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1章9 婆やの説得
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宝石を売りに行く為に、旅行用バッグに詰め込んでいたとき。
――コンコンコンコン
妙に切羽詰まったノック音が響き渡った。
私の記憶の中では、こんなノックをする人は知らない。訝しく思いながら,扉に向かって声をかけた。
「誰かしら……? どうぞー」
「オフィーリア様っ!」
扉が開かれると婆やが部屋に転がり込んできた。
「ヒャアアアっ!?」
「危ない!」
文字通り転がり込んできた婆やに駆け寄り、寸での所で抱きとめた。
「婆や? 大丈夫?」
「は、はい……あぁびっくりしました」
私から身体を離すと、婆やは胸をなでおろす。
「婆や、そんなに慌ててどうしたの?」
「ど、どうしたのではありません! 旦那様から聞きました。どこか遠いところへ、オフィーリア様が追放されるって! その話……ほ、本当ですか!?」
婆やは私の肩に手を置くと、前後にユサユサ揺すぶる。
「え、ええ。そうよ。だから今その準備をしていたところなの」
「準備って……?」
「ほら、これを見て」
旅行用バッグを開いて中身を見せた。
「ヒャアアアッ! オフィーリア様! あれ程大事にしていたアクセサリーをこんな無造作に入れてどうしたのですか!?」
「勿論、売りに行くのよ。信頼のおける店に行って全て高値で買い取ってもらうわ。だって私はもうドヌーブ家から除籍される。ただのオフィーリアになるのだから。あ、ちなみに私が追放される先は『ルーズ』という村よ」
アクセサリーなど、『ルーズ』の村では不要だ。あの村に住むには、もっと必要な物がある。
「え……ええっ!? 『ルーズ』って……あの『ルーズ』ですか!?」
「そうよ、その『ルーズ』ね」
「そんな! あそこは未開の地と呼ばれる程の辺境の村ですよ!? 野生の猿だって生息してるって言われているのですよ!? そんな所へかよわいオフィーリア様を追放だなんて……酷すぎます!」
婆やは私を強く抱きしめてきた。
「ありがとう、婆や。野生の猿はいないから安心して? でも私が追放処分になっても婆やは変らないのね。他の使用人達は皆、私に挨拶すらしなくなったのに」
「何ですって!? オフィーリア様にそんな失礼な態度を取っているのですか!? 許せません! この私が使用人達全員集めて説教して差し上げます!」
婆やが目を吊り上げる。
説教って……それはマズイ! 止めなければ!
「落ち着いて、婆や。そんなことはしないで? だって私のことで皆を説教したら、婆やが反感を買ってしまうわ。この先も婆やはこの先もここで働くのだから居心地が悪くなるような真似はどうかしないでちょうだい」
「え? な、何を仰っているのです? オフィーリア様をお一人で『ルーズ』に行かせるはずがありません。私はオフィーリア様の婆やです。何処までも御一緒させていただきます!」
やはり、婆や。そう言うと思った。
けれど私は……。
「いいえ。それは駄目よ。私は1人で『ルーズ』へ行くわ」
「何故、駄目なのです!? 大体、1人で何て無茶ですよ!」
確かに60年前の私だったら泣きついてでもついてきて貰っただろう。だけど今の私は違う。あの村のことを良く知っているし、1人で生活する術も理解している。
「婆や。もうすぐ寒い冬がやってくるわ。『ルーズ』の冬はとても寒くて厳しいの。雪深く、山から吹きつけてくる冷たい風で吹雪にもなる。そんな所へ婆やを連れて行くわけにはいかないのよ。少しでも長生きしてほしいから」
「オフィーリア様……随分『ルーズ』について詳しいのですね? まるで行ったことがあるみたいです」
婆やが目を瞬く。
知っていて当然だ。何故なら私は60年間、あの村で暮らしてきたのだから。
婆やは冬の寒さに耐えきれずに死んでしまった。そして爺やも……チェルシーだって私について来なければ死ぬことは無かった。
「聞いて、婆や。私はもう誰にも頼らない、1人で『ルーズ』の村で生きていくわ。これはもう決定事項だから」
私はもう誰にも死んで欲しくない。
誰かを犠牲にすることも無く、今度こそ幸せに暮らすのだから――
――コンコンコンコン
妙に切羽詰まったノック音が響き渡った。
私の記憶の中では、こんなノックをする人は知らない。訝しく思いながら,扉に向かって声をかけた。
「誰かしら……? どうぞー」
「オフィーリア様っ!」
扉が開かれると婆やが部屋に転がり込んできた。
「ヒャアアアっ!?」
「危ない!」
文字通り転がり込んできた婆やに駆け寄り、寸での所で抱きとめた。
「婆や? 大丈夫?」
「は、はい……あぁびっくりしました」
私から身体を離すと、婆やは胸をなでおろす。
「婆や、そんなに慌ててどうしたの?」
「ど、どうしたのではありません! 旦那様から聞きました。どこか遠いところへ、オフィーリア様が追放されるって! その話……ほ、本当ですか!?」
婆やは私の肩に手を置くと、前後にユサユサ揺すぶる。
「え、ええ。そうよ。だから今その準備をしていたところなの」
「準備って……?」
「ほら、これを見て」
旅行用バッグを開いて中身を見せた。
「ヒャアアアッ! オフィーリア様! あれ程大事にしていたアクセサリーをこんな無造作に入れてどうしたのですか!?」
「勿論、売りに行くのよ。信頼のおける店に行って全て高値で買い取ってもらうわ。だって私はもうドヌーブ家から除籍される。ただのオフィーリアになるのだから。あ、ちなみに私が追放される先は『ルーズ』という村よ」
アクセサリーなど、『ルーズ』の村では不要だ。あの村に住むには、もっと必要な物がある。
「え……ええっ!? 『ルーズ』って……あの『ルーズ』ですか!?」
「そうよ、その『ルーズ』ね」
「そんな! あそこは未開の地と呼ばれる程の辺境の村ですよ!? 野生の猿だって生息してるって言われているのですよ!? そんな所へかよわいオフィーリア様を追放だなんて……酷すぎます!」
婆やは私を強く抱きしめてきた。
「ありがとう、婆や。野生の猿はいないから安心して? でも私が追放処分になっても婆やは変らないのね。他の使用人達は皆、私に挨拶すらしなくなったのに」
「何ですって!? オフィーリア様にそんな失礼な態度を取っているのですか!? 許せません! この私が使用人達全員集めて説教して差し上げます!」
婆やが目を吊り上げる。
説教って……それはマズイ! 止めなければ!
「落ち着いて、婆や。そんなことはしないで? だって私のことで皆を説教したら、婆やが反感を買ってしまうわ。この先も婆やはこの先もここで働くのだから居心地が悪くなるような真似はどうかしないでちょうだい」
「え? な、何を仰っているのです? オフィーリア様をお一人で『ルーズ』に行かせるはずがありません。私はオフィーリア様の婆やです。何処までも御一緒させていただきます!」
やはり、婆や。そう言うと思った。
けれど私は……。
「いいえ。それは駄目よ。私は1人で『ルーズ』へ行くわ」
「何故、駄目なのです!? 大体、1人で何て無茶ですよ!」
確かに60年前の私だったら泣きついてでもついてきて貰っただろう。だけど今の私は違う。あの村のことを良く知っているし、1人で生活する術も理解している。
「婆や。もうすぐ寒い冬がやってくるわ。『ルーズ』の冬はとても寒くて厳しいの。雪深く、山から吹きつけてくる冷たい風で吹雪にもなる。そんな所へ婆やを連れて行くわけにはいかないのよ。少しでも長生きしてほしいから」
「オフィーリア様……随分『ルーズ』について詳しいのですね? まるで行ったことがあるみたいです」
婆やが目を瞬く。
知っていて当然だ。何故なら私は60年間、あの村で暮らしてきたのだから。
婆やは冬の寒さに耐えきれずに死んでしまった。そして爺やも……チェルシーだって私について来なければ死ぬことは無かった。
「聞いて、婆や。私はもう誰にも頼らない、1人で『ルーズ』の村で生きていくわ。これはもう決定事項だから」
私はもう誰にも死んで欲しくない。
誰かを犠牲にすることも無く、今度こそ幸せに暮らすのだから――
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