孤独な公女~私は死んだことにしてください

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
81 / 219

4-7 リーネ侯爵令嬢の誕生パーティ 7

しおりを挟む
 サフィニアは自分の前に手を差し伸べてきた令息をじっと見つめた。

そばかすのある、まだあどけなさを残す彼は真剣な……しかし、どこか切羽詰まったような表情を浮かべている。

「あの、本当に私が誰か分かっていてダンスを申し込んでいるのですか?」

再度サフィニアが尋ねると、少年は大きく頷く。

「はい、もちろんです」

するとヘスティアが笑顔になった。

「サフィニア様! 折角のダンスのお誘いなんです。どうぞ踊ってきてください」

「ええ。僕もヘスティア嬢と同じ考えです」

セザールも笑顔で頷く。

「わ、分かったわ。……それではお願いします」

ヘスティアがお辞儀をすると、少年は真っ赤になる。

「い、いえ! 僕こそ! で、では踊りに行きましょう」

少年は右手を差し出してきたが、その手は少しだけ小刻みに震えている。サフィニアはその手を取ると、しっかり握りられ……2人はダンスの輪に向かっていった。

「良かったですね。サフィニア様がダンスに誘われて」

ヘスティアは笑顔でセザールを見上げたが、何故かその表情は真剣だった。

「セザール様? どうかされたのですか?」

「い、いえ。何でもありませんよ」

セザールは笑みを浮かべて返事をした――


 サフィニアは少年はダンスを踊っていた。その踊りはとても上手で、周囲でも注目を浴びていた。

「そういえば自己紹介がまだでしたね。僕はマイク・ランドと申します。身分は、その……男爵家なのですが……」

マイクと名乗った少年はためらいがちに言った。

「そうなのですね? でもそれがどうかしましたか?」

気位の高い貴族令嬢であれば、自分よりも身分の低い相手からのダンスの誘いを断ったかもしれない。だが、サフィニアは違う。
元より相手を見下すような性格では無かったし、エストマン公爵家からは見捨てられている公女だからだ。

「! サフィニア様……」

すると突然マイクは目を見開き……。

「申し訳ございませんでした!」

踊りながら、突然謝罪してきた――


****


 今から30分程前――

「あぁもう……イライラするわ!」

パーティー会場を移動した後も、相変わらずセイラは食べ続けていた。今は甘いお菓を口にしている。

「おい、いい加減食べるのはやめろ。ここはダンス会場だぞ? 周囲を見てみろ、食べているのはお前だけじゃないか」

ラファエルはうんざりした様子でセイラを注意する。

「何よ! そんなこと言ったって、私は誰からもダンスに誘われないのよ!? だったら食べるしかないじゃないの! 大体私は公女なのに……この会場で一番身分が高いのに、よくも皆蔑ろにしてくれるじゃない!」

文句を言いながらも料理を食べ続けるセイラをラファエルは軽蔑の眼差しで見つめていた。

(全く……こんなのが俺の妹だなんて、最悪だ。お前のせいで俺が恥をかかされているのが分からないのかよ。これだったら、まだサフィニアの方がずっとましだ。メイドの血さえ、入っていなけりゃ妹として認めてやって、可愛がってやってもいいのに……)

そして恨めしい目つきで、楽しそうにダンスを踊るリーネの姿を見つめる。ラファエルは先ほどからリーネにダンスを申し込みしようと考えていたが、セイラのせいで近づくことが出来なかったのだ。

「ところでサフィニアの姿が見えないわね。きっとあんな偽物貴族と踊りたくないから誰も誘わないんでしょうね」

意地悪そうな笑みを浮かべるセイラ。

「そうかもな……」

ヒステリックなセイラを苛立たせないために、適当に相槌を打つ。だが、その理由は分かっていた。

(サフィニアがダンスに誘われないのは、自分が周囲に無言の圧をかけているのに気づいていないのかよ? 本当に、こいつは性格も外見も頭も悪すぎる)

セイラの話はまだ続く。

「ねぇ、サフィニアはダンスが踊れると思う?」

「さぁな。でもずっとメイドとして働いて、貴族としての教育を一切受けていないんだ。多分踊れないんじゃないか?」

「ラファエルもそう思う? 実は私、サフィニアを貶めるいい方法を思いついちゃった。無理やりダンスをさせるの。踊れない無様な姿を大勢の前で晒させてやるわ」

その言葉にラファエルは呆れた。

「はぁ? まだそんなこと言ってるのか? もうサフィニアのことはほっておけよ?  大体そんなことして何になるんだよ?」

「ラファエル! もしかしてサフィニアの味方をするつもりなの!? あいつはねぇ、自分の立場もわきまえずセザールを従者につけてるのよ!? 私の執事なのに!」

「まだ、お前の執事と決まったわけじゃないだろう? 頼むからそんな大声出さないでくれよ。皆がこっちを見てるだろう?」

現に先ほどから子息令嬢たちは、セイラとラファエルをチラチラ見ては、サッと視線をそらせていた。

「全く気に入らないわね……」

その時、セイラはこちらを見ていた令息と視線が合った。彼は素早く視線をそらせたが、時すでに遅い。

「ちょっと、あんた! 確か……マイクだったわよねぇ? 男爵家の……」

セイラは怯えるマイクにズカズカと近づき、ニヤリと笑った――






しおりを挟む
感想 386

あなたにおすすめの小説

恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ

恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。 王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。 長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。 婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。 ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。 濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。 ※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています

【改稿版】光を忘れたあなたに、永遠の後悔を

桜野なつみ
恋愛
幼き日より、王と王妃は固く結ばれていた。 政略ではなく、互いに慈しみ育んだ、真実の愛。 二人の間に生まれた双子は王国の希望であり、光だった。 だが国に流行病が蔓延したある日、ひとりの“聖女”が現れる。 聖女が癒やしの奇跡を見せたとされ、国中がその姿に熱狂する。 その熱狂の中、王は次第に聖女に惹かれていく。 やがて王は心を奪われ、王妃を遠ざけてゆく…… ーーーーーーーー 初作品です。 自分の読みたい要素をギュッと詰め込みました。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした

凛蓮月
恋愛
【おかげさまで完全完結致しました。閲覧頂きありがとうございます】 いつか見た、貴方と婚約者の仲睦まじい姿。 婚約者を失い悲しみにくれている貴方と新たに婚約をした私。 貴方は私を愛する事は無いと言ったけれど、私は貴方をお慕いしておりました。 例え貴方が今でも、亡くなった婚約者の女性を愛していても。 私は貴方が生きてさえいれば それで良いと思っていたのです──。 【早速のホトラン入りありがとうございます!】 ※作者の脳内異世界のお話です。 ※小説家になろうにも同時掲載しています。 ※諸事情により感想欄は閉じています。詳しくは近況ボードをご覧下さい。(追記12/31〜1/2迄受付る事に致しました)

私たちの離婚幸福論

桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」 そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。 彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・ 産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。 ---- 初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。 終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。 お読みいただきありがとうございます。

【完結】旦那様、わたくし家出します。

さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。 溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。 名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。 名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。 登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*) 第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

心の中にあなたはいない

ゆーぞー
恋愛
姉アリーのスペアとして誕生したアニー。姉に成り代われるようにと育てられるが、アリーは何もせずアニーに全て押し付けていた。アニーの功績は全てアリーの功績とされ、周囲の人間からアニーは役立たずと思われている。そんな中アリーは事故で亡くなり、アニーも命を落とす。しかしアニーは過去に戻ったため、家から逃げ出し別の人間として生きていくことを決意する。 一方アリーとアニーの死後に真実を知ったアリーの夫ブライアンも過去に戻りアニーに接触しようとするが・・・。

処理中です...