105 / 219
5-4 見合い―ジルベールとの出会い 1
しおりを挟む
――週末。
今日はサフィニアとジルベールの見合いの日。
朝日が離宮の窓辺に差し込み、サフィニアは鏡の前に座ってヘスティアに髪を梳かしてもらっていた。
「今日はサフィニア様のお見合いなので、いつも以上に念入りにセットしましょうね」
ヘスティアはサフィニアの銀色の髪にカチューシャを乗せ、耳元に紺色のリボンがついたバラのヘアアクセサリーを付けた。
サフィニアは鏡に映る自分をじっと見つめる。
外出着用の銀色のドレスに、胸元にはグリーンのネックレスが光り輝いている。
化粧が施された姿はどこか別人のようだった。
「……こんなに着飾って……なんだか落ち着かないわ」
サフィニアが呟くと、ヘスティアは笑顔になる。
「大丈夫です。サフィニア様は美しいですから、きっと相手の方も一目で好きになられるに違いありません」
その言葉に、サフィニアは目を伏せた。
美しい――自分でそう思ったことは今まで一度もなかった。それはやはり家族から忌み嫌われているせいでもあった。
けれどヘスティアの瞳は真剣で、嘘をついているようには見えなかった。
「ありがとう、ヘスティア」
サフィニアは頬を染めながら礼を述べると、ヘスティアはブラシを置いた。
「それではそろそろガゼボに行きましょう。お相手の方がお見えになる前に」
「そうね」
ヘスティアに促され、サフィニアは立ち上がった――
****
見合いの場所は、庭園の奥にある白いガゼボ。
薔薇の蔓が絡みつき、朝露に濡れた花々が咲き誇っている。
「……一人で行くのは緊張するわ」
ガゼボが見えてくるとサフィニアは足を止めた。
「サフィニア様。でしたら、お見合いの間私も御一緒しましょうか?」
「え? いいの……?」
顔を上げるとヘスティアを見つめる。
「はい、もちろんです。私はサフィニア様の侍女ですから」
「それじゃ、お願い出来る」
「はい」
ヘスティアは微笑んだ。
この時のサフィニアはヘスティアの存在をとても頼もしいと感じていた。
けれど、この選択が間違いだったことをサフィニアは後になって気付くことになる――
****
サフィニアとヘスティアはガゼボで見合いの相手――ジルベールが来るのを待っていた。
爽やかな風がサフィニアのドレスの裾を揺らし、木漏れ日が銀色の髪を輝かせている。
サフィニアは緊張の面持ちで、ベンチに腰かけていた。
8年前……セイラの暴挙により、社交界に出られなくなってしまった。その為、18歳になる今まで、同年代の異性と話すことなど無かった。
それがいきなり婚約者になる男性と初対面するのだ。現実感が薄く、まるで夢の中にいるようだった。
「大丈夫ですか? サフィニア様」
先程から緊張しているサフィニアを気遣い、ヘスティアが尋ねてきた。
「え、ええ。大丈夫……」
口を開きかけ、サフィニアは目を見開いた。
ガゼボの白い柱の向こうから、こちらに近づいてくる青年の姿がある。
日差しに照らされたブラウンの髪がきらめき、グレーの瞳は穏やかにサフィニアを捉えていた。
ジルベール・ウッド。
伯爵家の三男――落ちぶれた家柄とはいえ、彼自身の評判は良いと聞いていた。
「初めまして。ジルベール・ウッドと申します」
ガゼボの前で足を止めると彼は丁寧に一礼した。
その姿はとても礼儀正しく、優しい笑顔を向けられたサフィニアの胸がときめく。
「……サフィニア・エストマンです。よろしくお願いいたします。隣に居るのは私の侍女のヘスティアです」
サフィニアも少し緊張しながら挨拶し、ヘスティアも無言で一礼した。
「サフィニア様。失礼いたします」
ジルベールはサフィニアの前にひざまずき、そっと彼女の手を取った。
そして、手の甲に唇を寄せる。
その瞬間、サフィニアの胸がドキリとした。
頬が熱を帯び、視線をどこに向けていいのか分からなくなる。
「貴女にお会いできて、大変光栄に思います」
ジルベールは微笑んだ。
その笑顔は温かく、サフィニアの胸が高鳴る。
「こ、こちらこそ……」
緊張しながらうなずくサフィニア。
今まで、異性からこんなにも優しく触れられたことも、見つめられたこともなかった。
胸の鼓動は早まり、サフィニアの頬が赤く染まる。
(なんて素敵な人なのかしら……)
サフィニアはこの瞬間、恋に落ちてしまった。
隣に立つヘスティアは笑顔で二人を見守り……一瞬顔を上げたジルベールと視線が合う。
そのことに気付いたサフィニアは、ジルベールの瞳の奥に何かを見た。
それが何なのかは、まだ分からない。
けれど、少なくとも――今この瞬間、彼女は「孤独」ではなかった――
今日はサフィニアとジルベールの見合いの日。
朝日が離宮の窓辺に差し込み、サフィニアは鏡の前に座ってヘスティアに髪を梳かしてもらっていた。
「今日はサフィニア様のお見合いなので、いつも以上に念入りにセットしましょうね」
ヘスティアはサフィニアの銀色の髪にカチューシャを乗せ、耳元に紺色のリボンがついたバラのヘアアクセサリーを付けた。
サフィニアは鏡に映る自分をじっと見つめる。
外出着用の銀色のドレスに、胸元にはグリーンのネックレスが光り輝いている。
化粧が施された姿はどこか別人のようだった。
「……こんなに着飾って……なんだか落ち着かないわ」
サフィニアが呟くと、ヘスティアは笑顔になる。
「大丈夫です。サフィニア様は美しいですから、きっと相手の方も一目で好きになられるに違いありません」
その言葉に、サフィニアは目を伏せた。
美しい――自分でそう思ったことは今まで一度もなかった。それはやはり家族から忌み嫌われているせいでもあった。
けれどヘスティアの瞳は真剣で、嘘をついているようには見えなかった。
「ありがとう、ヘスティア」
サフィニアは頬を染めながら礼を述べると、ヘスティアはブラシを置いた。
「それではそろそろガゼボに行きましょう。お相手の方がお見えになる前に」
「そうね」
ヘスティアに促され、サフィニアは立ち上がった――
****
見合いの場所は、庭園の奥にある白いガゼボ。
薔薇の蔓が絡みつき、朝露に濡れた花々が咲き誇っている。
「……一人で行くのは緊張するわ」
ガゼボが見えてくるとサフィニアは足を止めた。
「サフィニア様。でしたら、お見合いの間私も御一緒しましょうか?」
「え? いいの……?」
顔を上げるとヘスティアを見つめる。
「はい、もちろんです。私はサフィニア様の侍女ですから」
「それじゃ、お願い出来る」
「はい」
ヘスティアは微笑んだ。
この時のサフィニアはヘスティアの存在をとても頼もしいと感じていた。
けれど、この選択が間違いだったことをサフィニアは後になって気付くことになる――
****
サフィニアとヘスティアはガゼボで見合いの相手――ジルベールが来るのを待っていた。
爽やかな風がサフィニアのドレスの裾を揺らし、木漏れ日が銀色の髪を輝かせている。
サフィニアは緊張の面持ちで、ベンチに腰かけていた。
8年前……セイラの暴挙により、社交界に出られなくなってしまった。その為、18歳になる今まで、同年代の異性と話すことなど無かった。
それがいきなり婚約者になる男性と初対面するのだ。現実感が薄く、まるで夢の中にいるようだった。
「大丈夫ですか? サフィニア様」
先程から緊張しているサフィニアを気遣い、ヘスティアが尋ねてきた。
「え、ええ。大丈夫……」
口を開きかけ、サフィニアは目を見開いた。
ガゼボの白い柱の向こうから、こちらに近づいてくる青年の姿がある。
日差しに照らされたブラウンの髪がきらめき、グレーの瞳は穏やかにサフィニアを捉えていた。
ジルベール・ウッド。
伯爵家の三男――落ちぶれた家柄とはいえ、彼自身の評判は良いと聞いていた。
「初めまして。ジルベール・ウッドと申します」
ガゼボの前で足を止めると彼は丁寧に一礼した。
その姿はとても礼儀正しく、優しい笑顔を向けられたサフィニアの胸がときめく。
「……サフィニア・エストマンです。よろしくお願いいたします。隣に居るのは私の侍女のヘスティアです」
サフィニアも少し緊張しながら挨拶し、ヘスティアも無言で一礼した。
「サフィニア様。失礼いたします」
ジルベールはサフィニアの前にひざまずき、そっと彼女の手を取った。
そして、手の甲に唇を寄せる。
その瞬間、サフィニアの胸がドキリとした。
頬が熱を帯び、視線をどこに向けていいのか分からなくなる。
「貴女にお会いできて、大変光栄に思います」
ジルベールは微笑んだ。
その笑顔は温かく、サフィニアの胸が高鳴る。
「こ、こちらこそ……」
緊張しながらうなずくサフィニア。
今まで、異性からこんなにも優しく触れられたことも、見つめられたこともなかった。
胸の鼓動は早まり、サフィニアの頬が赤く染まる。
(なんて素敵な人なのかしら……)
サフィニアはこの瞬間、恋に落ちてしまった。
隣に立つヘスティアは笑顔で二人を見守り……一瞬顔を上げたジルベールと視線が合う。
そのことに気付いたサフィニアは、ジルベールの瞳の奥に何かを見た。
それが何なのかは、まだ分からない。
けれど、少なくとも――今この瞬間、彼女は「孤独」ではなかった――
239
あなたにおすすめの小説
恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ
棗
恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。
王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。
長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。
婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。
ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。
濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。
※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
私たちの離婚幸福論
桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。
しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。
彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。
信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。
だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。
それは救済か、あるいは——
真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。
【改稿版】光を忘れたあなたに、永遠の後悔を
桜野なつみ
恋愛
幼き日より、王と王妃は固く結ばれていた。
政略ではなく、互いに慈しみ育んだ、真実の愛。
二人の間に生まれた双子は王国の希望であり、光だった。
だが国に流行病が蔓延したある日、ひとりの“聖女”が現れる。
聖女が癒やしの奇跡を見せたとされ、国中がその姿に熱狂する。
その熱狂の中、王は次第に聖女に惹かれていく。
やがて王は心を奪われ、王妃を遠ざけてゆく……
ーーーーーーーー
初作品です。
自分の読みたい要素をギュッと詰め込みました。
【完結】旦那様、わたくし家出します。
さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。
溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。
名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。
名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。
登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*)
第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中
【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした
凛蓮月
恋愛
【おかげさまで完全完結致しました。閲覧頂きありがとうございます】
いつか見た、貴方と婚約者の仲睦まじい姿。
婚約者を失い悲しみにくれている貴方と新たに婚約をした私。
貴方は私を愛する事は無いと言ったけれど、私は貴方をお慕いしておりました。
例え貴方が今でも、亡くなった婚約者の女性を愛していても。
私は貴方が生きてさえいれば
それで良いと思っていたのです──。
【早速のホトラン入りありがとうございます!】
※作者の脳内異世界のお話です。
※小説家になろうにも同時掲載しています。
※諸事情により感想欄は閉じています。詳しくは近況ボードをご覧下さい。(追記12/31〜1/2迄受付る事に致しました)
心の中にあなたはいない
ゆーぞー
恋愛
姉アリーのスペアとして誕生したアニー。姉に成り代われるようにと育てられるが、アリーは何もせずアニーに全て押し付けていた。アニーの功績は全てアリーの功績とされ、周囲の人間からアニーは役立たずと思われている。そんな中アリーは事故で亡くなり、アニーも命を落とす。しかしアニーは過去に戻ったため、家から逃げ出し別の人間として生きていくことを決意する。
一方アリーとアニーの死後に真実を知ったアリーの夫ブライアンも過去に戻りアニーに接触しようとするが・・・。
【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」
そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。
彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・
産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。
----
初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。
終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。
お読みいただきありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる