孤独な公女~私は死んだことにしてください

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

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5-4 見合い―ジルベールとの出会い 1

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――週末。

 今日はサフィニアとジルベールの見合いの日。

 朝日が離宮の窓辺に差し込み、サフィニアは鏡の前に座ってヘスティアに髪を梳かしてもらっていた。

「今日はサフィニア様のお見合いなので、いつも以上に念入りにセットしましょうね」

ヘスティアはサフィニアの銀色の髪にカチューシャを乗せ、耳元に紺色のリボンがついたバラのヘアアクセサリーを付けた。

サフィニアは鏡に映る自分をじっと見つめる。
外出着用の銀色のドレスに、胸元にはグリーンのネックレスが光り輝いている。
化粧が施された姿はどこか別人のようだった。

「……こんなに着飾って……なんだか落ち着かないわ」

サフィニアが呟くと、ヘスティアは笑顔になる。

「大丈夫です。サフィニア様は美しいですから、きっと相手の方も一目で好きになられるに違いありません」

その言葉に、サフィニアは目を伏せた。

美しい――自分でそう思ったことは今まで一度もなかった。それはやはり家族から忌み嫌われているせいでもあった。

けれどヘスティアの瞳は真剣で、嘘をついているようには見えなかった。

「ありがとう、ヘスティア」

サフィニアは頬を染めながら礼を述べると、ヘスティアはブラシを置いた。

「それではそろそろガゼボに行きましょう。お相手の方がお見えになる前に」

「そうね」

ヘスティアに促され、サフィニアは立ち上がった――


****

見合いの場所は、庭園の奥にある白いガゼボ。
薔薇の蔓が絡みつき、朝露に濡れた花々が咲き誇っている。

「……一人で行くのは緊張するわ」

ガゼボが見えてくるとサフィニアは足を止めた。

「サフィニア様。でしたら、お見合いの間私も御一緒しましょうか?」

「え? いいの……?」

顔を上げるとヘスティアを見つめる。

「はい、もちろんです。私はサフィニア様の侍女ですから」

「それじゃ、お願い出来る」

「はい」

ヘスティアは微笑んだ。
この時のサフィニアはヘスティアの存在をとても頼もしいと感じていた。
けれど、この選択が間違いだったことをサフィニアは後になって気付くことになる――

****

サフィニアとヘスティアはガゼボで見合いの相手――ジルベールが来るのを待っていた。
爽やかな風がサフィニアのドレスの裾を揺らし、木漏れ日が銀色の髪を輝かせている。

サフィニアは緊張の面持ちで、ベンチに腰かけていた。

8年前……セイラの暴挙により、社交界に出られなくなってしまった。その為、18歳になる今まで、同年代の異性と話すことなど無かった。

それがいきなり婚約者になる男性と初対面するのだ。現実感が薄く、まるで夢の中にいるようだった。

「大丈夫ですか? サフィニア様」

先程から緊張しているサフィニアを気遣い、ヘスティアが尋ねてきた。

「え、ええ。大丈夫……」

口を開きかけ、サフィニアは目を見開いた。

ガゼボの白い柱の向こうから、こちらに近づいてくる青年の姿がある。

日差しに照らされたブラウンの髪がきらめき、グレーの瞳は穏やかにサフィニアを捉えていた。

ジルベール・ウッド。
伯爵家の三男――落ちぶれた家柄とはいえ、彼自身の評判は良いと聞いていた。

「初めまして。ジルベール・ウッドと申します」

ガゼボの前で足を止めると彼は丁寧に一礼した。
その姿はとても礼儀正しく、優しい笑顔を向けられたサフィニアの胸がときめく。

「……サフィニア・エストマンです。よろしくお願いいたします。隣に居るのは私の侍女のヘスティアです」

サフィニアも少し緊張しながら挨拶し、ヘスティアも無言で一礼した。

「サフィニア様。失礼いたします」

ジルベールはサフィニアの前にひざまずき、そっと彼女の手を取った。
そして、手の甲に唇を寄せる。

その瞬間、サフィニアの胸がドキリとした。
頬が熱を帯び、視線をどこに向けていいのか分からなくなる。

「貴女にお会いできて、大変光栄に思います」

ジルベールは微笑んだ。
その笑顔は温かく、サフィニアの胸が高鳴る。

「こ、こちらこそ……」

緊張しながらうなずくサフィニア。

今まで、異性からこんなにも優しく触れられたことも、見つめられたこともなかった。

胸の鼓動は早まり、サフィニアの頬が赤く染まる。

(なんて素敵な人なのかしら……)

サフィニアはこの瞬間、恋に落ちてしまった。

隣に立つヘスティアは笑顔で二人を見守り……一瞬顔を上げたジルベールと視線が合う。

そのことに気付いたサフィニアは、ジルベールの瞳の奥に何かを見た。
それが何なのかは、まだ分からない。

けれど、少なくとも――今この瞬間、彼女は「孤独」ではなかった――
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