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第1章 22 ヒルダへの告白

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 翌朝―

ヒルダは朝食を食べる為に父と母の待つダイニングルームへ足を運んだ。

「おはようございます、お父様。お母様」

ヒルダは部屋に入ると丁寧に頭を下げた。

「ああ、おはよう。ヒルダ」

「おはよう、ヒルダ」

ハリスとマーガレットは交互に返事をする。

「さぁヒルダ。座りなさい。朝食にしよう」

ハリスに促されヒルダは頷いた。

「はい、お父様」

テーブルに近付くと椅子を引いてヒルダは席についた。ヒルダの向かい合わせに座るハリスとマーガレットの背後には大きな掃き出し窓があり、太陽の光がさんさんと部屋の中に差し込み、真っ白なテーブルクロスに当たっている。テーブルの上には出来立てのオムレツやカリカリベーコン。ボイルウィンナーにテーブルパン、そして新鮮なグリーンサラダに『カウベリー』産のフルーツが盛られいる。それは豪華な料理だった。
それを見るとヒルダは尋ねた。

「あの…お父様、お母様。お兄様は…どうされたのでしょう?」

その言葉にハリスの眉がピクリと上がった。

「ああ。エドガーは今朝早く別の領地視察に行ってるのだ」

「そうでしたか…折角故郷を旅立つ日なのでお兄様に最後に会えると思っていたのですが…」

ヒルダのしんみりした言い方にマーガレットが躊躇いがちに声を掛けた。

「ヒルダ…ひょっとして…エドガーに会いたかったのかしら?」

「マーガレット!」

ハリスはたしなめたが、マーガレットは知らんふりをしてヒルダの答えを待った。

「ええ…そうですね。出立前にお話したかったです」

「そ、そうなのね?」

マーガレットはチラリとハリスを見ると、そこには苦虫を噛み潰したかのような表情のハリスがいた。その様子に気付いたヒルダが声を掛けた。

「お父様?どうかされたのですか?」

「あ・い、いや。何も無いさ。では朝食にしようか?」

「ええ。頂きましょう。あなた、ヒルダ」

「はい、そうですね」

そして3人は食事を食べ始めた―。



****


 午前10時―


ヒルダが馬車を前に見送りに出ていたハリスとマーガレットに別れを告げていた。

「ヒルダ、元気でな」

「身体に気を付けるのよ」

「はい、お父様。お母様」

ヒルダはハリスとマーガレットと交互に別れの抱擁を行なった。

「すまないな。ヒルダ。この後すぐに外出しなければならないので駅まで見送りに行けなくて」

ヒルダの頭をなでながらハリスが言う。

「いいえ、お父様。どうか気になさらないで下さい」

ヒルダが首を振ると、次にハリスは後ろに控えているカミラを見た。

「カミラ、すまないがこれからもヒルダをよろしく頼む」

「はい、旦那様」

カミラは深々と頭を下げる。

「それではお父様、お母様。もう駅に向かいますね」

「ああ、行くといい」

ハリスは頷く。

そしてヒルダはエスコートなしに荷物を持って馬車に乗り込んだ。その後をカミラも乗り込む。
ヒルダは馬車の窓を開けるとハリスとマーガレットに最後の挨拶をした。

「お父様、お母様。お元気で」

「ああ」

「ヒルダもね」

そしてハリスは御者のスコットに言った。

「スコット、馬車を出してくれ」

「かしこまりました」

そしてスコットが手綱を振るうと、馬は軽くいななき走り始めた―。


ガラガラガラガラ…

走り始めた馬車の中でヒルダは窓の外を眺めながらポツリと言った。

「結局お兄様にはお会いする事が出来なかったわね…」

「ヒルダ様…」

馬車は青空の元、美しい草原の中を走っていた。その時、ヒルダは見た。

「え…?あ、あれは…?」

何と馬に乗ったエドガーが馬車を追い掛けて来ていたのだ。

「まあ…お兄様だわ」

ヒルダは目を見開き、急いで御者のスコットに声を掛けた。

「スコットさん!お兄様が追い掛けてきているの!一度馬車を止めて貰える?」

「え?あ、は、はいっ!」

スコットは急いで馬車を止めた。ヒルダは馬車のドアを開けて降りようとするとカミラが慌てて引きとめた。

「ヒルダ様っ!どうされるおつもりですかっ?!」

カミラは何となく嫌な予感がしたのだ。

「大丈夫よ。きっと別れの挨拶に駆けつけて来てくれたのよ。まだ時間は大丈夫でしょう。少し挨拶をしてくるからカミラはここで待っていて」

「で、ですが…」

しかしヒルダは構わず馬車から降りてしまった。するとそこへ馬から飛び降りたエドガーがこちらへ向かって歩いて来ていた。

「ヒ、ヒルダ…」

エドガーは余程焦って駆けつけてきたのだろう。肩で息を切らせながらこちらへ向かってやってきた。

「お兄様。やっぱり見送りに来て下さったのですね?」

ヒルダは笑みを浮かべてエドガーを見た…次の瞬間。

「!」

ヒルダは強くエドガーに抱きしめられていた。

「お、お兄様?」

驚きながらもヒルダはエドガーの名を呼んだ時…突然エドガーがヒルダの唇にキスをしてきたのだ。

「!」

あまりの突然の出来事に固まるヒルダ。それはほんの数秒の出来事だった。

「…」

やがてエドガーはヒルダから唇をそっと離すと言った。

「…すまなかった。ヒルダ。こんなことして‥」

「お、お兄様…ど、どうして…」

するとエドガーはフッと笑うと言った。

「ヒルダ…俺は一度だってお前を妹だと思った事は無い。ずっと…1人の女性としてヒルダの事が好きだった」

「!」

「さよなら。ヒルダ」

エドガーは悲し気な笑みを浮かべると、くるりと踵を返し‥ヒラリと馬にまたがるとあっという間に走り去って行った。

「お、お兄様…な、何故…?」

気付けば…ヒルダは涙を浮かべていた―。


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