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2章5 父からの贈り物
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その日の夜――
私とビリーは、ホテルの部屋にいた。
「ビリー、ベッドは窓際の方がいいでしょう? 私は扉側でいいから、そっちのベッドを使いなさい」
「ありがとうございます」
お礼を述べるビリーに、本日買ったビリーの寝間着を手渡した。
「はい、明日も早いから今日は早く寝るのよ。シャワーを浴びてらっしゃい」
このホテルには部屋にシャワールームがついている。
少々割高ではあったものの、シャワーが完備されている部屋に泊まることにしたのだ。
「は、はい。では先に使わせてもらいます……」
シャワールームへ向かうビリーに声をかけた。
「ビリー、1人で洗える? 手伝ってあげましょうか?」
すると途端にビリーはブンブン首を振る。
「え!? い、いいです! ぼ、僕1人で洗えますから!! それじゃ……い、行ってきます!」
「はい、行ってらっしゃい」
着替えを手にしたビリーは慌ててシャワールームへ駆けて行った。
「おかしな子ねぇ? あんなに遠慮しちゃって……さてと、今の内に荷物整理をしておこうかしら」
私は部屋に置かれた荷物を見渡した。
部屋には荷馬車に積んで置いた荷物を全て積み込んである。ここ『ラント』は王都から少し離れた場所にある町である為、あまり治安が良くない。
昔『ラント』に宿泊した際、荷馬車に荷物を積んだままにしておいたところ盗難被害に遭ったことがあるのだ。
そこで今回全ての荷物を、ビリーと2人で部屋に運び込んだのだ。
「今回は絶対に盗難被害に遭う訳にはいかないものね。前回よりも持参しているお金が少ないのだから」
荷物整理ついでに、自分の寝間着をボストンバックから出したとき。
「あら? これは何かしら?」
バッグの底から箱が見つかった。こんなもの入れた覚えが無いのに。
箱のふたを開けて、思ず目を見開いてしまった。中には札束がはいっていたのだ。しかもそれだけではなく、小切手迄ある。
数えてみると3000万ベリルもの大金だった。
「う、嘘……もしかして、このお金って……え?」
足元にメモ紙が落ちていることに気付き、拾い上げた。
『私からお前に出来る最後の贈り物だ。守ってやれずに済まなかった。いつまでもお前を愛している。父より』
メモにはそう書かれていた。
「お父様……」
父の深い愛情を感じ、目に涙が浮かぶ。
「ありがとうございます、お父様。私はもう……60年前の失敗は絶対に繰り返しません……」
父のメモ紙を、持参した日記帳の一番最後のページにそっと挟んだ――
****
「オフィーリア様。シャワー浴びてきました」
寝間着に着替えたビリーがシャワールームから出てきた。
「あら、ビリー。その寝間着、良く似合っているじゃない」
寝間着も、今日洋品店で購入した物だ。
「ありがとうございます。僕、こんなに手触りのいい寝間着を着るのは初めてです」
ビリーは嬉しそうに言う。
「フフ、気にいって貰えて良かったわ。それじゃ私もシャワーを浴びてくるから、構わず先に寝ていなさい。明日も早いんだから」
「はい、分かりました」
「それじゃ、おやすみなさい。ビリー」
「……」
するとビリーは何故か私をじっと見つめる。
「何? どうかしたの?」
「い、いえ。あ、あの……僕、誰かに「おやすみなさい」って言われたの久しぶりで……それが嬉しくて……」
「ビリー……」
でも、私もビリーの気持ちが良く分かる。『ルーズ』に追放され、婆やに爺や。それにチェルシーが亡くなってから、私はずっと一人ぼっちだった。
それがどれだけ寂しかったことか……。
「これから毎晩、『おやすみなさい』って言ってあげるわね」
「はい!」
ビリーは私の言葉に嬉しそうに返事をした―
私とビリーは、ホテルの部屋にいた。
「ビリー、ベッドは窓際の方がいいでしょう? 私は扉側でいいから、そっちのベッドを使いなさい」
「ありがとうございます」
お礼を述べるビリーに、本日買ったビリーの寝間着を手渡した。
「はい、明日も早いから今日は早く寝るのよ。シャワーを浴びてらっしゃい」
このホテルには部屋にシャワールームがついている。
少々割高ではあったものの、シャワーが完備されている部屋に泊まることにしたのだ。
「は、はい。では先に使わせてもらいます……」
シャワールームへ向かうビリーに声をかけた。
「ビリー、1人で洗える? 手伝ってあげましょうか?」
すると途端にビリーはブンブン首を振る。
「え!? い、いいです! ぼ、僕1人で洗えますから!! それじゃ……い、行ってきます!」
「はい、行ってらっしゃい」
着替えを手にしたビリーは慌ててシャワールームへ駆けて行った。
「おかしな子ねぇ? あんなに遠慮しちゃって……さてと、今の内に荷物整理をしておこうかしら」
私は部屋に置かれた荷物を見渡した。
部屋には荷馬車に積んで置いた荷物を全て積み込んである。ここ『ラント』は王都から少し離れた場所にある町である為、あまり治安が良くない。
昔『ラント』に宿泊した際、荷馬車に荷物を積んだままにしておいたところ盗難被害に遭ったことがあるのだ。
そこで今回全ての荷物を、ビリーと2人で部屋に運び込んだのだ。
「今回は絶対に盗難被害に遭う訳にはいかないものね。前回よりも持参しているお金が少ないのだから」
荷物整理ついでに、自分の寝間着をボストンバックから出したとき。
「あら? これは何かしら?」
バッグの底から箱が見つかった。こんなもの入れた覚えが無いのに。
箱のふたを開けて、思ず目を見開いてしまった。中には札束がはいっていたのだ。しかもそれだけではなく、小切手迄ある。
数えてみると3000万ベリルもの大金だった。
「う、嘘……もしかして、このお金って……え?」
足元にメモ紙が落ちていることに気付き、拾い上げた。
『私からお前に出来る最後の贈り物だ。守ってやれずに済まなかった。いつまでもお前を愛している。父より』
メモにはそう書かれていた。
「お父様……」
父の深い愛情を感じ、目に涙が浮かぶ。
「ありがとうございます、お父様。私はもう……60年前の失敗は絶対に繰り返しません……」
父のメモ紙を、持参した日記帳の一番最後のページにそっと挟んだ――
****
「オフィーリア様。シャワー浴びてきました」
寝間着に着替えたビリーがシャワールームから出てきた。
「あら、ビリー。その寝間着、良く似合っているじゃない」
寝間着も、今日洋品店で購入した物だ。
「ありがとうございます。僕、こんなに手触りのいい寝間着を着るのは初めてです」
ビリーは嬉しそうに言う。
「フフ、気にいって貰えて良かったわ。それじゃ私もシャワーを浴びてくるから、構わず先に寝ていなさい。明日も早いんだから」
「はい、分かりました」
「それじゃ、おやすみなさい。ビリー」
「……」
するとビリーは何故か私をじっと見つめる。
「何? どうかしたの?」
「い、いえ。あ、あの……僕、誰かに「おやすみなさい」って言われたの久しぶりで……それが嬉しくて……」
「ビリー……」
でも、私もビリーの気持ちが良く分かる。『ルーズ』に追放され、婆やに爺や。それにチェルシーが亡くなってから、私はずっと一人ぼっちだった。
それがどれだけ寂しかったことか……。
「これから毎晩、『おやすみなさい』って言ってあげるわね」
「はい!」
ビリーは私の言葉に嬉しそうに返事をした―
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