許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ連載中

文字の大きさ
37 / 77

37 これも・・夢?

しおりを挟む
 何となくもやもやした気持ちのままエントランス前に出てくると、そこには腕組みをしてイライラした様子のヘンリーが立っていた。そして私を見るなり言った。

「遅いっ!いったい今まで何をし・・・・。」

そこでヘンリーは言葉を切った。

「あ・・・。」

どこを見ているのか、見る見るうちにヘンリーの顔色が青ざめてくる。

「?」

一体ヘンリーは何を見てそんなに・・?不思議に思って振り向けば、そこには母が腕組みをして立っていた。

「あら・・悪かったわね?ヘンリー。出来るだけ急いできたつもりだったのに・・どうやら待たせてしまったようね?」

母はどこか威圧的に腕組みしたままヘンリーに謝罪した。

「い、いえいえ。とんでもありません。テアの為なら例え1時間だろうと2時間だろうと待ちますよ。」

「待って、ヘンリー。いくら何でも私はそこまで遅刻はしないわ。」

そんな礼儀に反するような事出来るはずがない。するとヘンリーは小声で言った。

「いいからお前は黙ってろ。」

「は?お前・・?」

ギロリと母がヘンリーを睨みつけた。

「ヒクッ!」

ヘンリーの本日3度目のしゃっくりだ。ヘンリーは小声で私に文句を言ったようだけども、ここはエントランス。吹き抜けのホールになっているので声が良く響く。どうやら母の耳には筒抜けだったらしい。

「す、すみません、マダムッ!つ、つい・・口が滑って・・・と言うか、いえ、今の『お前』と言うのは・・そ、その・・信頼の意味を込めて言っただけですから!」

「それにしては・・女性に対して言う言葉では無いわね・・?」

母が一歩近付いた。

「ヒィイイッ!」

ヘンリーは素早い動きで、後ろ向きで1m程後ろに下がり、エントランスのドアにぶつかってしまった。

ゴツンッ!

「・・くっ」

鈍い音がして、ヘンリーが声を殺してプルプル震えながら背中の痛みに耐えている。どうやら扉の飾りのとがった出っ張り部分に背中を打ち付けてしまったらしい。

「だ、大丈夫っ?!ヘンリーッ!」

慌ててヘンリーに声を掛けた時、背後で小さな笑い声が聞こえた。

「プッ」

驚いて振り向くと、ヘンリーの様子を見ていた母が小さく笑っている。え・・?笑ってる・・・?私にはとても背中を痛めて身もだえしているヘンリーを見て笑えなかったが・・母は肩を震わせて必死に笑いをこらえていた。そして私の視線に母は気づいたのか、コホンと咳ばらいを一つすると言った。

「さあ、ヘンリー。先に馬車の前に行って、テアをエスコートしてあげなさい。そうそう、ちゃんとテアのカバンも持ってあげるのよ?」

「ハ、ハイ・・・マダ・・ム・・。」

ヘンリーは背中の痛みをこらえつつ、私のところへやってくると言った。

「さ、さあ・・・テア。カバンを貸してごらん。持ってあげるよ?」

「え?いいえ?大丈夫よ。だってヘンリー、背中を痛めてるじゃない。」

「いいから早くよこせっ!」

ヘンリーは小声で目配せしながら言う。

「は、はい・・。」

涙目で痛みをこらえているヘンリーにカバンを渡すのは気が引けたが、ここは母の言葉に従っておいた方がいいかもしれない。

「結構重いから・・気を付けて持ってね。」

小声で言いながらそっとヘンリーにハンドル付きのカバンを手渡した。ヘンリーはそれをしっかりつかむと言った。

「さ、さあ・・・テア。そ、それでは・・ば・馬車に乗ろう・・・かい・・?」

痛い背中を無理に伸ばし、笑みを浮かべているがその顔には脂汗がにじんでいる。
ヘンリーは・・大丈夫なのだろうか・・?本気で心配になってきた。
そして私とヘンリーは母に見守られながら、エントランスを出て・・ヘンリーは御者がいるにも関わらず、自ら馬車のドアを開けて私のカバンをドサリと椅子に降ろすとこちらを振り向いた。

「さ、さあ。テアおいで。」

そして右手を差し出してきた。こんな状態だけど・・・エスコートしてもらうのも初めてだ。すると母が言った。

「良かったわね。テア。エスコートされるのも夢だったでしょう?」

「お、お母さんっ?!」

やだっ!ヘンリーの前で何て事を言ってくれるのだろう。しかし、ヘンリーはうつむいたままブルブル震えている。どうやら痛みに耐えている為、母の声は聞こえていなかったようだ。私はヘンリーに近づくと小声で言った。

「別にエスコートしなくていいわよ。ヘンリー、背中が痛いでしょう?」

するとヘンリーが言った。

「お、お前は・・さっきから・・俺を追い詰めるセリフしか言えんのかっ?!」

そして、私の左手を掴み・・私たちは馬車に乗り込んだ。するとそれを見ていた母がニッコリ笑みを浮かべると言った。

「2人とも、行ってらっしゃい!」

「行ってきます、お母さん。」

「行ってまいります、マダム・・・。」

こうして私とヘンリーを乗せた馬車はガラガラと走り出した―。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。 「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」 そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。 ——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。 「最近、おまえが気になるんだ」 「もっと夫婦としての時間を持たないか?」 今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。 愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。 わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。 政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ “白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!

王命により、婚約破棄されました。

緋田鞠
恋愛
魔王誕生に対抗するため、異界から聖女が召喚された。アストリッドは結婚を翌月に控えていたが、婚約者のオリヴェルが、聖女の指名により独身男性のみが所属する魔王討伐隊の一員に選ばれてしまった。その結果、王命によって二人の婚約が破棄される。運命として受け入れ、世界の安寧を祈るため、修道院に身を寄せて二年。久しぶりに再会したオリヴェルは、以前と変わらず、アストリッドに微笑みかけた。「私は、長年の約束を違えるつもりはないよ」。

婚約破棄されたので、もう誰の役にも立たないことにしました 〜静かな公爵家で、何もしない私の本当の人生が始まります〜

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 完璧であることを求められ続けてきた令嬢エリシア。 だがある日、彼女は一方的に婚約を破棄される。 理由は簡単だった。 「君は役に立ちすぎた」から。 すべてを失ったはずの彼女が身を寄せたのは、 “静かな公爵”と呼ばれるアルトゥール・クロイツの屋敷。 そこで待っていたのは―― 期待も、役割も、努力の強要もない日々だった。 前に出なくていい。 誰かのために壊れなくていい。 何もしなくても、ここにいていい。 「第二の人生……いえ、これからが本当の人生です」 婚約破棄ざまぁのその先で描かれる、 何者にもならなくていいヒロインの再生と、 放っておく優しさに満ちた静かな溺愛。 これは、 “役に立たなくなった”令嬢が、 ようやく自分として生き始める物語。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

かつて番に婚約者を奪われた公爵令嬢は『運命の番』なんてお断りです。なのに獣人国の王が『お前が運命の番だ』と求婚して来ます

神崎 ルナ
恋愛
「運命の番に出会ったからローズ、君との婚約は解消する」  ローズ・ファラント公爵令嬢は婚約者のエドモンド・ザックランド公爵令息にそう言われて婚約を解消されてしまう。  ローズの居るマトアニア王国は獣人国シュガルトと隣接しているため、数は少ないがそういった可能性はあった。  だが、今回の婚約は幼い頃から決められた政略結婚である。  当然契約違反をしたエドモンド側が違約金を支払うと思われたが――。 「違約金? 何のことだい? お互いのうちどちらかがもし『運命の番』に出会ったら円満に解消すること、って書いてあるじゃないか」  確かにエドモンドの言葉通りその文面はあったが、タイミングが良すぎた。  ここ数年、ザックランド公爵家の領地では不作が続き、ファラント公爵家が援助をしていたのである。  その領地が持ち直したところでこの『運命の番』騒動である。  だが、一応理には適っているため、ローズは婚約解消に応じることとなる。  そして――。  とあることを切っ掛けに、ローズはファラント公爵領の中でもまだ発展途上の領地の領地代理として忙しく日々を送っていた。  そして半年が過ぎようとしていた頃。  拙いところはあるが、少しずつ治める側としての知識や社交術を身に付けつつあったローズの前に一人の獣人が現れた。  その獣人はいきなりローズのことを『お前が運命の番だ』と言ってきて。        ※『運命の番』に関する独自解釈がありますm(__)m

処理中です...