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第9章 15 ルドルフの怒り
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グレースの母が誰の事を話しているのか、ルドルフもエドガーもすぐにヒルダの事を言っているという事に気がついた。エドガーは黙っていたが、ルドルフはどうにも我慢する事が出来ずに口を開いた。
「あの・・あの娘とは・・一体誰の事を言っているんですか?」
つい、ルドルフの声に怒気が含まれる。しかし、怒りに満ちているグレースの母にはルドルフの怒りに気付かない。気付かないまま言葉を続ける。
「何を言っているんだい、ルドルフ。あの娘と言ったら・・・決まっているだろう?この地を治める領主の娘でありながら、大事な文化遺産にする予定だったあの教会を焼き払ってしまった・・・あの娘さ!名前を口に出すのもおこがましい・・!」
ダンッ!!
突然ルドルフが何もない壁を右手の拳でいきなり強く殴りつけた。壁からはパラパラと小さな破片と埃が舞い散る。
「ル・ルドルフ・・?」
そこでグレースの母は初めてルドルフの怒りに気が付いた。ルドルフは唇を強く噛みしめ、青ざめた顔に激しい怒りを込めた目でグレースの母を睨み付けていたのだ。
今まで大人しく、心優しい姿しか見たことが無かったグレースの母はルドルフの凄まじい程の怒りを感じて震えた。
エドガーは黙ってルドルフの様子を伺っていたが、ここで初めて口を開いた。
「・・・落ち着け、ルドルフ・・・。」
「だ、だけどっ!エドガー様っ!」
ルドルフはエドガーを見て声を荒げた。
「彼女は何も知らないんだ。だから今ここで責めたってどうしようもないだろう?」
静かに言うエドガーにルドルフは口を閉ざした。
(そうだ・・・グレースのお母さんは何も知らないんだ・・・だから『カウベリー』に住む人達と同じような反応をするのは当然なんだ・・。だけど・・・!)
相手がグレースの母と言う事が何よりもルドルフはやるせなかった。グレースが平気で自分の為なら人を傷つける事も、身の保身の為なら相手を踏みつけるのもいとわないような人間に育て上げたのは・・今目の前にいるグレースの母であり・・父なのだから。
「あ・・・な、何なんだい・・・一体・・・。」
グレースの母はすっかり怯え・・ガタガタと震えている。そんな彼女にエドガーは声を掛けた。
「俺達はグレースに用があって尋ねてきたんだ。グレースには会えるか?」
「え、ええ・・・。グ、グレースは・・すっかりあの事件以来・・ひきこもってしまって・・・私達もまともに話も出来ないんですよ・・。時折酷くうなされているみたいだし・・。しかも、女の子なのに・・あ、あんな酷い火傷を負ってしまって・・・いい縁談があったのに・・断られてしまったんですよ!あの子が頼みの綱だったのに・・こ、この家を建て直すための・・・それもこれもやはりすべてはあの娘のせいで・・・!」
再び、怒りが込み上げてきたのか・・グレースの母は醜く顔を歪める。その姿を見てエドガーは思った。
(やはり・・グレースの母も・・・正気を失っているようだな・・まあ、無理も無いか・・恐らくは相当裕福だったはずなのに・・今は何も無いこんな・・がらんとした空間に住んでいるのだから・・いや、それより良くこの屋敷を手放さずにすんでいるものだ・・。)
ルドルフはどうにも怒りが治まらなかったが、今の気持ちを鎮めないと恐らく母親はグレースに会わせてくれないだろうと判断し・・深呼吸を数回繰り返して気持ちを静めると言った。
「それではグレースに会わせて下さい。」
「あ、ああ・・・あの子が会うと返事をするかどうかは分らないけど・・グレースの部屋はこの階段を昇った先の一番右奥の部屋だよ。」
グレースの母は自分の後ろに見える階段を指さした。
「そうか・・分った。」
エドガーは頷くとルドルフを見た。
「ルドルフ・・それじゃグレースの部屋を訪ねてみようか?」
「はい、行きましょう。」
ルドルフはエドガーの言葉に頷き、2人はギシギシとなる階段を並んでゆっくり歩きだした―。
「あの・・あの娘とは・・一体誰の事を言っているんですか?」
つい、ルドルフの声に怒気が含まれる。しかし、怒りに満ちているグレースの母にはルドルフの怒りに気付かない。気付かないまま言葉を続ける。
「何を言っているんだい、ルドルフ。あの娘と言ったら・・・決まっているだろう?この地を治める領主の娘でありながら、大事な文化遺産にする予定だったあの教会を焼き払ってしまった・・・あの娘さ!名前を口に出すのもおこがましい・・!」
ダンッ!!
突然ルドルフが何もない壁を右手の拳でいきなり強く殴りつけた。壁からはパラパラと小さな破片と埃が舞い散る。
「ル・ルドルフ・・?」
そこでグレースの母は初めてルドルフの怒りに気が付いた。ルドルフは唇を強く噛みしめ、青ざめた顔に激しい怒りを込めた目でグレースの母を睨み付けていたのだ。
今まで大人しく、心優しい姿しか見たことが無かったグレースの母はルドルフの凄まじい程の怒りを感じて震えた。
エドガーは黙ってルドルフの様子を伺っていたが、ここで初めて口を開いた。
「・・・落ち着け、ルドルフ・・・。」
「だ、だけどっ!エドガー様っ!」
ルドルフはエドガーを見て声を荒げた。
「彼女は何も知らないんだ。だから今ここで責めたってどうしようもないだろう?」
静かに言うエドガーにルドルフは口を閉ざした。
(そうだ・・・グレースのお母さんは何も知らないんだ・・・だから『カウベリー』に住む人達と同じような反応をするのは当然なんだ・・。だけど・・・!)
相手がグレースの母と言う事が何よりもルドルフはやるせなかった。グレースが平気で自分の為なら人を傷つける事も、身の保身の為なら相手を踏みつけるのもいとわないような人間に育て上げたのは・・今目の前にいるグレースの母であり・・父なのだから。
「あ・・・な、何なんだい・・・一体・・・。」
グレースの母はすっかり怯え・・ガタガタと震えている。そんな彼女にエドガーは声を掛けた。
「俺達はグレースに用があって尋ねてきたんだ。グレースには会えるか?」
「え、ええ・・・。グ、グレースは・・すっかりあの事件以来・・ひきこもってしまって・・・私達もまともに話も出来ないんですよ・・。時折酷くうなされているみたいだし・・。しかも、女の子なのに・・あ、あんな酷い火傷を負ってしまって・・・いい縁談があったのに・・断られてしまったんですよ!あの子が頼みの綱だったのに・・こ、この家を建て直すための・・・それもこれもやはりすべてはあの娘のせいで・・・!」
再び、怒りが込み上げてきたのか・・グレースの母は醜く顔を歪める。その姿を見てエドガーは思った。
(やはり・・グレースの母も・・・正気を失っているようだな・・まあ、無理も無いか・・恐らくは相当裕福だったはずなのに・・今は何も無いこんな・・がらんとした空間に住んでいるのだから・・いや、それより良くこの屋敷を手放さずにすんでいるものだ・・。)
ルドルフはどうにも怒りが治まらなかったが、今の気持ちを鎮めないと恐らく母親はグレースに会わせてくれないだろうと判断し・・深呼吸を数回繰り返して気持ちを静めると言った。
「それではグレースに会わせて下さい。」
「あ、ああ・・・あの子が会うと返事をするかどうかは分らないけど・・グレースの部屋はこの階段を昇った先の一番右奥の部屋だよ。」
グレースの母は自分の後ろに見える階段を指さした。
「そうか・・分った。」
エドガーは頷くとルドルフを見た。
「ルドルフ・・それじゃグレースの部屋を訪ねてみようか?」
「はい、行きましょう。」
ルドルフはエドガーの言葉に頷き、2人はギシギシとなる階段を並んでゆっくり歩きだした―。
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