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第10日目 初めての害虫駆除 —前編

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『おはようございます、ゲーム開始第10日目に入りました。本日も1日頑張ってください。メイドのスキルが上がりましたので、より高いポイントを得られるお仕事が増えました。 』

毎度毎度目覚めと同時に眼前に表示される
「へえ~。一体どんな仕事なのだろう・・・。」

私はお仕事メニューをタップして見た。

「え・・・?う、嘘・・・・。花壇の手入れだけで1500ポイントも貰えるんだ・・・。私、今日これ・・やってみようかな・・?」
そしてベッドから飛び起きると言った。
「さて、今日も張り切ってメイドの仕事頑張ろう!」


 毎朝私達はスタッフルームで朝礼をしている。

「実は、本日学園側から花壇の手入れをするように言われたんだが・・・誰かやりたい者はいないか?」

リーダーのトビーが私達全員を見渡して言った。

え?花壇の手入れ?今日から新しくメイドのお仕事が増えるってメッセージが出たけど・・・・まさかこんなに都合よく仕事が入って来るなんて!

「はい!」

私はすかさず手を挙げた。
するとその場にいた全員が何故かギョッとした顔で私を見る。

「お?何だ、エリス。やる気満々だな?」

トビーが腕組みしながらやけに嬉しそうに私を見る。

「はい!やりますっ!是非私に花壇の手入れをさせて下さい!」

するとアンが私の服の袖を掴み、耳打ちしてくる。

「ねえ、エリス。本気で言ってるの?考え直した方がいいんじゃないの?」

するとそこへすかさずトビーがアンに向かって言った。

「おい!アンッ!余計な事は話すなっ!」

「は、はい・・・。」

項垂れて口を閉ざすアン。
え?何、余計な事って?見ると何故かニコルとダン、それにカミラまで心配そうな視線を送って来る。しかし、それ以外のメンバーは皆ニヤニヤしながら私を見ている。

「まあ、いいんじゃないの?こんなにやりたがっているメイドがいるんだから・・・。彼女の気がそがれないように応援してやらなくちゃ。」

ジャネットが私をチラリと見ながら言う。

「そうそう、良かったじゃない。今回は自分からやるって言って来る人がいてさ。それじゃ、担当も決まった事だし解散しましょ。私今日は仕事が忙しいんだから。」


ナタリーが言いながら立ち上がったので、その場で今朝のミューティングはお開きとなった。


「エリス、今花壇の手入れの道具を借りて来てやるから・・ここで少し待ってろよ。」

トビーが声を掛けて、立ち去るとすぐにアンが私の元へとやってきた。

「エリス・・・・。大変だろうけど・・・私・・陰ながら応援してるから頑張ってね。」

アンが私の両手をガシイッと握りしめると目を潤ませた。

「う・・うん・・?何だか良く分からないけど、応援・・・ありがとう・・?」

そしてアンはウッと目に涙を薄っすら浮かべて走り去って行く。え?え?一体どういうことなのよっ?!

すると今度はニコルとダンが慌てて私の元へ駆け寄って来た。

「バカ!エリスッ!お前・・・何だってあんな仕事引き受けたんだよっ!」

ニコルが興奮しながら言う。

「え・・・?あんな仕事って・・・花壇のお手入れですよね?」

「おい、落ち着けっ!ニコルッ!仕方が無いだろう?エリスは・・・何も知らなかったんだから。」

ダンはニコルを止めながらも悔しそうに言う。

「くっそ~。それにしてもトビーめ・・・。エリスが新人メイドで何も分からないからって・・・。普通リーダーなら説明して、やめさせるべきだろう?花壇の手入れなんて・・・。」

え?何・・・・?本当は・・・花壇の手入れと言う仕事は物凄く大変な仕事なのかもしれない。徐々に不安な気持ちが押し寄せてくる。

「エリス。お前・・・この学園の学生だったよな?腕に自信はあるか?」

ダンが妙な事を聞いてくる。

「いえ・・全く自信はありません。」

私の答えに顔色を変えるダンとニコル。

「くっそ・・・!変われるものなら変わってやりたい!だ、だけど俺は今日は大事な仕事が・・・!」

ダンは悔しそうに唇をかむ。

「!俺だって・・・変わってやりたいけど・・・来週のイベントの手伝いがあって・・無理なんだ・・・。」

するとそこへトビーが戻って来るとダンとニコルに言う。

「おい!お前ら・・・こんな所で油打ってる暇があるならすぐに仕事場へ行けっ!」

そう言うと2人を追い払ってしまった。
そして私の目の前にドサドサと大量の荷物を降ろすと言った。

「エリス。今日1日、お前は花壇の手入れだ。何、大して難しい事では無い。ホースで水まきをして、余分な雑草が生えていたら取り除く、後は・・もし害虫がいたら駆除する。それだけだ。」

そして長い柄のついたタンクを私に背負わせる。ずしっと来る重みに足がよろけそうになる。

「あ、あの・・・これは・・・?」

何とか足を踏ん張ってトビーに尋ねる。

「ああ。これは害虫駆除の噴霧器だ。もし害虫を発見したらこのレバーを握って柄の先を害虫に向けるんだ。何、10秒も当てれば害虫なんかイチコロだ。その際はこのマスクを使えよ。」
そう言ってトビーが渡したのは頭の部分も布で覆われたゴーグル付きのマスクであった。
な、何・・・この物々しい装備は・・・?

「この噴霧器に入っている薬剤は人体にも悪影響を及ぼすからな・・・いいか?使う時は絶対風の向きに気を付けろよ。風上に立つんだ。この薬剤を浴びないように気を付けろ・・・。」

真剣身を帯びて話すトビーに私はだんだん怖くなってきた。さらにトビーは肩ひもが付いた銃のような物々しい武器まで持って来ると私の肩にかけて来た。
さらにズシリと重みがのしかかって来る。

「あの・・・こ、これは・・・?」

「火炎放射器だ。」

「え・・・?い、今・・何と・・・?」

「何だ?初めて見るのか?おいおい・・・ちゃんと使いこなせるのかよ・・・。これは火炎放射器だ。ターゲットに向かってこの引き金を引けば炎が噴き出してくる。くれぐれも火事や火傷には注意しろよ?」

「あの・・ですから何故火炎放射器を・・・?」

駄目だ、すっかり私の声は恐怖で震え、足は荷物の重みで震えている。

「決まっているだろう?噴霧器が効かなかった場合はこの火炎放射器で害虫を駆除するからだ。」

あ・嫌な予感的中。

「あの・・・もしかして害虫と言うのは・・・大きいのでしょうか・・・?」

「何?お前・・・本当に知らなかったのか?今から行く花壇は特別な魔法薬が作られる魔力のかけられた花壇なんだ。しかも・・・厄介な事に何故かこの花壇に巣くってしまった害虫が・・・かなり・・その大きくてな・・・。今回一匹の害虫が発見されたと報告が入って・・・・。」

何故かどんどんトビーの口調が重くなっていく。

「あの・・・では害虫は1匹だけなんですか?」
どんな害虫かは分からないが、1匹だけなら・・・何とかなる・・・かな?

「う、うむ・・・実は・・卵も発見されて・・・増えている可能性が・・・。」

「あの・・ちなみにその害虫の正体とは・・・?」

「ダンゴムシだ。」

「え?」

「何だ、聞こえなかったのか?ダンゴムシだ。」

「ああ~なんだ、ダンゴムシですか。」

私は安堵の溜息をついた。

「何っ?!エリス・・・。お前、ダンゴムシ・・・平気なのか?」

トビーが驚いた様に私を見た。

「はい、ダンゴムシですよね?ナメクジなら気持ちが悪いし、羽のある虫なら飛んでくるかもしれないからちょっと怖いですけど、ダンゴムシなら可愛いものですよ。」

「な、何?可愛いのかっ?!ダンゴムシがっ?!」

いちいち大袈裟に反応するトビー。

「はい、大丈夫です。では早速ですが・・・その花壇へ行きましょう。場所教えて下さい。」

私は笑顔で言うと、トビーは狼狽えたように頷いた。

「あ・ああ・・・では案内する・・・。」

こうして私は重たい噴霧器と、肩には火炎放射器、そして鎌等の農機具が入った袋を持とうとして・・・膝をついた。

「お、おいっ!大丈夫か?エリスッ!」

トビーが声を掛けて来る。

「は、はい・・・。あの・・・重すぎて運べないので・・・何かカートの様な物・・無いでしょうか?」

するとトビーが、ああ。それなら俺が花壇まで持って行ってやると何故か親切になり全ての荷物を持って、歩き始めたので私も後から慌てて付いて行った。

建物の西側の出口を出ると、100m程前方に広い花壇が広がっているのが目に入った。

「エリス、ここから先はお前が1人でやるんだ。」

そう言うとトビーは噴霧器を背負わせ、放射器を肩から下げさせた。さらに私の頭にゴーグル付きマスクを被らせると耳元で言った。

「健闘を祈る。」

そして脱兎のごとく駆け出して去って行ってしまった。

「全く・・・何だって言うんだろう?たかがダンゴムシ位で・・・。それじゃさっさと雑草を引き抜いて終わらせてしまおう。」

軍手をはめて。鎌を持って私は花壇の中へと入って行った。


 それにしても何て広い花壇なのだろう?100m幅のプールが5個分位は入りそうな花壇である。・・・・今日中に終わるかな・・・?
幸い私にはまだメイドのスキルを割り振るポイントが残っている。そうだ、花壇のお手入れに使えそうなメイドのスキルが無いかな・・・。私は液晶画面を表示させ・・・『害虫駆除』と表示されたスキルを見つけた。これを手に入れるにはかなりのポイントが必要になるが・・・幸いにもギリギリ交換できるだけのポイントが余ったいた。
「よし、今このスキルを手に入れればいいわ。」

私は画面をタップして『害虫駆除』のスキルを手に入れた。
その途端・・・何か身体の中にある力が目覚めた気が・・・したのは気のせいかな?


 作業開始から10分後・・・。

「お、重い・・・こ、こんな重い物持って作業なんて出来ないよ・・・。」

今のところダンゴムシは見かけていないし・・・ひょっとしたら何処か他の場所に行ってしまったのかも。
それなら・・・私は背負っていた噴霧器と肩から下げていた火炎放射器を地面に降ろした。ついでガスマスクのようなマスクも外してしまった。

「ふう・・・身軽になった。これで作業に集中出来るよ。」

そして作業を再開し・・・30分程時間が経過したころ・・・。

背後で何か気配を感じた私は振り返った。

「?」

見ると、そこには私とさほど大きさの変わらない生き物が背後に立って?いたのである。

え・・・?
あの黒くて丸い身体のラインは・・・
するとその生き物は身体を丸めると私の方へ転がって来たのである。

「キャアアアアアッ!」
ダンゴムシだ!
そんな、聞いてないっ!こんなに大きいなんて・・・嫌だ嫌だ嫌だっ!気持ち悪いっ!こんな巨大な虫・・・駆除するなんて私には無理だっ!
逃げる私にどんどん距離を詰めてくるダンゴムシ・・・。も、もう駄目だっ!私はこんな所でダンゴムシにやられてゲームオーバーになってしまうのだろうか・・・。
これでは乙女ゲームでは無くサバイバルゲームでは無いかっ!
し、死んだらあのゲーム会社に化けて出てやるッ!

そんな時・・・突然目の前に液晶画面が表示される。
『ダンゴムシに襲われています。害虫駆除のスキルを発動しますか?』
 1 はい
 2 いいえ

そんなの・・・『はい』に決まっている。

「はいっ!に決まってるでしょーっ!」

私が叫んだ途端、急に身体が光に包まれて・・・気が付けば私は右手に杖の様なものを握っていた。今なら分かる・・・。この杖は・・・害虫を駆除する杖だって事がっ!
私は振り返るとその杖をダンゴムシに向ける。

すると激しい雷のような光が杖から吹き出し、ダンゴムシに命中!

ダンゴムシは物言わずに地面に倒れ・・・さらには目の前で空気に溶けるように姿が掻き消えたのである。

これが・・・『害虫駆除』のスキル・・。な、なんて怖ろしい・・・。
そしてすっかり調子に乗った私は目に入ったダンゴムシを徹底的に駆除してまわったのだった—。
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