それはそうよ。前世で私が作った作品ばかりだもの。新作が出来上がるたびに貴方に見せていたものね」
「うん…そうだったね。それで思わず食い入るように見つめていたら…アンジェラが店から出て来たからびっくりしたよ。その後も…君が持って来ていた品物…すべて見覚えがあったし、特にお弁当には驚いたかな」
笑いながら私を見た。
「あ、あれは…本当は…デリクは私の良く知っている人なんじゃないかと思って…わざと日本風の…お弁当にしてみたの。でも特に反応が無かったから…私の勘違いなのかと思っていたのだけど…」
すると彼は首を振った。
「そんな事無いよ。本当は…あのお弁当を見た時は…すごく心を揺さぶられたんだよ?」
「…」
その言葉に胸が熱くなってくる。
すると彼は申し訳なさげに言った。
「ごめん…。記憶が戻るのが遅くなって…心細い思いをさせてしまったんじゃないかな…?」
「ううん、そんな事無いから…でも、記憶が戻ったのは…やっぱり何者かに頭を殴られたショックで?」
すると彼は黙って頷いた。
「あの日…何があったのか…教えてくれる?」
「いいよ。あの時…」
そして彼は語りだした―。
「え…?」
私はその言葉に耳を疑った。香織…それは私の前世の名前。KAORIと言う名前で布小物雑貨のクリエイターとして活動していたあの頃の自分の記憶が蘇って来る。
「どうしたんだ?香織なんだろう?ひょっとして…前世の記憶があるのは俺だけなのかな?」
私が返事をしないからだろう。彼は私の瞳をじっと見つめて来る。
「ゆ…祐樹?祐樹…なの…?」
中条祐樹…それが前世の私の恋人の名前だった。私は彼と結婚するはずだったのに…その目前でこの世を去ってしまった―。
「そうだよ…俺だよ。中条…祐樹だ…」
彼の目には涙が浮かんでいる。いつの間にかその口調は…デリクさんでは無く、前世で私の恋人だった祐樹の口調に戻っていた。
「ゆ…祐樹…!」
名前を口にした途端、私は強く抱きしめられていた。そして、少しの間…私たちは固く抱きしめ合ったまま…互いに涙を流した―。
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「どう?少しは落ち着いた?」
祐樹…デリクさんは私の髪を撫でながら静かに尋ねて来た。
「え、ええ…落ち着いたわ…貴方は?」
「僕も…もう大丈夫だよ」
「私…貴方の事…何て呼べばいいのかしら…?」
「今まで通り、デリクでいいよ。正し、さん付けは無しでね」
デリクはそう言うとウィンクした。
「でもこの世界では…年上の男性を女性が呼び捨てにするのは…似合わない世界だから…人の前では今まで通り、デリクさんと呼ばせて貰うわ」
「それじゃ…僕はアンジェラと呼ばせて貰ってもいいかな?何しろいずれは結婚するんだし…前世でも結婚する予定だった恋人同士だったんだから」
「こ、恋人…そ、そうよね?私達…結婚目前の恋人同士…だったものね…」
思わず顔が赤くなってしまった。すると彼が尋ねて来た。
「アンジェラ…本当はずっと前から前世の記憶を持っていたんだろう?」
「ええ、産まれた時から…前世の記憶があったわ。そのせいで妙に大人びていたから子供の頃は生き辛かったわ」
「生まれた時からか…それは色々大変だったね…」
「でも家族に恵まれたから…幸運だったわ」
「そうだね。素晴らしい家族だと思うよ」
「ありがとう」
そして彼は私をじっと見つめると語り始めた。
「実は…あの時、学生食堂で君がニコラスに暴力を振るわれそうになっている姿を見た時…何としても助けてあげなければって気持ちが強く働いたんだ。思えばあの時からアンジェラが気になって仕方なかったんだ…そしてあの店の前を何気なく通りかかって、棚に並べられている品物を見た時…驚いたよ。一度も見たことが無いはずだったのに…それでも何処かで見覚えがある品物ばかりだったから」
「それはそうよ。前世で私が作った作品ばかりだもの。新作が出来上がるたびに貴方に見せていたものね」
「うん…そうだったね。それで思わず食い入るように見つめていたら…アンジェラが店から出て来たからびっくりしたよ。その後も…君が持って来ていた品物…すべて見覚えがあったし、特にお弁当には驚いたかな」
笑いながら私を見た。
「あ、あれは…本当は…デリクは私の良く知っている人なんじゃないかと思って…わざと日本風の…お弁当にしてみたの。でも特に反応が無かったから…私の勘違いなのかと思っていたのだけど…」
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「そんな事無いよ。本当は…あのお弁当を見た時は…すごく心を揺さぶられたんだよ?」
「…」
その言葉に胸が熱くなってくる。
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「ごめん…。記憶が戻るのが遅くなって…心細い思いをさせてしまったんじゃないかな…?」
「ううん、そんな事無いから…でも、記憶が戻ったのは…やっぱり何者かに頭を殴られたショックで?」
すると彼は黙って頷いた。
「あの日…何があったのか…教えてくれる?」
「いいよ。あの時…」
そして彼は語りだした―。
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