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第11章 1 ヒルダの帰郷 1
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「今日はやけに寒いな・・・。」
イワンは防寒着の襟を立てながらホームのベンチにたまっている雪を箒で払っていた。今日のカウベリーは朝からずっと冷たい風が吹き、時折風に混ざった粉雪が降っている。どんよりと曇った空・・そしてホームの外はすっかり雪で覆われ、辺り一面真っ白な世界で・・とても物寂しい情景が広がっている。
その時―。
ボォーッ・・・
遠くから汽笛の音が聞こえてきた。
「汽車が来たのか・・・。」
イワンはホームのはじに寄り、乗客の邪魔にならない場所に待機すると、寒さでかじかんだ指先を温める為に手袋の上から息を吐きかけた。
やがて・・・
ガタンガタンガタン・・・
大きな走行音を立てながら5両列車の蒸気機関車がホームに滑り込み・・・大きな汽笛を3度鳴らすと止まった・・・。
プシュ~ッ・・
蒸気の抜けるような音と共に車両の下から白い煙を吐き出しなが汽車は停車している。終着駅である『カウベリー』に降り立つ人々は普段のようにまばらだった。その時、イワンはあることに気付いた。
「あれ・・珍しいな・・・。一等車両から人が降りてくるなんて・・誰か偉い人でも乗っていたのかな・・?」
イワンの視線の先には真っ黒なエキゾチックな髪に上質なコートを着た少女が、帽子をかぶり、眼鏡をかけた少女に手を貸して列車から降りてくる姿が映っていた。その後ろには20代と思われる女性が続いている。
「へぇ~・・あの人達が一等車両の客か・・ここで働いて降りてくるお客を見るのは初めてだなぁ。」
少し頭の弱いイワンは気づかなかった。自分がどれほどぶしつけに彼女たちを見ているかと言う事に・・。その時、眼鏡をかけた少女がイワンの視線に気づいたのか、振り向いた。
(うわ・・。)
イワンはその少女を見て心臓が止まるかと思った。
(何て綺麗な人なんだろう・・・。)
眼鏡を掛けてはいたが、その美貌ははっきりと見て取れた。眼鏡の少女はすぐに視線を反らせると、黒髪の少女が眼鏡の少女に杖を渡した。
(あれ・・あの人に杖を渡したぞ・・?)
すると眼鏡の少女は頷くと杖を突いて、キャリーケースを引きずりながら改札へ向かって歩き始めた。
イワンはその後ろ姿を見つめながら思った。
(可哀そうに・・あの人・・あんなに綺麗なのに・・足が悪いのか・・。)
しかし・・イワンは以前にも似たような人物を見たことがある。それは・・。
「ま、まさか・・・・。」
イワンは顔面蒼白になり・・身体を震わせながら4人が去って行く後ろ姿をいつまでも見つめていた―。
ホームを出て、馬車に乗り込むとアンナはヒルダに声を掛けてきた。
「ヒルダ様、大丈夫ですか?」
アンナはヒルダの顔色が青ざめているのが気がかりで声を掛けた。
「はい大丈夫です。ただ寒さで左足がいつもよりは痛むのですが・・後でマッサージをすれば落ち着くと思うので。」
「ヒルダ様・・・。」
アンナは悲痛な顔でヒルダを見つめた。
(なんてお気の毒なヒルダ様・・足が不自由なだけでなく、痛み迄伴っていたなんて・・・。)
そこでアンナは言った。
「ヒルダ様。今夜は少し遠いですが、私の屋敷にお泊り下さい。大丈夫です。私の住む領地ではどなたもヒルダ様の事を知る人物はおりません。お父様もお母さまもお客様を連れてくることは知っております。フィールズ家に泊ればヒルダ様の正体がばれてしまうかもしれませんので。屋敷に戻ったら温かい湯を用意居させますから。」
「はい、お部屋は私が用意させて頂きます。」
アンナの侍女のコゼットが言う。
「本当に・・ありがとうございます。アンナ様、コゼットさん。」
ヒルダは頭を下げると馬車から見える2年ぶりの懐かしい故郷の景色を眺めた。
(ここは『ロータス』とは違い、とても物寂しい場所だわ・・・だけど・・・私の大好きな故郷・・お母さま・・早く会いたい・・・。)
やがて・・・ヒルダの目に懐かしいフィールズ家の屋敷が見えてきた―。
イワンは防寒着の襟を立てながらホームのベンチにたまっている雪を箒で払っていた。今日のカウベリーは朝からずっと冷たい風が吹き、時折風に混ざった粉雪が降っている。どんよりと曇った空・・そしてホームの外はすっかり雪で覆われ、辺り一面真っ白な世界で・・とても物寂しい情景が広がっている。
その時―。
ボォーッ・・・
遠くから汽笛の音が聞こえてきた。
「汽車が来たのか・・・。」
イワンはホームのはじに寄り、乗客の邪魔にならない場所に待機すると、寒さでかじかんだ指先を温める為に手袋の上から息を吐きかけた。
やがて・・・
ガタンガタンガタン・・・
大きな走行音を立てながら5両列車の蒸気機関車がホームに滑り込み・・・大きな汽笛を3度鳴らすと止まった・・・。
プシュ~ッ・・
蒸気の抜けるような音と共に車両の下から白い煙を吐き出しなが汽車は停車している。終着駅である『カウベリー』に降り立つ人々は普段のようにまばらだった。その時、イワンはあることに気付いた。
「あれ・・珍しいな・・・。一等車両から人が降りてくるなんて・・誰か偉い人でも乗っていたのかな・・?」
イワンの視線の先には真っ黒なエキゾチックな髪に上質なコートを着た少女が、帽子をかぶり、眼鏡をかけた少女に手を貸して列車から降りてくる姿が映っていた。その後ろには20代と思われる女性が続いている。
「へぇ~・・あの人達が一等車両の客か・・ここで働いて降りてくるお客を見るのは初めてだなぁ。」
少し頭の弱いイワンは気づかなかった。自分がどれほどぶしつけに彼女たちを見ているかと言う事に・・。その時、眼鏡をかけた少女がイワンの視線に気づいたのか、振り向いた。
(うわ・・。)
イワンはその少女を見て心臓が止まるかと思った。
(何て綺麗な人なんだろう・・・。)
眼鏡を掛けてはいたが、その美貌ははっきりと見て取れた。眼鏡の少女はすぐに視線を反らせると、黒髪の少女が眼鏡の少女に杖を渡した。
(あれ・・あの人に杖を渡したぞ・・?)
すると眼鏡の少女は頷くと杖を突いて、キャリーケースを引きずりながら改札へ向かって歩き始めた。
イワンはその後ろ姿を見つめながら思った。
(可哀そうに・・あの人・・あんなに綺麗なのに・・足が悪いのか・・。)
しかし・・イワンは以前にも似たような人物を見たことがある。それは・・。
「ま、まさか・・・・。」
イワンは顔面蒼白になり・・身体を震わせながら4人が去って行く後ろ姿をいつまでも見つめていた―。
ホームを出て、馬車に乗り込むとアンナはヒルダに声を掛けてきた。
「ヒルダ様、大丈夫ですか?」
アンナはヒルダの顔色が青ざめているのが気がかりで声を掛けた。
「はい大丈夫です。ただ寒さで左足がいつもよりは痛むのですが・・後でマッサージをすれば落ち着くと思うので。」
「ヒルダ様・・・。」
アンナは悲痛な顔でヒルダを見つめた。
(なんてお気の毒なヒルダ様・・足が不自由なだけでなく、痛み迄伴っていたなんて・・・。)
そこでアンナは言った。
「ヒルダ様。今夜は少し遠いですが、私の屋敷にお泊り下さい。大丈夫です。私の住む領地ではどなたもヒルダ様の事を知る人物はおりません。お父様もお母さまもお客様を連れてくることは知っております。フィールズ家に泊ればヒルダ様の正体がばれてしまうかもしれませんので。屋敷に戻ったら温かい湯を用意居させますから。」
「はい、お部屋は私が用意させて頂きます。」
アンナの侍女のコゼットが言う。
「本当に・・ありがとうございます。アンナ様、コゼットさん。」
ヒルダは頭を下げると馬車から見える2年ぶりの懐かしい故郷の景色を眺めた。
(ここは『ロータス』とは違い、とても物寂しい場所だわ・・・だけど・・・私の大好きな故郷・・お母さま・・早く会いたい・・・。)
やがて・・・ヒルダの目に懐かしいフィールズ家の屋敷が見えてきた―。
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