嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

結城芙由奈@コミカライズ連載中

文字の大きさ
415 / 566

第1章 21 カウベリーの最後の夜

しおりを挟む
 その夜―

 ヒルダは夜寝る前の日記を付けていた。日記をつける習慣が出来たのはルドルフと
の交換日記がきっかけだった。2人で始めた交換日記はルドルフが亡くなった今でも続いていた。始めはルドルフに宛てた手紙のような内容だったが、今ではその日のうちに起こった出来事、そしてその事について自分の思ったことや感じたことを書いていた。ヒルダは日記をつけるようになり、文章を書くのが好きになっていた。

(私は将来文章を書く仕事をしてみたいわ…子どもたちに夢を与えられるような絵本作家なんていいかも)

ヒルダはルドルフとの将来が終わってしまった今、もう自分は結婚する事は無いだろうと考えていた。ルドルフ意外の誰かと結婚という事自体、考えられなかった。
ヒルダには夢があった。ルドルフと結婚し、男の子と女の子の母親になるという夢が…しかし、その夢はルドルフの突然過ぎる死で閉ざされてしまった。

(私はもう家庭をもつことは無い。だから子供を持つことも無いわ…。)

だからこそ、絵本作家になって子どもたちに関わる仕事をしてみたいと考えていたのだ。

「ふぅ…」

日記を書き終えたヒルダはペンホルダーにペンを戻すとパタンと日記帳を閉じて、ライティングデスクから離れると窓の外を眺めた。窓の外から見える木々は真っ黒なシルエットとなり、風でざわざわとざわめいている。空を見上げれば輝くような銀河が広がっていた。

「本当に…『ロータス』とは全く違う景色ね…」

ヒルダはポツリと呟いた。ヒルダは自分の故郷である『カウベリー』が大好きだった。自然に囲まれた美しい景色、夜には手に届きそうな満点の星空…それらは大都会の『ロータス』では決して味わえないものだった。
だが…。

「私は…もうここには帰って来ないほうが良いのかもしれないわね…」

ヒルダは悟った。あの教会消失事件の時から…自分は犯人では無かったのだが、あれがきっかけでヒルダは『カウベリー』の人々からすっかり嫌われてしまったのだ。
ルドルフの葬式の時に投げかけられた心無い言葉…あれはその場がお葬式だったからと言われれば納得出来る。だが、ルドルフが亡くなって1年半経過した今でもヒルダは領民達に嫌われているという事実を知ってしまったのだ。

 その時―

コンコン

部屋の扉がノックされる音が聞こえた。

「はい」

ヒルダは振り向くと扉に向かって声を掛けた。すると扉の外で声が聞こえた。

「ヒルダ、俺だ」

その声はエドガーだった。ヒルダは扉へ向かうとガチャリとドアを開けた。するとそこに何処か思い詰めた表情のエドガーが立っていた。

「まぁ…お兄様、どうされたのですか?」

「いや、それが明日…ヒルダに別れを告げることが出来なくなってしまったんだ」

エドガーの言葉にヒルダは怪訝そうに首を傾げた。

「まぁ、そうだったのですか?それで私にわざわざそれを告げにいらしたのですか?」

「ああ、そうなんだ」

エドガーは寂しげに笑っている。

「ヒルダ…身体に気をつけてな…」

エドガーはヒルダの柔らかい金の髪を撫でると言った。

「はい、お兄様も…」

ヒルダはエドガーをじっと見つめた。その美しい姿にエドガーの心は締め付けられそうになるほど切なくなる。思わず強く抱きしめ、自分の胸にヒルダの顔を押し付けたくなる衝動を必死で押さえるとエドガーは言った。

「それじゃ、元気でな」

そしてエドガーはヒルダの頭を撫でると、背を向けて月明かりに照らされた廊下を歩来さって行った。

エドガーがヒルダの部屋を訪れたわけ…それはハリスから命じられたからだ。明日はヒルダの前に姿を見せるなと…。

(ヒルダ…今度こそ本当に俺は…お前を諦めなくちゃいけないようだ…)

エドガーは辛い胸の内を押し殺し、自室へ向かった―。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない

柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。 目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。 「あなたは、どなたですか?」 その一言に、彼の瞳は壊れた。 けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。 セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。 優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。 ――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。 一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。 記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。 これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!

みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。 幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、 いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。 そして――年末の舞踏会の夜。 「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」 エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、 王国の均衡は揺らぎ始める。 誇りを捨てず、誠実を貫く娘。 政の闇に挑む父。 陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。 そして――再び立ち上がる若き王女。 ――沈黙は逃げではなく、力の証。 公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。 ――荘厳で静謐な政略ロマンス。 (本作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載中です)

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

処理中です...